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対決!王国騎士編
020 一番弟子、最初の学校行事
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「あ、そうだそうだ。言うのを忘れるところだったけど、五月の初めにデルフィニウム王国騎士団との親善試合があるので、そろそろ代表メンバーを募りたいと思うのだけれど……」
ある日の終礼の最後の最後でルチルはそう言った。
いつも通り放課後を楽しもうとしていたデシルとオーカは顔を見合わせる。
「ルチル先生、その親善試合って何ですか?」
「ああ、すまない。一から説明するとね……」
自由騎士はどこの国にも属さず活動できるが、結局活動する場所はどこかの国である。
学園も同様にどこかの国の土地に建てられている。
オーキッド自由騎士学園の場合はデルフィニウム王国だ。
王国とは切っても切れない縁があるし、友好的でなければならない。
そこで王国と学園の間でいくつかのイベントが用意されたのだ。
その一つが今回の『王国騎士との親善試合』である。
優秀な生徒三人を選出し、王国騎士との模擬戦を行うだけのシンプルなイベント。
これは毎年行われている。
「ただ戦うだけ……ですか」
「まあ、王国騎士と生徒がそれぞれ日々の鍛錬の成果を王の前で披露するというのが一応の目的だと思ってくれたまえ」
「でも、なんかおかしくない?」
疑問を投げかけたのはオーカだ。
戦いの話とあっては普段授業を聞き流しがちのオーカもよく聞いている。
「親善試合が五月ってことは、一年生が学んだ時間は一か月程度……。とても本職の王国騎士に勝てるとは思わないんだけど。あたしやデシルちゃんの場合は違うかもしれないけどね」
「あちら側もまだ未熟な若手の騎士を用意している……という話ではあるよ」
「ふーん、そう……」
ルチルにしては歯切れの悪い言葉にオーカは何かを察する。
おそらくこの親善試合は学園の生徒側に不利に作られているのだろう。
「デシルちゃん、やるかい?」
「もちろんです!」
二人は参加の意思を表明する。
もちろん異議を唱える者はいない。
「これで二人埋まった! 三人目になりたいって奴がいたら放課後校庭に来な! 人数が多かったらあたしたちがテストして代表を決める!」
「こらこらオーカくん、勝手に決めないでくれたまえ……と言いたいところだけど、生徒たち主導で決めるというのも良いかもしれないね。代表になりたいという人は放課後オーカくんのところに集まってくれたまえ。また、トラブルがあったら私のもとに来るように。ケガ人は出さないようにね」
「戦闘能力が重要だからなぁ……。模擬戦をやって力を試さないといけないから、ちょっと痛い目は見ると思ってくれないと困るよ。なぁに、死なない限りデシルちゃんが治してくれるよ! な、デシルちゃん?」
「再生魔法は不安定ですから、腕とか脚が飛んだ時はちゃんと飛んでった方を持ってきてくださいね。くっつけるのは簡単ですから」
「だってさ! それじゃあOクラス張り切っていくよ!」
「おー!」
● ● ●
「誰もこねー!!」
放課後、校庭の片隅でオーカは叫んだ。
校庭には遠くで部活をやっている生徒が見えるが、デシルとオーカのもとに集まってくる生徒は皆無だった。
「なんで誰も来ないんだよデシルちゃん!? 場所がわからないとか?」
「それはないと思います。私ちゃんと集合場所を書いたプリントを教室の後ろの黒板に貼ってきましたから……」
「じゃあ、都合が悪かったとか? 確かに今日いきなり集まれってのは、予定入れてる人にとっては理不尽か……」
「オーカさん……そもそも最後の『おー!』に反応してくれたの私とルチル先生だけでしたし、みんな興味がないか怖気づいているのかもしれません。代表になりたくても予定があるのならここに来る前の教室で私たちに言えばいいですし」
「う、うーん……そうなのかも?」
「あとは私たち人が集まらないからって、ここに結界を張って手合わせしてましたよね」
