上 下
3 / 140
第1章 ゼロの継承者

-03- 首都第七マシンベース

しおりを挟む
「ん……うぅ……」

 目が覚めて一番最初に思ったことは……眠い!
 疲れが取れ切っていないのか、体がだるい……。
 チラッと時計に目をやると……11時過ぎだった。

「遅刻……っ! どころじゃない!」

 もうほぼ昼じゃん!
 今から準備してたら一体何時に……って、今日は土曜日じゃん!
 ホッと胸をなでおろし、再びベッドに寝転ぶ。
 あるべき予定を忘れてた時の焦燥感もすごいけど、あると思ってた予定がないことに気づいた時のお得感も格別よね~。
 このまま夕方まで寝てやろうかな?
 ……まあ、今のひと悶着で完全に目が覚めちゃったんだけど。

「ご飯……行こうかな」

 そういえば葬儀場を後にしてから何も口にしていない。
 ここはパーッと好きなものでも食べに行こう!
 そうと決まれば準備準備!
 着たままだった制服を脱ぎ、サッとシャワーを浴びると、ラフな服に身を包み、私はマンションを飛び出した。
 さて、何を食べるか……。

「そりゃ麺でしょ……。ラーメンよ」

 脳内会議は一瞬で終了した。
 行きつけのラーメン屋に行く!
 そこはご飯時には席が埋まっているけど、待つ人の列が出来るほどではないという絶妙な客の回転が行われている名店だ。

 今日は少し時間が早いこともあり、すぐに席に案内された。
 注文はラーメン大盛に半チャーハン! スープはあっさり醤油よ!
 食べざかりだからこれくらいペロリといける。
 カロリーなんて気にしない。
 私、太らないタイプだと思い込んでるから!

 注文した品はすぐに運ばれてきた。
 この速さも名店たる所以ゆえんよ。

「いただきまーす!」

 喋る相手もいないのでもくもく食べる。食べる。食べる。
 あっさりしてるのに、何度食べても飽きない味だ……!

「ごちそうさまでした!」

 コップ一杯の水を飲んでから席を立つ。
 支払いをするため、左腕にはめられているリングを専用の装置にかざして……。

「あっ!」

 わ、忘れてた……!
 このリングの中にはアイオロス・ゼロのマシンコードがインストールされているんだった!
 そして、アイオロス・ゼロは首都第七マシンベースで私を待っている!

「……行ってみるか!」

 支払いを済ませ、店を出る。
 首都第七マシンベースは自宅から近い位置にある。
 それこそ、徒歩でも向かえるくらいだ。
 これは偶然なのか、はたまた……。

「良い食後の運動になる」

 首都第七マシンベースを目指し、私は歩き始めた。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 マシンベースとは、DMDダムドを運用するための基地である。
 全国各地に存在し、すでに出現しているダンジョンの監視や、新たに現れたダンジョンへの対応を行っている。
 基本的にDMDはマシンベースから出撃し、マシンベースに帰還する。
 そして、マシンベースで修理や補給を受け、使わない時はマシンベースに収容されている。

 私のアイオロス・ゼロも、そんな感じでマシンベースに収容されているのだろう。
 一体、どんな機体なのか……。
 なんてったって、あの『迷宮王』萌葱大樹郎もえぎたいじゅろうの愛機の兄弟機なんだもの。
 きっとゴツゴツで、ゴテゴテで、ゴリゴリなんだろうなぁ……!

