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1巻

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「記念すべき最初の依頼はジャッカロープのつのの入手! 狩場はこの王都からほど近いフルシュカスの森が最適だよ」
「ジャッカロープ……確か角の生えたウサギのような魔獣でしたっけ?」
「そう、別名ツノウサギだしね。でも、かわいい奴だと思っちゃダメ! 目つきは悪いし、動きは素早い。角と前歯は鋭くとがっていて、油断してると首や胸をブスリと刺されて大怪我するよ」
「そ、そうなんですか……」
「1体につき2本の角が生えているから、5体倒して10本がノルマになる。多い分には問題ないけど、少ないと依頼達成とは言えないね。でも、命の危険を感じた時は逃げていいよ。流石に命を懸けるような依頼じゃないからさ」
「わかりました。頑張ろうな、ロック!」
「クー!」

 小さな翼をピンと伸ばすロック。
 ちょっと腰が引けている俺と違い、やる気は十分のようだ。

「生まれたばかりとはいえドラゴンのウロコは硬い。だから、ロックちゃんがジャッカロープ程度に致命傷ちめいしょうを負わされることはないと思うよ」

 キルトさんがツンツンとロックのウロコを指で触る。
 俺もツンツンとウロコを触ってみる。うーん……硬い! すでにあの卵の殻並みの硬さがあるんじゃないか?
 これならジャッカロープの前歯や角なんて刺さりはしないだろう。

「まずは何より自分の身の安全を考えるんだよ、ユートくん。君の皮膚ひふは柔らかいんだからね」

 そう言って俺の頬をツンツンとつつくキルトさん。
 急に体を触られると……ドキドキする。

「あ、ありがとうございます。油断せずにいきます!」
「これは目的地までの地図、そしてこっちは森内部の簡単な地図。あと注意事項をまとめたメモも渡しておくね」

 テキパキと仕事に必要な物を用意してくれるキルトさん。
 前の職場では言われた物を背負って歩くだけだったから、何だか感動だ……!

「最後に、これは私からのプレゼントだよ」
「こ、これは……剣!」

 カウンターに載せられたのは、白銀はくぎんにきらめく刃を持つ両刃もろはの剣だった。
 それを収めるさやと、腰から下げるためのベルトもついている。

「冒険者なら武器の1つも持っておかないとね。別に特別な剣じゃないけど、まあまあの良品ではあるよ」
「こんな物まで用意していただいて……申し訳ないです」
「ギルドマスターたるもの、メンバーに必要な物を支給するのも仕事さ。むしろ剣しか用意出来なくてごめんね。防具はおいおい体のサイズに合わせて作るとしよう」

 これが普通のギルドなんだろうか。
 それともキルトさんが優しいだけなんだろうか。
 どちらにせよ、これだけ気を遣ってもらえると、ギルドのために働こうという気もいて来る!
『黒の雷霆』の時は武器も防具も支給されず、少ないお金で何とかボロの装備を見繕みつくろっていたもんなぁ……。

「今回の依頼はユートくんとロックちゃんの実力を測るためのものさ。失敗してもペナルティなんてない。とりあえず、生きて帰って来ればそれでいいんだよ」
「はい、無事に帰って来ます。もちろん、ロックと一緒に!」
「クー!」

 貰った剣を腰に下げ、ジャッカロープの角を入れるためのリュックを背負う。
 リュックの中には傷薬や包帯ほうたいなど、最低限の怪我に対応出来る物品も入っている。

「ロックもリュックの中だよ。盗賊とうぞくに目を付けられたら大変だからね」
「クー! クー!」

 おとなしくリュックの中に入るロック。
 しかし、フタの部分をぺろんと開けて、頭だけ外に出そうとする。
 何度フタを閉めても頭を出すので……そのままにしてあげた。
 まあ、頭だけなら翼も見えないし、ただのイワトカゲに見えるかも。

「森に着くまではリュックの中でおとなしくしてるんだよ。森に着いたらうーんと遊べるからさ」
「クー!」
「じゃあ、行ってきます。キルトさん」
「行ってらっしゃい。ユートくん、ロックちゃん」

 気持ちを新たに再出発だ。
 今日から俺は『キルトのギルド』所属のユート・ドライグ!
 そして、相棒はドラゴンのロックだ!

