上 下
125 / 140
第8章 第二次琵琶湖決戦

-125- 目覚める決戦兵器

しおりを挟む
 お母さんのお見舞いに行ってから3日後、私は滋賀第二マシンベースに来ていた。
 アイオロス・マキナの輸送も完了し、後は他の準備が整うのを待つのみ……。
 そう思っていた私の元に育美さんからの連絡が届いた。
 内容は例の試作決戦兵器が完成したというもの……。
 未だその詳細を知らされていない私はドキドキしながらドックへ向かった。

「デ、デカい……っ!」

 整備ドックの一画を占領する巨大な兵器……!
 ラグビーボールのような紡錘形ぼうすいけいで、表面には対Dエナジーコーティングを施されたことによる独特な光沢がある。。
 さらに機体各部には大きなダイヤモンドのような宝石も散りばめられている。

「育美さん、これは何ですか!?」

「名前はタンブルシード。荒野を転がるタンブルウィードって草と種を意味するシードを組み合わせた『転がる種』の異名を持つモエギの試作決戦兵器よ」

「転がる種タンブルシード……! また不思議な名前ですね」

「まあ、名前だけ聞くとそう思うかもしれないけど、機体のコンセプトからすればド直球にもほどがあるネーミングなのよねぇ~。まず、この兵器は単体で運用するものじゃなくて、内部にDMDを搭載して使う支援メカなの」

「中にDMDを入れるんですか! あ、でもそれなら確かにアイオロス・マキナを安全にダンジョンの奥まで届けられそうですね!」

「その通りよ。対Dエナジーコーティングが施された巨大で分厚い装甲は物理攻撃もエナジー攻撃も簡単には通さない。さらに表面に散りばめられた宝石のようなパーツはアイオロス・マキナの胸のエメラルドと似たようなもので、Dエナジーを広範囲に拡散して撃ち出す『プリズムブラスター』の発射口になっているわ。これによってモンスターの攻撃を防ぎつつ、撃破も狙えるようになっているの」

 機体を守らないといけないなら頑丈な入れ物に入れてしまえばいい!
 すごく単純だけど効果的な発明だ!
 でも、育美さんの話だとこのタンブルシードは倉庫に眠っていたみたいだけど、どうして正式採用されなかったんだろう?
 通常のダンジョン攻略にも役立ちそうな気がするけど……。

「ふふっ、こんなすごいメカがどうして今まで使われなかったのかって顔してるわね? 答えは簡単! こんな大きな物体を動かすことが出来なかったからよ! ブースターをつければさらに大型化するし、入り組んでいたり狭かったりするダンジョン内部では小回りが利かない。大きいから狙われやすいのに攻撃も回避出来ない。いくら頑丈でも攻撃を受け続けたら壊れるし、基本的に無傷ではいられない。1回の運用で使い捨てることを前提にしてるから予算の方も馬鹿にならない……とまあ、強いっちゃ強いんだけど欠点も多いのよね」

「な、なるほど……。確かにこんな大きい機体を使い捨てにするくらいなら、その予算で複数のDMDを揃えた方が良い気がしますね……。DMDは場合によっては長く使えますし……」

「そうなのよねぇ~。しかも今回この機体に使われているコーティングや宝石といった技術は最近確立されたばかりだから、元のタンブルシードはもっと性能が低かったのよね。とてもじゃないけど正式に採用は出来ないということで試作機がずっと倉庫に眠っていたみたい。でも、開発チームは最後まで食らいついていたらしくて、開発末期なんかは機体の質量を生かしてダンジョン内を転がり、その勢いでモンスターを倒すなんて計画もあったとかなんとか……」

「ま、まさか転がる種の由来ってそこからですか……?」

「どうもそうみたいよ」

「モエギって楽しそうな会社ですね……」

「特に開発部は天才的な奇人変人の集まりだからねぇ~。でも、一応転がすっていうのはブースターをつけて飛ばすよりは現実的な作戦ではあったのよ。まっ、今回のダンブルシードは飛ばすでも転がすでもなく浮かすんだけどね!」

「アイオロス・マキナの重力制御能力を使うんですね」

「そう! あの機体には自分の重量だけじゃなく、こんな巨大な物体の重量も帳消しに出来るだけの力がある。タンブルシードは重力制御によって浮遊し、敵の攻撃を受け止めながらアイオロス・マキナを最低でもレベル90付近まで届けるのが役目よ」

「レベル100のうち90までということは、かなり長い付き合いになりそうですね」

「それは間違いないわね。でも80までは最低でも紅花と藍花の支援が受けられるはずだから、そんな集中的にボコボコにされることはないと思うわ。でも、80以降はタンブルシードのみでダンジョン内を進むことになるから、そこでどれだけ耐えられるかでしょうね……。場合によっては早めにパージしてアイオロス・マキナの力に頼ることになるかもしれないし、運が良ければ100まで耐えてくれるかもしれない。こればっかりは『琵琶湖大迷宮』の深層部の情報が少なすぎてなんとも言えないわ」

