俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~

草乃葉オウル

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第2章

第17話 お花畑で草

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 そして、翌日――

「このホテルのフルーツジュース……美味しかったね~!」

「最初の一本以降は有料なのに、何本もおかわりしてしまった……」

「味に絶対の自信があるから、最初の一本は無料でもいい。もっともっと飲みたくなるからってわけね。これぞ商売人って感じがする!」

 昨日の晩に飲んだジュースのビンを手分けして持ち、ウォルトとフロルは宿のフロントにやって来た。
 その様子を見て、フロントの男性は満面の笑みを浮かべる。

「ウチのジュース……美味かったでしょう?」

「はい、もう完敗です」

「ハッハッハッ! 乾杯だけにかい! 面白いね、お客さん!」

 昨日と今日少し話しただけの男性に、草の影響が現れることはなかった。
 本来、そう簡単に草の概念が伝わるものではないのだ。

「お客さんたち、ローウェ町長の温泉同行隊に参加したいんだろう?」

「はい、そうです」

「チラシにも書いてあったと思うが、今日が募集の最終日だからねぇ。駆け込みでたくさん人が集まってるかもしれないから、早めに町長の邸宅に向かった方がいいよ」

「ありがとうございます。早速行ってこようと思います」

 宿のチェックアウトを済ませ、ウォルトとフロルは町長の邸宅を目指す。

「それにしても、この街は飲み物も食べ物も種類豊富で楽しいよね」

「各地から物資が流れ込むから、それだけ多種多様なものが楽しめるんだろうね。ここに住んだら、毎日飽きることがなさそうだ」

「ふふっ、この旅が終わったらここに住んでみる? ……なんてね!」

 フロルが冗談めかして言ってみる。
 それをウォルトは真面目に受け取った。

「ジェルバに住んで街を行きかう人々を眺める生活……。それもいいかもしれない」

「え、ほんとっ?」

「王都にはもう住めないかもしれないからね。いろんなところを見て回って、そこで生活する自分を想像するのも大事さ。このジェルバの街は結構好きかもしれない」

「ふ~ん……! まあ、この街なら村の婆ちゃんにも会いに行きやすいものね!」

「そうそう、レラス村に近いのもいい。フロルにも暮らしやすい場所だね」

「えっ、それって……」

 フロルは『私も一緒に暮らすってこと?』と聞き返せなかった。
 そのまま話題はバイパーバレー温泉同行隊なる謎の集まりにシフトする。

「同行隊を募集しているのは町長のローウェさん。目的はバイパーバレーのどこかに存在するとされる秘湯の発見。ローウェさんはここ数年原因不明の体調不良に悩まされていて、聖なる力が流れ出したとされる秘湯による湯治とうじを望んでいる」

「理由がわからない体のだるさが続くって辛いよねぇ。そりゃ、あるかもわからない秘湯の力にでもすがりたくなっちゃうよ」

「ただ、その秘湯探索にローウェさん自身も参加を望んでいる。だから、10人からなる護衛に自分を守らせる必要があった。ゆえに温泉同行隊――」

「人を雇って探させて、見つかってから行けばいいものを。まあ、そのおかげで私たちは合法的にバイパーバレーに足を踏み入れ、北へ抜けることが出来るんだけどね」

 町長ローウェは秘湯に入った後、そのままバイパーバレーを北に抜けたところにある街で仕事をこなす予定らしい。
 なので、同行隊のメンバーも自動的に北へと抜け現地解散となる。

「バイパーバレーを抜けてから現地解散ってことは、帰りは山を迂回してジェルバまで戻って来るつもりなのかな? このチラシにけばけばしいデザインといい、よくわからない町長さんねぇ……」

 町長のことを完全には信用していないフロル。
 しかし、彼女には同行隊に絶対選ばれる自信があった。

「町長がどんな性格の人であれ、何かを探している以上私のギフトが絶対に欲しくなるはず! 安心して、ウォルト。必ずバイパーバレーの草を食べさせてあげるからね!」

「ああ! 頼りにしてるよ、フロル」

 こうして、二人は町長の邸宅までやって来た。
 大きな門をくぐると、まずは広い広いお庭がお出迎えだ。

「え、何ここは……」

「草! いや、もはや花!」

 邸宅の庭は……花だらけだった。
 色も形も違う花々が花壇ごとにキッチリ分けて育てられているため、その様相ようそうはもはやフラワーガーデン。
 人が住む家よいうよりは、観光施設にしか見えなかった。