 ◇ ◇ ◇

 ユートたちが出発して数分後の『キルトのギルド』――
 その建物の中でギルドマスター、キルト・キルシュトルテは空気が抜けたように脱力し、テーブルの上に大の字で寝転んでいた。

「クールなお姉さんを演じるのも楽じゃない~……」

 彼女がユートに語ったことはすべて真実だ。
 実力はあるが人見知りで、1人なら気楽に仕事が出来ると思ってギルドを立ち上げた。
 しかし、本当に1人になると寂しくて、ギルドを回すのも大変で、誰か助けてくれないかな……と1人で悶々もんもんとしていたところに、突然ユートがやって来た。
 しかも、あの『黒の雷霆』をクビになったらしい。
 キルトはずっと前から『黒の雷霆』を評判が悪く、離脱者が続出しているギルドと記憶きおくしていたが、ここ2年はあまりそういう話を聞かなくなっていた。
 それもそのはず、この2年間とはすなわちユートの所属期間。
 彼は普通の人間なら投げ出したくなるような雑用の数々を、ほとんど1人でこなしていたのだ。
 おかげで『黒の雷霆』の離脱者はグッと減り、その評判も上向いた。
 なのに『黒の雷霆』のメンバーは、まだユートの価値をわかっていない。
 剣を振れずとも、魔法は使えずとも、日々の生活を支えてくれる者の存在は大きい。
 彼らがそのありがたみを嫌でも理解させられるのは、もう少し先の話――
 逆にキルトの方はユートをありがたく感じ過ぎていた。
 ユートを逃したらもう後の人生は1人で孤独に生きることが確定……とまで思っていた。
 それはそれで少々健全とは言えないが、この寂れたギルドベースに若くてやる気のある冒険者が自分から来てくれることなんて、そうそうないのは事実だった。
 キルトは一生分の勇気をしぼって、クールで仕事が出来そうなお姉さんを演じ、見事ユートの信頼を勝ち取った。
 彼がドラゴンを出して来た時は演技が崩れそうなほど驚いたが……何とか耐えた。

「手元に渡せる物がなかったから、私の予備の剣を渡しちゃったけど大丈夫かな……。まあ、普通の人には普通の剣でしかないけど……」

 ギルドマスタークラスの扱う武器は、一般的なそれとは性能や価値がまったく違う。
 ゆえに並の人間にはその力を引き出し切れない。
 心配事は武器だけに留まらない。勧めた依頼の難易度は正しかったか、ユートとロックはどのくらい戦えるのか、無事に帰って来られるのか……。
 悩み過ぎたのと勇気を出して声をかけた疲れから、彼女はテーブルの上に寝転がったまま眠ってしまった……。

「ぐー……ぐー……」

 ◇ ◇ ◇

 一方その頃、『黒の雷霆』のギルドベースの会議室は、張り詰めた空気で満たされていた――
 貴族を怒らせ、ギルドの名誉が傷ついたこと。
 それをただただ平謝りやユートの追放だけで終わらせるほど、ヘイズ・ダストルという男は単純ではなかった。

「本日集まってもらった理由は……言うまでもないよな」

 会議室のテーブルを囲むのは、ギルドの中でも指折りの実力者たち。
 通称「幹部かんぶ」と呼ばれている面々だ。その誰もがヘイズの顔色をうかがっている。

「マクガリン・ズール男爵を怒らせた。ロックバードの卵をご所望しょもうだったところに、あろうことかイワトカゲの卵を渡してな」

 幹部たちは息をのむ。
 その騒動が起こった時、彼らは他の仕事を進めていたためその場にはいなかった。だが、話を聞くだけで事態の恐ろしさはわかる。
 ズール男爵は魔獣に執着している以外、良い評判も悪い評判も聞かない男。
 逆に言えば、魔獣に関しての不誠実な対応が最も恐れるべきことと言える。
 今回の騒動はその逆鱗げきりんに触れるどころか拳をぶつけたようなもの……。
 その時の男爵の怒りを幹部たちはありありと想像出来た。

「すべては雑用係のユートの責任。即刻解雇した。だが、こんなことで俺たちの名誉は回復しない! あの男爵は気に入らないが貴族は貴族。そこから貴族のコミュニティに俺たちの悪評が広がるのだけはなんとしても避けたい!」
「……では、やはりロックバードの卵を見つけて男爵に渡すのが一番では?」

