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期末試験編
065 一番弟子、恐るべき出会い
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ジスル樹海に赤い稲妻がほとばしる。
それを目撃したのは稲妻を放出しているデシルとその仲間たち。
そして、魔力遮断の大結界に隠れて来たるべき計画の日に備えていた転移魔法の使い手だった。
彼は発見した古代の恐竜の化石から本物の恐竜を復活させ、その数が十分に増えたところである目的のために動き出すはずだった。
あの日のクランベリーマウンテン襲撃はあくまでも予行演習。
デルフィニウム王国で評判の高いAランク自由騎士のルチルを倒せれば、恐竜たちは実戦でも使えるだろうというテストでしかなかった。
しかし、そのテストは思いがけない結果を生んだ。
恐竜なんて目じゃない怪物が現れ、一撃で戦闘能力が自慢のタイプ:ティラノを倒してしまった。
あの少女が使っていた赤い稲妻は男の目にも鮮明に残っている。
忘れるはずがないあの輝きが、今目の前で放たれている。
「どうしてここがバレた!? 確かにタイプ:トリケラがツノで魔力遮断の結界に穴をあけてしまったが、そもそもこの森に来ていなければバレるはずはない! なぜここがアジトだとわかった!?」
男は状況が飲み込めない。
それもそのはず、デシルたちは本当に偶然この森に生息するモンスターを討伐対象に選んだのだ。
理屈で考えても答えは出ない。
しかし、あの地図にない小道に入り込んだことだけは偶然ではなく、デシルたちの実力を信用しての行動だった。
そういう意味ではもう男はデシルから逃れられないのかもしれない。
「どうする……? すべての戦力を投入して倒すべきか……? いや、勝てやしない! あんなバケモノには決して……! ならば、当初の目的を果たすのみ! そのためには時間稼ぎを!」
男はそう言ってアジトに存在する研究施設の中に消えていった。
● ● ●
「拡散する雷撃!!」
デシルが三体の小型恐竜を広範囲に広がる赤い稲妻で仕留める。
それでもまだ数がいるので、オーカたちもそれぞれ魔法で応戦していた。
「急に現れたねこのちっこい恐竜は! あたしたちでも倒せるのは良いけど、こう数が多くちゃねぇ」
「厄介……。でも……逃がすと追うのが大変……」
「人のいる地域に行かれたら困るわよ! こいつら恐竜にしては弱くても、Cランクくらいはありそう! ろくに防衛力もない農村とかなら一匹で滅ぼされるわ!」
転移魔法の男が放った時間稼ぎの恐竜『タイプ:ラプトル』は戦闘能力は低いが小型で扱いやすく足も速い。
ただ、目的を果たすために絶対に必要なピースではない。
だからこそ、ここでデシルを足止めするために放った。
「あっ! 皆さん空を見てください! 恐竜が空を飛んでます!」
デシルの指さす先には十体以上の空飛ぶ恐竜『タイプ:プテラ』が旋回していた。
この恐竜も戦闘の能力はさほど高くないが、飛べるというのはそれだけで脅威だ。
移動も速いし追いにくく、鋭いかぎ爪で人間を空中までさらって落とせばそれだけで人は死ぬ。
見て見ぬふりは出来ない。
「なんだなんだ、大盤振る舞いじゃん!」
「さっきのツノと頭の大きい恐竜を倒した時に敵に感づかれましたね。一瞬で決着をつけたにも関わらずこの対応の素早さ……クランベリーマウンテンで私を見ているはずの転移魔法使いがこの先にいるんだと思います!」
デシルは元凶であるその男を早く捕獲したい。
恐竜を外に放つために結界は解かれているし、アジトの構造、敵の位置も感知魔法で大体わかる。
しかし、すでに野に放たれている恐竜だってスルーは出来ない。
ここで一匹取り逃がしただけで何人の人が傷つくかわからない。
先に恐竜をすべて仕留めてから、転移魔法使いを追う……。
だが、転移魔法は逃走が容易。
デシルの本気ですぐに恐竜を仕留めても間に合わないかもしれない……。
「デシルちゃん! 行ってきなって! 転移魔法使いが逃げちゃうよ!」
「元凶を断たないと……解決はしないし……」
「こっちはお姉さんに任せなさいって! 空中の敵くらい私にかかれば……!」
ラーラは鍛え上げられた脚で空へと飛びあがり、一体のプテラの首にしがみついた。
無茶苦茶な戦い方だと思いつつも、デシルはその行動に感謝した。
「行ってきます! 一番悪い人を捕まえてきます!」
「おう!」
「無理はしないでね……」
デシルは赤い稲妻となって駆けた。
敵のアジトの中へ、その奥の奥へ……そして、黒金のローブを着た転移魔法使いを発見した。
この間僅か数十秒、まさに電光石火である。
「ひ、ひぃぃぃーーっ!? もう来たのか!? ま、待て!?」
「雷光鞭!!」
言葉を交わすことなくデシルは男を気絶させにかかる。
しかし、すでにその身を自分の作り出した転移のゲートに半分うずめていた男はスッとその中に消えた。
そして、そのゲートはパッと閉じて消えてしまった。
「遅かった……!」
三秒……いや、一秒あれば結果は変わっていたかもしれない。
デシルには転移魔法は使えない。
使えたとしても男の転移した先がわからなければ追えない。
詰みかと思われたその時、脳裏に浮かぶの今も戦っているオーカやヴァイス、それにラーラ。
彼女たちの戦いを無駄にするわけにはいかない。
それに師匠……。
こんなところで諦めていては一番弟子は名乗れない。
一番弟子はシーファ・ハイドレンジアに育てられたから名乗れるものではない。
武術と魔術を教えられたから名乗れるものでもない。
受け継いだ圧倒的な力を誰かのために使う。
シーファが出来なかったことが出来る者こそ『嫌われ賢者の一番弟子』だ。
ならば、閉じた次元の扉だってこじ開けて敵を追わねばならない。
デシルは全魔力を両手に集中させて転移のゲートがあった空間に突っ込んだ。
バチバチと閃光と轟音が響き、空間が歪んでいく。
そして、彼女の手は何か引っかかるものに指を引っ掛けた。
それは閉じたはずの転移のゲート。
思いっきり力を込めてこじ開ける!
