嫌われ賢者の一番弟子 ~師匠から教わった武術と魔術、世間では非常識らしいですよ!?~

草乃葉オウル

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三者面談編

042 師匠、来る!

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 ボサボサの銀髪には整えようとした努力の跡が見られる。
 しかし、デシルが普段見ていたのはボサボサの髪形なのだから、そのままの方が良いと考えて整えた後にまた崩したのだ。
 服も悩みに悩んだ末に一番デシルの前で来ていた服に決定。
 師匠シーファ・ハイドレンジアもまた弟子と同じくソワソワしながら学園に来る時を待っていたのだ。

「師匠! 来てくれたんですね!」

 実際にその姿を目にすると、いままでの悩みや不安などがすべて吹き飛び、ただただ嬉しさでいっぱいになるデシル。
 人生で最も長い時間ともに過ごした人なのだ。
 理由が理由でも、再会が嬉しいことには変わりなかった。

「まあ……呼ばれたし……。それよりこっちの子がオーカ、そっちの子がヴァイスね。手紙に書いてあった」

「そうです! 私の友達です!」

「友達か……」

 眠たい時のヴァイス以上に会話がぎこちない師匠。
 長く生きている彼女にも弟子の友達と話した経験はないのだ。
 どんな人間も初めてすることには大なり小なり緊張を覚える。
 それは大賢者でも変わらない。

「えっと……こんにちわ、オーカ。デシルの師匠です」

「こんにちわ……」

「それで……」

 挨拶の後に言うべき言葉が見つけられない師匠。
 しばらく悩んだ後、絞り出した言葉は自分の得意分野だった。

「さっきの模擬戦、遠くで見させてもらったけど、あなたは優れていると思う。実戦とはいかなくても模擬戦の経験を多く積んでいると思ったし、努力もしている。そして、強くなるためには無視できない生まれ持った才能も人並み以上にある」

「あ、ありがとうございます!」

「でも、欠点も多い。私はあなたとお母さんとの確執は知らないから、安易に熱くなりすぎるなとは言わない。だけど、お母さんの実力を知っているのならば、今の自分では勝てないと戦う前からわかっていたはずよ」

「それは……まあ……」

「勝てない相手と戦うのも強くなるには良いことよ。でも死にに行くような行動は絶対にダメ。最後の鎧の魔法……あれなら岩をまとった方がまだいい。分厚い岩と薄い金属では熱の伝わり方が違う。岩なら中身が焼かれるまでの時間を稼げるし、私ももうちょっと戦いを止めるのを待った」

「はい……」

「それにあの状況なら動きを軽くするよりも無駄に巨大なゴーレムを生み出してお母さんを場外に押し出すことを考えた方が良かった。あなたの魔法は火球を防げるくらい硬いからそう簡単には壊せないはず。あの火球がお母さんの全力の魔法ならの話だけど……って、私は何の話をしているんだろう。デシルの友達に……」

「いえ、すごい参考になるっす! もっと教えてくださいよ! なんてったってデシルの師匠なんだから!」

「そう? でも、私の目的は三者面談……。まあ、最後に一つアドバイスしとくわ。あなたの魔力量は爆発的よ。だからもっと視野を広く、規模の大きな魔法を使うことを意識するといいと思う。人間は地に足付けてないとまともに動けない人がほとんどよ。あなたはその大地を支配できるだけの力がある」

「はい、頑張るっす!」

「ごめんね、こんな話しか得意じゃないのよ」

「いえいえ、あたしもそんなもんだから大丈夫っす!」

 さっきまでブチ切れて暴走しかけだったというのに、今のオーカは満足げだった。
 これが泣く子も黙る師匠の風格なのだろうか。

「師匠ってそんなにスラスラしゃべれたんですねぇ~」

 しかし、そんな師匠の振る舞いが気に入らないものもいた。
 それは他でもない弟子デシル・サンフラワーだ。

「私の時は基本もっと無口だったのに、今日はよそ行きの師匠だったってことですか~?」

「それは……まあ、デシルは言わなくてもわかってくれるし……」

「ふ~ん」

 師匠に対してちょっと強気なデシル。
 これも久しぶりの再会だというのに、自分よりもオーカと長話をしていたことからくる嫉妬がなせる業だろう。
 やはり、まずは自分と話してほしかったのだ。

「まっ、後で私の部屋でゆっくりお話しましょうよ師匠。すぐ帰ったりはしないんですよね?」

「うん、まあ、特に急ぐ用事もないし」

「良かった! 手紙は出してましたけど、直接お話ししたいことがたくさんあるんですよ!」

 デシルは師匠の腕に抱き着いて甘える。
 彼女の珍しい年相応の振る舞いにオーカとヴァイスはデシルの師匠への信頼の厚さを再認識した。

「そういえば師匠、学園の門ではマリアベルさんが待ち構えていたはずですが、もうお話はされましたか? お知り合いですよね?」

「知り合いではあるわ。ただ、なんというかギラギラした目で私を探していたから、なんかめんどくさそうだし他のところから入ってきた」 

「ええっ!? 学園の門以外のところには探知魔法とか結界が張り巡らされているはずですよ!? 最近ヴァイスさんの一族の方のご訪問もあって強化されていたはずじゃ……」

「防犯としてはぬるい、ぬるすぎる。私が帰るまでに強化しておくわ。デシルの暮らす学園だもの」

「師匠……ありがとうございます!」

 ありがとうございますで済ませていい話なのかはわからないが、とにかく師匠にとって学園の警備などないも同然なのだ。

「さあ、三者面談に行こうか」

「はい!」

「待ちなさいよ! 私を放置していては面談は始まらないわ!」

 普段は見せない全力のダッシュで学園長マリアベル・オーキッドが姿を現した。
 よほど本気だったのか息が上がっている。
 ……興奮しているだけなのかもしれないが。

「……マリアベル、よく気づいたわね。私がすでに学園内にいると」

「流石に学園内で魔法を使われたらわかるわよ! それもあなたの十八番おはこ『封じの光波紋』ならなおさらね!」

「十八番ってわけじゃない。ただ人をむやみやたらに傷つけないように使ってただけ」

「シーファの場合手を抜いても半殺しだもんね! だから本気の手抜き魔法を作った! 誰にもマネ出来ないできないわよこんな高度な魔法!」

「まあ、デシルには出来たみたいだけど」

 デシルは手紙で光の波紋について師匠に聞いていた。
 そして、その答えをいま知った。
 これは師匠の得意魔法だったのだ。
 習ったことはないが、運命的にデシルの奥底で眠っていたようだ。

「デシル、自由騎士はやたら殺せば良いってものでもないからね。封じの光波紋をものにすれば、きっとこれからデシルの役に立つ。でも、この魔法を教えるのは難しい。自分でコツをつかむのよ」

「はい! でも、師匠の得意魔法なんて自力で再現できるのでしょうか……」

「ふっ……少し離れたら忘れちゃったの? いつも私が言ってた言葉を」

 ハッと顔を上げるデシル。
 そして、師匠と弟子は同時にその言葉を発した。

「私にできたことは全てできて当然よ」
「私にできたことは全てできて当然よ」

 忘れるはずはなかった。
 いずれ自分を超えてくれることを願う師匠の言葉を。
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