 分厚い装甲やコーティングで防御力を上げ、反撃する武装も最低限装備されていると言っても、相手は深層のモンスターたちだ。
 無傷で突破なんてことは……まあ絶対にあり得ないでしょうね。

「捨てることが前提の兵器というのは何だか寂しいですね……」

「気持ちはわかるわ。でも、このタンブルシードは使い道もなく倉庫でずっと眠ってたものだからね。これを『琵琶湖大迷宮』の攻略に投入するって元開発チームの人に話したら、それはそれは喜んでいたわ。『花開くことが叶わなかった種にも存在する意味はあった』って。それにこの機体はダンジョンと戦うために生まれてきたんだから、この大一番に使われて本望ほんもうなんじゃないかな。少なくとも失敗扱いでずっと放置されているよりは……ね。きっと蒔苗ちゃんのアイオロス・マキナを守るために頑張ってくれるよ」

「そう……ですね! ちょっとタンブルシードに触ってみてもいいですか?」

「ええ、構わないわ」

 黒くて硬くて冷たい装甲に触れると、人間の力ではとても破壊出来ない存在だと実感出来る。
 でも、モンスターたちはこんな装甲も傷つけることが出来る……。
 そんな危険な存在と戦う力、私たちを守るための力。
 目の前にあるのはそんな力が形を成したものなんだ。

「一緒に頑張ろうね……!」

 タンブルシードから離れ、育美さんの隣に戻る。
 私が扱う機体のチェックは万全だけど、私と一緒に戦ってくれる機体はまだある。
 このドックに運び込まれているマキナ隊のDMDたちが……!

「蟻の巣の時のように蒔苗ちゃんと一緒に戦う仲間たちのDMDもチェックしておきましょうか!」

「はい!」

 私を含めて6人の操者と6機のDMDで構成されたマキナ隊。
 その役割は私の一番近くで戦い、アイオロス・マキナを深層へ送り届けること!
 そしてメンバーは私がよく知る人たちで構成されている!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~

阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。 転生した先は俺がやっていたゲームの世界。 前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。 だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……! そんなとき、街が魔獣に襲撃される。 迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。 だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。 平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。 だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。 隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

異世界ロマンはスカイダイビングから!

KeyBow
ファンタジー
21歳大学生の主人が半年前の交通事故で首から下が動かない絶望的な生活が、突然の異世界転位で一変!転位で得た特殊なドールの能力を生かして異世界で生き残り、自らの体を治す道を探りつつ異世界を楽しく生きていこうと努力していく物語。動かない筈の肉体を動かす手段がある事に感動するも性的に不能となっていた。生きる為の生活の糧として選んだ冒険者として一歩を踏み出して行くのである。周りの女性に助けられるも望まぬ形の禁欲生活が始まる。意識を取り戻すと異世界の上空かららっかしていたのであった・・・

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ちょいダン? ~仕事帰り、ちょいとダンジョンに寄っていかない?~

テツみン
SF
東京、大手町の地下に突如現れたダンジョン。通称、『ちょいダン』。そこは、仕事帰りに『ちょい』と冒険を楽しむ場所。 大手町周辺の企業で働く若手サラリーマンたちが『ダンジョン』という娯楽を手に入れ、新たなライフスタイルを生み出していく―― これは、そんな日々を綴った物語。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

転生してギルドの社畜になったけど、S級冒険者の女辺境伯にスカウトされたので退職して領地開拓します。今更戻って来いって言われてももう婿です

途上の土
ファンタジー
『ブラック企業の社畜」ならぬ『ブラックギルドのギル畜』 ハルトはふとしたきっかけで前世の記憶を取り戻す。  ギルドにこき使われ、碌に評価もされず、虐げられる毎日に必死に耐えていたが、憧れのS 級冒険者マリアに逆プロポーズされ、ハルトは寿退社(?)することに。  前世の記憶と鑑定チートを頼りにハルトは領地開拓に動き出す。  ハルトはただの官僚としてスカウトされただけと思っていたのに、いきなり両親に紹介されて——  一方、ハルトが抜けて彼の仕事をカバーできる者がおらず冒険者ギルドは大慌て。ハルトを脅して戻って来させようとするが——  ハルトの笑顔が人々を動かし、それが発展に繋がっていく。  色々問題はあるけれど、きっと大丈夫! だって、うちの妻、人類最強ですから! ※中世ヨーロッパの村落、都市、制度等を参考にしておりますが、当然そのまんまではないので、史実とは差異があります。ご了承ください ※カクヨムにも掲載しています。現在【異世界ファンタジー週間18位】

処理中です...