上 下
64 / 69
期末試験編

064 一番弟子、テキパキ依頼をこなす

しおりを挟む
「ヴァイス! そっちに行ったよ!」

「了解……!」

 展開された【赤土の大地レッドフィールド】の中では、茂みに隠れたモンスターの動きもまるわかりだ。
 オーカの指示を受けてヴァイスが【暗闇縫糸ダークスレッド】で標的であるダークベアを縛る。

「デシル……!」

「はい! 雷光剣!」

 動きの止まったダークベアにデシルが稲妻の剣でトドメを刺す。
 三人はわずか数十秒でCランクのモンスターを簡単に仕留めてしまった。
 まったく無駄のない連携にラーラは舌を巻く。

「はぇ~やっぱり強いわ、あなたたち。プロでもなかなかこうはいかないわよ~。うちの団の若い騎士のお手本にしたいくらい」

「それほどでもないですって! 誉めすぎですよラーラさん!」

「いやいや、本当よ。この調子なら今日中に全部のモンスターを狩れそうね。焦っちゃダメだけど、一応討伐任務は危険な存在を倒して人々の平和を守るのが仕事だから、早いに越したことはないのよね。いけるなら素早くテキパキとこなしていくべきよ」

 四人はまた依頼書や周辺地域で聞き込みをしてとったメモを確認する。
 現在地『ジスル樹海』はうっそうと木々が茂っているものの地形は平坦だ。
 見えにくい崖や大地の割れ目もないので、足場は安定している。
 また、毒性のある植物が多いわけでもない。
 まれに毒の植物が多すぎて空気中に毒が混じっている危険な森林も存在するのだ。

「気になる情報と言えば、あたしが聞いた地震の話くらい? 地震というより地鳴りっぽいって言う人もいたけど」
 
 オーカがポケットに突っ込んであったせいでシワシワになっているメモをみんなに見せる。
 彼女が周辺地域に住む人に聞いた情報が記されているそれには、森から地鳴りが聞こえてきたとか、最近小規模の地震が増えたなどと書かれている。
 大型モンスター同士が戦ったせいで大地が揺れている可能性もあるが、その場合だと鳴き声が聞こえたり、下級モンスターが戦いに巻き込まれないように森から逃げだす現象も起こる。

 なので、どちらかというと純粋に自然の地震である可能性の方が高い。
 ただ、なにぶん地震について話してくれた人が少ないので何とも言えないところもある。
 たまに勘違い情報が混じることも忘れてはいけない。

「本来この地域にはいないはずの大型モンスターがいるかもしれないってことを頭の隅に置いて討伐を続けましょうか。次はブラックスパーダ―です。ここよりもうちょっと奥の方によく出没するらしいですよ」

「どう移動する……?」

 移動経路も三人で決めてラーラは求められたら答えるのみ。
 ダークベアとの戦闘で少々森に敷かれている古い道から離れてしまったので、まずはそこに戻ってできる限り視界の良い道に沿って移動することになった。
 しかし、途中でデシルたちは地図に記されていない分かれ道に遭遇した。

「……あれ? 左の道は地図に描かれていますけど、右の道はどこにも見当たりませんね。どういうことでしょうか?」

 ラーラに助言を求めるデシル。
 少し考えた後、ラーラはこう答えた。

「ミスかな! 地図を作った人のね。あるいはこの道は行き止まりというかすぐに途切れているのか……。右の道はかなり狭いし、人間が作ってる以上見落としはあり得るからね~」

「道がどうなっているのか確認した方が良いでしょうか?」

「ん~、本来の目的はモンスターの討伐だけど、余裕はあるしこれも自由騎士の仕事よね。行こうか!」

 四人は地図にない道を慎重に進んでいく。
 トラップや落とし穴なんてあからさまな罠はなかった。
 ただ、どうも今まで歩いていた道に比べて荒いというか、正しい工事で作られた道ではないように思えた。
 まるで重い物を引きずって出来た跡のように、その道は緩いカーブを描きつつ続いている。

 三人娘を信用してこの道に踏み込んだラーラも少しづつ不安になってくる。
 地図に記されていないのは、これが道ではないから。
 そして、最近できたものだから……という推理で頭がいっぱいになってきた。

