表紙へ
上 下
65 / 99
第5章

第153話 2つのオーラ

しおりを挟む
 王都に帰って来てから1週間――
 俺とロックは訓練場でキルトさんと対峙たいじしていた。

「じゃあ、今日も始めようか」

「はい!」

「クー!」

 キルトさんの魔法が発動し、訓練場全体を水のベールで覆いつくす。
 こうすることで、強力な魔法が暴走しても壁をぶち壊したり、無関係の人を傷つけたりする心配がなくなる。
 俺とロックがどれだけ本気を出しても、まだキルトさんの魔法は打ち破れないからな。

 あの日、俺の言葉でキルトさんを混乱させてしまったが、その誤解は本当の気持ちを伝えることで解くことが出来た。
 それからはキルトさんと俺の予定が合えば、こうしてマンツーマンで特訓を行ってもらっている。

 あ、マンツーマンと言っても、もちろんロックには付き合ってもらう。
 なぜなら、特訓内容には俺とロックの合体魔法の強化も含まれているからだ。

「いくぞ、ロック……! 竜籠手ガントレットを頼む!」

「クゥ!」

 ロックの竜魔装ドラゴアームドによって、俺の右腕に金色の籠手こてが装着される。
 これにより、竜牙剣が放つ身を焼くような激しい魔力から右腕を守りながら戦うことが出来る。

 竜籠手ガントレットを装着した右腕で竜牙剣のつかを持ち、鞘から剣を抜く。
 ここまでは特に問題ない。問題が出てくるのは、この剣の力を引き出してからだ。

「力を見せてみろ……竜牙剣!」

 俺の言葉に応えるかのように竜牙剣の刃が怪しくきらめいた次の瞬間、剣全体から炎のような赤黒いオーラが噴出した。
 それは俺が制御し切れない魔力そのもの……。
 生身のまま剣を握っていたら、今頃右腕は大火傷だろう。

「何度見てもユートくん自身が持つ紅色のオーラ……『竜魔法ドラゴスペル』と似ているようで、全然違う荒々しい力だね」

「はい……! 俺のオーラが流れる水とすれば、剣のオーラは噴き出すマグマみたいで……」

 水もマグマも山から湧き出し流れていくものだけど、その性質は全然違う。
 それと同じように俺と竜牙剣、2つのオーラの性質も全然違う。

 竜魔法ドラゴスペルは「光のように輝き、水のように流れ、岩のように硬い」と形容したことがあるように、他の属性の性質を併せ持つ。
 今では熱を帯びさせて炎に近い状態にも出来るようになっている。
 俺自身から出てくる力だからこその自由度と柔軟性があるんだ。

 しかし、剣から噴き出すオーラは出力の強弱をつけるのがやっとで、竜魔法ドラゴスペルのように思う形に固めることは出来ない。
 属性としては炎に近いというか……そのものだ。
 常に高熱で揺らめき、他の性質に変わることは今のところない。

 だが、今の状態が竜牙剣のすべてではないとキルトさんも言っている。
 俺の考え方1つで、新たな可能性が生まれることもある……。竜牙剣とはそう言う剣だ。

 ただ、現状でこの力を戦闘に生かすことを考えた場合、それは気軽に出せない代わりに高威力の必殺技という扱いしかない。

「今の2人で扱える限界まで力を引き出してみるんだ」

 俺は竜牙剣の力を引き出し、ロックはそれに耐えうる竜籠手ガントレットを維持する。
 気持ちが通じ合ってないと大した力が出ないか、過剰な力が出て今の形が崩壊する。

「……よし、ここが現状の最大火力だと思います!」

「クゥ~!」

 竜牙剣から噴き出す赤黒いオーラは天高く伸び、竜籠手ガントレットまで炎が回っている。
 危険極まりない状態だが、これをぶつけた時の威力は純粋な竜魔法ドラゴスペルの何倍にもなるはず……!

「うんうん。じゃあ、それを私にぶつけて来て」

 キルトさんも自分の竜牙剣を抜く。
 いつ見ても美しい瑠璃るり色の刃から、水のようなオーラが渦巻いて彼女の体を守る。

「行きますよ!」

「クーッ!」

 剣を大きく振りかぶり、キルトさんめがけて振り下ろ……そうと思った時、竜籠手ガントレットがバァンと大きな音を立てて弾け飛んだ!?

