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始まりの学園生活編
018 一番弟子、けだるい午後の教室
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規則正しく黒板に文字を書き記すチョークの音が教室に響く。
午前、あれだけ団結した一年Oクラス……。
今となってはそのほとんどが居眠りをしていた。
「………諸君、午前の授業を頑張ったのは理解しているし、昼食を食べてお腹いっぱいになったから眠くなるのもわかるのだけど、流石みんながみんな居眠りされると私も悲しいなぁ」
ルチルの嘆きは眠気に耐えて起きているものにしか届かない。
午後は教室で座学だった。
Oクラスは授業中騒ぐ者もいないため非常に静か。
唯一聞こえるルチルの声は非常に穏やかで耳触りが良く、眠りを妨げるどころか子守唄として最適だった。
結果として午前の実戦形式の試験で気力を使い果たしてしまった生徒たちは、地の利を得た睡魔に打ち勝つことができなかったのだ。
「くっ……私の時間割の組み方が悪かったようだね。反省しないとなぁ……」
ルチルはもはや寝ている者を起こすことを諦めている。
体の疲れや魔力の不足から来る眠気を吹き飛ばすには手荒い方法しかないからだ。
それは成長途中の若い体には良くない。
幸い今回の授業はこれからの授業の進め方を説明しているだけなので、聞いてきなくてもさほど問題ない。
あとで友達に聞くか、内容をまとめたプリント一枚でなんとかなる。
「それにしてもデシルくんはすごいね。君だけだよ居眠りしてないのは。やっぱり君にとってあの程度の魔法は余裕なのかい?」
この教室で唯一シャッキリ起きているデシルはノートから目を離してルチルを見る。
確かにその目からは眠気を感じられない。
「いえ、本気に近い魔法でした。でも、スタミナには自信がありますから、あれで何か疲れて眠くなるようなことはありません」
「流石だね。師匠との修行の時もそんな感じだったのかい?」
「師匠は睡眠時間はいつも十分に与えてくれる人でした。それでも修行はハードなので、途中で眠たくなることもありました。ただ、修行中に眠たそうにしてたり、やる気のなさを見せると修行は打ち切られてしまうので必死に耐えてました」
「それは厳しいね……。長くそんな環境にいたら私のつまらない授業でも居眠りしない子になるんだろうねぇ……」
「つ、つまらなくなんてありません! 私はそれだけルチル先生の授業を受けたいんです! 座学は今まで全部自習でしたから誰かから教えてもらえることが嬉しいんです! みんなだってつまらないから寝てるというより、ただ疲れて寝ているだけだと思います!」
「すまない……気を遣わせてしまって。まあ、この年頃の子たちは理由もなく眠くなることもあるから、多少の居眠りは気にしないようにしようと思うんだけど、今回は理由が明白だからね……。私もまだまだだ。起こすのも教師の役目だと思うんだけど、幸せそうな寝顔を見てるとそれも辛いものだ……」
教師になって長くないルチルからすれば生徒たちは子ども……とはいかないが、弟や妹のように思えることもある。
逆に考えれば、ルチルはまだそれだけ若い。
二十代前半で見た目的にもギリギリ制服を着こなせそうな彼女がすでにAランク自由騎士を経験し、教師としてオーキッド学園のOクラスを担当しているのはすごい事なのだ。
しかし、教師としてはまだまだこれからだ。
「ふわぁ……」
そんなルチルが大きなあくびをした。
手で口を押さえた後、顔を赤らめながら「失礼……」とつぶやく。
「先生も眠たい年頃ですか?」
「ははは、もうそんな歳ではないかな。もう二十四だし、十二歳のデシル君より一回りも上だ。ただ、少し昨日の仕事の疲れが出たのかもね。そういう意味ではなかなか疲れが取れない眠たい年頃になってきたのかも」
「そうですよね……。来年は二十五歳になるってことは、四捨五入したら三十歳です。アラサーって言うんですよね?」
デシルはただ使ったことがない言葉を使ってみたかっただけなのだ。
しかし、その何気ない一言は投げかけられた方によく効いた。
「うぐぅ!」
ルチルが手に持ったチョークを取り落とす。
カツンッとチョークが床に落ちて砕けた。
「そういえば……そうなのか……。若い頃はただ一歳の違いを気にする大人たちのことがわからなかったけど、今自分も同じ立場になると、その気持ちが痛いほどわかるよ……うぅ……」
かなり派手に落ち込むルチルを見て、デシルは『やってしまった!』という気持ちでいっぱいになった!
