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第1章
第9話 キョドってて草
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「久しぶりにシャバへ出て来て、少しばかりはしゃぎ過ぎてしまった。改心を誓った貴様たちに、俺からも慈悲を与えよう。草には草の仁義がある」
そう言ってウォルトは傷ついた騎士たちを一か所に集める。
「借りるぞ」
騎士の一人から長剣を奪うウォルト。
そして、その剣を使って地面にガリガリと『w』の文字を刻み始めた。
騎士たちはみるみる地面に刻まれた『w』の文字に囲まれていく。
(こ、今度は一体何をするんだよぅ……)
子猫のような表情で今にも泣き出しそうなダローム。
もうすべてを受け入れる覚悟の騎士たち。
そんな彼らをよそに、ウォルトはとにかく地面に『w』を刻む。
「これは草を表わす古代文字だ。ワロタグリフとも言われる。そして、この文字で刻まれた草生陣によって貴様たちに草の力を分け与える」
「は、はぁ……そうですか……」
もうウォルトを人間とは思えないダローム。
会話をすることすら恐怖だが、その恐怖の受け答えを部下の騎士たちにさせるわけにもいかないという、腐っても残っていた統領騎士の使命感で口を動かす。
だが、今からウォルトがしようとしていることは、騎士たちを傷つけることが目的ではない。
悪党とはいえ少しやり過ぎたという、心優しき少年としてのウォルトが顔を出しただけだ。
「よし……草生陣、萌芽!」
地面に無数に刻まれた『w』の文字が鮮やかな緑に輝き、その光が騎士たちを包む。
途端に悲鳴を上げる騎士たちだが、その反応とは裏腹に彼らが負った傷がみるみる治っていく。
「薬草が持つ傷を癒し生命力を高める効能。草を食べることで俺の体内に蓄えたその力は、草生陣を通すことで外部に出力することが出来る。植物魔術や回復魔術ではないから、回復を行うにもひと手間必要というわけだ」
別に誰に説明するでもなく、まるで自分に言い聞かせるように言うウォルト。
その言葉の意味を理解している者はウォルトを覗いて一人しかいなかった。
(とんでもない人が村に来たものね……。顔と体はイケてるんだけど……)
鋼鉄の棍棒を片手に騎士たちに殴りかかったオレンジ色の髪の少女。
名をフロル・ブルーメルという。歳は16でウォルトより2歳年上である。
(体の中に蓄えた薬草の力を他人に移すって……どういう術よ? 本人が言うように植物魔術や回復魔術ではないだとしたら、一体なんだっていうの?)
ミステリアスを通り越してデンジャラスな来訪者。
だが、好奇心旺盛なフロルにとって、この出会いは心躍るものがあった。
(でも、まず間違いないのは……この人は正しいことがわかってるってこと!)
騎士たちが来るまで平和だったが、変化に乏しい村でもあった。
普通に繰り返される日常が変わっていきそうな……そんな予感を感じていた。
「……これだけ力を分け与えれば、もう傷は治っているはずだ。両腕を折った奴もな」
「ほ、ほんとだ……!」
ウォルトの髪とヒゲを切ったナイフ使いの腕も普通に動くようになっていた。
一番重傷だった彼が完治したということは、ダロームの腹も治っている。
もちろん、穴の開いた鎧までは直せていない。
薬草の力はあくまでも生命に働きかけるものだ。
「改心して……さらに元気になったなら、まずやるべきことはわかっているな?」
騎士たちは顔を見合わせた後、ズラッと並んで地面に座り込み土下座をした。
「「「申し訳ございませんでした! 二度とこんなことはしません!」」」
さっきまで騎士たちに暴力を振るわれ、怒りを燃やしていた村人たち。
彼らにとってもウォルトの存在と行動は意味不明で、憎き騎士たちが頭を下げていても「お、おう……」という反応しか出来ない。
「これからは民のために身を粉にして働く所存でありますっ!」
ダロームの宣言にウォルトだけが満足したようにうんうんとうなずく。
「貴様らの中に流れ込んだ草の力――すなわち自然の力を感じ、日々正しき行いをしろ。何度でも言うが次はない」
(や、やべぇ……! 俺たちの体の中にこいつの意味不明な力が流れ込んじまったらしい……! だが、そもそも俺たちはみんななりたくて騎士になったんだよな……。特にこの部隊は平民出身者ばかりで、みんな厳しい試験と訓練を突破して来たんだ……)
徐々に体の震えが収まっていくダローム。
(それなら、真っ当な騎士として生きるのが結局一番楽な生き方だ。せっかくなれたんだからな……! 本当に次はないと自分でも心に刻もう……。次に悪事に手を染めてみろ……人として死なせてもらえるかもわからないと思え……!)
