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第7章 竜を狩る一族
-109- スノープリンセス
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「で、DMDってどうやったら操縦出来るの?」
七菜さんはテスト操者に手を挙げた段階では自分のブレイブ・レベルすら知らなかった。
すぐさま計測を行い、その結果出た数値は……。
「40だって! これって結構すごいんじゃない?」
DMDの操縦をほとんど行わない、脳波を鍛えていない人が出す数値としては異常なくらいに高かった。
これから鍛えていけば、いずれ50の壁も突破するのではないかと思っていたけど、残念ながら彼女のブレイブ・レベルはそこからあまり伸びを見せなかった。
本人曰く、自分は超早熟型らしい。
何はともあれ、テスト操者として十分な数値なのは間違いない。
私と七菜さんは研究を重ね、ついに『ドレスユニット』という脳波攻撃用の装備を開発した。
ドレスという名前の由来は、機体の各部に着飾るように追加のパーツを取り付けるところにある。
当時はまだ設計が甘くって必要なパーツの量がかなり多かった。
それを機体バランスを崩さないように取り付けるとなると、細かく分けて全身にまんべんなく装備するしかない。
テストに使わせてもらっていた機体は『プロトディオス』といって、ディオスを量産するにあたり足りていないデータを集めるために作られた簡易型アイオロスとも言えるDMDだった。
おかげでパーツを後付けしても十分動けるくらいの柔軟性と馬力はあって、単純な戦闘能力を維持しつつ脳波攻撃も行えるテスト機としては破格のDMDになっていたと思う。
外付けパーツと機体本体の色を統一するために全体を白く塗っていたから、七菜さんはその機体のことを『スノープリンセス』とも呼んでいた。
ドレスを着た白雪姫……。なんとも皮肉なネーミングになってしまったことを、あの頃の私たちは知る由もなかった。
テスト用のDMDも完成していよいよダンジョンで実戦を行おうとしていた時、開発部の他のチームがとある深層ダンジョンでテストを行うという話が耳に入った。
そのダンジョンはレベル55の『冥境咫尺坑道』。
比較的浅い深層ダンジョンで出現するモンスターも弱め。
坑道の名の通り魔進石や魔桜石、ネオアイアンにDメタルの原石も手に入る開発部には親しみのあるダンジョンだった。
私はそのテストに同行させてもらえるように頼み込んだ。
流石の私たちも単独でダンジョンに潜るのは不安があったし、他のDMDもいるなら安心してテストに集中することが出来る。
そのテストの場が浅いとはいえ深層ダンジョンともなればなおさらだ。
チームの人たちは快くお願いを受け入れてくれた。
こうしてスノープリンセスの実戦テストの日が決まり、私はより研究に打ち込んだ。
無理なお願いを聞いてくれたチームの人の前で、半端なものは見せられない……。
強迫観念にも似た使命感に私は突き動かされていた。
そんな中、どうしても大学に顔を出さないといけない用事を思い出した。
すっぽかすわけにもいかないのでおとなしく大学に向かい、さっさと用事を済ませたその帰りに私は同じ学部の女の子たちと出会った。
私の所属する新工学部は従来の工学部と比べると女性の比率が若干高いとはいえ、それでも一般的な学部よりは女学生が少ない方だ。
だから個人的な付き合いはないにせよ、彼女たちの顔と名前くらいは覚えていた。
「若草さん、女子会に来ませんか?」
「女子会……?」
「はい! 他の大学も含めた新工学部女子による女子会です! 男はいませんし、どんちゃん騒ぎする集まりでもありません。来年から社会の一員としてダンジョンに立ち向かう戦士の集まりです!」
普段なら興味を持つこともないけど、その独特な言い回しに興味を持った。
集合時間と場所を教えてもらった後、行くかどうかは予定を確認してからにすると言い、一度彼女たちとは別れた。
そして、そのことを七菜さんに電話で話してみた。
