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対決!王国騎士編
022 一番弟子、説得を試みる
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デシルとオーカがヴァイスを連れてやってきたのは学園内の談話室である。
いくつかのテーブルとイスが設置され、いつも快適な温度に保たれたここは生徒や教師の憩いの場となっている。
「で……コソコソつけまわしてまでしたかった話って……なに?」
「単刀直入に言います。ヴァイスさんに今度の王国騎士との親善試合に出場してほしいんです」
「どうして……?」
「え、それは……」
『あなたがクラスで孤立していて説得しやすそうだったからです』……などと言えば帰ってしまうのは目に見えている。
デシルはすぐに違う理由が思いついた。
「それはヴァイスさんが入試の時の実技試験で三位だったからです。やっぱり強い人に出てもらいたいので」
「ふぅん……それはそうよね……。理由はそれだけ……?」
「は、はい! もちろんですとも!」
「んー……」
ヴァイスは目をつぶって考え込んでいる。
すぐに断らないあたり脈があると思ったデシルはその間ずっと黙っていた。
しかし、オーカは耐えられなかった。
「あのさ、どうでもいい事なんだけど、ヴァイスってずっと赤いマフラーを首に巻いてるよね。授業中もそうだし。誰も注意しないからあたしも気にしてなかったけど、なにか理由があるの?」
「オ、オーカさん……!」
なんとなくデシルにはそれが触れない方が良いことのように思えた。
理屈ではなく勘である。
「んー……そうね……。私が極度に寒がりだから……って言ったら納得する……?」
「嘘くさいと思っちゃう」
「正直な人……」
ヴァイスはまた押し黙る。
今度はオーカも次に彼女が口を開くまで沈黙を守った。
「明日……授業の前に答えを伝えるわ……。一晩考えさせてちょうだい……。大丈夫、明日には必ず言うから……。今日はこれで失礼するわ……」
「あ、あの! 何か不快な思いをさせてしまったのなら……」
「大丈夫……。なにも気にしてないわ……。本当はクラスのみんな気になっていることだと思うから……。では、二人とも良い夜を……」
止める間もなくヴァイスは去っていった。
「あたし、なにかまずいこと言っちゃった?」
「いえ、なんとなく私がまずいかなと思っただけです。こちらこそすいません」
「いや、いいんだよ。あたしよくデリカシーがないって言われるからね。止めないといけないと思った時は止めてくれた方が助かる。で、これからどうしようかデシルちゃん?」
「……寮に行きましょう。私の部屋で作戦会議です」
「もしヴァイスに断られた時のために?」
「それもありますが、ヴァイスさんについてちょっと気になることがあったので……。あまり人のいるところで話したくありません。移動しましょう」
「なになに? 二人だけの秘密とかめっちゃドキドキするんだけど……!」
ヴァイスに続くように二人も談話室から去った。
● ● ●
「うわー、ここがデシルちゃんの部屋かぁ……ってあたしの部屋と変わらないんだけどさ」
デシルの部屋に来たオーカは椅子にどっかりと座る。
同じOクラスなので家具も一緒。椅子も座り慣れている。
「で、人のいるところで話せないことって何なの?」
「正直確証はないので、オーカさんに話すかも悩むところなんですけど……」
「いいよいいよ、言っちゃいなよ。みんなに言いふらしたりはしないからさ」
「……もしかしたら、ヴァイスさんは人間じゃないかも?」
「うん? えええええええええっ!?」
オーカは驚いて椅子から転げ落ちかける。
何とか踏ん張ってからデシルへと向き直った。
「じゃあ、あの子は何なのさ!?」
「吸血鬼……ヴァンパイアですかね」
「ヴァンパイアって……とんでもなく危険なモンスターじゃないか!」
「それは少し違いますよオーカさん。ヴァンパイアはある意味人間と同じで、一人一人生き方や考え方が違います。危険な人もいれば、心優しく穏やかな人もいる。すべてが人間の敵対種族とは定められていません」
「く、詳しいなぁ……」
「師匠から敵対する可能性がある生物の知識は叩きこまれています。敵の情報を知ることは、自らを鍛えることと同じくらい勝利につながると師匠は言っていましたから」
「それは納得できるね……。あたしも勉強しないとなぁ……。まあ、それは置いといて、なんでヴァイスがヴァンパイアだと思ったの?」
「まあ、見た目でまず疑い始めましたね。白い肌に赤い目とか有名ですし。あとはマフラーの中に隠されていた牙です」
「牙が見えたの!?」
「はい、オーカさんがいないとき彼女が大きなあくびをしたんですよ。その拍子に見えちゃいました」
「それは人間っぽくないなぁ……ってかもう完全にヴァンパイアじゃん!」
「ただ、一番の特徴がみられないんですよ」
「一番の特徴って?」
「ヴァイスさんは日光を浴びても平気なんです」
