上 下
106 / 140
第7章 竜を狩る一族

-106- 竜の名を冠するもの

しおりを挟む
「蒔苗さん、あなたの言葉には人を救い導く力があるのね……。どうしようもない私も、何だか救われた気分になってしまうくらいに……。あなたの言う通り、これからは可愛い娘たちをうんと甘やかすわ。そして、いずれはまた深層ダンジョンに挑む。今回ばかりは竜種の情報も広がるでしょう。そうなれば、今は抹消に消極的な人々も深層ダンジョンを消そうと思い始めるはず。そして、それは為せるのは……」

「私たちだけだからね」
「私たちだけだからね」

 紅花と藍花が同じ言葉を同じタイミングで言う。
 彼女たちの戦う心は折れていない。
 今はただ休息が必要なだけだ。

「それにしても、蒔苗さんの精神の強さには驚かされるわ。竜種のことを一番恐れていてもおかしくないのに、まったく動じなかったのだから」

「えっ、私がですか? 私、竜種のこと全然知らないんですけど……」

 それを聞いて紫苑さんが目を丸くする。

「育美から聞いてないの?」

「育美さんは何も……」

「そう……。彼女の心の傷は完全に癒えたわけじゃなかったのね……」

「教えてください。竜種とは何なのか、私とどんな関係があるのかを」

「ええ、いいわよ。きっと育美は自分が話さないといけないって責任を感じていると思うけど、私はそうは思わない! ここで話をして彼女の重荷を取り除いてあげるわ!」

 やっぱり紫苑さんは育美さんのことを相当気に入っているようだ。
 私のためと言うよりも、育美さんのために話したいという思いが伝わってくる。
 でも、話す事が重荷になるほどの秘密が竜種に隠されていたなんて……。
 聞くのが怖くないかと聞かれたらウソになるけど、知りたいという思いの方が強い!
 覚悟が決まったところで、私はあることが気になった。

「そういえば、大ホールの方は大丈夫ですか? お客さんがほったらかしになってたり……」

「あっ!!」

 紫苑さんは飛び跳ねそうなくらい驚いた。
 そして、慌ててスタッフを呼び、涙で崩れたメイクを直し始める。
 やっぱりほったらかしだったか……。

「ごめんなさい! 今はちょっと話せそうにないわ! やっぱり育美自身が話す運命なのかもね……。また余計な気を回したら怒られちゃいそうだから、本人の口から聞いてあげてね」

「わかりました」

「あ、紅花と藍花は検査ね! 藍花は当然として、紅花もオーラを出したのは初めてだから念のためよ!」

「はーい」
「はーい」

 紫苑さんはそう言い残して大ホールに向かった。
 まあ、映像自体はちゃんと送り続けてたし、すごい映像を見れたお客さんが怒ることはないだろう。

「マキナ、私たちも検査に行きますね。改めて本当にありがとうございました。今度は私たちが蒔苗を助けられるように腕を磨こうと思います」

「私からもお礼を申し上げますわ、ミス・マキナ。もうあなたに生意気な口はききません。自分の未熟さを認め、精進するのみですわ」

「うん、2人とも頑張って! また今度みんなでお茶しようね!」

 姉妹とも別れ、私は1人になった。
 向かうべき場所は……整備ドック。
 大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。

「……よし」

 私はコントローラーズルームを出て、整備ドックに向かった。
 育美さんはそこにいるはずだ。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 育美さんは整備ドックにいた。
 見ているのはアイオロス・ゼロリペアの状態だ。
 実際に自分の目で見てみると……カメラ越しに見るよりずっと酷いなぁ。
 騎士のようなカッコいい機体の面影がない。
 それでも頭部のカメラアイや胴体周りなど重要なパーツに異常はないはず。
 見た目を気にしなければ軽微な損傷なのかな……?

