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第7章 竜を狩る一族
-106- 竜の名を冠するもの
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「蒔苗さん、あなたの言葉には人を救い導く力があるのね……。どうしようもない私も、何だか救われた気分になってしまうくらいに……。あなたの言う通り、これからは可愛い娘たちをうんと甘やかすわ。そして、いずれはまた深層ダンジョンに挑む。今回ばかりは竜種の情報も広がるでしょう。そうなれば、今は抹消に消極的な人々も深層ダンジョンを消そうと思い始めるはず。そして、それは為せるのは……」
「私たちだけだからね」
「私たちだけだからね」
紅花と藍花が同じ言葉を同じタイミングで言う。
彼女たちの戦う心は折れていない。
今はただ休息が必要なだけだ。
「それにしても、蒔苗さんの精神の強さには驚かされるわ。竜種のことを一番恐れていてもおかしくないのに、まったく動じなかったのだから」
「えっ、私がですか? 私、竜種のこと全然知らないんですけど……」
それを聞いて紫苑さんが目を丸くする。
「育美から聞いてないの?」
「育美さんは何も……」
「そう……。彼女の心の傷は完全に癒えたわけじゃなかったのね……」
「教えてください。竜種とは何なのか、私とどんな関係があるのかを」
「ええ、いいわよ。きっと育美は自分が話さないといけないって責任を感じていると思うけど、私はそうは思わない! ここで話をして彼女の重荷を取り除いてあげるわ!」
やっぱり紫苑さんは育美さんのことを相当気に入っているようだ。
私のためと言うよりも、育美さんのために話したいという思いが伝わってくる。
でも、話す事が重荷になるほどの秘密が竜種に隠されていたなんて……。
聞くのが怖くないかと聞かれたらウソになるけど、知りたいという思いの方が強い!
覚悟が決まったところで、私はあることが気になった。
「そういえば、大ホールの方は大丈夫ですか? お客さんがほったらかしになってたり……」
「あっ!!」
紫苑さんは飛び跳ねそうなくらい驚いた。
そして、慌ててスタッフを呼び、涙で崩れたメイクを直し始める。
やっぱりほったらかしだったか……。
「ごめんなさい! 今はちょっと話せそうにないわ! やっぱり育美自身が話す運命なのかもね……。また余計な気を回したら怒られちゃいそうだから、本人の口から聞いてあげてね」
「わかりました」
「あ、紅花と藍花は検査ね! 藍花は当然として、紅花もオーラを出したのは初めてだから念のためよ!」
「はーい」
「はーい」
紫苑さんはそう言い残して大ホールに向かった。
まあ、映像自体はちゃんと送り続けてたし、すごい映像を見れたお客さんが怒ることはないだろう。
「マキナ、私たちも検査に行きますね。改めて本当にありがとうございました。今度は私たちが蒔苗を助けられるように腕を磨こうと思います」
「私からもお礼を申し上げますわ、ミス・マキナ。もうあなたに生意気な口はききません。自分の未熟さを認め、精進するのみですわ」
「うん、2人とも頑張って! また今度みんなでお茶しようね!」
姉妹とも別れ、私は1人になった。
向かうべき場所は……整備ドック。
大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。
「……よし」
私はコントローラーズルームを出て、整備ドックに向かった。
育美さんはそこにいるはずだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
育美さんは整備ドックにいた。
見ているのはアイオロス・ゼロリペアの状態だ。
実際に自分の目で見てみると……カメラ越しに見るよりずっと酷いなぁ。
騎士のようなカッコいい機体の面影がない。
それでも頭部のカメラアイや胴体周りなど重要なパーツに異常はないはず。
見た目を気にしなければ軽微な損傷なのかな……?
