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林間学校編
060 一番弟子、林間学校の終わりに
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敵はすべて捕縛された。
総勢四十二名、大掛かりも大掛かりな犯罪計画であった。
だがしかし、その計画は自由騎士団『深山の山猫』総勢三十五名。
そして、オーキッド自由騎士学園一年Oクラスの生徒及び担任教師二十一名によって阻止された。
人数こそ『深山の山猫』と『Oクラス』が多いものの、本来ならば質で勝る『病魔の鉄鼠』が計画を遂行してもおかしくはなかった。
ただ一人……いや、その一人の影響でOクラスの生徒全員の能力が上がっていなければ、結末は変わっていたかもしれない。
「お手柄だね、デシルくん」
「いえいえ! みんなの頑張りのおかげですよルチル先生!」
みんなから褒められまくっても謙遜し続けるデシル。
これが彼女という人間なのだ。
ただ、デシル自身は本当にみんなの力でみんなは助かったのだと思っているし、自分は恐竜を倒す以外は手助けをしただけだと本当に思っている。
それにただ喜んでもいられない理由が一つあった。
(恐竜は急にここに現れた。あの種は自分の魔力や気配を消すなんていう高度な魔法は覚えられません。ただ、本能のままに暴れるのみ……。つまり、恐竜をここに送り込んだ人間がいる! そして、送り込む手段と言ったら……)
『転移魔法』……それしかないとデシルは思った。
自分や誰か、または物を任意の場所に移動させることができる単純で便利な魔法。
だが、誰にでも使いこなせるわけではない。
誰にでも使えるならば、世の中の物流システムが様変わりするだろう。
それほどまでに希少な魔法である。
どれほど希少かと言うと、デシルすら通常使うことはできないくらいだ。
もちろん他の生徒で使える者はいないし、ルチルもアルバもまったく使えない。
(今回は確実にこの山にいたはずなんです! でも、逃げられた! 捕まえた人の中にはそんな高度な魔法を使える人はいません。それに転移魔法が普通に使えるなら逃走なんて朝飯前です!)
もう一人見逃せない敵がいたことはすでにルチルにもアルバにも伝えてある。
これでこの情報は学園長に伝わるし、自由騎士協会にも伝わる。
オーキッドを襲った悪党でまだ恐竜を所持している可能性もある人物となれば、多くの人間がその消息を追ってくれるだろう。
ということで、仕事を果たしたデシルはみんなと一緒に林間学校の修了式に参加した。
オーカが全プログラムが終わったと言い、ルチルもうなずいたが実際は今日まで訓練があって帰るのは翌日なので、まだ一応プログラムは残っていた。
しかし、流石に敵の襲撃を受けた山に生徒を一日残しておくわけにはいかない。
対策をうつといっても、向こうには転移魔法使いがいる。
『病魔の鉄鼠』のリーダーの話では、その転移魔法使いは恐竜の販売を持ち掛けてきただけで本来の仲間ではないということ。
つまり、奴本来の仲間が転移で流れ込んでくる可能性もあるのだ。
自由騎士たちは体こそ回復魔法で治っているが、体力と魔力はつきかけている。
オーキッドの防御結界は大幅強化されていて、転移魔法すら通さないという話だ。
いろいろ考えた結果、生徒と団員全員が王都に今日中に帰るという選択をした。
そして、予定を繰り上げて修了式を今日短めに行う。
内容はアルバの話のみである。
「ええ……まずは申し訳ないと謝らせていただきたい。敵を容易に侵入させてしまった。撃退にも力を借りてしまった。君たちを危険に晒してしまった。これは君たちを預かった団長である俺の責任だ」
アルバの言葉に生徒たちは口々に励ましの言葉を贈るが、彼は長い間頭を下げていた。
みんな生きていたからいいだろう……では済ませたくなかったのだ。