「うん、装甲を取り換えちゃえば問題なく使えそうね」

 私の気配に気づいた育美さんはそう言って振り返った。
 勘の鋭い人だ。私が何を聞こうとしているのかもう察している。

「お疲れ様、蒔苗ちゃん。今回も大活躍だったわね。私もリアルタイムで活躍が見られて嬉しいわ。やっぱり生の映像だとより武器の改良点とか機体の調整の仕方とか気づくことが増えるわね」

「それは良かったです。あの、育美さん……竜種のことを教えてほしいんです」

 いつもの私なら話しにくいことを聞かせてくれとは言わない。
 でも、今回ばかりは聞かせてほしい……!

「ええ、私が知っていること……すべて話すわ」

 少しの沈黙の後、育美さんは口を開いた。

「竜種とは、今回戦った不完全なものも含めて3体しか確認されていない特別なモンスター。その最大の特徴は攻撃に脳波を使うこと。竜種は見えざる脳波を放つことで人の脳を攻撃し、死に至らしめることが出来る……」

「脳波で……人を!?」

「ええ……。DMDへ送信されている人間の脳波をさかのぼるように浸食し、その発生源たる脳の機能を破壊する。つまり、竜種との戦いはDMDを遠隔操作していても死のリスクがともなうことだったの。そうして大樹郎さんは殺され、七菜さんは目覚めなくなった……」

 お爺ちゃんを殺したのは竜種。
 そして、お母さんを眠らせたのも竜種……!

 衝撃の真実……ではあるけど、納得出来ない現実ではない。
 あのお葬式で見た死んでいるとは思えないお爺ちゃんの亡骸なきがらは、死因が老衰でも病気でも怪我でもなく、脳へ攻撃によるものだったからなんだ。
 だから、体の方はまだ健康そうに見えた……。

 お母さんの方もそうだ。
 体には異常がないけど目覚めない。
 それは脳にダメージを負っているから……。

 お母さんがDMD操者というのも初めて知ったけど、そもそもお母さんは萌葱の直系。
 DMDに関わっていても何もおかしくはない。
 お爺ちゃんも、お父さんも、お母さんも、ダンジョンとの戦いの中で傷つき倒れていった……。
 そして、今は私が戦っている。

 でも、これが私に真実を話せなかった理由とは思えない。
 言い方は良くないけど……お母さんが目覚めない理由にダンジョンが関係しているというのは想像の範疇はんちゅう
 お爺ちゃんが亡くなった理由も、今までにない未知のモンスターが原因となれば納得せざるを得ない。

 だから、この話には続きがある……。
 今は静かに育美さんの言葉に耳を傾けよう。
 きっと私なら受け止められる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~

阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。 転生した先は俺がやっていたゲームの世界。 前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。 だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……! そんなとき、街が魔獣に襲撃される。 迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。 だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。 平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。 だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。 隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。

転生してギルドの社畜になったけど、S級冒険者の女辺境伯にスカウトされたので退職して領地開拓します。今更戻って来いって言われてももう婿です

途上の土
ファンタジー
『ブラック企業の社畜」ならぬ『ブラックギルドのギル畜』 ハルトはふとしたきっかけで前世の記憶を取り戻す。  ギルドにこき使われ、碌に評価もされず、虐げられる毎日に必死に耐えていたが、憧れのS 級冒険者マリアに逆プロポーズされ、ハルトは寿退社(?)することに。  前世の記憶と鑑定チートを頼りにハルトは領地開拓に動き出す。  ハルトはただの官僚としてスカウトされただけと思っていたのに、いきなり両親に紹介されて——  一方、ハルトが抜けて彼の仕事をカバーできる者がおらず冒険者ギルドは大慌て。ハルトを脅して戻って来させようとするが——  ハルトの笑顔が人々を動かし、それが発展に繋がっていく。  色々問題はあるけれど、きっと大丈夫! だって、うちの妻、人類最強ですから! ※中世ヨーロッパの村落、都市、制度等を参考にしておりますが、当然そのまんまではないので、史実とは差異があります。ご了承ください ※カクヨムにも掲載しています。現在【異世界ファンタジー週間18位】

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...