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林間学校編

048 一番弟子、委員長とお話しする

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「デシルさん、あなたは林間学校の班分けについて何かありまして?」

 クラスの委員長キャロライン、通称キャロにそう問われるデシル。

「そうですねぇ。まだ林間学校というものがよくわかっていないのですが、やっぱりオーカさんとヴァイスさんとは同じ班がいいですね!」

「やはりそう……予想通りだわ」

「あの、キャロさんは林間学校について何か知っているのですか?」

「ええ、クラスの委員長として他の生徒が把握していないことも把握してるわ。例えば一つの班が四人であることとか」

「ええっ!? じゃあ、私たち三人に加えてもう一人誰かに入ってもらわないといけないんですね! うーん、誰がいいんだろう……。正直、私たち三人ってちょっと恐れられているところもありますから、数合わせで無理やり入れられるのが嫌な人もいるでしょうし」

「それも予想済みよ。だから、こうやってあなたにお話をしに来たの。私がデシルさんの班の四人目になるって報告をね」

 キャロラインは胸を張ってそういった。
 彼女はどの班に混じっても問題ないくらい多くのクラスメートと仲がいい。
 決して余りものではないが、逆に誰とでも組めるのでどんな班にも入れる。
 ゆえにどの班に入るか迷っていた。
 そこで思いついたのがデシルたち三人娘だ。
 ここがある意味一番自分を求めているところだと判断したのだ。

「気を遣わせないように言っておくと、私はクラスの秩序を守るために嫌々デシルさん達の班に入るわけではないわ。純粋に自分を高めるためには実技において優れたクラスメートと一緒に行動するのが近道だと判断したわけよ」

「そ、そんな嫌々来てるなんて思ってませんよ! ただ……」

「ただ?」

「オーカさんとヴァイスさんにも相談しないと何とも言えませんね」

「あっ、私ったら……歓迎されて当然だと思っていたわね。うぬぼれてたわ。私がいらないと言われる可能性も十分あるのね」

「そ、そんな酷いことは言ってませんよ!?」

「でも可能性は確かにある。私はオーカさんとヴァイスさんにあまり好かれていないから」

「そんなこともないと思うんですけどねぇ……」

 キャロは委員長だ。
 クラスの秩序を守るため自主的に問題のある生徒に注意をすることもある。
 そう、座学がからっきしのオーカと居眠り女王のヴァイスは注意の常連なのだ。
 二人も自分が悪いとは思っていても、注意されるとちょっとムッとしたところも見せる。
 もちろん軽い気持ちで出た態度であり、本当にキャロを嫌うはずもないが、キャロ自身は気にしていた。

 それに対してデシルは一番の優等生だ。
 居眠りもしないし課題の提出も期限を超えたことはない。
 問題行動もヴァイスの実家訪問事件くらい。
 そしてこの訪問事件はあまり生徒の間に広まっていない。
 キャロの中でデシルは尊敬できる人物なのだ。

 放課後にオーカたちと一緒にいるデシルには話しかけにくいが、今日のように一人でいる時にはよく話す。
 内容は主にキャロの戦闘スタイルについて。
 キャロの得意魔法は希少かつ人にとって素晴らしいものだが、戦闘にはまるで向いていない。

 彼女は座学に関してはデシルに次いで二位であるが、実技の成績は今一つであった。
 プロの自由騎士ならばどんな役割であれ、戦闘能力は必要とされる。
 今のキャロではプロで生きてくのは厳しいのだ。
 そんな深刻な問題をデシルに相談していたことからも、彼女のデシルへの信頼の厚さがわかる。

 そして、この実技の成績についての悩みが、不真面目でありながら実技トップを走り続けるオーカとヴァイスへの注意につながっていた。
 自分より優れているのだから、授業も真剣に受けていてくれないと、なんとなくもやもやするのだ。
 能力を高めるために授業を真剣に聞いている自分がバカらしくなってくるから……。

 そんな複雑な委員長の思いをデシルはなんとなく理解していた。
 どうにかしてあげたいとも思っていた。

「とにかくオーカさんとヴァイスさんの補習が終わったらお話しましょう! きっとキャロさんが班に入ってくれることを喜んでくれますって!」

「本当かしら」

「はい!」

「デシルさんがそこまで言うならもう疑わないわ。よろしくお願いします」

「任せてくださいよ! じゃあ、二人の補習が終わるまで、この間教えた肉体強化魔法の持続時間を延ばす訓練をしましょう!」



 ● ● ●



 その後、補習を終えてゲッソリしているオーカとヴァイスに会うと、二人ともキャロの加入を大いに喜んでくれた。
 デシルの言った通りに。

「おっ! キャロが入ってくれるのか! そりゃいい! バカと天才のバランスが取れる!」

「私……オーカと一緒にされるほどバカではない……。深夜に予習と復習してるし……。ただ、テストも昼間だから半分解いたくらいで寝ちゃうだけ……」

「はっ! 寝るのもバカっちゃバカだろ!」

「全部寝てることもあるオーカにだけは言われたくない……!」

 半分本気、半分おふざけで言い合う二人。
 ヴァイスが眠たいのは種族的な特徴でもあるのだが、彼女は人間の学園に通う以上それを言い訳には使わない。
 いずれは種族に合わせた学校なども出来るかもしれないが、今は人間に合わせて学ぶのがヴァイスの信念だ。

「二人とも私を歓迎してくれるとは思わなかったわ。いっつも口うるさく注意してるし。嫌われてると思ってた」

 そう言うキャロを見て、オーカとヴァイスは目を丸くする。

「いや、委員長として寝てるやつ注意するのは当然だし、むしろいつも手間かけるなぁって思ってはいたんだ。起きれないけど」

「むしろ……こっちが嫌われてると思ってた……。一緒の班で嬉しい……」

 二人の言葉を聞いて今度はキャロは目を丸くする。

「そう……なのね。私ちょっと勘違いしてたみたい。ごめんなさい」

「勘違いはしてないと思うよ。あたしの注意を受ける態度って酷いだろうし、逆恨みされてるように思えるのもわかるさ」

「私も……こんなテンションだから拗ねてるように見えるかも……」

「お二人とも……ふふっ、そんなに態度が悪い自覚があるなら治しなさいよ! 良い話にはならないわ!」

「くっ! バレたか! なんかお互い理解しあって良い空気にしようと思ったのが!」

「注意されるのも友情……ってなわけにはいかないよね……」

「というかオーカさんは補習や溜まった課題がこなせなかったら置いて行かれるのよ! そうなったら一緒の班にはならないんだから!」

「えっ!? 課題も!? どうするよヴァイス?」

「課題は深夜に自室でやってもいいから……出さなかったことないよ……。そもそも私、入学試験の時も座学は中の上だったから……眠いだけで授業についていけないわけじゃない……」

「この裏切り者~!! はっ!? そういえば入学試験も昼間だったけど眠くなかったの?」

「気合で何とかした……」

「じゃあ、いつも気合入れときなさいよ! 普段の授業も!」

「キャロ……いつでも入る気合は……気合じゃない……!」

 ワイワイガヤガヤ楽しそうに話す三人を見てデシルはひとまずホッとした。
 この四人ならやっていけると思ったからだ。

(でも、林間学校はトップクラスの自由騎士学園であるオーキッドが行うイベントなんですよね。それも舞台は身体能力を高めるのに適した環境である山。仲良しなだけでは乗り越えられないかもしれません。そんな時は……真の優等生である私が頑張りましょう! なんちゃって!)

 ワクワクを感じつつも油断はしないデシル。
 はたして、これから待ち受けている林間学校とはいったいどのようなものなのか……。
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