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第6章 血に刻まれた因縁の地

-85- いざ因縁の地へ

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 私と育美さんは余裕をもって移動するため、ダンジョンデリートショーが開催される2日前に新潟に向かうことにした。
 そして今日がその2日前なんだけど、育美さんとは移動手段が別になってしまい、私は1人でポツンとマシンベースのロビーで迎えが来るのを待っていた。
 その迎えというのはヴァイオレット社が手配してくれたもので、私にはその正体が一切明かされていない……!

 ミステリーツアーじゃないんだから移動手段くらい明かしてくれと思うけど、まあ新潟に行くなら新幹線が有力かな。
 それで駅までの送迎はリムジンだったりして……!
 私は案外この状況を楽しんでいた。

 指定された時間は午前10時。
 その時間ピッタリに現れたのはスーツを着こんだ数名の女性だった。

「萌葱蒔苗様、お迎えに上がりました」
「よ、よろしくお願いします……!」

 荷物を全部持ってくれるし、私の周りをボディーガードみたいに囲んでくれる!
 なんかとんでもないVIPになった気分だ!
 まあ……立場的には間違いなくVIPなんだろうけどね。

 私はその力を示し、人類で唯一深層ダンジョンに立ち向かえる操者になった。
 逆に言えば、私を失えば人類は再び深層ダンジョンに対して無力になる。
 だから当然身辺警護が付くし、住んでるマンションにもそれっぽい人たちが越してきている。
 学校に通う時も、友達と街に繰り出す時も、それとなく私を守っている人がいることがわかる。

 でも、それは私には伝えられていない。
 日常の様子が変化すれば体調も変化する。
 そして体調が変化すれば体の一部である脳が変化し……脳波も変化する。

 それを警戒して目立たないように私を守ってくれているんだ。
 だから、私も気づいているけど気づいていないフリをする。
 心の中で感謝することを忘れずに……。

 ただ、今回は全力で守りますという気持ちを身近に感じる!
 少し緊張しちゃうけど、この状態でも心が乱れることはないと思うな。
 むしろ、こうして私のために働いてくれる人たちのためにも、頑張ろうって気持ちが湧いてくる!

 しかし、今は何も出来ないので大人しく案内に従う!
 向かう先はマシンベースのロータリーだ。
 そこで私を待ち受けていた車は……バスだった。
 それも見たことがない形状をしたバスだ!

 これまさかヴァイオレット社が作ったバスだったりする?
 それとも特注で他の企業に作ってもらったのかも?
 どちらにせよ、街中で見かけることがないような紫色だ。
 大きさ自体は小型バス程度だけど、どこか高級感がある。
 タイヤもあまり見かけないデザインをしているなぁ。

 そして何より、問題は中身だ。
 バスに乗り込んだ私を待ち構えていたのは……部屋だった。
 高い天井に高そうなカーペット、テーブルもあるしソファもある。
 なんならベッドもあるし、トイレもあるし、テレビもある。
 流石にキッチンはないけど冷蔵庫はある。
 広々とした車内は十分生活できそうな空間だった!

 なるほどねぇ、バスだからこその広さよねぇ。
 リムジンってすごい豪華な内装してるけど、天井は低くて窮屈そうだなってテレビとかで見かけるたびに思っていた。
 キャンピングカーもいろんな機能があってワクワクするけど、やっぱ狭いなぁと思わずにはいられなかった。

 でも、このバスはまさに動く部屋だ。
 これもまたダンジョン由来の技術によって実現した新しい乗り物って感じがする!
 ……ただ、今回はこの広さがアダとなった。

「1人で乗ると……ちょっと寂しいなぁ……」

 ゆったりしたスペースの車内だからこそ、1人でいると孤独感がある!
 スーツの女性陣は運転席と助手席、後は他の車に乗り込んだから本当に私1人だ。
 もちろんこれは知らない人に囲まれるとリラックス出来ないだろうという配慮だと思うし、実際人見知りなので1人の方が落ち着くのは間違いない。
 ただ、孤独感はあるというだけだ……!
 人見知りと寂しがり屋は両立する!