「君たちにいろんなことを教える最中、俺たちもたくさんのことを学んだ。これからも初心を忘れず精進していく。そして、君たちもまた今回の経験を忘れるのではなく糧としてほしい。怖い思いをさせておいてなんだが……これは貴重な体験だ。恥を忍んで言えば、あれほどの犯罪集団に在学中襲われることはまずない。実戦を生き抜いた自信を持ってほしい。慢心するのではなく」
こういう改まったお話はいつも聞いていない者や寝ている者も今回だけは聞いていた。
生徒たちもアルバの人柄はもう知っている。
こんなに真剣に話すということは、それだけ大事なことだとわかっている。
「俺が言わなくても知ってると思うけど、君たちは強い! とんでもない! 奇襲を食らって誰一人として欠けなかったどころか、俺の団員たちを助けてくれる者すらいた。もちろんとびきり特別な子がいるのはわかってるし、彼女には特別助けられた。でも、自分が助かったのは自分のおかげでもある。みんな特別なんだ。自分のことをこれからも大事にしてほしい。常に自分が大事だと思ってると、これが結構生き残れるもんなんだ」
生徒たちはうんうんとうなずく。
アルバのストレートでひねりのない言葉は若い生徒たちによく伝わった。
「俺の話は以上だ。林間学校はこれにて終了。ありがとうございました!」
「ありがとうございました!!」
五日の林間学校が終わりを迎えた。
生徒はもちろん、騎士団員も速やかにクランベリーマウンテンを去る。
この山は常に利用しているというわけではないので、持ち帰る物もたくさんある。
だが、今回に関しては王都へ帰るスピードが重視されたため、大きな荷物は置いていく。
転移魔法の使い手が戻ってきて大鍋やらテーブルやらを盗みに来るとは思えないので特に問題はない。
「ああ、来るときは全然冷静に見れてなかったクランベリーマウンテン……。今見るとこんなに雄大な山だったんですね」
マラソンで競争をしていた生徒たちはヘトヘトで、デシルは速すぎて見ていなかった五日間過ごした山の全景。
少しずつ離れていくその姿に誰もが心を揺さぶられた。
「来年とはいかなくても、次とかその次とかの学園の生徒がまたクランベリーマウンテンを使えるように危ない人は絶対に捕まえます!」
山に向けてそう言い放ったデシルの髪を優しい風が揺らしていた。
総勢四十二名、大掛かりも大掛かりな犯罪計画であった。
だがしかし、その計画は自由騎士団『深山の山猫』総勢三十五名。
そして、オーキッド自由騎士学園一年Oクラスの生徒及び担任教師二十一名によって阻止された。
人数こそ『深山の山猫』と『Oクラス』が多いものの、本来ならば質で勝る『病魔の鉄鼠』が計画を遂行してもおかしくはなかった。
ただ一人……いや、その一人の影響でOクラスの生徒全員の能力が上がっていなければ、結末は変わっていたかもしれない。
「お手柄だね、デシルくん」
「いえいえ! みんなの頑張りのおかげですよルチル先生!」
みんなから褒められまくっても謙遜し続けるデシル。
これが彼女という人間なのだ。
ただ、デシル自身は本当にみんなの力でみんなは助かったのだと思っているし、自分は恐竜を倒す以外は手助けをしただけだと本当に思っている。
それにただ喜んでもいられない理由が一つあった。
(恐竜は急にここに現れた。あの種は自分の魔力や気配を消すなんていう高度な魔法は覚えられません。ただ、本能のままに暴れるのみ……。つまり、恐竜をここに送り込んだ人間がいる! そして、送り込む手段と言ったら……)
『転移魔法』……それしかないとデシルは思った。
自分や誰か、または物を任意の場所に移動させることができる単純で便利な魔法。
だが、誰にでも使いこなせるわけではない。
誰にでも使えるならば、世の中の物流システムが様変わりするだろう。
それほどまでに希少な魔法である。
どれほど希少かと言うと、デシルすら通常使うことはできないくらいだ。
もちろん他の生徒で使える者はいないし、ルチルもアルバもまったく使えない。
(今回は確実にこの山にいたはずなんです! でも、逃げられた! 捕まえた人の中にはそんな高度な魔法を使える人はいません。それに転移魔法が普通に使えるなら逃走なんて朝飯前です!)