「おーいいじゃん! 行ってきなさい! これは命令よ! 最近育美は頑張りすぎだからなぁ~。学生の本分は遊びなんだからパーッと騒いできたらいいわ。会社に来たら追い返しちゃうんだから!」
七菜さんらしい言葉だった。
私も行ってみてもいいかなと思っていたけど、実戦テストは明日……。
最後の最後までシステムの調整を行いたい気持ちもあった。
その調整が微々たる変化だったとしても……。
でも、私は七菜さんに背中を押され女子会に行ってみることにした。
みんなもう就職が決まっていて、大体の就職先がDMD開発を行っている企業だった。
ヴァイオレット社の日本支部の子もいたし、黄堂重工の子もいた。
ただ、その集まりには偶然モエギ行きが私しかいなかったから割と目立ってしまった。
まあ、そもそも私はこの界隈で有名人らしいけどね。
そんなこんなで始まった女子会の内容は……どこかのサミットかと言うくらい専門的な話の連続だった。
ダンジョンとDMD、その武装、装甲、制御プログラム、新素材、新エネルギー……。
みんなでそれぞれ学んだことを語らうのは、とっても有意義な時間だった。
流石に今研究中の脳波攻撃については話さなかったけど、私も自分の考えをみんなに話した。
新工学部に進んだ理由がダンジョンに大切なもの奪われたからという人も多かった。
ダンジョン由来の素材や技術を使ってダンジョンに立ち向かうことが彼らなりの復讐なんだ。
私は両親も健在だし、直接的にダンジョンから被害を受けた覚えもない。
だからこそ、純粋な好奇心でこの分野に踏み込んだ。
今はそれなりに思うこともあるけど、それでも私が研究を続ける理由は……好奇心だと思った。
いろんな人の考えに触れて、自分の中にある気持ちにも気づけた。
この女子会に行って良かったと心から思った。
でも、そのまま朝まで飲み明かすなんてことは流石になく、早い段階で集まりは解散した。
みんなそれぞれやるべきことがあるんだ。私も頑張らないといけないな!
そう思った私の足は自然と会社の方に向かっていた。
開発部のオフィスの電気は消えていたけど、迷宮探査部にあるDMDシミュレーターを誰かが使っているようだった。
心のままにふらっとシミュレーターブースに行ってみると、そこには1人で戦闘シミュレーションを行う七菜さんの姿があった。
七菜さんはテスト操者に手を挙げた段階では自分のブレイブ・レベルすら知らなかった。
すぐさま計測を行い、その結果出た数値は……。
「40だって! これって結構すごいんじゃない?」
DMDの操縦をほとんど行わない、脳波を鍛えていない人が出す数値としては異常なくらいに高かった。
これから鍛えていけば、いずれ50の壁も突破するのではないかと思っていたけど、残念ながら彼女のブレイブ・レベルはそこからあまり伸びを見せなかった。
本人曰く、自分は超早熟型らしい。
何はともあれ、テスト操者として十分な数値なのは間違いない。
私と七菜さんは研究を重ね、ついに『ドレスユニット』という脳波攻撃用の装備を開発した。
ドレスという名前の由来は、機体の各部に着飾るように追加のパーツを取り付けるところにある。
当時はまだ設計が甘くって必要なパーツの量がかなり多かった。
それを機体バランスを崩さないように取り付けるとなると、細かく分けて全身にまんべんなく装備するしかない。
テストに使わせてもらっていた機体は『プロトディオス』といって、ディオスを量産するにあたり足りていないデータを集めるために作られた簡易型アイオロスとも言えるDMDだった。
おかげでパーツを後付けしても十分動けるくらいの柔軟性と馬力はあって、単純な戦闘能力を維持しつつ脳波攻撃も行えるテスト機としては破格のDMDになっていたと思う。
外付けパーツと機体本体の色を統一するために全体を白く塗っていたから、七菜さんはその機体のことを『スノープリンセス』とも呼んでいた。
ドレスを着た白雪姫……。なんとも皮肉なネーミングになってしまったことを、あの頃の私たちは知る由もなかった。
テスト用のDMDも完成していよいよダンジョンで実戦を行おうとしていた時、開発部の他のチームがとある深層ダンジョンでテストを行うという話が耳に入った。
そのダンジョンはレベル55の『冥境咫尺坑道』。
比較的浅い深層ダンジョンで出現するモンスターも弱め。
