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対決!王国騎士編

024 一番弟子、闇魔法を見る

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 闇魔法……それは光と対をなす希少属性。
 扱うには努力以上に才能が必要で熟練の騎士の中にも得意とする者はほぼいない。
 一応発動はできるが実戦で主軸に据えるレベルには達しないのだ。
 その闇魔法をいまヴァイスは平然と操っている。

「すべてを飲み込む暗黒の塊よ……我が命令に応え標的を消し去れ……暗闇球ダークスフィア……!」

 ヴァイスの放った漆黒の球体はデシルの作った石柱の的にヒット。
 石柱にはぽっかりと球体サイズの穴が開いた。

「ルチル先生の石柱を私なりに再現したものを簡単に破壊できるということは……」

「実技三位ってのは本当みたいだね……」

「ふふ……やっぱり疑ってた……?」

 闇属性となると生成したものを球体にして撃ち出す初歩的な魔法ですら常人には難しい。
 デシルですら闇魔法はあまり得意ではない。
 これは才能がどうこうというより、デシルが対となる光魔法を選んで鍛えてきたというのが大きい。

 通常ならばヴァイスのような才能のある者が仲間になって喜ぶところだ。
 しかし、デシルとオーカには昨日の夜の会話が頭をよぎっていた。

(ヴァンパイアは闇魔法を得意としている……)

 また一つヴァイスを人間ではないと証明する材料がそろってしまった。
 もちろん彼女の正体が何であれ、悪いことをしなければ差別するつもりはない。
 しかし、正体を隠してまで学園に入学した理由は気になる。
 デシルには目の前の美しい少女がよりミステリアスな存在に思えた。

「驚かせてしまったかしら……? デシルさん……」

「えっ! ああ、私のことはデシルでいいですよ! きっとヴァイスさんの方が年上だと思いますから!」

「私もまだ十四で相当若いけど……」

「こっちは十二ですから! オーカさんは十五なんで最年長ですね」

「あたしも呼び捨てで構わないよ。同級生だしね」

「私は『さん』をつけた方がしっくりくるので、誰にでも『さん』をつけて呼んでいます。だから気にしないでくださいね」

「わかった……。デシル……オーカ……私の闇魔法どうだった……?」

「そ、そうですね。私もあまり闇は使いこなせないんですが、知識はあります。今の初歩的に見える魔法すら実は普通の人には難しい技ですから、素直にすごいと思いました」

「ありがとう……。そういえばデシルは光魔法が得意とか……?」

「はい、一番得意なのは雷魔法ですけど、光を混ぜ込んでスピードとか貫通力を上げているんです。一応純粋な光魔法もそれなりに得意ですけどね」

「へー……見せてほしいなぁ……」

「いいですよ」

 デシルはスッと手のひらに光の球体を発生させる。

「あっ、的を作るの忘れてました」

「私が作る……。すべてを無に帰す暗黒の渦よ……我に仇なす力を消滅させろ……暗闇渦ダークホール……!」

 渦巻く暗闇がヴァイスの両手から発せられる。
 デシルは先ほどの球体よりも高度な闇魔法に驚きつつも、これなら自分の光魔法をぶつけても大丈夫だろうと安堵する。

「じゃ、行きますよー! それっ!」

 デシルが光球を放った。
 それは素直にまっすぐ進み、渦に飲み込まれた。

「よし……私の闇が勝った……!」

「ふふっ、それはどうですかねー」

 デシルの言葉通り、光は潰えてはいなかった。
 渦の中心から闇を切り裂いてどんどん外へと広がり、最後には闇をかき消すように激しく炸裂した。

「ぐっ……!」

 衝撃でヴァイスはよろけて地面に倒れる。
 デシルはすぐさま駆け寄って彼女の体を抱え起こす。

「す、すいません! 威力が強すぎたみたいで……」

「いえ……私は受け止めると言ったのよ……私が悪いわ……。光魔法としては初歩的な光球……しかも無詠唱であの威力……」

「無詠唱と言うより、詠唱というものがよくわかってないんですよね実は……。私の師匠ったら無口だからいっつも無言で魔法を撃ってくるんですよ。それをマネしてたら詠唱が出来なくなってました……。あっ、でも強い魔法の名前は叫ぶようにしてますね。その方が安定するし威力も上がるんです! それに必殺技みたいでかっこいいですし!」

