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第4章 ブラッドプラント防衛作戦

-54- メッセージラッシュ

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 病室に静寂が訪れる。
 ここは個室なので他の患者さんもいない。
 1人で過ごすにはもったいない広々空間だ。

「さあ、まずは育美さんに連絡を入れて、それから愛莉たちも心配してるだろうし連絡を……」

 順番にメッセージを送っていく。
 一応、愛莉たちには育美さんが事情を説明してくれていたみたいで、状況を把握したうえでのメッセージがすでにたくさん届いていた。
 いつも心配かけて悪いなぁと思いつつ、私の頑張りを褒めてくれるメッセージもたくさんあるから、それを見ているともっと頑張らないとなって気がしてくる。

 一通りの返信を終え、ふーっと一息ついてベッドに体を預ける。
 現在時刻は早朝5時だから、そんなすぐに返信は来ないだろうなぁ。
 と思っていたら、育美さんからの返信が来た!
 内容は……『おはよう』と『すぐ行く』だった。
 その言葉通り、数分後には病室の扉がノックされ育美さんが入ってきた。

「ちょうどそろそろ行こうと思ってたところなの。仕事の方もひと段落つきそうでね」

「ひと段落って……まさか今までずっと働いてたんですか?」

「そうなのよ~。流石の私も少し疲れちゃったわ。体力的にというより精神的にね。派手に壊れたDMDをあんなに見せられたらさ……」

「今回の作戦で壊れた機体を修理してたんですね……。本当にいつもお疲れ様です」

「ありがとう! その言葉でまた頑張れるわ」

 この戦いで破壊されたDMDは何機ぐらいなんだろう……。
 最初に工場を守っている防衛部隊が襲われてから私たち救援部隊が投入され、最終的にヤタガラスを止めるために増援部隊も戦った。
 50機くらい……犠牲になっているかもしれない。

 それに対して残った機体は私のアイオロス・ゼロと蘭のグラドランナ。
 あと、ギリギリ葵さんのディオスも残ったと言えるかもしれない。
 でも、その3機だって無傷じゃない。
 ボロボロだけど動いているだけ他よりはマシという状態だ。
 早く修理してあげてほしい……。

「あっ! アイオロス・ゼロは回収されましたか!? というか、ヤタガラスはちゃんと撃破出来てましたか!?」

「お、落ち着いて蒔苗ちゃん。ここ病院だからさ」

「ご、ごめんなさい……!」

「まず、ヤタガラスはちゃんと撃破出来ていたわ。戦利品である奴が落としたアイテムも回収済みだけど、今回も新種ということでまたまた専門機関に送ったわ。手元に戻ってくるか戻ってこないかは……ちょっと未知数ね。一部でも返してもらえるように交渉はする予定よ」

「いつも任せっきりですいません……。今回もお願いします」

「どーんと任せておいて! これも私の役目だからさ。さてアイオロス・ゼロのことだけど、回収は済んでいるわ。でも、修理にはまだ取りかかっていないという状況よ。お察しの通り、派手に壊れた機体が多くってねぇ……。正直、直せない機体も多いけど、各操者のためにも出来る限りの努力をしているところなの。マシンベースから要請を受けた出撃でDMDが壊れたらちゃんと補償金が出る。でも、愛着を持った機体はお金じゃ取り戻せないから……」

 お金で同じ型の機体を買えばいいってわけじゃない。
 ずっと一緒に戦ってきた相棒の代わりなんていない。
 操者になってまだ短い私でも、その気持ちはわかる。
 こんな大変な状況の中で私の機体を優先して修理しろなんて言えるわけがない。
 アイオロス・ゼロは強いから、少しくらい待ってもきっと大丈夫……。

「まあ、そんな感じで現場がてんやわんやしてるからアイオロス・ゼロの修理に取りかかれないわけなんだけど、ただ黙って順番を待ってる私じゃないわ。この空いた時間を利用してアイオロス・ゼロの強化改修を考えているところなの」

「アイオロス・ゼロの……強化改修!?」

「そう! 派手な破損をアップデートのタイミングと捉えて、壊れた箇所に新しいパーツや技術を盛り込む。そうすれば修理と強化を同時に行えるの! アイオロス・ゼロは今でもトップクラスの性能を有したDMDではあるけど、ロールアウト自体は数年前だからところどころ技術的に古い部分もあったの。私はアイオロス・ゼロを管理しつつ、アップデート出来る箇所はアップデートしてきた。でも、そのやり方にも限度があってね。手を付けてない箇所もいくつかあったの。ただ、今回はやるわ! ド派手にやるわ! だから期待しててね!」

「は……はいっ! 期待してますっ!」

「蒔苗ちゃんも今日は1日検査頑張ってね。いろいろあったから、医務室よりも設備の整った病院で検査した方がいいと杉咲先生も言ってたわ」

「そうですね……。今回も気絶しちゃいましたし、詳しく検査した方がいいのかもしれません。頭だけじゃなくて体の方も少しいつもと違う感じがしますし」

「どこか悪いの? 正直に言ってね」

「悪いというより……むしろ良い感じです。感覚が鋭いというか、冴えているというか、よく頭が回っている感じがしますね。あ、でもこれって前に杉咲先生が言ってた『脳が休まっていない状態』なのかな? いやでも気絶した後30分で起きた前回とは違って、今回はかなり長い時間寝てましたし、流石に脳も休まっていると思うんですけどね」