「うん、装甲を取り換えちゃえば問題なく使えそうね」
私の気配に気づいた育美さんはそう言って振り返った。
勘の鋭い人だ。私が何を聞こうとしているのかもう察している。
「お疲れ様、蒔苗ちゃん。今回も大活躍だったわね。私もリアルタイムで活躍が見られて嬉しいわ。やっぱり生の映像だとより武器の改良点とか機体の調整の仕方とか気づくことが増えるわね」
「それは良かったです。あの、育美さん……竜種のことを教えてほしいんです」
いつもの私なら話しにくいことを聞かせてくれとは言わない。
でも、今回ばかりは聞かせてほしい……!
「ええ、私が知っていること……すべて話すわ」
少しの沈黙の後、育美さんは口を開いた。
「竜種とは、今回戦った不完全なものも含めて3体しか確認されていない特別なモンスター。その最大の特徴は攻撃に脳波を使うこと。竜種は見えざる脳波を放つことで人の脳を攻撃し、死に至らしめることが出来る……」
「脳波で……人を!?」
「ええ……。DMDへ送信されている人間の脳波をさかのぼるように浸食し、その発生源たる脳の機能を破壊する。つまり、竜種との戦いはDMDを遠隔操作していても死のリスクが伴うことだったの。そうして大樹郎さんは殺され、七菜さんは目覚めなくなった……」
お爺ちゃんを殺したのは竜種。
そして、お母さんを眠らせたのも竜種……!
衝撃の真実……ではあるけど、納得出来ない現実ではない。
あのお葬式で見た死んでいるとは思えないお爺ちゃんの亡骸は、死因が老衰でも病気でも怪我でもなく、脳へ攻撃によるものだったからなんだ。
だから、体の方はまだ健康そうに見えた……。
お母さんの方もそうだ。
体には異常がないけど目覚めない。
それは脳にダメージを負っているから……。
お母さんがDMD操者というのも初めて知ったけど、そもそもお母さんは萌葱の直系。
DMDに関わっていても何もおかしくはない。
お爺ちゃんも、お父さんも、お母さんも、ダンジョンとの戦いの中で傷つき倒れていった……。
そして、今は私が戦っている。
でも、これが私に真実を話せなかった理由とは思えない。
言い方は良くないけど……お母さんが目覚めない理由にダンジョンが関係しているというのは想像の範疇。
お爺ちゃんが亡くなった理由も、今までにない未知のモンスターが原因となれば納得せざるを得ない。
だから、この話には続きがある……。
今は静かに育美さんの言葉に耳を傾けよう。
きっと私なら受け止められる。
「私たちだけだからね」
「私たちだけだからね」
紅花と藍花が同じ言葉を同じタイミングで言う。
彼女たちの戦う心は折れていない。
今はただ休息が必要なだけだ。
「それにしても、蒔苗さんの精神の強さには驚かされるわ。竜種のことを一番恐れていてもおかしくないのに、まったく動じなかったのだから」
「えっ、私がですか? 私、竜種のこと全然知らないんですけど……」
それを聞いて紫苑さんが目を丸くする。
「育美から聞いてないの?」
「育美さんは何も……」
「そう……。彼女の心の傷は完全に癒えたわけじゃなかったのね……」
「教えてください。竜種とは何なのか、私とどんな関係があるのかを」
「ええ、いいわよ。きっと育美は自分が話さないといけないって責任を感じていると思うけど、私はそうは思わない! ここで話をして彼女の重荷を取り除いてあげるわ!」
やっぱり紫苑さんは育美さんのことを相当気に入っているようだ。
私のためと言うよりも、育美さんのために話したいという思いが伝わってくる。
でも、話す事が重荷になるほどの秘密が竜種に隠されていたなんて……。
聞くのが怖くないかと聞かれたらウソになるけど、知りたいという思いの方が強い!