「そう……私も試してみようかしら……」

「はい! ぜひ試してみてください!」

「ふふ……さあ……まだまだ私の魔法を見てもらわないと……うぅ……」

 ヴァイスはデシルの手を借りて立ち上がろうとするが、なかなか足腰に力が入らない。
 どこか大けがをさせてしまったのではないかとデシルの顔は青くなっていく。

「かっ、回復魔法を使いますか!? 外傷はなさそうなんですけど……」

「大丈夫……ちょっと貧血気味なだけ……。血が……血が足りてないのよ……」

「血……ですか?」

「そう……もう全然飲んで……いえいえいえ、食べてないから血が足りてないの……」

「あっ……そうなんですね! いやぁ~ダメですよぉ。若い時はちゃんと食べて栄養をつけないと! ヴァイスさんったらこんなに軽いんですから!」

 デシルはひょいっとヴァイスを抱きかかえる。
 いわゆるお姫様抱っこだ。

「ほんと飛んでっちゃいそうなくらい軽いです! ほら、オーカさんも抱っこしてみてください!」

「お、おう……」

 本人の意思などお構いなし。
 ひょいっとヴァイスをオーカに渡すデシル。

「うわぁ……ほんとだ。中身が入ってないんじゃないかってくらい軽いなぁ……」

「前にオーカさんを抱っこしたときはこの何倍もズッシリきましたもん!」

「それは私が太ってるって言いたいわけ?」

「いえいえ、むしろ世の女性が細すぎなんです! みんなオーカさんぐらいむっちりと肉をつけないといけないんですよ! 私はオーカさんの体が好きです!」

「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、『体が』って言われるとなんだか複雑な気分ね」

「性格もほんといい性格してると思いますよ!」

「なんか含みのある言い方ねぇ……。この際ハッキリ言いなさい! ちょっと気が荒いって思ってるんでしょ!?」

「あはは、ちょっとじゃ済みませんよ~」

「なぁに~!?」

 クスクス……クス……。
 ヴァイスを抱えたままじゃれあっていた二人は、彼女の消え入りそうな笑い声でハッと我に返る。

「二人は……いつもこんなことをやっているの……?」

「ご、ごめんなさい。はい、いつものクセで……。お怒りになるのはもっともです……」

「違うわ……。私は代表に立候補してよかったと……そう思ったから笑っていたのよ……」

「ええっ!? そうなんですか?」

「だって……とっても楽しいじゃない……。うふふ……」

 『人形のように抱きかかえられて振り回されたのが楽しかったのだろうか?』と、デシルとオーカは顔を見合わせる。
 しかし、本人が喜んでいるのならば良いのだろうと気持ちを切り替えた。

「とはいえ、今日はヴァイスを置いてけぼりで盛り上がっちゃったところが二回もあるからね。そこはちょっとあたしも反省してるよ。あたしたちはよく周りが見えなくなるって言われてるからさ」

「じゃあ……三人目の私がよく周りを見ればいい……。その代わり私は二人のようにエネルギッシュには動けないわ……。だから疲れたらこうやって運んでちょうだい……騎士ナイト様……」

「了解いたしましたお姫様。では、どちらに参りましょう?」

「そうね……。全然魔法を見せられてないけど、今日はもう疲れたから食堂に行ってエネルギーを補給したいわ……」

「かしこまりました!」

 腕に抱いたヴァイスに顔を近づけて芝居がかった喋り方をするオーカ。
 その珍しい姿にデシルは目を丸くする。

(こうやって新しい友達が増えると、今までの友達の新しい面も見えてくるんですね……)

 しみじみと二人を見つめるデシル。
 一時はどうなることかと思った親善試合代表メンバーもここに形を成した。

「で、ヴァイス姫様はお食事をご所望ですが、騎士デシルはどうされますか?」

「あ、私もそれに賛成です。ヴァイスさんの魔法と課題は大体見えましたし、ご飯でも食べながらお話ししますね」

「デシルは変わらないなぁ。もっとノリよく騎士ナイト様になりきってくれナイト……なんちゃって」

「そ、それは難題ですね……。ど、どうやればいいのでしょう?」

「ふふっ、そんなにまじめに考えることはないさ。まったくデシルはからかい甲斐があるねぇ!」

「もー、オーカさんったら!」

 ワイワイと騒ぎながら歩く三人の姿は、誰の目から見ても親しい友人に見えた。
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