「開けええええええーーーーーーっ!!! ドアああああああーーーーーーっ!!!」
空間を歪めてこことは違う空間に出口を作る転移のゲートがこじ開けられた。
転移魔法自体がレアなのだから、他人が作ったゲートを無理やり開いた者などデシルしかいないだろう。
もしかしたら、師匠にも出来ないことを彼女はやり遂げたのかもしれない。
「いよっしゃあ!! こうでないと師匠の弟子は名乗れません!!」
デシルの目の前に広がる暗黒の渦の向こうには、逃げた転移魔法使いがいるはずだ。
臆することなく彼女はその渦に身を投げた。
その先に広がっていたのは……空だった。
「あれ!? ここって空中!?」
すぐにデシルの体は重力に捕まって落下を始める。
相当な上空にいるようだが、この程度の高さならデシルは死なない。
ホッと一息ついてあたりを見渡すと、自分以外にも落下している物体が多数ある事に彼女は気づく。
しかも、その落下物とは恐竜なのだ。
古代の生物兵器もこの程度の高さから落ちても死なないだろう。
ただ、その落ちる先が問題だった。
眼下に広がっているのは、もはやデシルの第二の故郷と言ってもいいデルフィニウム王国の王都ミストラル。
転移魔法使いの計画……それは恐竜投下による王都襲撃だった。
それを目撃したのは稲妻を放出しているデシルとその仲間たち。
そして、魔力遮断の大結界に隠れて来たるべき計画の日に備えていた転移魔法の使い手だった。
彼は発見した古代の恐竜の化石から本物の恐竜を復活させ、その数が十分に増えたところである目的のために動き出すはずだった。
あの日のクランベリーマウンテン襲撃はあくまでも予行演習。
デルフィニウム王国で評判の高いAランク自由騎士のルチルを倒せれば、恐竜たちは実戦でも使えるだろうというテストでしかなかった。
しかし、そのテストは思いがけない結果を生んだ。
恐竜なんて目じゃない怪物が現れ、一撃で戦闘能力が自慢のタイプ:ティラノを倒してしまった。
あの少女が使っていた赤い稲妻は男の目にも鮮明に残っている。
忘れるはずがないあの輝きが、今目の前で放たれている。
「どうしてここがバレた!? 確かにタイプ:トリケラがツノで魔力遮断の結界に穴をあけてしまったが、そもそもこの森に来ていなければバレるはずはない! なぜここがアジトだとわかった!?」
男は状況が飲み込めない。
それもそのはず、デシルたちは本当に偶然この森に生息するモンスターを討伐対象に選んだのだ。
理屈で考えても答えは出ない。
しかし、あの地図にない小道に入り込んだことだけは偶然ではなく、デシルたちの実力を信用しての行動だった。
そういう意味ではもう男はデシルから逃れられないのかもしれない。
「どうする……? すべての戦力を投入して倒すべきか……? いや、勝てやしない! あんなバケモノには決して……! ならば、当初の目的を果たすのみ! そのためには時間稼ぎを!」
男はそう言ってアジトに存在する研究施設の中に消えていった。
● ● ●
「拡散する雷撃!!」
デシルが三体の小型恐竜を広範囲に広がる赤い稲妻で仕留める。
それでもまだ数がいるので、オーカたちもそれぞれ魔法で応戦していた。
「急に現れたねこのちっこい恐竜は! あたしたちでも倒せるのは良いけど、こう数が多くちゃねぇ」
「厄介……。でも……逃がすと追うのが大変……」
「人のいる地域に行かれたら困るわよ! こいつら恐竜にしては弱くても、Cランクくらいはありそう! ろくに防衛力もない農村とかなら一匹で滅ぼされるわ!」
転移魔法の男が放った時間稼ぎの恐竜『タイプ:ラプトル』は戦闘能力は低いが小型で扱いやすく足も速い。
ただ、目的を果たすために絶対に必要なピースではない。
だからこそ、ここでデシルを足止めするために放った。
「あっ! 皆さん空を見てください! 恐竜が空を飛んでます!」
デシルの指さす先には十体以上の空飛ぶ恐竜『タイプ:プテラ』が旋回していた。
この恐竜も戦闘の能力はさほど高くないが、飛べるというのはそれだけで脅威だ。
移動も速いし追いにくく、鋭いかぎ爪で人間を空中までさらって落とせばそれだけで人は死ぬ。
見て見ぬふりは出来ない。
「なんだなんだ、大盤振る舞いじゃん!」