覚悟が決まったところで、私はあることが気になった。
「そういえば、大ホールの方は大丈夫ですか? お客さんがほったらかしになってたり……」
「あっ!!」
紫苑さんは飛び跳ねそうなくらい驚いた。
そして、慌ててスタッフを呼び、涙で崩れたメイクを直し始める。
やっぱりほったらかしだったか……。
「ごめんなさい! 今はちょっと話せそうにないわ! やっぱり育美自身が話す運命なのかもね……。また余計な気を回したら怒られちゃいそうだから、本人の口から聞いてあげてね」
「わかりました」
「あ、紅花と藍花は検査ね! 藍花は当然として、紅花もオーラを出したのは初めてだから念のためよ!」
「はーい」
「はーい」
紫苑さんはそう言い残して大ホールに向かった。
まあ、映像自体はちゃんと送り続けてたし、すごい映像を見れたお客さんが怒ることはないだろう。
「マキナ、私たちも検査に行きますね。改めて本当にありがとうございました。今度は私たちが蒔苗を助けられるように腕を磨こうと思います」
「私からもお礼を申し上げますわ、ミス・マキナ。もうあなたに生意気な口はききません。自分の未熟さを認め、精進するのみですわ」
「うん、2人とも頑張って! また今度みんなでお茶しようね!」
姉妹とも別れ、私は1人になった。
向かうべき場所は……整備ドック。
大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。
「……よし」
私はコントローラーズルームを出て、整備ドックに向かった。
育美さんはそこにいるはずだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
育美さんは整備ドックにいた。
見ているのはアイオロス・ゼロリペアの状態だ。
実際に自分の目で見てみると……カメラ越しに見るよりずっと酷いなぁ。
騎士のようなカッコいい機体の面影がない。
それでも頭部のカメラアイや胴体周りなど重要なパーツに異常はないはず。
見た目を気にしなければ軽微な損傷なのかな……?
「うん、装甲を取り換えちゃえば問題なく使えそうね」
私の気配に気づいた育美さんはそう言って振り返った。
勘の鋭い人だ。私が何を聞こうとしているのかもう察している。
「お疲れ様、蒔苗ちゃん。今回も大活躍だったわね。私もリアルタイムで活躍が見られて嬉しいわ。やっぱり生の映像だとより武器の改良点とか機体の調整の仕方とか気づくことが増えるわね」
「それは良かったです。あの、育美さん……竜種のことを教えてほしいんです」
いつもの私なら話しにくいことを聞かせてくれとは言わない。
でも、今回ばかりは聞かせてほしい……!
「ええ、私が知っていること……すべて話すわ」
少しの沈黙の後、育美さんは口を開いた。
「竜種とは、今回戦った不完全なものも含めて3体しか確認されていない特別なモンスター。その最大の特徴は攻撃に脳波を使うこと。竜種は見えざる脳波を放つことで人の脳を攻撃し、死に至らしめることが出来る……」
「脳波で……人を!?」
「ええ……。DMDへ送信されている人間の脳波をさかのぼるように浸食し、その発生源たる脳の機能を破壊する。つまり、竜種との戦いはDMDを遠隔操作していても死のリスクが伴うことだったの。そうして大樹郎さんは殺され、七菜さんは目覚めなくなった……」
お爺ちゃんを殺したのは竜種。
そして、お母さんを眠らせたのも竜種……!
衝撃の真実……ではあるけど、納得出来ない現実ではない。
あのお葬式で見た死んでいるとは思えないお爺ちゃんの亡骸は、死因が老衰でも病気でも怪我でもなく、脳へ攻撃によるものだったからなんだ。
だから、体の方はまだ健康そうに見えた……。
お母さんの方もそうだ。
体には異常がないけど目覚めない。
それは脳にダメージを負っているから……。
お母さんがDMD操者というのも初めて知ったけど、そもそもお母さんは萌葱の直系。
DMDに関わっていても何もおかしくはない。
お爺ちゃんも、お父さんも、お母さんも、ダンジョンとの戦いの中で傷つき倒れていった……。
そして、今は私が戦っている。
でも、これが私に真実を話せなかった理由とは思えない。
言い方は良くないけど……お母さんが目覚めない理由にダンジョンが関係しているというのは想像の範疇。
お爺ちゃんが亡くなった理由も、今までにない未知のモンスターが原因となれば納得せざるを得ない。
だから、この話には続きがある……。
今は静かに育美さんの言葉に耳を傾けよう。
きっと私なら受け止められる。
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