「……そういうところも含めて今日は詳しい検査をしてもらいましょう。私は仕事が忙しくて付き添ってあげられないけど、何かあったら遠慮なく電話してね。少しでも気になることがあれば、病院の先生に言うことを忘れないように。変に遠慮して体の異常を見逃す方がお互い辛いからね」

「はい、わかりました! あ、検査って何も異常が見つからなければ今日だけで終わりますか?」

「そう聞いているわ。昔なら結果が出るまで時間がかかった検査も、今の進歩した医学なら即日結果を出すことが出来る。まあ、流石に医学は専門外だから看護師さんが来た時に詳しく聞いてみて。私はまたマシンベースに戻るわ」

「忙しい中ありがとうございます。お仕事頑張ってください!」

「ええ、頑張ってくるわ! 蒔苗ちゃんもお大事に!」

 育美さんが病室にいた時間は短かったけど、ずいぶんと元気を分けてもらった気がする。
 でも、私はそもそも元気だし、大変なのは育美さんの方だ。
 私からも育美さんに元気を分けることが出来ただろうか……。

「あ、誰かから返信が来てる」

 画面が光っているDphoneを手に取り、メッセージアプリを開く。
 返信は愛莉からだった。
 まあ、この時間に誰か返信してくるとしたら愛莉だろうとは思っていた。
 芳香は夜ふかしさんでねぼすけさんだし、芽衣は逆に決められた時間にキッチリ起きるからこの時間には起きていない。

「うわぁ……すごい連投だ……」

 未だかつてないほど大量のメッセージが送られてきている。
 愛莉は無駄なメッセージやスタンプを送らないタイプなので、この大量のメッセージのすべてに強い思いが込められているということだ。
 それだけ私が彼女を不安にさせているということだろう。
 愛莉にとってはDMDもダンジョンもよく知らないもので、そのよく知らないものに突然私が巻き込まれ、すでに2回は倒れている。
 私としては倒れているんじゃなくて眠くなって寝ているだけなんだけど、はたから見たら気絶と変わらない。
 これを放っておけという方が無理な話だ。

 でも、だからといってDMD操者をやめるわけにはいかない。
 今回の作戦も結果としてみんなのお役に立てたし、アイオロス・ゼロを継いだからには命の危険にでも晒されない限り戦いはやめないつもりだ。
 しかし、そんな決意を今伝えたらまた不安にさせてしまう!
 ここは冴えた頭でなんとか愛莉を安心させるんだ!
 連投には連投で返す! なんとか丸め込む!

 画面を高速タップで文字入力!
 いつもは入力ミスが多い私だけど、今日は全然すらすら入力出来る!
 やっぱり頭だけじゃなくて体自体も、それこそ指先まで調子が良い!
 愛莉もどうやって入力してるんだというほど素早くメッセージを送ってくるけど、私だって負けていない!
 まるで早口言葉のようなメッセージの応酬の末、私はなんとか愛莉を安心させることに成功した!

 ――愛莉:じゃあ、明日は学校に来られるの? 
 ――マキナ:うん! 検査は1日で終わるらしいから!
 ――愛莉:どこも悪いところはないんだよね?
 ――マキナ:うん! 一応検査してみるだけだから!
 ――愛莉:わかった。蒔苗ちゃんを信じる。
 ――マキナ:うん! ありがとう愛莉!
 ――愛莉:明日は絶対に学校に来てね。
 ――マキナ:うん! わかった!
 ――愛莉:それはそれとして、ちょうど朝のニュースにアイオロス・ゼロが映ってるよ。
 ――マキナ:うん! ええっ!?

 すぐに病室に備え付けているテレビの電源を入れる。
 そこには確かにアイオロス・ゼロとヤタガラスが映っていた。
 あれだけ危険なモンスターが地上に現れたんだし、そりゃニュースにもなるか……。
 それにしても、自分のDMDがテレビに映ってると、自分がテレビに出てるみたいでなんか照れちゃうなぁ~。

 あ! そろそろ最後のオーガランス投げのシーンだ!
 最後の最後で壊れかけの機体が動いたのは、育美さんの日々の整備のおかげだ。
 私たちの勇姿が地上波で流れるぞ……!

「……ん? あれぇ?」

 なんか思ってたのと違う……。
 よくわからないものが画面に映り込んでいる。
 撮影ミス? 編集ミス? いや、そうとは思えない。
 この戦い自体は昨日の昼頃に行われたもので、それから編集して動画を作り、あらゆる番組で使い回し続けているはずだから、ミスに気づかないなんてありえないよね……。

 今度はスローで問題のシーンが映る。
 やっぱり見える……。
 アナウンサーさんもハッキリその存在に触れているから、私にだけ見えているわけでもない。
 つまりこの映像は本物で、あの時あの場所でも同じ現象が起こっていたということだ。
 まさか、操者である私が気づかなかったなんて……!

「アイオロス・ゼロから謎のオーラが出てる……っ!?」
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