 幹部の1人が意見する。
 ヘイズはその意見を待っていたと言わんばかりに笑みを浮かべる。

「卵を渡すことが、名誉と信頼の回復に一番効果があるのは間違いない。もちろん、俺たちはそれを目指していく! だがしかし、直接的には探さない! 他のギルドに探させるのさ……!」
「まさか、他のギルドが探して見つけたところを……?」
「察しが良くて助かる。そう、横取りするのさ!」

 幹部たちはヘイズの言葉を聞いて、彼と同じように笑みを浮かべる。
 ギルドマスターがここまで狡猾こうかつだからこそ、『黒の雷霆』は上級ギルドでいられる。
 そして、そんな彼に従う幹部がいるからこそ、『黒の雷霆』は上級ギルドとして成り立つ。

「これからは他のギルドの動きに注意しろ! あの馬鹿貴族があらゆるギルドに卵の採取を依頼するのは目に見えている! そして、卵の確保に動き出したギルドを見つけたら俺に報告しろ! そこからどう対応すべきか、決定は俺が下す!」
「「イエス、マスター!」」
「……ということで、有力な情報をつかむまでは通常業務にはげんでくれたまえ、諸君」
「「イエス、マスター!」」

 幹部たちの声が会議室にこだまする。
 上級ギルドかつ悪徳ギルド『黒の雷霆』。
 彼らの真実の姿が世に晒されるのは、もう少し先の話――


 第2章 初めての狩り

『キルトのギルド』を出てからしばらくして、馬車に乗って移動した俺たちはフルシュカスの森に到着していた――

「単独で戦闘をともなう仕事なんて初めてだ……!」

 街中で落とし物を探す依頼とか、崩れた屋根の修復みたいな依頼は1人でやったことがあるけど、こういう依頼は本当に初めてだ。
 そもそも俺は戦闘の経験がほとんどない。
 荷物持ちの役目は当然荷物を運ぶことで、魔獣に襲われた時は真っ先に誰かの後ろに隠れ、荷物を守ることだけを考えていた。
 前のギルドのメンバーも俺が戦えないことはわかっているので、戦闘の際は率先そっせんして前に立ってくれた。
 まあ、俺じゃなくて自分の荷物を守るためなんだろうけど……。
 それもこれも、今となっては昔の話。
 今は俺をしいたげる人もいないが、守ってくれる人もいない。
 単独任務はすべて自分1人で……。

「いや、俺は1人じゃなかったよな」

 リュックのフタを開け、中にいるロックが外に出やすいよう地面に置く。
 フルシュカスの森は自然豊かで多種多様な魔獣がむ土地だ。
 ゆえに薬草や毒草の採取、魔獣を討伐し役立つ部位を回収するために多くの冒険者がおとずれる。
 ただ、今日に関しては乗合馬車や近くの村、森の浅いところにも冒険者の気配がない。
 ロックを自由に遊ばせてやるにはうってつけのシチュエーションだ!

「ここなら出ても大丈夫だよ。ずっと窮屈な思いさせてごめんね」
「クゥゥゥ~!」

 リュックから出て来たロックはうーんと伸びをする。
 馬車に乗るまではリュックの中でもぞもぞしていたけど、馬車に揺られるうちに眠ってしまったようで、特に目立つことなく森まで来ることが出来た。

「クゥッ! クゥッ!」

 森の草木をかき分けて、ロックが駆け回る。
 せまい宿の一室で生まれ、外に出る時は袋に入れられているロックにとって、こんなに広い場所は初めてだろう。
 草木や虫なんかも初めて見たはずだ。
 いろんな物に興味津々しんしんで、とんでもないスピードで走っては止まるのを繰り返している。

「こらこら、あんまりはしゃぎ過ぎると転んじゃうぞ」
「クー! クー! ク…………グゥ⁉」

 案の定、ロックは木の根に足を取られて転んでしまった。
 そのままぐるぐると転がり、木の幹に体をぶつける。

「大丈夫かロック⁉」
「クー!」

 無傷だった。あれだけの勢いでぶつかったのに……!
 それどころか、ぶつかられた木の方が大きくへこみ、少し傾いている。
 衝撃で木の実が地面に落ち、あたりにバラバラと転がる。

「クンクン……ク~!」

 においをいだ後、木の実をほおばるロック。
 この木の実は無毒で美味だが、自然に落ちる時期まで強固に木にぶら下がり、揺らしたぐらいでは落ちないと言われているのに……。

