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3rd STAGE はぐれエルフと魔蟲軍団

Data.112 戦士アチル

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「うりゃ!」

「ぐわぁ!! くっ……こいつ人間の女……それも子どものくせにつええ……」

 私の拳をみぞおちにくらい倒れ込む大柄のエルフの青年。

「あんた私にはいつもヘコヘコする癖に人間の女の子にはつっかかるのね。それに一緒に戦ってくれるって言ってるのに暴力で黙らせようとするのも気に入らない。状況がわかってるの?」

 青年に軽蔑するような視線を送るのはサブリナ。いやいや、あなたも私の戦闘を見る前はかなりつっかかってたよね……?
 ま、まあ考えを改めたという受け取り方をしておくわ。

「でもいきなり来た人間をすぐ信じろなんて無理よ」
「そうそう」
「サブリナもあんなに人間を怖がってたじゃないの。どうしてその娘は信用するの?」

 エルフの女子集団が口々に疑問を述べる。
 まあ、当然のように余所者の私は歓迎されていない。

「ちゃんと話を聞きなさいよ! 彼女は強いのよ。だから里を襲うモンスターも倒せる。だからみんなも彼女のことは味方だと思って」

 サブリナ意外と口下手だ。
 味方戦力として頼れるかどうかじゃなくてなんで人間がエルフの味方をするのかを説明しないといけないと思うけど……。
 でもそうするとシュリンさんやエリファレスさんの名前を出さないといけなくなる。もしかして、この二人の名前は安易に出せないのかな?

「ねえねえサブリナ」

 耳元で周りに聞こえないように囁く。

「ひゃ! なによ! 今説明してるところでしょ。アチルは何も言わなくていいの。人間が喋ったというだけで女子たちがキャーキャー騒いでそれどころではなくなるわ」

「そうじゃなくて、私がシュリンさんを連れて来たとかエリファレスさんに戦う許可をもらってるとか説明すればいいんじゃないの?」

「……そうか、そうね。いや、でもその二人の名はまた騒がしくなりそうだからね……」

「どうした小童こわっぱ共。戦いもせずに何を騒いでいる」

 サブリナが説明に困っていると、どこからか中年のおじさん……オッサンのエルフが現れた。
 へー、こういうエルフの人もいるんだ。長のエリファレスさんがまだまだお姉さんで通用するほどお若かったからエルフというのは老けないものだと思っていた。

「ちっ……お飾りの隊長サマか……。こうなったらエリファ様のお力を借りるしかない」

 サブリナがあからさまな嫌悪を表す。

「あっ、隊長……。なんかサブリナが変な子を連れてきたんですぅー」

 女子集団の一人がまるでチクる様に隊長に話しかける。

「何? サブリナが? そういえばここ数時間顔を見なかったなぁ? いったいどこに行っていたんだ? 返答によってはそれなりの罰が待っているぞ」

 隊長と言われるからにはそれなりに偉い人なのだろう。
 にも関わらずエリファレスさんがサブリナを使ってシュリンさんを連れてきたことを知らないのね。

「それに変な子だとぉ? まさか人間でも連れ込んだのでは……」

 隊長の視線が私を捉える。一瞬の間、一瞬の驚き、そして次の瞬間には怒りに変わっていた。

「に、人間だ! やれ! 弓兵!」

 隊長の命令で彼の背後に待機していたエルフが弓を構える。
 そして魔法で光る矢を生成すると、ためらわずに私に向けてそれを放った。
 魔法の矢か……状況が状況でなければ親近感も湧くのだけどね。

 私は放たれた矢を手で掴みとった。
 かなり近い距離から放たれたとはいえ単純な軌道を描く矢程度なら見切るのは朝飯前ね。
 そのまま掴んだ矢を片手の握力でへし折ると光となって消えた。

「な、何をしている撃て撃て!」

 続けざまに矢の六連射。
 両手の指の間で挟んで全て止める。

 その上で今度は八連射。なかなか腕のいい弓使いね。
 私は六本の矢を指に挟んだまま、ガントレットに装備されたクロスボウを構える。
 そして九連射。私の八本の矢は飛んでくる矢を撃ち落とし、残りの一本は弓兵エルフの弓を弾き飛ばした。

「ひっ……!」

 弓兵エルフは腰を抜かしその場に座り込む。
 それを見て隊長の顔がどんどん赤くなる。

「そ、そこの女ども! 何をしている敵だぞ! 早く戦え!」

「ひえ~」

 女子集団はより密集し戦おうとはしない。
 隊長もうさんくさいけどこの女子たちもヤル気ないなぁ。

「そこまでです隊長殿。この人間はアチルと言って私たちエルフの味方なのです。彼女はシュリン様の仲間です。そして、私はエリファレス様の命令で持ち場を離れ、シュリン様を里までお連れしていたのです」

「シュリン様……! だと……?」
「シュ、シュリン様って、あのシュリン様!?」

 隊長と女子とで反応が違う。
 隊長は赤かった顔が青になり始めている。
 女子たちは逆に恐怖で青かった顔がほんのり紅潮している。

「シュリン様は若いエルフの間ではあんまり人前にお姿を現さないエリファレス様のお友達という認識なの。私ほどの追っかけファンでなければ姿を見たことがないエルフがほとんどで、その分理想というか憧れというか伝説的存在になってしまっているのよ」