本当に改心し始めるダロームだったが、ウォルトへの恐怖心は消えそうもない。
体内を流れる草のエネルギーとウォルトという存在が、罪に対する重い罰になるだろう。
「なら、今日はもう行ってよし……と言いたいが、貴様たちが散らかした物を片付けてから行け」
「「「はいっ!」」」
先輩騎士に怯えながら働いていた見習いの頃のように、騎士たちはテキパキと散らかった物を片付け、謝罪を繰り返しながら村を去っていった。
「皆さん、安心してください。彼らは心を入れ替えましたよ。これからは本物の盗賊や魔獣が現れたって、彼らが命を懸けて騎士の使命を果たしてくれるはずです」
ウォルトはにこやかに村人へ呼びかける。
しかし、村人たちは「すごいありがたかったけど、あんたのこともよくわからんから、安心し切ることが出来ねぇよ……」という視線を向ける。
そんな中、ウェーブのかかった長いオレンジの髪をなびかせたフロルがウォルトに近づいた。
「お兄さん、ありがとう! 私だけじゃ、あの騎士を追い払えなかったよ!」
何の下心も、怯えるような様子もなく、フロルは心からウォルトに感謝した。
それに釣られるように、他の村人たちも口々にウォルトへ感謝の言葉を述べる。
ただ、見た目が変わっても心の大部分は少年のままのウォルトは、突然年上の女性に近寄って来られたことに動揺した。
見た目だけならウォルトの方が圧倒的に年上に見えるが、中身は世間知らずお坊ちゃまなのだ。
「あ、あっ、すぅ……あはは、はい! ど、どういたまして……! 大したことじゃないですぅ……」
明らかに様子がおかしくなるウォルトだが、今までもだいぶおかしかったので村人たちは最早これくらい気にしない。
「ねぇ、お兄さんはここらへんの山で遭難した人? ここに来た時の髪とか、服の状態も結構悪いし……」
「え、いやっちょっと違うっすね……! 俺は南のフングラの樹海に……いたと言いますか……」
「えっ!? あの樹海に!? というか、フングラの樹海から生きて帰って来たの!? それってちょーすごいことだよ!」
この南の果ての村に住む人々ですら決して近づかない危険地帯……。
何なら子どもがフングラの樹海を恐れるようにと作られたおとぎ話まで存在する。
そんな場所から生還した人がいるなんて普通なら与太話に聞こえるが、目の前のウォルトにはそれが事実だと思わせる説得力があった。
フロルの好奇心は爆発し、無意識にウォルトの手を握りしめる。
「ねぇ、もっと詳しく聞かせてよ!」
「あぅ……! あうあう……うっす……フヒッwww」
ウォルトが正気を失いかけた時、二人の間に割って入る者がいた。
「これっ、やめんかフロルや……。殿方が戸惑っているのがわからんか」
「あ、婆ちゃんじゃん! 無事だったんだね」
白髪の老婆はフロルの手をウォルトから引き剥がす。
背が低くやせてはいるが、腰の曲がっていないその姿は老いてなお力強い風格がある。
「今この殿方に必要なのは熱い風呂と新しい服、そして美味い食べ物だ。フロル、節度を持ってうちの店に案内しな」
「は~い! 後で話聞かせてね、お兄さん!」
ウォルトはそのまま老婆たちに連れて行かれる……前にこう言った。
「あ……待ってください。騎士に殴られた人たちを草生陣で治します。それからお店にお邪魔します」
老婆は驚いたように目を丸くした後、優しく微笑んだ。
「ああ、そうしてくれると助かるよ。私の名前はファム。こっちの若い娘はフロル」
「ウォルト・ウェブスターです。よろしくお願いします」
挨拶を済ませた後、ウォルトは若干怖がっている村人たちを草生陣を使って癒した。
そして、ファムとフロルに連れられて彼女たちの切り盛りするお店に向かった。
そう言ってウォルトは傷ついた騎士たちを一か所に集める。
「借りるぞ」
騎士の一人から長剣を奪うウォルト。
そして、その剣を使って地面にガリガリと『w』の文字を刻み始めた。
騎士たちはみるみる地面に刻まれた『w』の文字に囲まれていく。
(こ、今度は一体何をするんだよぅ……)