「すいません、あの……マシンベースに入りたいんですけど……」

 首都第七マシンベースの正門まで来た私は、守衛さんに声をかけた。
 今まで一度も来たことがない場所で緊張しているのか、自分でも驚くくらいか細い・・・声が出た。

「えっと……見学コースの方ですか?」

「いえ、DMDの所有者なんですけど……」

「では、マシンコードをこちらに」

 左腕を差し出し、リングを読み込ませる。
 その瞬間、昼過ぎで少し眠そうな顔をしていた守衛さんの目が飛び出んばかりに開かれた。

「しょ、少々お待ちください!」

 守衛さんは守衛室の奥に引っ込んでしまった。
 数分後、私の前に現れたのは……それはそれは背の高い女性だった。

「はじめまして、私は若草育美わかくさいくみ。このマシンベースのメカニックよ」

 175……いや、180cmはあるように見える。
 私も165cmで結構背が高い方だけど、育美さんはもっとすごい。
 しかも、ただ背が高いだけでなく、スタイルも抜群だ。
 脚は長いし、腰は細いし、胸は大きい!
 髪は緩やかなウェーブがかかった茶髪だ。
 顔もおっとりした感じで、とても優しい目をしている。
 どこかのマダムかと思う一方で、着ている服は作業用のつなぎと無骨ぶこつで、そのギャップがまた魅力的に見える。
 ……って、初対面の人をなにジロジロ見てるんだ私!

「は、はじめまして! 私は萌葱蒔苗もえぎまきなです! えっと、高校1年生です!」

「ふふっ、蒔苗ちゃんね。私のことは気軽に『育美さん』って呼んでね。あ、もちろん呼び捨てにされるのも私的には悪くないから……」

「い、いえ! 育美さん、今日はよろしくお願いします!」

「はい、よろしくね。じゃあ、早速行こっか。アイオロス・ゼロのところに」

「……はい!」

 私だけのために大きな正門が開くことはないので、通用口を通ってマシンベースの中に入る。
 一番初めに気になったのは、外からでも見えるほど巨大なアンテナだ。

「あれは新たなダンジョンの出現を感知するためのアンテナよ。どのマシンベースにも設置されていて、管轄するエリア内にダンジョン出現の兆候がないか、常に見張っているの」

「へぇ~」

「地上には基本的にダンジョンを監視するセンサー類や、マシンベースそのものを防衛するための設備、あとはDMDをダンジョンまで運ぶ輸送機なんかが置いてあるわ。肝心のDMDそのものや、DMDを整備するためのドック、遠隔操作するためのコックピットなんかは地下にあるの」

「ということは、今から地下に行くんですか?」

「ううん、今から向かうのは出撃ハッチ。ダンジョンに向かうDMDを地下から地上に送り出すための場所よ。アイオロス・ゼロはすでに地上に上げてあるの。その方が早く会えるでしょ?」

「あ、あはは……」

 正直、話の内容の半分も頭に入っていない。
 今までの自分なら知ることもない未知の世界にいる緊張感……。
 とても言葉では言い表せない!

「ここが出撃ハッチね」

 大きく横に長い建物の壁に、いくつものシャッターが備え付けられている。
 これはなんだか……トラックのお尻をそのまま入口にくっつけて荷物を出し入れ出来るタイプの倉庫に似ている!
 シャッターごとに番号が割り振られているところも一緒だ。

「今、この『01』のハッチを開けるから」

 育美さんが手元の端末を操作すると、カシュッと空気が抜けるような音がし、目の前のシャッターが静かに開いた。
 その中に1機のDMDが静かにたたずんでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~

阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。 転生した先は俺がやっていたゲームの世界。 前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。 だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……! そんなとき、街が魔獣に襲撃される。 迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。 だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。 平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。 だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。 隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

異世界ロマンはスカイダイビングから!

KeyBow
ファンタジー
21歳大学生の主人が半年前の交通事故で首から下が動かない絶望的な生活が、突然の異世界転位で一変!転位で得た特殊なドールの能力を生かして異世界で生き残り、自らの体を治す道を探りつつ異世界を楽しく生きていこうと努力していく物語。動かない筈の肉体を動かす手段がある事に感動するも性的に不能となっていた。生きる為の生活の糧として選んだ冒険者として一歩を踏み出して行くのである。周りの女性に助けられるも望まぬ形の禁欲生活が始まる。意識を取り戻すと異世界の上空かららっかしていたのであった・・・

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ちょいダン? ~仕事帰り、ちょいとダンジョンに寄っていかない?~

テツみン
SF
東京、大手町の地下に突如現れたダンジョン。通称、『ちょいダン』。そこは、仕事帰りに『ちょい』と冒険を楽しむ場所。 大手町周辺の企業で働く若手サラリーマンたちが『ダンジョン』という娯楽を手に入れ、新たなライフスタイルを生み出していく―― これは、そんな日々を綴った物語。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

処理中です...