「うん、相変わらずデシルちゃんは強すぎて私まったくかなわなかったなぁ……。でも、やっぱデシルちゃんとの戦いは楽しいよ。いろいろ教えてくれるし強くなってる気がする!」
「そう言ってもらえると私も嬉しいんですが、私たちの戦いってはたから見ると結構恐ろしい光景じゃありませんか? オーカさんメテオも使ってましたし、私も雷バチバチさせてましたし」
「た、確かに……」
「もしかしたらですよ? 興味があってちょっと話を聞いてみようかなぁーって人が私とオーカさんの戦いを見てしまったら、怖くて帰ってしまうかもしれません。というか帰ったのかも……」
「そりゃ……悪いことしたなぁ……」
「私もオーカさんと戦うのが楽しくて全然そこらへんに気が回りませんでした。すぐ周りが見えなくなると師匠に言われていたのになかなか治りません……」
「今日はもう引き上げて、明日朝礼の時に確認を取るとしようか」
「そうしましょう」
日は傾き赤くなりつつある。
もう流石に人はこないだろう思った二人は校舎の中へと引き上げ、早めの夕食をとるために食堂へと向かった。
人を待っていただけだったはずが、暇つぶしの模擬戦でへとへとになってしまったのでガッツリと重いもの食べる。
デシルはステーキにライスを何度もおかわり、オーカはビーフシチューにパンを浸したりしつつ何個も食べた。
「オーカさん、もし明日誰も代表に立候補してくれなかったらどうしましょう……」
「うーん、なんかクラスには大人しい子が多いし、ありえそうなんだよなぁ」
「その場合は無理やり引っ張り出すことになるんでしょうか? それともAクラスから選ぶんでしょうか?」
優秀な者を選出するならばOクラス三人が当然だが、みんな嫌だと言うならば一個下のAクラスからやる気がある者を選出する方が良いのではないかとデシルは思った。
しかし、それに対してオーカは首を横に振った。
「諦めるにはまだ早い! どう考えてもOクラスの生徒を選んだ方が良いって!」
「でも、強制はできませんよ……」
「こっちからのお願いはできる! 秘策もあるしな……ふっふっふっ」
オーカは不敵な笑みを浮かべる。
なぜかあまり信用できないような雰囲気を感じ取ったデシルだが、自分には作戦が思いつかない。
明日からはオーカの秘策に乗っかることにし、二人は食堂から寮へと帰っていった。
ある日の終礼の最後の最後でルチルはそう言った。
いつも通り放課後を楽しもうとしていたデシルとオーカは顔を見合わせる。
「ルチル先生、その親善試合って何ですか?」
「ああ、すまない。一から説明するとね……」
自由騎士はどこの国にも属さず活動できるが、結局活動する場所はどこかの国である。
学園も同様にどこかの国の土地に建てられている。
オーキッド自由騎士学園の場合はデルフィニウム王国だ。
王国とは切っても切れない縁があるし、友好的でなければならない。
そこで王国と学園の間でいくつかのイベントが用意されたのだ。
その一つが今回の『王国騎士との親善試合』である。
優秀な生徒三人を選出し、王国騎士との模擬戦を行うだけのシンプルなイベント。
これは毎年行われている。
「ただ戦うだけ……ですか」
「まあ、王国騎士と生徒がそれぞれ日々の鍛錬の成果を王の前で披露するというのが一応の目的だと思ってくれたまえ」
「でも、なんかおかしくない?」
疑問を投げかけたのはオーカだ。
戦いの話とあっては普段授業を聞き流しがちのオーカもよく聞いている。
「親善試合が五月ってことは、一年生が学んだ時間は一か月程度……。とても本職の王国騎士に勝てるとは思わないんだけど。あたしやデシルちゃんの場合は違うかもしれないけどね」
「あちら側もまだ未熟な若手の騎士を用意している……という話ではあるよ」
「ふーん、そう……」
ルチルにしては歯切れの悪い言葉にオーカは何かを察する。
おそらくこの親善試合は学園の生徒側に不利に作られているのだろう。
「デシルちゃん、やるかい?」
「もちろんです!」
二人は参加の意思を表明する。
もちろん異議を唱える者はいない。
「これで二人埋まった! 三人目になりたいって奴がいたら放課後校庭に来な! 人数が多かったらあたしたちがテストして代表を決める!」