ヴァンパイアのわかりやすい特徴の一つは『吸血』。
人間の血を吸わねば生きられない。
動物の血でしばらく紛らわすことも出来るが、それでは種族として優れた能力が発揮できなくなっていく。
もう一つは『日光が弱点』であるということ。
火の光などではなく『太陽の光』や『日光を再現した高度な光魔法』に弱いのだ。
浴びると一瞬で灰に……なることはないが、皮膚がひどく焼けただれていく。
これは根性で耐えられるものではない。
ゆえにヴァンパイアは夜行性だ。
「ヴァイスさんは間違いなく日の光を浴びていました。今日だってそうです。でも、まるで苦しむそぶりは見せませんでしたし、お肌も綺麗でした。ヴァンパイアとしてはあり得ないことです。だからオーカさんにこの話をするのを渋っていたんです」
「日の光を浴びても平気なヴァンパイアか……。確かにおかしなことよね。でも、あたし昼間にヴァンパイアが出たって話も聞いたことがある。なにか方法があるんじゃない?」
「はい、あります」
「あるんだ……」
「闇魔法を体全体にまとうんです。それで日の光をシャットアウトします。ただ、闇魔法は高度な技術が必要なうえ、魔力の消費が激しいです。とても日常的に使い続けることは出来ません。あくまでも緊急用です。もちろんヴァイスさんも使っていませんでした」
闇魔法を展開してれば黒いオーラが出るためすぐにわかる。
巧みに隠ぺいしていてもデシルの目はそうそう騙せないはずだ。
「正直可能性は五分五分です。ヴァイスさんはただ肌がとっても白くて目が赤くて、歯が鋭くて朝起きるのが苦手な人間かもしれません。何よりあれだけ見た目からヴァンパイア感が漂ってるのに学園長先生が素通りさせるとは思いませんし」
「確かに一回は素性を調べるよねぇ……。でも、調べたうえで素通りさせた可能性って……ない?」
「あ……あの学園長ならその可能性もあるかもしれませんね。でも、そうだとしても日光を浴びても平気な理由がわかりません。うーん、困りました」
「まっ、どちらにせよヴァイスがクラスメートなのは間違いないさ。それも優秀なね。人間か、ヴァンパイアか……今はどっちでもいいと思わない?」
「そうですね。もとから種族は関係ありません。クラスメートとして明日いいお返事がもらえることを願いましょう!」
その後、二人はしばらくおしゃべりをしてから別れた。
断られた場合の方針を考えておこうという予定だったが、どちらともなくその話題は出さなかった。
性格もまだよく知らない。
接点なんて挨拶の時に話しかけてくれた事だけだ。
それでも二人はヴァイスからいい返事をもらえることを信じていた。
いくつかのテーブルとイスが設置され、いつも快適な温度に保たれたここは生徒や教師の憩いの場となっている。
「で……コソコソつけまわしてまでしたかった話って……なに?」
「単刀直入に言います。ヴァイスさんに今度の王国騎士との親善試合に出場してほしいんです」
「どうして……?」
「え、それは……」
『あなたがクラスで孤立していて説得しやすそうだったからです』……などと言えば帰ってしまうのは目に見えている。
デシルはすぐに違う理由が思いついた。
「それはヴァイスさんが入試の時の実技試験で三位だったからです。やっぱり強い人に出てもらいたいので」
「ふぅん……それはそうよね……。理由はそれだけ……?」
「は、はい! もちろんですとも!」
「んー……」
ヴァイスは目をつぶって考え込んでいる。
すぐに断らないあたり脈があると思ったデシルはその間ずっと黙っていた。
しかし、オーカは耐えられなかった。
「あのさ、どうでもいい事なんだけど、ヴァイスってずっと赤いマフラーを首に巻いてるよね。授業中もそうだし。誰も注意しないからあたしも気にしてなかったけど、なにか理由があるの?」
「オ、オーカさん……!」
なんとなくデシルにはそれが触れない方が良いことのように思えた。
理屈ではなく勘である。
「んー……そうね……。私が極度に寒がりだから……って言ったら納得する……?」
「嘘くさいと思っちゃう」
「正直な人……」
ヴァイスはまた押し黙る。
今度はオーカも次に彼女が口を開くまで沈黙を守った。
「明日……授業の前に答えを伝えるわ……。一晩考えさせてちょうだい……。大丈夫、明日には必ず言うから……。今日はこれで失礼するわ……」
「あ、あの! 何か不快な思いをさせてしまったのなら……」
「大丈夫……。なにも気にしてないわ……。本当はクラスのみんな気になっていることだと思うから……。では、二人とも良い夜を……」
止める間もなくヴァイスは去っていった。
「あたし、なにかまずいこと言っちゃった?」
「いえ、なんとなく私がまずいかなと思っただけです。こちらこそすいません」
「いや、いいんだよ。あたしよくデリカシーがないって言われるからね。止めないといけないと思った時は止めてくれた方が助かる。で、これからどうしようかデシルちゃん?」
「……寮に行きましょう。私の部屋で作戦会議です」