坑道の名の通り魔進石や魔桜石、ネオアイアンにDメタルの原石も手に入る開発部には親しみのあるダンジョンだった。
私はそのテストに同行させてもらえるように頼み込んだ。
流石の私たちも単独でダンジョンに潜るのは不安があったし、他のDMDもいるなら安心してテストに集中することが出来る。
そのテストの場が浅いとはいえ深層ダンジョンともなればなおさらだ。
チームの人たちは快くお願いを受け入れてくれた。
こうしてスノープリンセスの実戦テストの日が決まり、私はより研究に打ち込んだ。
無理なお願いを聞いてくれたチームの人の前で、半端なものは見せられない……。
強迫観念にも似た使命感に私は突き動かされていた。
そんな中、どうしても大学に顔を出さないといけない用事を思い出した。
すっぽかすわけにもいかないのでおとなしく大学に向かい、さっさと用事を済ませたその帰りに私は同じ学部の女の子たちと出会った。
私の所属する新工学部は従来の工学部と比べると女性の比率が若干高いとはいえ、それでも一般的な学部よりは女学生が少ない方だ。
だから個人的な付き合いはないにせよ、彼女たちの顔と名前くらいは覚えていた。
「若草さん、女子会に来ませんか?」
「女子会……?」
「はい! 他の大学も含めた新工学部女子による女子会です! 男はいませんし、どんちゃん騒ぎする集まりでもありません。来年から社会の一員としてダンジョンに立ち向かう戦士の集まりです!」
普段なら興味を持つこともないけど、その独特な言い回しに興味を持った。
集合時間と場所を教えてもらった後、行くかどうかは予定を確認してからにすると言い、一度彼女たちとは別れた。
そして、そのことを七菜さんに電話で話してみた。
「おーいいじゃん! 行ってきなさい! これは命令よ! 最近育美は頑張りすぎだからなぁ~。学生の本分は遊びなんだからパーッと騒いできたらいいわ。会社に来たら追い返しちゃうんだから!」
七菜さんらしい言葉だった。
私も行ってみてもいいかなと思っていたけど、実戦テストは明日……。
最後の最後までシステムの調整を行いたい気持ちもあった。
その調整が微々たる変化だったとしても……。
でも、私は七菜さんに背中を押され女子会に行ってみることにした。
みんなもう就職が決まっていて、大体の就職先がDMD開発を行っている企業だった。
ヴァイオレット社の日本支部の子もいたし、黄堂重工の子もいた。
ただ、その集まりには偶然モエギ行きが私しかいなかったから割と目立ってしまった。
まあ、そもそも私はこの界隈で有名人らしいけどね。
そんなこんなで始まった女子会の内容は……どこかのサミットかと言うくらい専門的な話の連続だった。
ダンジョンとDMD、その武装、装甲、制御プログラム、新素材、新エネルギー……。
みんなでそれぞれ学んだことを語らうのは、とっても有意義な時間だった。
流石に今研究中の脳波攻撃については話さなかったけど、私も自分の考えをみんなに話した。
新工学部に進んだ理由がダンジョンに大切なもの奪われたからという人も多かった。
ダンジョン由来の素材や技術を使ってダンジョンに立ち向かうことが彼らなりの復讐なんだ。
私は両親も健在だし、直接的にダンジョンから被害を受けた覚えもない。
だからこそ、純粋な好奇心でこの分野に踏み込んだ。
今はそれなりに思うこともあるけど、それでも私が研究を続ける理由は……好奇心だと思った。
いろんな人の考えに触れて、自分の中にある気持ちにも気づけた。
この女子会に行って良かったと心から思った。
でも、そのまま朝まで飲み明かすなんてことは流石になく、早い段階で集まりは解散した。
みんなそれぞれやるべきことがあるんだ。私も頑張らないといけないな!
そう思った私の足は自然と会社の方に向かっていた。
開発部のオフィスの電気は消えていたけど、迷宮探査部にあるDMDシミュレーターを誰かが使っているようだった。
心のままにふらっとシミュレーターブースに行ってみると、そこには1人で戦闘シミュレーションを行う七菜さんの姿があった。
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