「やっぱり心配すべきは自分か……」

 ロックは小さいけどドラゴンだ。もはや確信を持てる。
 それに対して俺は戦闘経験がほぼない人間……。
 木の枝を剣に見立てて素振すぶりをするくらいの訓練しか積んでいない……。

「帰ったらキルトさんに剣技を教えてもらおう」

 今はロックの力と、積み重ねた自分の素振りを信じるしかない。
 木の実をあらかた食べ終わったロックを連れ、森の奥へと進む。目指すのはジャッカロープが生息する森の中の草原だ。
 キルトさんから貰った地図とにらめっこし、目印となる木や岩をしっかり確認して進む。
 こういう手つかずの森林地帯は完全なマップを作れない。
 だから簡素な地図を読み解き、臨機応変りんきおうへんに判断するのも冒険者の力……!

「……ここだ! 着いたぞロック!」
「クー!」

 森の中なのに木が生えていない。代わりに人のひざくらいまで伸びた草が一面に広がる。
 ここがフルシュカスの草原だ!
 いやぁ、目的地にたどり着けただけでこんなに嬉しいとは!
 でも、浮かれてもいられない。次は角を回収するためにジャッカロープを……。

「結構そこら中にいるな……」

 ジャッカロープは角の生えたウサギのような魔獣。
 草原の中にいても、その鹿しかのような角は隠れることがなく非常に目立つ。
 おかげで数が把握はあくしやすく、近くに5体以上はいることがわかった。
 これをすべて倒して角を回収するだけで、依頼は達成出来る。
 だが、油断してはいけない。1体1体確実に倒していくんだ。
 近くにいるジャッカロープが一斉に襲い掛かって来たら、俺の体は鋭い角で穴だらけにされてしまうだろう……!

「ロック、一番近くにいるジャッカロープを攻撃だ。動けなくする程度で構わない。トドメは俺が刺す」
「クー!」

 俺の指示を受け、ロックは駆け出した。
 ジャッカロープもその気配に気づき、後ろ足を使って立ち上がり草原から顔を出す。赤黒い目に鋭く伸びた前歯、濃いグレーの体毛が特徴的だ。少なくとも普通のウサギのようなかわいげはない。
 ジャッカロープはロックの突進に対して突進で応えた。
 鋭く大きな角を正面に傾け、敵を串刺しにしようとする!
 ロックのウロコが硬いことは知っているが、いざ実戦となると怖い気持ちも……。


 バキバキバキバキバキィーーーーーーッ‼


 ……すべては杞憂きゆうだった。
 ロックと衝突しょうとつしたジャッカロープの角は、いとも簡単にくだけ散った。
 そして、その勢いのままロックはジャッカロープの頭に激突。それがトドメの一撃となった。

「クゥー!」

 当然のようにロックは無傷!
 翼をパタパタさせて勝利の雄叫おたけびを上げる。
 その姿は小さくとも最強の魔獣ドラゴンそのものだった。

「ロックはすごいな! 本当に頼りになるよ!」
「ク~!」
「ただ、もう少し角は綺麗な状態で回収したいかな」
「クー?」

 ジャッカロープの角は粉末ふんまつにして薬の材料に使われるので、多少バラバラでも問題はない。
 ただ、あんまりバラバラだと破片はへんを草原の中から探すのが大変だし、ギルドに帰った後でその破片がちゃんと1本分の角になっているかを判断するのが大変……と、キルトさんから貰ったメモに注意事項として書かれている。
 まあ、大変なだけで、砕けた角でも依頼は達成出来る。
 それに自由に戦わせてあげたいという気持ちもある。
 しかしながら俺たちは冒険者なので、よりギルドや依頼者に寄り添ったスマートな解決方法を目指す努力も求められる。

かしこくてすごいロックなら、角を避けて本体だけを攻撃することも出来るかな?」
「クー! クー!」

 頭を縦に振ってうなずくような動きをするロック。俺の言葉を理解してくれたようだ。
 ロックは強い。強過ぎる。だからこそ手加減が苦手だ。無理にそれを強要すれば、強いストレスになる気がする。
 なので、より難しい指示を与えてみる。手を抜かせるのではなく、より複雑な戦闘を求めてみる。
 成長して体が大きくなったら手加減を覚える必要もあるだろう。でも、今は違う方向で育ててあげたい。

