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第1章 ゼロの継承者

-11- 漆黒の角

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 アイオロス・ゼロのデータベースは……反応しない!
 つまり、この黒いオーガは新種ってこと!?
 でも、見るからにグレイオーガの上位種って感じだし、戦闘スタイルも大差ない。
 パワーはあるけど、動きは鈍く、後ろを取るのは難しくない……!

『もらったぁ!』

 背後から首筋に一閃!
 しかし、黒いオーガの首は切れず、逆にネオアイアンソードの刃がボロボロになった!
 こいつの皮膚……硬い!

「蒔苗ちゃん、どうなってるの!?」

『新種です! グレイオーガよりもおっきな黒いオーガと戦ってます!』

「しっ、新種ぅ!? 退却しなさい!」

『私も流石にそう思うんですけど……!』

 残った2体のグレイオーガが地上への通路を固めている。
 あいつらを倒すのは簡単だけど、そのために黒いオーガに背を向けるのが怖い!
 確かに動きは鈍いけど、明らかにグレイオーガより知能が高い。
 隙を晒せば……やられる!

『帰り道を押さえられて、戦うしかない状況です! でも、ネオアイアンソードでは黒いオーガの皮膚を切り裂けないんです!』

「むむむ……。切れないなら、突き刺してみるとかどう!?」

『えいっ!』

 ……ダメだ! ネオアイアンソードでは貫くことも出来ない!
 それどころか逆にへし折られるところだった!
 ネオアイアンソードはレイピアみたいに鋭く尖ってないからなぁ……ん?
 鋭く……尖って……頑丈なものって……!

『これだ!』

 私は地面に転がっているグレイオーガの角を拾った。
 さっき倒した分の角は、まだアイテム・スキャナーで回収していなかった!

『貫けっ!!』

 再び背後に回り込み、短剣のごとく握りしめたグレイオーガの角を、黒いオーガの背中に振り下ろす!
 グサッという明らかな手ごたえアリ……!
 もっと、もっと深くに突き刺す!

『おらああああああーーーーーーっ!!』

 突き刺さった角に向かって全力のパンチを繰り出す!
 そして、スラスター全開!
 強い力で押し込まれた角が黒いオーガの背中を貫通した!
 そのままアイオロス・ゼロの拳も黒いオーガを貫き、これがトドメの一撃になった。
 黒いオーガは消滅し、後には巨大な黒い角が残った。

『戦闘終了……じゃないよね』

 残っていた2体のグレイオーガも片付け、無事戦闘は終了した。
 なかなかハードな初探査になっちゃったけど、まあ戦果は上々ね!

「蒔苗ちゃん、お疲れ様。正直、ここまで出来るとは思わなかったわ。私ったら、戦闘中は驚かされてばかりだったし、なんの役にも立たなかったわね……」

『そんなことないですよ。育美さんがいなきゃ、私は黒いオーガにやられてましたから。それにしても、あいつなんだったんですかね?』

「やはり、新種と考えるのが妥当ね。蒔苗ちゃんの話から推測すると、あいつはグレイオーガの上位種で、グレイオーガたちを従える力を持っている。そして、知能も高い。ただ力が強いだけだったグレイオーガたちを統率することで、このダンジョンの他のモンスターを絶滅させた……ってところかしら」

『確かに連携が上手かったですね。黒いオーガが私と戦ってる最中は、ちゃんと残ったオーガで逃げられないように道を塞いでたり……。でも、命令を伝えるような素振りはなかったんですよね。ボディランゲージとか鳴き声もないし……あっ! もしかして、あの角をアンテナにして脳波でやり取りしてるんですかね? あっちはあっちで』

「そう……かもしれないわね。なにはともあれ、お手柄よ蒔苗ちゃん。黒いオーガの討伐が遅れていたら、さらに配下のオーガが増えたり、もっと連携が洗練されたものになってたかもしれない。そうなれば、討伐は困難を極めたでしょうね。蒔苗ちゃんのおかげで、人類は救われたわ」

『流石にそれは言い過ぎですけど、私でも誰かの役に立てることがあって良かったです』

「うんうん! 良かった良かった! さあ、帰還するまでがダンジョン探査よ! 最後まで気を抜かないで! 無事帰ってきたら晩御飯をごちそうしちゃう! もちろん、蒔苗ちゃんが良かったらだけど」

『えっ! いいんですか!? 行きます行きます!』

「ふふっ、なにが食べたい?」

『えっと……うーん、とりあえずマシンベースに戻ってから考えます!』

「それ、正解!」

 激しく動いた後でも、アイオロス・ゼロに不具合はない。
 このまま油断せずに地上を目指そう!


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「おかえりなさい、蒔苗ちゃん」

「ただいまです、育美さん」

 アイオロス・ゼロは無事帰還した。
 今はドックで各部のチェックを行っている。

「異常発生した複数体のグレイオーガの討伐に新種の発見、その特性の調査、そして討伐……。うーん、振り返ってみてもすごい成果ね! これは報酬も弾むと思うわ!」

「報酬……お金ですね。そんなに貰えるんですか?」

「まあ、普通の高校生からすれば目が飛び出るような金額なのは確かね」

「うわぁ……! やったー!」

「でもね、蒔苗ちゃん。DMD操者はたくさん貯金しとかないといけないのよ」

「そ、そうなんですか?」

「だって、DMDが壊れたら誰か他の人にダンジョンから回収してもらって修理しないといけないし、動かすためのエナジーは毎回補給しないといけない。武器だって実弾系の飛び道具を使うなら弾薬の補充は必須よ。近接武器でも折れたり、刃こぼれしたら直さないといけないわ。そして、それら全部を行うのにお金が必要なの。だから、DMD操者はたくさん貯金しないといけない。DMDが壊れた時、お金がなかったらそのDMDはずっと壊れたままになるから……」

「そういえば、ダンジョンでもお金に関する話をしてましたね」

「覚えていてくれて嬉しいわ。これに関しては何度でも言って、心に刻んでももらわないと困るの。DMD操者の中には派手に豪遊してる人もいるけど、その稼ぎを生み出しているのはDMDよ。だから、DMDを満足に運用できるだけの資金は常に残しておかないと、いつかDMD操者を名乗れなくなってしまうわ。そして、操者を失ったDMDほど悲しいものはない……」

「今一度、肝に銘じておきます……!」

「さて、それはそれとして使うべきところでお金を使えないのもDMD操者失格よ」

「え……?」

「機体を改造して性能を上げたり、手に入れたアイテムから新武装を作ったり……。より過酷なダンジョンに挑むためには、それだけの強さが必要なの。そして、その強さを生み出すのもまたお金ってわけね」

「確かに私の武器は黒いオーガに通用しなかった……。なにか新しい武器が、もっと強くて私好みの武器が欲しいです!」

「ならば、一緒に考えましょう! 今回払われるであろう報酬と手に入れたアイテムで作れる、アイオロス・ゼロの新武装を!」

 新武装……!
 なんてワクワクする響きなんだろう!
 アイオロス・ゼロはまだまだ強くなれるんだ!
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