「もしヴァイスに断られた時のために?」
「それもありますが、ヴァイスさんについてちょっと気になることがあったので……。あまり人のいるところで話したくありません。移動しましょう」
「なになに? 二人だけの秘密とかめっちゃドキドキするんだけど……!」
ヴァイスに続くように二人も談話室から去った。
● ● ●
「うわー、ここがデシルちゃんの部屋かぁ……ってあたしの部屋と変わらないんだけどさ」
デシルの部屋に来たオーカは椅子にどっかりと座る。
同じOクラスなので家具も一緒。椅子も座り慣れている。
「で、人のいるところで話せないことって何なの?」
「正直確証はないので、オーカさんに話すかも悩むところなんですけど……」
「いいよいいよ、言っちゃいなよ。みんなに言いふらしたりはしないからさ」
「……もしかしたら、ヴァイスさんは人間じゃないかも?」
「うん? えええええええええっ!?」
オーカは驚いて椅子から転げ落ちかける。
何とか踏ん張ってからデシルへと向き直った。
「じゃあ、あの子は何なのさ!?」
「吸血鬼……ヴァンパイアですかね」
「ヴァンパイアって……とんでもなく危険なモンスターじゃないか!」
「それは少し違いますよオーカさん。ヴァンパイアはある意味人間と同じで、一人一人生き方や考え方が違います。危険な人もいれば、心優しく穏やかな人もいる。すべてが人間の敵対種族とは定められていません」
「く、詳しいなぁ……」
「師匠から敵対する可能性がある生物の知識は叩きこまれています。敵の情報を知ることは、自らを鍛えることと同じくらい勝利につながると師匠は言っていましたから」
「それは納得できるね……。あたしも勉強しないとなぁ……。まあ、それは置いといて、なんでヴァイスがヴァンパイアだと思ったの?」
「まあ、見た目でまず疑い始めましたね。白い肌に赤い目とか有名ですし。あとはマフラーの中に隠されていた牙です」
「牙が見えたの!?」
「はい、オーカさんがいないとき彼女が大きなあくびをしたんですよ。その拍子に見えちゃいました」
「それは人間っぽくないなぁ……ってかもう完全にヴァンパイアじゃん!」
「ただ、一番の特徴がみられないんですよ」
「一番の特徴って?」
「ヴァイスさんは日光を浴びても平気なんです」
ヴァンパイアのわかりやすい特徴の一つは『吸血』。
人間の血を吸わねば生きられない。
動物の血でしばらく紛らわすことも出来るが、それでは種族として優れた能力が発揮できなくなっていく。
もう一つは『日光が弱点』であるということ。
火の光などではなく『太陽の光』や『日光を再現した高度な光魔法』に弱いのだ。
浴びると一瞬で灰に……なることはないが、皮膚がひどく焼けただれていく。
これは根性で耐えられるものではない。
ゆえにヴァンパイアは夜行性だ。
「ヴァイスさんは間違いなく日の光を浴びていました。今日だってそうです。でも、まるで苦しむそぶりは見せませんでしたし、お肌も綺麗でした。ヴァンパイアとしてはあり得ないことです。だからオーカさんにこの話をするのを渋っていたんです」
「日の光を浴びても平気なヴァンパイアか……。確かにおかしなことよね。でも、あたし昼間にヴァンパイアが出たって話も聞いたことがある。なにか方法があるんじゃない?」
「はい、あります」
「あるんだ……」
「闇魔法を体全体にまとうんです。それで日の光をシャットアウトします。ただ、闇魔法は高度な技術が必要なうえ、魔力の消費が激しいです。とても日常的に使い続けることは出来ません。あくまでも緊急用です。もちろんヴァイスさんも使っていませんでした」
闇魔法を展開してれば黒いオーラが出るためすぐにわかる。
巧みに隠ぺいしていてもデシルの目はそうそう騙せないはずだ。
「正直可能性は五分五分です。ヴァイスさんはただ肌がとっても白くて目が赤くて、歯が鋭くて朝起きるのが苦手な人間かもしれません。何よりあれだけ見た目からヴァンパイア感が漂ってるのに学園長先生が素通りさせるとは思いませんし」
「確かに一回は素性を調べるよねぇ……。でも、調べたうえで素通りさせた可能性って……ない?」
「あ……あの学園長ならその可能性もあるかもしれませんね。でも、そうだとしても日光を浴びても平気な理由がわかりません。うーん、困りました」
「まっ、どちらにせよヴァイスがクラスメートなのは間違いないさ。それも優秀なね。人間か、ヴァンパイアか……今はどっちでもいいと思わない?」
「そうですね。もとから種族は関係ありません。クラスメートとして明日いいお返事がもらえることを願いましょう!」
その後、二人はしばらくおしゃべりをしてから別れた。
断られた場合の方針を考えておこうという予定だったが、どちらともなくその話題は出さなかった。
性格もまだよく知らない。
接点なんて挨拶の時に話しかけてくれた事だけだ。
それでも二人はヴァイスからいい返事をもらえることを信じていた。
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