「デシルちゃん……封印してた感知魔法を使ってくれて構わないわよ。なんかこの道おかしいし……」

 索敵も自由騎士には必須の技能なので、他の二人を鍛えるためにデシルはその強力な感知能力を封じていた。
 しかし、デシル自身も違和感を感じていたので、ラーラの許可が出てすぐ感知の範囲を大きく広げた。
 そして、その魔法に何かが引っかかった。

「ああっ……!?」

 似た魔力を最近感じたことがある。
 しかし、あの強大な魔力は感知魔法を弱めていても感じ取れるはず……。
 この個体が隠密能力に優れているのか、何か魔法を遮断するもので隠されていて今出てきたのか。
 どちらにせよ、見逃せない敵だ。

「近くに恐竜がいます。クランベリーマウンテンにいたものとは種類が違いますが、おそらく間違いありません」

 デシルの言葉で空気が張り詰める。
 恐竜というものは遥か昔の生き物で、そこらへんを歩いているものではない。
 簡単に生み出せるものでももちろんない。
 つまり、クランベリーマウンテンを襲撃した何者かが近くにいる可能性が高い。

「運命的だねぇ……。まさかあたしたちが当たりを引いちゃうなんてさ」

「どうするの……デシル?」

「まったく相手の情報がわからない以上、本来ならば引くべきだと思います。ただ、恐竜の相手は私単独の方がむしろ安全ですし……」

 前回と違い、今回の恐竜はまだ臨戦態勢ではない。
 デシルたちを狙っているわけではないので、逃げるのは容易だ。
 ただ、逃げて誰かに助けを求める意味もない。
 恐竜はそこらへんの騎士には倒せないからだ。
 人を呼んでる間に恐竜が動いて、人のいる地域に向かわれても困る。

 デシルの出した答えは、攻撃だった。

「私がとりあえず恐竜を仕留めます。敵は一体じゃなくて他にも隠れているかもしれませんから、少し距離をとって私の後ろをついてきてください」

 転移魔法使いも近くにいるはずだ。
 この状況では恐竜に周囲を囲まれているくらいの気持ちで動かなければならない。
 オーカ、ヴァイス、ラーラもこくりとうなずく。

「じゃあ、作戦開始です!」

 デシルの体から赤い稲妻がほとばしる。

「電光石火!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜

青空ばらみ
ファンタジー
 一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。 小説家になろう様でも投稿をしております。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

国から見限られた王子が手に入れたのは万能無敵のS級魔法〜使えるのは鉱石魔法のみだけど悠々自適に旅をします〜

登龍乃月
ファンタジー
「どうしてこうなった」  十歳のある日、この日僕は死ぬ事が決定した。  地水火風四つの属性を神とする四元教、そのトップであり、四元教を母体とする神法国家エレメンタリオの法皇を父とする僕と三人の子供。  法皇の子供は必ず四ツ子であり、それぞれが四つの元素に対応した魔法の適性があり、その適性ランクはSクラスというのが、代々続く絶対不変の決まり事だった。  しかし、その決まり事はこの日破られた。  破ったのは僕、第四子である僕に出るはずだった地の適性ランクSが出なかった。  代わりに出たのは鉱石魔法という、人権の無い地の派生魔法のランクS。  王家の四子は地でなければ認められず、下位互換である派生魔法なんて以ての外。  僕は王族としてのレールを思い切り踏み外し、絶対不変のルールを逸脱した者として、この世に存在してはならない存在となった。  その時の僕の心境が冒頭のセリフである。  こうした経緯があり、僕としての存在の抹消、僕は死亡したということになった。  そしてガイアスという新しい名前を授けられた上で、僕は王族から、王宮から放逐されたのだった。  しかしながら、派生魔法と言えど、ランクSともなればとんでもない魔法だというのが分かった。  生成、複製、精錬、創造なども可能で、鉱石が含まれていればそれを操る事も出来てしまうという規格外な力を持っていた。    この話はそんな力を持ちつつも、平々凡々、のどかに生きていきたいと思いながら旅をして、片手間に女の子を助けたり、街を救ったり世界を救ったりする。  そんなありふれたお話である。 --------------------- カクヨムと小説家になろうで投稿したものを引っ張ってきました! モチベに繋がりますので、感想や誤字報告、エールもお待ちしています〜

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

処理中です...