嫌われ賢者の一番弟子 ~師匠から教わった武術と魔術、世間では非常識らしいですよ!?~

草乃葉オウル

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闇の姫君編

036 一番弟子、闇の女王と対峙する

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「うおああああああーーーーっ! 高いって! 速いって! 怖いって!」

「これでもスピードは落としてる方です!」

 空をかける光の矢。
 ホウキに乗ったデシルとオーカは空中に漂う闇の魔力の残滓を追って進む。
 足元に広がる景色はどんどんと後ろに流れていく。
 それだけホウキのスピードが速いのだ。

「むっ、このあたりから魔力は地上すれすれを進んでいますね」

「下は……ずいぶんデカい森だな。この中にヴァイスの家があるのか?」

「その可能性は高いです。降下します!」

「ちょ、ちょっと待っ……ぎゃあああああああああ!!!」

 落ちるように急降下するデシル。
 不意に体を襲う浮遊感に絶叫するオーカ。
 デシルは高いところが好きだが、オーカはダメなのだ。

「大丈夫ですよオーカさん! ここからは森の中を進みますから高くありません!」

「今度は木に当たりそうで怖いんだけど!」

 うっそうと茂る木々の間を高速で抜けていくデシル。
 これはこれでスリリングなアトラクションだ。
 一瞬判断を誤れば木に激突するだろう。
 オーカはデシルの体にギュッと抱き着いて目をふさいで耐える。

「あっ! 見えた!」

「ん……おおっ!?」

 木々を抜けた先にあったのはとんでもなく大きな建造物だった。
 ツタが絡まっていたり全体的に古臭い雰囲気をまとっているものの、誰かの手によって隅々まで手入れされていることがハッキリわかる古風なお屋敷。
 安易な考えだが、吸血鬼が住んでいそうな家だなと二人は思った。

「いいとこ住んでるなぁ……風情がある」

「いかにもって感じです」

 二人はホウキから降りて大きな鉄柵で閉ざされている屋敷の門を目指す。
 しかし、そこには彼女らを歓迎しない者がいた。
 門番のヴァンパイアである。大柄でそれなりに年を取っている男だ。

「あの、何の御用でしょうか……」

 以外にもデシルたちに下手に出た対応をする男。
 それもそのはず、彼はデシルが光を放ちながらやって来たのを見てしまったのだ。
 ヴァンパイアにとって強大な光魔法使いなど天敵でしかない。
 本来ならば腕っぷしが強い荒くれ者で通っている彼も下手なことは言えない。

「ヴァイスさんの友達です! 遊びに来ました!」

「あ、ああ……姫様のお友達……ですか……」

「へぇ、ヴァイスって姫様って言われてるんだ。それにしてはちょっと地味な奴だよなぁ」

「ぐ……」

 オーカに悪気はないし、ヴァイス本人も笑って煽り返す程度の言葉だ。
 しかし、眷属である男の頭の血管はピクッと動く。
 いつもならば目の前の赤髪の女を殴っているが、隣の金髪の女が怖くてできない。
 それに友達と言うのが本当なら危害を加えればお叱りを受けるのは自分だ。
 仕事とはいえ損な役目である。

「申し訳ありませんが……女王様から部外者は誰も通すなと言われておりまして……。どうかお引き取り願えないかと……」

「部外者じゃありません! ヴァイスさんの友達です!」

「身内の者ではございませんでしょう」

「むぅ……」

 確かにヴァイスと血のつながりはない。
 だがしかし、友情という血以上のつながりがある……!
 とか、言うタイプでは二人ともない。

 それに仲良しではあるが会って間もないのは確かだ。
 対して目の前の男は長い時間を一族に捧げている。
 つながりの強さで上を取ろうとするのは得策ではない。
 ならば、思いつく最後の手段はやはり実力行使だった。