 破片がすさまじい勢いで四方八方へと飛び散る!
 俺の手に握られていた竜牙剣もすっぽ抜けて飛んで行く!

「うわっ……あ、あちちちちちちちちちッ!!」

 竜籠手ガントレットを失った俺の腕が、オーラの炎で燃やされる!
 竜牙剣が手から離れても、すぐには消えないしつこさがこの炎にはあるんだ!

「消火っ! 回復っ! 消火っ! 回復っ!」

 キルトさんの水魔法が俺の右腕に浴びせられ、火傷も徐々に治っていく。
 竜牙剣の力を引き出す訓練を始めてからというもの、この回復魔法を混ぜ込んだ水魔法に何度も助けられている。
 これがなければ、今頃俺は全身に火傷の跡が残っていただろうな……。

「またやっちゃいました……。ギリギリのギリギリを攻めたつもりだったんですけど……」

「でも、これでギリギリのギリギリのさらにギリギリが見えて来たね。今は失敗を重ねる訓練をしているんだ。自分たちに何が出来て、何が出来ないのか……そのラインを把握することが成功よりも大事なのさ」

「おかげさまで、少しずつこの竜牙剣の性質というか、性格が見えて来た気がします。こいつは俺の地元の八百屋さんに似ているんです」

「それは……どういうことなのかな?」

 キルトさんが困った顔をする。
 このたとえに関してはすぐに伝わらないのも織り込み済みだ。

「その人はすごくお調子者で、たまにタダで野菜や果物をおまけしてくれるんです。でも、それは毎回じゃないし、おまけに何がついて来るかは気分次第。相手の好意だからこそ、こちらが口出し出来る領域じゃない」

「ああ……なるほど、なんとなく言いたいことが見えて来たよ」

「はい、俺の竜牙剣も一緒なんです。暴れ馬のようで実は俺のことを考えてくれている。だから、俺が求めたもの以上のすさまじい力をおまけしてくれることもあるし、そうじゃない時もある。いくらお願いしても、そこは気持ちの問題だから変わらないというか……」

「うんうん。商売なら義理と人情で済むいい話だし、そういう店が近所にあると買い物も楽しくなるね。ただ……安定性が求められる武器でそれをやられるとすごく困る!」

「ですよね~」

 フゥが言っていた。
 いくらスペックが高くても、データが揃っていない試作品を他人には売らないと。
 キルトさんも同じようなスタンスで、自分が制御出来ない力に頼ってはいけないと言っていた。

 だが、この竜牙剣は気分次第で勝手に盛り上がって、ドバッと力が噴き出してくる。
 そもそもこいつは俺ともロックとも違う1つの独立した存在で、それを完全に制御しようというのが間違いなんじゃないかとすら思えてくる。

「クゥ! クゥ!」

「……そうだな。ロックの言う通り、今は竜魔装ドラゴアームドで力を抑えて安定性を高めていくしかないか」

 俺が出力を絞り、ロックが抑えた状態ならば、安定して発動出来る技がすでにいくつか完成している。
 ただ、実戦でそれをぶつけられる相手にはまだ出会っていない。

 俺とロックは確実に強くなっている。
 そこらへんに出てくる魔獣程度なら竜魔法ドラゴスペルによる殴る蹴るで事足りる。
 だからこそ、全力をぶつけても何も心配いらないキルトさんとの修行は貴重な時間なんだ。

「キルトさん、もう1回お願いします!」

「もちろん! 今日は午前中は付き合えるから、何度でも失敗しよう。上手く出来ないことも、間違えることも、強くなるためには必要なことさ。気負きおう必要は何もないからね」

 キルトさんが失敗を肯定するのは、それに意味があるから……だけではない。
 彼女が優しいから……というだけでもない。

 あなたの背中を追うと伝えた日、キルトさんは俺に1つだけ約束してほしいと言った。
 私に追い付けなくても、自分を責めないで――と。
しおりを挟む
表紙へ

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~

荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。 ========================= <<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>> 参加時325位 → 現在5位! 応援よろしくお願いします!(´▽`) =========================  S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。  ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。  崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。  そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。  今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。  そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。  それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。  ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。  他サイトでも掲載しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。