子猫のような表情で今にも泣き出しそうなダローム。
もうすべてを受け入れる覚悟の騎士たち。
そんな彼らをよそに、ウォルトはとにかく地面に『w』を刻む。
「これは草を表わす古代文字だ。ワロタグリフとも言われる。そして、この文字で刻まれた草生陣によって貴様たちに草の力を分け与える」
「は、はぁ……そうですか……」
もうウォルトを人間とは思えないダローム。
会話をすることすら恐怖だが、その恐怖の受け答えを部下の騎士たちにさせるわけにもいかないという、腐っても残っていた統領騎士の使命感で口を動かす。
だが、今からウォルトがしようとしていることは、騎士たちを傷つけることが目的ではない。
悪党とはいえ少しやり過ぎたという、心優しき少年としてのウォルトが顔を出しただけだ。
「よし……草生陣、萌芽!」
地面に無数に刻まれた『w』の文字が鮮やかな緑に輝き、その光が騎士たちを包む。
途端に悲鳴を上げる騎士たちだが、その反応とは裏腹に彼らが負った傷がみるみる治っていく。
「薬草が持つ傷を癒し生命力を高める効能。草を食べることで俺の体内に蓄えたその力は、草生陣を通すことで外部に出力することが出来る。植物魔術や回復魔術ではないから、回復を行うにもひと手間必要というわけだ」
別に誰に説明するでもなく、まるで自分に言い聞かせるように言うウォルト。
その言葉の意味を理解している者はウォルトを覗いて一人しかいなかった。
(とんでもない人が村に来たものね……。顔と体はイケてるんだけど……)
鋼鉄の棍棒を片手に騎士たちに殴りかかったオレンジ色の髪の少女。
名をフロル・ブルーメルという。歳は16でウォルトより2歳年上である。
(体の中に蓄えた薬草の力を他人に移すって……どういう術よ? 本人が言うように植物魔術や回復魔術ではないだとしたら、一体なんだっていうの?)
ミステリアスを通り越してデンジャラスな来訪者。
だが、好奇心旺盛なフロルにとって、この出会いは心躍るものがあった。
(でも、まず間違いないのは……この人は正しいことがわかってるってこと!)
騎士たちが来るまで平和だったが、変化に乏しい村でもあった。
普通に繰り返される日常が変わっていきそうな……そんな予感を感じていた。
「……これだけ力を分け与えれば、もう傷は治っているはずだ。両腕を折った奴もな」
「ほ、ほんとだ……!」
ウォルトの髪とヒゲを切ったナイフ使いの腕も普通に動くようになっていた。
一番重傷だった彼が完治したということは、ダロームの腹も治っている。
もちろん、穴の開いた鎧までは直せていない。
薬草の力はあくまでも生命に働きかけるものだ。
「改心して……さらに元気になったなら、まずやるべきことはわかっているな?」
騎士たちは顔を見合わせた後、ズラッと並んで地面に座り込み土下座をした。
「「「申し訳ございませんでした! 二度とこんなことはしません!」」」
さっきまで騎士たちに暴力を振るわれ、怒りを燃やしていた村人たち。
彼らにとってもウォルトの存在と行動は意味不明で、憎き騎士たちが頭を下げていても「お、おう……」という反応しか出来ない。
「これからは民のために身を粉にして働く所存でありますっ!」
ダロームの宣言にウォルトだけが満足したようにうんうんとうなずく。
「貴様らの中に流れ込んだ草の力――すなわち自然の力を感じ、日々正しき行いをしろ。何度でも言うが次はない」
(や、やべぇ……! 俺たちの体の中にこいつの意味不明な力が流れ込んじまったらしい……! だが、そもそも俺たちはみんななりたくて騎士になったんだよな……。特にこの部隊は平民出身者ばかりで、みんな厳しい試験と訓練を突破して来たんだ……)
徐々に体の震えが収まっていくダローム。
(それなら、真っ当な騎士として生きるのが結局一番楽な生き方だ。せっかくなれたんだからな……! 本当に次はないと自分でも心に刻もう……。次に悪事に手を染めてみろ……人として死なせてもらえるかもわからないと思え……!)
