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1st STAGE じゃじゃ馬娘とドラゴンゾンビ

Data.31 村への帰路

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 オーステン到着から一夜明けて、私たちはすっかり瘴気の薄れたサベント渓谷を進んでいた。
 まだ完全に環境は戻ってないから、たまにゾンビの群れに遭遇するものの、ドラゴンゾンビが居座っていた時の猛攻にはまるで及ばず、サクサクと移動は進んでいる。

「アチルちゃんは元気やなぁ。昨日あれだけはしゃいでたのに今もうっきうっきやで」

 ベラがマンネンのモニターを確認しながらつぶやく。
 モニターには両親の横にくっ付いて歩いているアチルが映っている。

「しばらく会えなかったんだから当然よ」

 私はベラの座席の横に立って言う。
 今、私とベラはマンネンの中。アチルは村の人々と外を歩いて移動している。

「彼女ら……NPCにとってあたし達は、創造神によってこの世の不思議や強大な敵に立ち向かうために送り込まれた存在という認識みたいやなぁ。アチルちゃんは分けへだてなく接してくれたけど、大人たちは少し距離を感じましたわ。まっ、会ったばっかやからかもしれんけどな!」

 ベラはNPCに対してもマシンガントークなので少し引かれた感はいなめない。
 それを差し引いても少し距離を感じたけど、私たちの活躍を心の底では喜んでくれていると思いたいものね。

「それにしても創造神によって送り込まれた存在なぁ……。あたしらは運営に対価を払ってこの世界に入れてもらってるわけやから、まさしくその通りってか。そのまんまやな」

「私はもうAUOは一つの世界って感じがするから、運営のことを『創造神』とでも呼ぼうかしら? 案外使ってるとこの呼び方流行ったりして」

「どのゲームも運営は特別なあだ名を持ってるモンやからなー。昔はどこも糞運営と呼ばれてたみたいやけど!」

 私たちは軽く笑いあう。

「もー、そういう発言は管理AIとして感心しませんよ。このゲームを一つの世界と認識してるのには感心しますけどね」

「なっ!」

「だれやっ!」

 マンネンの出入り口であるハッチは閉じられ、完全な密室。
 そんな空間へ突然現れたのは……シロさん!?

「お久しぶりですマココ・ストレンジさん。あいかわらずブーメラン一筋みたいですね」

「誰や? マココはんの知り合いでっか?」

「私がこの世界に飛び込む前にいろいろ設定してくれた管理AIのWhite3ホワイトスリー、通称シロさんよ。こうやってこの世界で目の前に現れたのは初めてだけど」

「今回は例外ですよ。マココさんに急ぎお話したいことがあったので」

「お話って?」

 ここでシロさんはもったいぶって咳払いをする。
 そういえば初めて会った時も説明を始める時、咳払いしてたなぁ

「お話というのは他でもありません。『【腐食再生】ドラゴンゾンビ』討伐の件です。その撃破シーンを編集して、ゲーム宣伝のための公式動画にしたいのです」

 割と予想外の提案だ。
 さて、どうしたものか……。

「もちろんその動画によって生まれた収益の一部は還元させていただきます。そこらへんの動画サイトよりレートは高いですし、PVも結構伸びると思いますから悪い話ではないと思います」

「まぁ稼ぎの面ではね。それより気になるのは情報の面よ。私の今あるほとんどの技をあの戦いで使ったから、いろいろ漏れすぎると心配してるの。あと、アチルの強さや装備が広まるのも良くないわ」

「せやせや。あたしだって昨日いろいろ他のプレイヤーに言いふらした時も、アチルちゃんの事は話さんかったんや。マココさんの強さを強調することで味方の存在をうやむやにする高等テクやで! ネームド討伐に協力したNPCとか変な奴等に利用される可能性大やからな!」

 そこまで考えて盛りに盛った情報を流してくれていたんだ。
 舌を回すには頭も回さないといけないという事ね。

「お二人とも良い人ですね! でも、それは心配いりませんよ。動画にするのはトドメのシーンだけ。つまり、昇龍回帰刃ドラゴンブーメランがドラゴンゾンビを食い破っていき、最後に丸呑みしたのち天に昇って砕けるところまでです」

「確かにそのシーンならアチルは見えないし、バレる情報も昇龍回帰刃ドラゴンブーメランだけね。でも、その昇龍回帰刃ドラゴンブーメランが最強の技だし……」

 それに面妖なカンフーポーズも全世界に晒されてしまう……。

「いや、マココはん。これはチャンスやで。昇龍回帰刃ドラゴンブーメランは派手やから印象に残りやすい。マココはんと戦おうと思う奴はまずこれを警戒し、そしてきっと警戒し過ぎる。そこで、他のスキルや意外性のある動きのする邪悪なるカース・オブ・大翼ウイングが生きてくるんや! 中途半端な情報の断片はむしろ相手に混乱を与えるはずやで!」

 うっ、そこまで言われてしまうと致し方なしか……。

「わかった。アチルのことだけは気をつけて編集してくれればいいわ」

「許可ありがとうございます!」

「それにしてもえらい急な話やな。一仕事終えて移動中とはいえ、プレイ中のユーザーに宣伝の話なんてな」

「大イベントを盛り上げるためというのもありますね。これだけ派手なスキルを使えるかも……と知れば興味を持つ未プレイの人も多いと思うので」

「イベント発表今日やろ? 先に教えてくれへんか? お願い聞いたんやから、教えてくれてもええやろ?」

「それはだめーですよ。ただ、たくさんの人が参加した方がお祭りは盛り上がるのです。マココさんもベラさんもトップクラスにお強いので期待してますよ! あなたの冒険に幸あれ!」

 シロさんは光の粒子となり消えた。
 嵐のように駆け抜けていったわね……。

「マココはん聞きましたか? 『トップクラスにお強いので期待してますよ!』やって。これだけならあたしらを見た人間だれもが思う当然の感想やけど、問題はイベントの話題と絡めてきたって事や」

「何故か少し嫌な予感がするわね……」

 このゲームの特殊性とぶっ飛んだ発想から考えて、ド派手なことしてくるのは間違いなさそう。
 『強さ』ということはやはり戦闘が絡むんだろうなぁ。
 危険で刺激的なイベントになりそう。

 そんなことを考えながら渓谷を進み、ついに私たちは村へ帰還した。
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