 そんな花々に囲まれて、屈強な男たちがウロウロしている。
 温泉同行隊に滑り込み参加を狙う者たちだ。

 ウォルトたちはあくまでもバイパーバレーを通り抜けることを目的にしているため、報酬のことをあまり気にしていなかったが、温泉同行隊の成功報酬はかなり高額だった。
 そのため、ジェルバの街の力自慢たちがこのお花畑に集結しているのだ。

 参加希望者たちはウォルトとフロルをギラギラとにらむ。
 枠は10人で、今日は募集の最終日……。
 すでにほとんどの枠が埋まっていることも考えられる。
 この場にいる全員が蹴落とすべきライバルになり得るということだ。

「みんなギラギラしててこわ~い! でも、ウォルトよりムキムキな人はいないかも?」

 フロルが挑発的なことを言うから、周りからの視線はさらに刺々とげとげしくなる。

「あんまり刺激しない方がいいよ、フロル。普通にしてれば俺たちが選ばれるさ」

「ウォルトのその発言もなかなかに挑発的だけどね」

「あ、そうかも……。これはしまった……」

 二人の周りにいる全員が「こいつらだけは蹴落としてやろう」と心の誓った。
 そんな中、ついに温泉同行隊を組織した町長ローウェが姿を現す。

「やぁやぁ! 今日もアタシのために集まってくれてありがと~!」

 町長ローウェはベストにワイシャツ、スラッとした長ズボンを着こなすスマートな男性だった。
 キッチリと七三に分けられた紫の髪からは、几帳面な雰囲気が伝わって来る。

「男の人……だけど、しゃべり方は女性的なのね」

「まあ、俺たちみたいに草を生やしてしゃべることに比べたら普通のことかも」

「それは言えてて草」

 町長が来たのでコソコソと会話するウォルトとフロル。
 まるで先生を前にした悪ガキのようだ。

「まずは安心して! 温泉同行隊の枠はまだ残っていま~す!」

 ローウェの発言で集まった人々が色めき立つ。
 彼らにとってそれが一番の不安要素だったからだ。

「でも、早めに来てくれた人の中にもすっごい優秀な人はいて、そういう人たちはすでに確保してあります! まあ、ギリギリで滑り込むんだから、それくらいは覚悟の上よねぇ?」

 次々にうなずく参加希望者たち。
 ウォルトたちもそれは覚悟していた。

「残りの参加枠は二枠よっ! 今日ここに集まってくれた人の中から選びま~す!」

 ローウェの宣言と同時に、邸宅の門がバタンッと閉じられた。
 ここで募集は締め切りというわかりやすい合図だ。

「それでどうやって選ぶんだ? これだけの人数集まってるが」

 参加者の中の一人が我慢し切れず、直接ローウェに尋ねる。
 それに対してローウェは「ノンノン」と指を横に振った。

「せっかちさんは命を落とすわよ~、あのバイパーバレーじゃね。まあ、じらし過ぎるのもアタシの悪い癖だし、選考方法を発表しま~す! ズバリッ、私やみんなの前で自己アピールすることです!」

「「「……は?」」」

 参加希望者の口から同時に同じような言葉が漏れる。

「いや、そんなに驚くこと~!? 要するに自分は他より優れているから、ぜひ参加させてくださいってアピールすればいいだけよ! 制限時間は三分! 人数が多いからサクサクいくわよ~!」

 困惑する者もいれば、それなら話は早いと笑う者もいる。
 ウォルトは前者、フロルは後者だった。

「お、俺……自己アピールとか人前でスピーチとか……苦手!」

「別に話すだけがアピールじゃないよ。草の力を解放すれば大丈夫! 私もこの選考方法なら絶対に負けない!」

 お花畑の中で、嬉し恥ずかし自己アピールタイムが始まる。
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