 サブリナが私に囁く。

「へー。じゃあ隊長さんはどうして青くなってるの?」

「それは私にも……」

 あれだけ怒鳴り散らしていた隊長が黙ってしまった。
 皆それが疑問で彼に声をかけづらくなっている。
 その静寂を破ったのは隊長自身の声だった。

「そ、そうか……シュリン……様にエリファレス様が……。私は一時ここを離れる。各自自己判断で動け。以上だ」

 隊長はそれだけ言い残しどこかへ去っていった。
 『気にせず戦ってくれればいい』とシュリンさんは言っていたけど気になるよこれは……。

「ねえねえ、あなたがシュリン様の仲間ってホント?」

 女子集団の中の一人が話しかけてくる。
 というかいつのまにかエルフの女子たちに囲まれている。

「ほ、ホントだよ……」

「お顔見たことがあるの?」

「うん……」

「キャー!! すごーい!!」

 女子たちが皆私に密着してくる。

「シュリン様ってどんな人!? かわいい!? 綺麗!?」
「あなたアチルって言うのね。さっきの矢を撃ち落とすところかっこよかったよ~」
「人間の身体もエルフと形は変わらないのね」
「この黒いクロスボウちょーだい! あれ!? 腕からとれないぞ!」
「クココココッ! 乱暴に触るな! 雑魚ばっかで出番がないからせっかく気持ち良く昼寝してたのに……」
「キャー!! 武器が喋ったああああああ!!!」

 女子たちにもみくちゃにされる……。
 みんな華奢だから殴り飛ばすわけにもいかないけどこれじゃ私がもたない!

「サブリナ助けて!」

「見てる分には面白いけどまあ仕方ないわね。ほらお前らそろそろ黙れ!」

 サブリナが一人一人女子を私から引きはがし、数分後にはやっと全員が大人しくなった。

「げほっ……ごほっ……。うぅ……人間も同じ生き物なんですから乱暴にしないでください、エルフの皆さん」

「はーい! ごめんなさーい!」

 返事だけは良いわね……。

「で、みんなは戦いは得意なの?」

「全然でーす! 結界越しに矢とか魔法を撃ってモンスターを追い払うのが精いっぱいで倒せたことはほとんどありませーん」

 どうやら急造結界は砦のバリアと同じで内側から外側への攻撃は通してくれるみたい。
 通りでこんな女の子が怪我もせずに戦いを続けられるわけだ。

「うんうん、じゃあ私がモンスターを倒していくからみんなもそれを手伝ってくれるかな?」

「そんなに強いアチルちゃんにお手伝いなんているの?」

「私のお手伝いをすればみんなも強くなれるでしょ? この里はみんなの故郷なんだからみんなの力で守っていかないといけないわ。私はずっとここにいれるわけじゃないからね」

「でも私、本当は怖いし戦いたくありませーん! アチルちゃんは戦うことが怖くないのー?」

「うーん……怖くないわけじゃないけど、戦えない方が怖いタイプなのかも。両親も戦士だし。あと前に故郷の村にモンスターが押し寄せてきたことがあってね。その時は戦える喜びの方が大きかったかな。自分に大切なものを守れる力があるって素晴らしいことよ。でもそんな力もある人が死にかけの私を助けてくれて、その後も見守ってくれたから身に付けられたの。だから私も短い間でもみんなの戦うところを見守ってあげたい。本当に戦うのが嫌なら全然嫌と言ってくれてもいいわ。きっとそれが普通だからね」

 エルフ女子たちはぽかーんとしている。
 あ、あれ? 私ったら自分のことばっかり話し過ぎた?
 ははは、恥ずかしくなってきた……。

「キャー!! アチルちゃんカッコいい! 私たちもお手伝いする!」

「そ、そう? なら良かった。私も嬉しいわ」

 うんうん、何とか私の気持ちは伝わったみたい。
 とはいえ大それたことを言ったわね。みんなを見守るなんて、私に本当に誰かを守りながら戦うほどの力があるのかな?
 ……それはわからないけど、今ここで一番強いのはきっと私だから私が頑張らないと!
 マココさんもいつもこんなこと考えながら一番前に出て戦っていたのかなぁ。

「アチルちゃーん、じゃあまず何から始めればいいの?」

「はっ、えーっとそうねぇ……。じゃあまず索敵からかな。結界を攻撃してる又は攻撃しようとしてる敵を探しましょう」

「はーい! あっ! 噂をすればそこの前の茂みが揺れてますよ!」

 エルフ女子の一人が結界越しに見える背の高い草の茂みを指差す。
 確かにガサガサと揺れ動いている。それを見た他の女子たちもざわざわしだした。

「落ち着いて、慌てちゃだめよ。とりあえずみんな武器を構えて」

 各々自分の手持ちの武器を構える。
 弓矢や魔法の杖など遠距離攻撃用の武器が多い。前衛はあんまりいない感じか、やっぱり結界頼りなのね。

「何かあった時は私が前に出て戦うわ。だから安心して。混乱して仲間を攻撃しないように」

 戦いは慣れたもんだと思ってたけど、これだけの人数の前でとなると緊張するなぁ……。
 それにこの子たちは頼れる仲間ではない。逆に私を頼ってくれる子たちなんだ。今まで私は誰かを頼る方の立場だったということがよくわかる。
 とりあえず実際モンスターを倒すところをみんなに見せれば落ち着いてくれるはず。さっさと姿を現しなさいモンスター!

 しかし、意気込む私をよそに茂みから現れたのは人だった。
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