「テレビをつけるか……」

 新潟への旅は始まったばかりだ。
 このバスでそのまま宿泊する旅館まで向かうらしいからね。
 時間には余裕があるし、サービスエリアでも観光地でも希望があれば寄り道すると運転手さんは言ってくれた。
 気持ちはとっても嬉しいけど、1人で観光っていうのは……遠慮しとこうかな。
 休憩のためにサービスエリアには寄ると思うけどね。

「冷蔵庫のジュース……飲んでいいみたいね」

 出発からしばらくすると、このバスのすごさがわかってきた。
 なんと、ほとんど揺れないんだ!
 テレビを見てもDphoneディーフォンをいじっても酔うことがない!
 飲み物だってフタを開けてテーブルに置いておいてもこぼれない!

 いやぁ、このバスでする旅行は快適だろうなぁ~。
 私はすでにこのバスに魅了されつつあった。
 孤独を感じ縮こまっていた自分はどこへやら。
 車内に用意されていたジュースとお菓子をむさぼり、テレビのチャンネルをどんどん変える。
 でーんとソファにもたれかかるその姿は、まさにリラックスの境地……!

「……平和なものね」

 テレビではあまり大々的に今回のショーのことは扱われていない。
 ただ、何かの発表があるみたいだというのは各メディアに広まっている。
 ショーが上手くいったら全世界に情報を公開って流れかな。

 あと、ダンジョンに関する報道が減っている。
 蟻の巣の時は連日連夜って感じだったけど、最近はどのダンジョンも大人しいし、取り上げる話題がないって感じだ。
 これを嵐の前の静けさと考えるか、みんなで勝ち取った平穏と考えるか……。

 新たなダンジョンが現れたり、今あるダンジョンが活性化する時は、その周りに存在するダンジョンが先んじて活性化するという法則はある。
 ただ何事にも例外は存在するし、『黄金郷真球宮』の場合はそもそも周りと呼べるほど近くに他のダンジョンが存在しないという特徴がある。
 その大きさ、深さ、存在感ゆえに他のダンジョンは近くに出現することが出来ないのかもしれない。

 なんにせよ、底知れぬ謎と闇を抱えたダンジョンだ。
 内部のモンスターがあふれ出して地上で暴れたという記録はないけど、侵入者を拒絶する力は深層ダンジョンの中でもトップクラスと考えられている。
 ショーとか関係なく普通に戦っても危険で厳しい戦いになるはず……。

 でも、ヴァイオレット社はそれをショーにすると言った。
 一体どんなものを開発したというのか……。
 実は私の中に1つ有力な予想がある。
 これが当たったらかなりテンション上がっちゃうな……!

「……あれ? バス止まったかな?」

 止まる瞬間の振動もわずかなので、止まったかどうかわかりにくい。
 まあでも出発からそれなりに時間は経っているし、運転手さんのトイレタイムかもしれない。
 あとはお昼だからランチのお店に着いたとか……。
 そんな幸せな妄想を膨らませているとドアが自動で開いた。
 そして、ゆったりとした足取りで1人の女性が乗り込んでくる。

 濃い紫色の髪と瞳、引き締まった体、それを包む黒のスーツ。
 言葉では中年女性と呼ばれる年齢だろうけど、彼女からは老いを感じない。
 歳を重ねたことによって生み出される魅力を極限まで高めたような、そんな全身からあふれる色気とエネルギーを感じる。

「こんにちは、萌葱蒔苗さん。わたくし、紫苑・ヴァイオレットと申します」

 私は手に持っていたジュースを落とした。
 その中身が自分の服にしみ込んでいくことすら気にならないほどの衝撃を受けた。

 紫苑さんがこのタイミングで私の前に現れたのこと、それが衝撃の4割。
 残りの6割は……紫色の髪と瞳!
 娘だけじゃない……!
 母親である彼女も脳波強化処理を受けているんだ!
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