「よし、じゃあ次はあのジャッカロープを狙おう!」
「クー!」

 ロックが駆け出す。その足取りに迷いはない。
 もしかして、何か秘策があるのかも……⁉
 2体目のジャッカロープも気配に敏感びんかんで、すぐロックの接近に気づいた。
 そして、こいつもまた好戦的! 突進に対して突進で対抗して来た。
 ここまでの流れは1体目と一緒。違ったのはこの後、衝突の直前……!
 ロックは短い脚と小さな翼を使ってジャンプ!
 ジャッカロープの角を跳び越え、無防備な背中にしっぽを叩き込んだ!
 叩き込む際には体をぐるんと一回転させ、しっぽを上から下へ大きく振ることで、人間で言う「かかと落とし」のような勢いをつけていた。
 ロックは当然しっぽも硬い。
 今の一撃はまるで金属のむちで打たれたような衝撃を生み、またもや一撃でジャッカロープを仕留めてしまった。
 それも今回はただ仕留めたんじゃない。
 俺に言われた通り、角に触れることなく獲物を仕留めたんだ。

「すごいぞロック! なんて賢いんだ!」
「クゥ~! グゥ……」

 喜んでいたロックが突然へな~っと脱力する。
 どこか痛めたのかと思い心配したが、どうやらお腹が空いただけらしい。
 仕留めた2体のジャッカロープを一度草原の外まで持って行き、何かあっても燃え広がりにくい開けた場所で、思う存分丸焼きにしてもらう。
 もちろん、その前に角は、ロックの鋭い爪で綺麗に切り取ってもらった。

「クアァァァァァァッ‼」

 ネズミよりも大きい獲物だから、火力もあの時よりずっと強い。
 こんがり丸焼きになった後、ロックはそれをむしゃむしゃバリバリと食べていく。あの小さい体のどこに入るんだってくらい、それはもうガツガツほおばっている。
 ドラゴンとしての高いパフォーマンスには、それだけエネルギーを使うということだろう。
 普通に街の店でお肉を買って、それをエサにしていたんじゃ間違いなく俺は借金まみれになる。
 でも、倒した魔獣の肉はタダだし、一部を除いて魔獣の肉は人間の口に合わない。食べられないわけじゃないが、マズいし好き好んで求める人はいないんだ。だから、何も気にせずにロックにあげられる。
 魔獣にとって他の魔獣の肉を食らうのは当然のことだから、口に合わないなんてことはない。
 実際、ロックも丸焼きを美味しそうに食べている。

「俺たちは魔獣の討伐をメインに活動していくべきだな」

 そうすればエサ代を気にする必要はなくなる。
 それに戦っている時のロックは本当に楽しそうだ。ロックの成長には戦いが必要不可欠……そんな気がする。
 となると、またもや問題は戦いに慣れてない生身の人間の俺! でも、俺だって成長には戦いが必要不可欠なんだ。
 ロックと一緒に多くの魔獣に立ち向かっていかねば……!

「クフゥ~」
「ロック……お前、まるまる2体をもう食べたのか……!」
「ク~!」

 食べっぷりもドラゴン! 王者の風格ふうかくよ……!
 あと3体はジャッカロープを倒す予定だけど、ロックは全部食べるつもりだろうか……。

「お腹がいっぱいになったところで、さっきと同じように角を避けてジャッカロープを倒してくれるかな?」
「クー!」

 このフルシュカスの森に来て、ロックの動きは格段に機敏きびんになった。
 3体目、4体目……仕留めるごとにその動きは洗練せんれんされ、最後には気配を消して草に隠れ、不意打ちでジャッカロープを仕留めてしまった。

「恐るべき成長速度……!」

 一方俺は手に入れた角をリュックに入れて運ぶだけ……って、ここでも荷物持ちじゃん⁉
 これでは前とやってることが変わらない……なんてことはない。
 危険な仕事であることには変わりないけど、辛かったり苦しかったりすることはない。
 ロックと一緒にいると、心にきざまれた小さな傷がどんどんえていくようだ。

「グゥ……」
「またお腹が空いたのか? じゃあ、焼かないとな!」

 まあ、焼くのもロックなんだけどね。
 俺はロックが食事をしている間、集まった10本の角の状態を確認し、もう一度注意事項が書かれたメモを読んでおく。
 最初の2本の角は砕けているけど、それ以外の角は完璧な状態だ。
 あまり短過ぎる角は1本とカウントされない場合があるらしいけど、今回は頑張って長い角の個体を倒して来た。
 納品の基準は十分満たしていると思う。


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