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第2章 萌葱の血

-21- 地底湖の雷

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『こ、これは……』

 問題の現場は、特になんの変哲もないビーチだった。
 砂浜に黒こげのDMDが7機あることを除けば……。
 わかっていたことなのに、実際に見ると思った以上にショックを受ける光景だ。
 でも、原因を調べるために直視しなければならない。

『このDMD……脚がないんですね! 下半身が戦車みたいなキャタピラになってる!』

「それが黄堂重工製DMD最大の特徴よ。DMDは人間の脳波で操縦するマシンだから、本来人間に近い形の方が制御はしやすい。でも、黄堂重工のDMDは操者との一体感を重視してないゆえに、こういう変則的な形状でも動かすことが出来るのよ。あと現代の人間は『乗り物』を使うことにより、脚を動かさず移動することに慣れているから、案外自然と受け入れられるってのもあるかもね」

『本当にDMDって奥が深い……。それにしても、どの機体も黒く焦げてますね。ただ、思っているより原型をとどめているというか、派手にぶっ壊れている機体は見当たりません。壊れていても、装甲の一部が破損している程度です。DMDってこれで動かなくなるんですか?』

「それは……中身をやられている可能性があるわね。黒く焦げていることを考えると、強い電気による攻撃を受けたとか。DMDも機械だから当然強い電気を受ければ壊れるけど、ある程度は対策もしてある。蘭ちゃんたちのDMDの対策が甘かったのか、それともよほど強力な電撃を受けたか……」

『でも、周辺にモンスターは見当たりません。どこかに移動したんでしょうか?』

「……それならいいんだけどね。とりあえず、作戦通りサンダーフェンスで通路を封鎖してしまいましょ」

『了解です!』

 フロアを奥に進み、ダンジョンのさらに奥へと伸びていく通路の前で腰の後ろに装備されているボックスをパージする。
 その時、背後からなにか『殺気』のようなものを感じて、私はとっさに前に転がる。
 次の瞬間、パージしたばかりのボックスが爆発を起こした。

『うぅ……!?』

 黒く焦げたボックスの破片がそこら中に飛び散る。
 シールドでそれを受け止めつつ、周囲を確認する。
 やはり、モンスターの姿はない。
 だが、さっきは確かに私に対する敵意を感じた。
 なにか……なにかいるんだ!

「蒔苗ちゃん! 大丈夫!?」

『サンダーフェンスの発生器が爆発しました。機体は無事ですが、敵の姿は見当たりません。でも、きっと事故ではないと思います。敵がいる気がするんです』

「見えない敵……よほど高度な擬態能力を持っているのかしら……。それとボックスは内部から弾け飛んだの? それとも外から爆撃を受けたの?」

『私には中身が爆発したように見えました』

「そうだとすると、やはり強い電気による攻撃と考えるのが妥当ね。サンダーフェンスの発生器でも耐えられないほどの電撃……。並のDMDは耐えられないわ。アイオロス・ゼロだって直撃を受ければどうなるかわからない。蒔苗ちゃん、ここは撤退よ! 敵はおそらく新種だわ!」

『そうしたいのは山々なんですけど、さっきから見られてる気がするんです……。背中を見せたらやられそうな、張り詰めた空気を感じます……』

 明らかに近くに敵がいる感覚がある。
 でも、姿は見えない……。

『……育美さん、少し無茶するかもしれません』

「えっ!?」

 オーガランスを砂浜に突き刺し、空いた両手にネオアイアンソードを2本持つ。
 二刀流だけど、気分は居合だ。
 神経を研ぎ澄ませ、ダンジョン内の自然を感じ取る。
 地底湖の波の音、砂浜に照り付ける光、そして空気……その揺らぎを!

『……!』

 私は2本のネオアイアンソードを……投げた!
 左右それぞれ一本ずつ、天井に突き刺さるよう斜め上に!
 ザクッという音は天井に突き刺さる時と、その前にも聞こえた。

『これが敵の正体……!』

 ネオアイアンソードによって天井にはりつけにされたのは、2本のイカの触手だった。
 ギザギザとした凶悪な吸盤に対して、あまりにも美しい白の表皮。
 そして、バチバチとほとばしる稲妻……!
 電気によってDMDを破壊したのは、このイカだ!
 その本体の位置もこの2本の触手を辿れば、見当がつく!

『そこっ!!』

 オーガランスを砂浜から引き抜き、地底湖めがけて突進。
 一見すると何もいない水中にオーガランスを突き立てた!

《ギュオオオオオオーーーーーーーーーッ!!》

 おぞましい悲鳴を上げて姿を現したのは……やはりイカ!
 アイオロス・ゼロのデータベースが反応しないあたり、やっぱりこいつも新種!
 でも……もう仕留めた!
 その体は光となって散らばり、後に残ったのは金色に輝く臓器と白くきらめく表皮だけだ。

『育美さん、DMDを破壊したと思われるモンスターを討伐しました! これでもう安全……かはわかりませんが、おそらく大丈夫な気がします。しばらくして異常がなければ、回収班を突入させてください』

「わかったわ。それにしても、蒔苗ちゃんには毎回驚かされるわ。リアルタイムで戦っているところを見られないのが残念よ」

『いやぁ~、生で見られてたら緊張して上手く戦えないかもしれません』

「ふふっ、それなら仕方ない! 後から見る戦闘記録で我慢するわ」

 その後、20分ほど待っても攻撃が加えられることはなかった。
 回収班を呼び、私はその場で待機する。
 どこからともなく照り付ける日差しが、アイオロス・ゼロと壊れたDMDたちを照らしていた。
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