もう一人見逃せない敵がいたことはすでにルチルにもアルバにも伝えてある。
これでこの情報は学園長に伝わるし、自由騎士協会にも伝わる。
オーキッドを襲った悪党でまだ恐竜を所持している可能性もある人物となれば、多くの人間がその消息を追ってくれるだろう。
ということで、仕事を果たしたデシルはみんなと一緒に林間学校の修了式に参加した。
オーカが全プログラムが終わったと言い、ルチルもうなずいたが実際は今日まで訓練があって帰るのは翌日なので、まだ一応プログラムは残っていた。
しかし、流石に敵の襲撃を受けた山に生徒を一日残しておくわけにはいかない。
対策をうつといっても、向こうには転移魔法使いがいる。
『病魔の鉄鼠』のリーダーの話では、その転移魔法使いは恐竜の販売を持ち掛けてきただけで本来の仲間ではないということ。
つまり、奴本来の仲間が転移で流れ込んでくる可能性もあるのだ。
自由騎士たちは体こそ回復魔法で治っているが、体力と魔力はつきかけている。
オーキッドの防御結界は大幅強化されていて、転移魔法すら通さないという話だ。
いろいろ考えた結果、生徒と団員全員が王都に今日中に帰るという選択をした。
そして、予定を繰り上げて修了式を今日短めに行う。
内容はアルバの話のみである。
「ええ……まずは申し訳ないと謝らせていただきたい。敵を容易に侵入させてしまった。撃退にも力を借りてしまった。君たちを危険に晒してしまった。これは君たちを預かった団長である俺の責任だ」
アルバの言葉に生徒たちは口々に励ましの言葉を贈るが、彼は長い間頭を下げていた。
みんな生きていたからいいだろう……では済ませたくなかったのだ。
「君たちにいろんなことを教える最中、俺たちもたくさんのことを学んだ。これからも初心を忘れず精進していく。そして、君たちもまた今回の経験を忘れるのではなく糧としてほしい。怖い思いをさせておいてなんだが……これは貴重な体験だ。恥を忍んで言えば、あれほどの犯罪集団に在学中襲われることはまずない。実戦を生き抜いた自信を持ってほしい。慢心するのではなく」
こういう改まったお話はいつも聞いていない者や寝ている者も今回だけは聞いていた。
生徒たちもアルバの人柄はもう知っている。
こんなに真剣に話すということは、それだけ大事なことだとわかっている。
「俺が言わなくても知ってると思うけど、君たちは強い! とんでもない! 奇襲を食らって誰一人として欠けなかったどころか、俺の団員たちを助けてくれる者すらいた。もちろんとびきり特別な子がいるのはわかってるし、彼女には特別助けられた。でも、自分が助かったのは自分のおかげでもある。みんな特別なんだ。自分のことをこれからも大事にしてほしい。常に自分が大事だと思ってると、これが結構生き残れるもんなんだ」
生徒たちはうんうんとうなずく。
アルバのストレートでひねりのない言葉は若い生徒たちによく伝わった。
「俺の話は以上だ。林間学校はこれにて終了。ありがとうございました!」
「ありがとうございました!!」
五日の林間学校が終わりを迎えた。
生徒はもちろん、騎士団員も速やかにクランベリーマウンテンを去る。
この山は常に利用しているというわけではないので、持ち帰る物もたくさんある。
だが、今回に関しては王都へ帰るスピードが重視されたため、大きな荷物は置いていく。
転移魔法の使い手が戻ってきて大鍋やらテーブルやらを盗みに来るとは思えないので特に問題はない。
「ああ、来るときは全然冷静に見れてなかったクランベリーマウンテン……。今見るとこんなに雄大な山だったんですね」
マラソンで競争をしていた生徒たちはヘトヘトで、デシルは速すぎて見ていなかった五日間過ごした山の全景。
少しずつ離れていくその姿に誰もが心を揺さぶられた。
「来年とはいかなくても、次とかその次とかの学園の生徒がまたクランベリーマウンテンを使えるように危ない人は絶対に捕まえます!」
山に向けてそう言い放ったデシルの髪を優しい風が揺らしていた。
応援ありがとうございます!
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