「こらこらオーカくん、勝手に決めないでくれたまえ……と言いたいところだけど、生徒たち主導で決めるというのも良いかもしれないね。代表になりたいという人は放課後オーカくんのところに集まってくれたまえ。また、トラブルがあったら私のもとに来るように。ケガ人は出さないようにね」
「戦闘能力が重要だからなぁ……。模擬戦をやって力を試さないといけないから、ちょっと痛い目は見ると思ってくれないと困るよ。なぁに、死なない限りデシルちゃんが治してくれるよ! な、デシルちゃん?」
「再生魔法は不安定ですから、腕とか脚が飛んだ時はちゃんと飛んでった方を持ってきてくださいね。くっつけるのは簡単ですから」
「だってさ! それじゃあOクラス張り切っていくよ!」
「おー!」
● ● ●
「誰もこねー!!」
放課後、校庭の片隅でオーカは叫んだ。
校庭には遠くで部活をやっている生徒が見えるが、デシルとオーカのもとに集まってくる生徒は皆無だった。
「なんで誰も来ないんだよデシルちゃん!? 場所がわからないとか?」
「それはないと思います。私ちゃんと集合場所を書いたプリントを教室の後ろの黒板に貼ってきましたから……」
「じゃあ、都合が悪かったとか? 確かに今日いきなり集まれってのは、予定入れてる人にとっては理不尽か……」
「オーカさん……そもそも最後の『おー!』に反応してくれたの私とルチル先生だけでしたし、みんな興味がないか怖気づいているのかもしれません。代表になりたくても予定があるのならここに来る前の教室で私たちに言えばいいですし」
「う、うーん……そうなのかも?」
「あとは私たち人が集まらないからって、ここに結界を張って手合わせしてましたよね」
「うん、相変わらずデシルちゃんは強すぎて私まったくかなわなかったなぁ……。でも、やっぱデシルちゃんとの戦いは楽しいよ。いろいろ教えてくれるし強くなってる気がする!」
「そう言ってもらえると私も嬉しいんですが、私たちの戦いってはたから見ると結構恐ろしい光景じゃありませんか? オーカさんメテオも使ってましたし、私も雷バチバチさせてましたし」
「た、確かに……」
「もしかしたらですよ? 興味があってちょっと話を聞いてみようかなぁーって人が私とオーカさんの戦いを見てしまったら、怖くて帰ってしまうかもしれません。というか帰ったのかも……」
「そりゃ……悪いことしたなぁ……」
「私もオーカさんと戦うのが楽しくて全然そこらへんに気が回りませんでした。すぐ周りが見えなくなると師匠に言われていたのになかなか治りません……」
「今日はもう引き上げて、明日朝礼の時に確認を取るとしようか」
「そうしましょう」
日は傾き赤くなりつつある。
もう流石に人はこないだろう思った二人は校舎の中へと引き上げ、早めの夕食をとるために食堂へと向かった。
人を待っていただけだったはずが、暇つぶしの模擬戦でへとへとになってしまったのでガッツリと重いもの食べる。
デシルはステーキにライスを何度もおかわり、オーカはビーフシチューにパンを浸したりしつつ何個も食べた。
「オーカさん、もし明日誰も代表に立候補してくれなかったらどうしましょう……」
「うーん、なんかクラスには大人しい子が多いし、ありえそうなんだよなぁ」
「その場合は無理やり引っ張り出すことになるんでしょうか? それともAクラスから選ぶんでしょうか?」
優秀な者を選出するならばOクラス三人が当然だが、みんな嫌だと言うならば一個下のAクラスからやる気がある者を選出する方が良いのではないかとデシルは思った。
しかし、それに対してオーカは首を横に振った。
「諦めるにはまだ早い! どう考えてもOクラスの生徒を選んだ方が良いって!」
「でも、強制はできませんよ……」
「こっちからのお願いはできる! 秘策もあるしな……ふっふっふっ」
オーカは不敵な笑みを浮かべる。
なぜかあまり信用できないような雰囲気を感じ取ったデシルだが、自分には作戦が思いつかない。
明日からはオーカの秘策に乗っかることにし、二人は食堂から寮へと帰っていった。
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