「さっきのツノと頭の大きい恐竜を倒した時に敵に感づかれましたね。一瞬で決着をつけたにも関わらずこの対応の素早さ……クランベリーマウンテンで私を見ているはずの転移魔法使いがこの先にいるんだと思います!」
デシルは元凶であるその男を早く捕獲したい。
恐竜を外に放つために結界は解かれているし、アジトの構造、敵の位置も感知魔法で大体わかる。
しかし、すでに野に放たれている恐竜だってスルーは出来ない。
ここで一匹取り逃がしただけで何人の人が傷つくかわからない。
先に恐竜をすべて仕留めてから、転移魔法使いを追う……。
だが、転移魔法は逃走が容易。
デシルの本気ですぐに恐竜を仕留めても間に合わないかもしれない……。
「デシルちゃん! 行ってきなって! 転移魔法使いが逃げちゃうよ!」
「元凶を断たないと……解決はしないし……」
「こっちはお姉さんに任せなさいって! 空中の敵くらい私にかかれば……!」
ラーラは鍛え上げられた脚で空へと飛びあがり、一体のプテラの首にしがみついた。
無茶苦茶な戦い方だと思いつつも、デシルはその行動に感謝した。
「行ってきます! 一番悪い人を捕まえてきます!」
「おう!」
「無理はしないでね……」
デシルは赤い稲妻となって駆けた。
敵のアジトの中へ、その奥の奥へ……そして、黒金のローブを着た転移魔法使いを発見した。
この間僅か数十秒、まさに電光石火である。
「ひ、ひぃぃぃーーっ!? もう来たのか!? ま、待て!?」
「雷光鞭!!」
言葉を交わすことなくデシルは男を気絶させにかかる。
しかし、すでにその身を自分の作り出した転移のゲートに半分うずめていた男はスッとその中に消えた。
そして、そのゲートはパッと閉じて消えてしまった。
「遅かった……!」
三秒……いや、一秒あれば結果は変わっていたかもしれない。
デシルには転移魔法は使えない。
使えたとしても男の転移した先がわからなければ追えない。
詰みかと思われたその時、脳裏に浮かぶの今も戦っているオーカやヴァイス、それにラーラ。
彼女たちの戦いを無駄にするわけにはいかない。
それに師匠……。
こんなところで諦めていては一番弟子は名乗れない。
一番弟子はシーファ・ハイドレンジアに育てられたから名乗れるものではない。
武術と魔術を教えられたから名乗れるものでもない。
受け継いだ圧倒的な力を誰かのために使う。
シーファが出来なかったことが出来る者こそ『嫌われ賢者の一番弟子』だ。
ならば、閉じた次元の扉だってこじ開けて敵を追わねばならない。
デシルは全魔力を両手に集中させて転移のゲートがあった空間に突っ込んだ。
バチバチと閃光と轟音が響き、空間が歪んでいく。
そして、彼女の手は何か引っかかるものに指を引っ掛けた。
それは閉じたはずの転移のゲート。
思いっきり力を込めてこじ開ける!
「開けええええええーーーーーーっ!!! ドアああああああーーーーーーっ!!!」
空間を歪めてこことは違う空間に出口を作る転移のゲートがこじ開けられた。
転移魔法自体がレアなのだから、他人が作ったゲートを無理やり開いた者などデシルしかいないだろう。
もしかしたら、師匠にも出来ないことを彼女はやり遂げたのかもしれない。
「いよっしゃあ!! こうでないと師匠の弟子は名乗れません!!」
デシルの目の前に広がる暗黒の渦の向こうには、逃げた転移魔法使いがいるはずだ。
臆することなく彼女はその渦に身を投げた。
その先に広がっていたのは……空だった。
「あれ!? ここって空中!?」
すぐにデシルの体は重力に捕まって落下を始める。
相当な上空にいるようだが、この程度の高さならデシルは死なない。
ホッと一息ついてあたりを見渡すと、自分以外にも落下している物体が多数ある事に彼女は気づく。
しかも、その落下物とは恐竜なのだ。
古代の生物兵器もこの程度の高さから落ちても死なないだろう。
ただ、その落ちる先が問題だった。
眼下に広がっているのは、もはやデシルの第二の故郷と言ってもいいデルフィニウム王国の王都ミストラル。
転移魔法使いの計画……それは恐竜投下による王都襲撃だった。
応援ありがとうございます!
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