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第5章

第159話 ガンバーラボ

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 シウルさんに引っ張られるようにキャンパス内を歩く。
 でも、何だか周囲からの視線を感じるような……。

「シウルさん、俺って大学にふさわしくない服装ですか……?」

 何か自分におかしなところがあるんじゃないかと心配になるが、シウルさんはそんな俺の悩みを笑い飛ばす。

「大学生の服装なんて世界で一番自由よ! ユートの服装はおとなしいくらいね」

「でも、何だかすごく見られているような……」

「そ・れ・は! 私と腕を組んでるからに他ならないわ! 学生はたくさんいるけど、流石に私ほどの美人はそういないものねぇ~。だから、いつも歩くだけでみんな振り返って困っちゃうわ~」

「そういうものですか?」

「そういうものよ! 特に今日はユートとしたしげに腕を組んでるわけだから、私に憧れる子たちには悪いことしちゃったかな~」

 まあ、シウルさんが男でも女でも振り返るくらいの美貌びぼうの持ち主ということは認める。
 でも、美人を見るような視線じゃないというか……どこか驚かれてるような……。

「もうすぐガンバーラボのある研究とうにつくわよ! みんな気のいい子ばっかりだから、心配性のユートもすぐに馴染めると思うわ!」

 広いキャンパス内を歩き、たどり着いた建物の前にはすでに10人の男女が集まり、その全員を乗せられるような大型馬車も停まっていた。

「あれがガンバーラボの皆さんですね」

「そうそう! みんな~! 私が来たわよ~!」

 シウルさんがそう声をかけると、10人の男女が全員こちらを向いた。
 女性が5名、男性も5名、バランスの取れた研究所のようだ。

 ただ、所長であるポーラさんが見当たらないな。
 まだ研究棟の中にいるんだろうか?

 ……なんてことを考えていると、女性たちが目の色を変え、黄色い声を発しながら俺の方に駆け寄って来た!?

「きゃああああああっ!! 竜騎士様よっ!!」
「本物のユート・ドライグくんだわ!」
「シウルが描いた似顔絵よりカッコいいっ!」

 俺は困惑する……。
 そんなに騒がれるような存在か……!?

「あのっ……握手してくださいっ!」

 女性の内の1人がそう言って右手を差し出す。

「あ、はい……。俺で良かったら……」

 差し出された右手を握り返す。
 力を込めずに軽く握ったつもりだったが、女性は突如とつじょ脱力し、周りにいた仲間たちに支えられる。

「だ、大丈夫ですか!?」

「あ……はい……! とても分厚くて力強い手に……感動してしまいまして……!」

 喜んでくれているようだが、その反応は心配になるって!
 最近は剣の修行を続けることで手が分厚くなったと感じていたが、出会ったばかりの人が倒れるほど感動するものとはとても……。

「じゃあじゃあ、私はハグしてくださいっ!」

「えっ、ハグですか!?」

「どーんと私を受け止めてくださいっ!」

 女性陣の中で一番大柄な女性が飛びかかるように抱き着いて来た!
 驚きはしたが、その衝撃は十分受け止められる程度のものだ。
 落として怪我をさせないように抱きかかえ、ゆっくりと地面に降ろす。

「す、すごい……私が飛びかかっても全然揺らがないなんて……! 私の方が背が高いし、体重だって重そうなのに……!」

体幹たいかんも鍛えてますから……。それに重くはありませんでしたよ。他の人にこの抱き着き方はやめた方がいいと思いますけど」

「きゃ……! なんて優しい人なの……!」

 抱き着いて来た女性はフラッと後ろに倒れそうになり、それを他の4人で受け止める。
 ……が、4人では受け止めきれずにゆっくりと全員が地面に倒れる。

 な、何がしたいんだこの人たちは……!?

 同じ研究所の仲間である男性陣が止めてくれないと……と思っていたら、男性陣も全員腰を抜かして地面にお尻をついている!?

「うわああああああーーーーーーっ!!」
「本物のドラゴンが僕たちの前を歩いている……ッ!?」
「どの爬虫類はちゅうるい系統の魔獣とも特徴が一致しない!」
「イワトカゲと似ていると聞いていたが……全然違う!」
「スケッチ……! まずはスケッチをするんだ……!」

 魔獣学者らしい反応だけど、勢いがすごすぎてこっちが引いてしまう……!

 というか、キャンパスに入ってからの視線はロックを見ていたんじゃないか?
 ガンバーラボの面々は今日ここにロックが来ることを知っていたけど、他の学生からしたらいきなり見たこともない魔獣がキャンパス内を闊歩かっぽしていたわけだ。そりゃ見るさ。

 まあ……女性陣の反応を見るに、俺も結構有名人で見られていた可能性もあるけど。

「こらぁ~!! 私が来たのに無視とはいい度胸じゃない!!」

 シウルさんのかつによって、ガンバーラボの研究員たちが男女問わず正気を取り戻す。

「ご、ごめんなさい……。今話題のユートくんを目の前にして、はしゃぎ過ぎちゃった……。怪我させちゃいそうな抱き着き方して本当にごめんなさい……」

 女性陣が一斉に頭を下げる。

「確かにちょっと危ないやり方でしたけど……俺の方は平気ですので、これからやらないようにすればいいと思いますよ。頭を上げてください」

 自分の体が確かに鍛えられていることを実感出来た。
 これも積み重ねの結果だな。

「ありがとうございます……。そのぉ、ユートくんをカッコいいと思った気持ちは、我々一同勢いじゃなくて本心ですので……」

 女性陣が全員「うんうん」とうなずく。

「あ、あはは……! ありがとうございます……!」

 こういう時の対応に関しては、全然鍛えられていないな!

「クゥ! クゥ! クゥ~!」

「これは……!?」
「な、何を伝えようとしているんだ……!?」

 ロックが男性陣の周りをぐるぐる回るので、正気を取り戻した彼らが再びパニックになりかける。
 相手が面白い反応をするとロックの好奇心が刺激されて、からかうような行動を取るんだ。

「ロック、一旦落ち着こうか。こっちにおいで」

「クー!」

 ロックが戻って来て、俺の肩に乗っかる。

「えっと、一応改めて……俺はユート・ドライグです。そして、こっちは相棒でドラゴンのロックです」

「クゥ!」

 よし……これでやっとスタート地点だ。
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