Dマシンドール 迷宮王の遺産を受け継ぐ少女

草乃葉オウル

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第2章 萌葱の血

-15- 貫く力

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「ん……うぅ……」

 カーテン越しの朝の光、鳥たちのさえずり……。
 日曜日の目覚め、気分は最高だった。
 これが若さよ育美さん……!
 私はまだまだ戦えるんだから!
 チラッと時計に目をやると……14時過ぎだった。

「もはや朝ですらないじゃん!」

 ガッツリ寝てる……ッ!
 昨日はなんだかんだ午後9時には寝た気がするから……17時間くらい寝てたの!?
 これが脳波を使うってことなのか……。
 育美さんの言ってたことは正しかった。

 でも、ガッツリ寝たおかげで頭は冴えわたり、体も軽い。
 今からマシンベースに行っても、ダンジョンの1つくらいは探査出来るはずだ。
 携帯端末を手に取り、育美さんに連絡を試みる。
 すると、すでに昼過ぎ辺りに育美さんからのメッセージが来ていた。

 ――昨日はたくさん頭を使ったし、お腹もいっぱいだからまだ寝てるかな?
 ――マシンベースに来る時は一言連絡を頂戴ね!

 全部バレバレだ……。
 素直に一言連絡を入れ、マシンベースに向かうための支度を始める。
 あ! もしかして、この時間帯なら完成したオーガランスが届いてるかも……?
 そうだとすれば、なかなかグッドなタイミングに起きたものだ。
 いつも通りラフな服装に身を包んだ私は、足取り軽く自宅を後にした。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「おはよう! うーん、顔色も良いし元気そうね! いや~、若いって素晴らしいわ!」

「そういう育美さんもお元気そうで安心しました」

「ふふっ、鍛え方が違うってね」

 夜まで働いて朝に出勤しているというのに、育美さんに疲れは見えなかった。
 本当に鍛え方が違うんだろうな~。
 私もこういう大人になりたいものだ。

「それであの……オーガランスは完成しましたか?」

「もちろん! 早速見に行きましょう!」

 ドックに案内され、完成したオーガランスを自分の目で見る。
 それはアイオロスの全長よりも長いモノクロの槍だった。
 形状は棒の先端に短い刃がついているタイプではなく、馬上の騎士が持つような円錐型の先端を持つ槍……つまり、本当の意味でのランスだ。
 モノクロとは言ったが、白に当たる部分は灰色に近く、グレイオーガの角が素材に使われていることがわかる。
 先端とその周りは黒だから、ここに新種のオーガの角を使っているのかな。

「どう? なかなかスタイリッシュな仕上がりじゃない?」

「はい……すごいです! でも、長すぎじゃないですか?」

「確かに長いけど、そのリーチで敵を寄せ付けず、一方的に倒すことこそ槍の本質だから、やっぱりある程度の長さは欲しいわね。短い槍の方が取り回しが良いことは確かだけど、それだと剣と機動力の組み合わせで事足りる場面が多いと思うの。まあ、生身の人間が使う槍と比べて長すぎるわけでもないから、蒔苗ちゃんなら自然に使いこなせるはずよ」

「確かに授業で習った戦国時代の足軽さんはもっと長い槍を持ってた気がしますね」

「そうそう! その時代より未来を生きる蒔苗ちゃんなら、この程度の槍なんて楽勝だって!」

 その理屈はよくわからないけど、人間の体よりも高性能なDMDならこのオーガランスも軽々使いこなせる気がする。
 このランスがあれば、例えば前回戦ったオーガたちもいちいち回り込んで首を切る必要はなく、ただ正面からツンツン突いていれば勝てるはずだ。
 オーガの棍棒はこのランスより短いし、オーガの皮膚も彼ら自身の角のような鋭いものであれば貫けることもわかっている。
 そう考えると、使える武器が増えるということが、アイオロス・ゼロにとって大きな強化になることがより理解出来る。
 このランスを使ってさらに強いモンスターを倒し、もっと強い武器を作らなければ……!

「今日のダンジョン探査の目的は、このランスに慣れること。そのためにいろんな攻撃方法を持つモンスターが生息するダンジョンに向かってもらうわ」

「いろんな攻撃方法……。例えばどんな感じですか?」

「動きが速かったり、飛び道具を持ってたり、頑丈だったり……って感じね。動きの速い奴は動きを見切って組みつかれる前に倒す。飛び道具を使う奴は素早く懐に潜り込んで倒す。硬い奴はわずかにある柔らかいところを正確に狙って倒す。モンスターの特性を見抜き、的確に倒せるようになれば、一流のDMD操者と言えるわ」

「うぅ……難しそうですけど、やるだけやってみます! アイオロスを使う以上、一流じゃないといけませんから!」

 その時、私のお腹がぐぅ~っと鳴った。
 そりゃそうだ。昨日の焼き肉からなにも食べてないもん。
 いくら大食いしたって人間は食いだめ出来ない。
 17時間以上経てばお腹も空く。

 でも、このタイミングはないよ……。
 せっかくカッコいいこと言ったのに……。
 自分でも赤くなってることがわかるくらい顔が熱い!
 その時、育美さんのお腹もぐぅ~と鳴った。

「仕事に夢中過ぎて昼ご飯を食べるの忘れてた……。結構やっちゃうんだよね、これ。蒔苗ちゃんもお昼ご飯食べてないの?」

「あ……はい。昨日の焼き肉以降なにも……」

「あらら、育ち盛りなんだからちゃんと3食とも食べないとダメよ~。マシンベースにはなかなかイカした食堂があるから一緒に行かない? ダンジョン探査はそれからでも遅くないわ」

「はい……! わかりました! ご一緒させていただきます!」

 テクテクと育美さんの後ろにくっついて食堂に向かう。
 ああ……育美さんがアイオロス・ゼロのメカニックで良かった……!
 こうなったらガッツリ食べて、バッサバッサと敵を討つぞ!

「キィィィィィィィィィーーーーーーッ!!」

 食堂まであと少しというところで、突如として廊下に響き渡る奇妙な鳴き声。
 私は思わず身を固くする。
 もしかして……マシンベースにモンスターが攻めてきた!?

「ああ……今日は食堂でやってるのね……」

 育美さんが珍しく呆れたような顔をしている。
 一体食堂でなにが起こっているの……!?
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