「どいてください! それかヴァイスさんを呼んでください! 呼んでくれたらきっと招き入れてくれます!」

「それは出来ません!」

 男も戦う姿勢を見せた。
 本当に友達ならば通しても良いのかもしれないが、偽物の場合一族が滅びかねない。
 最大の勇気をもって彼はデシルを止める気だ。

「い、いくぞぉ! 我が闇のちか……」

「ボルテージブロー!!」

「ぐわああああああ……!」

 デシルの高速ボディブローが男の腹にクリーンヒットし、バチバチと稲妻を放つ。
 そのまま男は吹っ飛んで鉄柵に激突、その衝撃で錠が外れた。
 彼は身をもってデシルたちに通り道を開くこととなった。
 しかし、その体には雷で焦げた跡もふっとんだことによる外傷もない。

「ごめんなさい……門番さん……!」

「デシルちゃん、制御できるようになったんだ! あの時の手加減パンチを!」

 あの時とは王国騎士団長アズールとの戦いのこと。
 デシルが放った見た目の割にアズールが鼻血をだす程度の威力しかなかったパンチ。
 あの手加減を意図的に出来るように訓練したのだ。

 相手に合わせて電圧ボルテージ調節してちょうど動けなくなるくらいのダメージを与えるという複雑な魔法の処理を一瞬で行うだけでなく、肉体強化や回復を混ぜてふっとんだ時のダメージも消す。
 簡単に見えてそうそう真似できない技だ。
 もちろん手加減なしで純粋に威力を高めた『フルボルテージブロー』も使える。

「はい、なにかと便利かと思って頑張って覚えました。でも、光の波紋はまだ意図的には使えないんですよね……」

「あれも簡単に人の動きを封じられる魔法だから覚えたら役に立ちそうだよなぁ。まあ、一個一個覚えていけばいいさ。あんまり先に行かれたらあたしも困るからね」

 その後、デシルは何度もしばらくは起き上らない門番に頭を下げてから屋敷に侵入……いや、友達と遊ぶために入った。
 そこで待ち構えていたのは、意外な人物だった。

「ようこそ、我が屋敷へ」

 白に近いつややかな金髪、赤く鋭い目、とがった耳、しゃべる時にちらりとのぞく牙、シックなドレス……。
 彼女こそヴァイスの母にして現在の一族の女王、ヴィエラ・ディライトだった。

「こ、こんにちわ! ヴァイスさんのお友達のデシルって言います!」

「あたし……わたくしはオーカって申しますの、ほほほっ……」

 ヴィエラのオーラに気おされてオーカが上品な口調になる。
 デシルもヴィエラから感じる強さに驚きつつもなんとかいつもの自分を保っていた。

「お友達……そうなのですね。それで、今日は何の用事でいらしたのですか?」

「ヴァイスさんを学園に連れ戻しに来ました」

「……あら、そう。わかりました。立ち話もなんですのでこちらへどうぞ」

 ヴィエラの後ろのついて歩き出す二人。
 移動中に魔法でお互いにしか聞こえないようにしてひそひそと話す。

「デ、デシルちゃんさぁ……大丈夫なの? あんなストレートにものを言って……」

「わかりません……。でも、そのために来たんですから言わないといけないんです」

「正直な話……戦いになったら勝てそう?」

「それもわかりません。でも、私が今まで出会った人の中では師匠に次いで二番くらいの雰囲気があります」

「それってヤバいじゃん……」

「もしかしてこの会話も筒抜けだったして……」

「ひーっ!」

 本当のところヴィエラには二人の会話が……まったく聞こえていなかった。
 彼女もまた娘の友達が家に来たという初めての経験にいっぱいいっぱいだった。

(人間の友達……本当にいたなんて! それもこんなところまで追いかけてくれる友達が! お母さん、うれしい!)

 ヴィエラは両方の頬に手を当てて身もだえる。
 デシルたちにはそれが震えて笑っているように見えて心底肝を冷やした。

(でも……あんな強い子が来るなんてビックリ! 怪物としか形容のしようがないわ! きっと勝てない! お母さん、怖い!)

 うつむいて胸の前で手を組むヴィエラ。
 デシルたちにはそれが湧きあがる殺意を抑え込んでいるように見えて冷や汗をかいた。

 そんなこんなで三人は談話室に入ってびくびくしつつ椅子に腰を下ろした。
 これから友達抜きで友達のお母さんとお話しするという気まずい空気必至の戦いが始まる。
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