本当に改心し始めるダロームだったが、ウォルトへの恐怖心は消えそうもない。
体内を流れる草のエネルギーとウォルトという存在が、罪に対する重い罰になるだろう。
「なら、今日はもう行ってよし……と言いたいが、貴様たちが散らかした物を片付けてから行け」
「「「はいっ!」」」
先輩騎士に怯えながら働いていた見習いの頃のように、騎士たちはテキパキと散らかった物を片付け、謝罪を繰り返しながら村を去っていった。
「皆さん、安心してください。彼らは心を入れ替えましたよ。これからは本物の盗賊や魔獣が現れたって、彼らが命を懸けて騎士の使命を果たしてくれるはずです」
ウォルトはにこやかに村人へ呼びかける。
しかし、村人たちは「すごいありがたかったけど、あんたのこともよくわからんから、安心し切ることが出来ねぇよ……」という視線を向ける。
そんな中、ウェーブのかかった長いオレンジの髪をなびかせたフロルがウォルトに近づいた。
「お兄さん、ありがとう! 私だけじゃ、あの騎士を追い払えなかったよ!」
何の下心も、怯えるような様子もなく、フロルは心からウォルトに感謝した。
それに釣られるように、他の村人たちも口々にウォルトへ感謝の言葉を述べる。
ただ、見た目が変わっても心の大部分は少年のままのウォルトは、突然年上の女性に近寄って来られたことに動揺した。
見た目だけならウォルトの方が圧倒的に年上に見えるが、中身は世間知らずお坊ちゃまなのだ。
「あ、あっ、すぅ……あはは、はい! ど、どういたまして……! 大したことじゃないですぅ……」
明らかに様子がおかしくなるウォルトだが、今までもだいぶおかしかったので村人たちは最早これくらい気にしない。
「ねぇ、お兄さんはここらへんの山で遭難した人? ここに来た時の髪とか、服の状態も結構悪いし……」
「え、いやっちょっと違うっすね……! 俺は南のフングラの樹海に……いたと言いますか……」
「えっ!? あの樹海に!? というか、フングラの樹海から生きて帰って来たの!? それってちょーすごいことだよ!」
この南の果ての村に住む人々ですら決して近づかない危険地帯……。
何なら子どもがフングラの樹海を恐れるようにと作られたおとぎ話まで存在する。
そんな場所から生還した人がいるなんて普通なら与太話に聞こえるが、目の前のウォルトにはそれが事実だと思わせる説得力があった。
フロルの好奇心は爆発し、無意識にウォルトの手を握りしめる。
「ねぇ、もっと詳しく聞かせてよ!」
「あぅ……! あうあう……うっす……フヒッwww」
ウォルトが正気を失いかけた時、二人の間に割って入る者がいた。
「これっ、やめんかフロルや……。殿方が戸惑っているのがわからんか」
「あ、婆ちゃんじゃん! 無事だったんだね」
白髪の老婆はフロルの手をウォルトから引き剥がす。
背が低くやせてはいるが、腰の曲がっていないその姿は老いてなお力強い風格がある。
「今この殿方に必要なのは熱い風呂と新しい服、そして美味い食べ物だ。フロル、節度を持ってうちの店に案内しな」
「は~い! 後で話聞かせてね、お兄さん!」
ウォルトはそのまま老婆たちに連れて行かれる……前にこう言った。
「あ……待ってください。騎士に殴られた人たちを草生陣で治します。それからお店にお邪魔します」
老婆は驚いたように目を丸くした後、優しく微笑んだ。
「ああ、そうしてくれると助かるよ。私の名前はファム。こっちの若い娘はフロル」
「ウォルト・ウェブスターです。よろしくお願いします」
挨拶を済ませた後、ウォルトは若干怖がっている村人たちを草生陣を使って癒した。
そして、ファムとフロルに連れられて彼女たちの切り盛りするお店に向かった。
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