ルチルだって年頃の女性だ。
年齢の話題は気を付けて切り出さなければならない。
デシルも戦闘能力は高くてもそのあたりがまだまだだった。
(なにが『そうですよね……』よ! そこはちゃんと『先生はまだまだ若いです!』って言わないとダメだったのに! でも、まさかルチル先生でも年齢は気にしているなんて……。どんな女性に対しても年齢のことはデリケートに扱わないといけませんね! 私もちょっと魔法ができるからって調子に乗ってはダメ! もっと常識を学ばないと! そのために師匠は私をここに送り出したんですから!)
ここでデシルに一つの疑問が浮かぶ。
(そういえば師匠も年齢とか気にしてるんでしょうか……? もう人間の限界を突破していそうな気がしますし気にしてないのかな? でも師匠だって女性ですし……。もしかして、食事中とかに師匠の年齢をネタに会話してた時も傷ついてたりして!? どうしよう……今すぐ答えを聞きたい……)
今すぐ紙を取り出して手紙を書きたい衝動に襲われるデシル。
しかし、今は授業中だ。そんなことをしてはいけない。いやでも……。
あれほど熱く団結したOクラスも数時間後には授業もままならない状態になっていた。
まだまだ学園生活はこれから。
ここから団結したり分裂したりして生徒たちは成長していく……のかもしれない。
午前、あれだけ団結した一年Oクラス……。
今となってはそのほとんどが居眠りをしていた。
「………諸君、午前の授業を頑張ったのは理解しているし、昼食を食べてお腹いっぱいになったから眠くなるのもわかるのだけど、流石みんながみんな居眠りされると私も悲しいなぁ」
ルチルの嘆きは眠気に耐えて起きているものにしか届かない。
午後は教室で座学だった。
Oクラスは授業中騒ぐ者もいないため非常に静か。
唯一聞こえるルチルの声は非常に穏やかで耳触りが良く、眠りを妨げるどころか子守唄として最適だった。
結果として午前の実戦形式の試験で気力を使い果たしてしまった生徒たちは、地の利を得た睡魔に打ち勝つことができなかったのだ。
「くっ……私の時間割の組み方が悪かったようだね。反省しないとなぁ……」
ルチルはもはや寝ている者を起こすことを諦めている。
体の疲れや魔力の不足から来る眠気を吹き飛ばすには手荒い方法しかないからだ。
それは成長途中の若い体には良くない。
幸い今回の授業はこれからの授業の進め方を説明しているだけなので、聞いてきなくてもさほど問題ない。
あとで友達に聞くか、内容をまとめたプリント一枚でなんとかなる。
「それにしてもデシルくんはすごいね。君だけだよ居眠りしてないのは。やっぱり君にとってあの程度の魔法は余裕なのかい?」
この教室で唯一シャッキリ起きているデシルはノートから目を離してルチルを見る。
確かにその目からは眠気を感じられない。
「いえ、本気に近い魔法でした。でも、スタミナには自信がありますから、あれで何か疲れて眠くなるようなことはありません」
「流石だね。師匠との修行の時もそんな感じだったのかい?」
「師匠は睡眠時間はいつも十分に与えてくれる人でした。それでも修行はハードなので、途中で眠たくなることもありました。ただ、修行中に眠たそうにしてたり、やる気のなさを見せると修行は打ち切られてしまうので必死に耐えてました」
「それは厳しいね……。長くそんな環境にいたら私のつまらない授業でも居眠りしない子になるんだろうねぇ……」
「つ、つまらなくなんてありません! 私はそれだけルチル先生の授業を受けたいんです! 座学は今まで全部自習でしたから誰かから教えてもらえることが嬉しいんです! みんなだってつまらないから寝てるというより、ただ疲れて寝ているだけだと思います!」
「すまない……気を遣わせてしまって。まあ、この年頃の子たちは理由もなく眠くなることもあるから、多少の居眠りは気にしないようにしようと思うんだけど、今回は理由が明白だからね……。私もまだまだだ。起こすのも教師の役目だと思うんだけど、幸せそうな寝顔を見てるとそれも辛いものだ……」
教師になって長くないルチルからすれば生徒たちは子ども……とはいかないが、弟や妹のように思えることもある。
逆に考えれば、ルチルはまだそれだけ若い。
二十代前半で見た目的にもギリギリ制服を着こなせそうな彼女がすでにAランク自由騎士を経験し、教師としてオーキッド学園のOクラスを担当しているのはすごい事なのだ。
しかし、教師としてはまだまだこれからだ。
「ふわぁ……」
そんなルチルが大きなあくびをした。
手で口を押さえた後、顔を赤らめながら「失礼……」とつぶやく。
「先生も眠たい年頃ですか?」
「ははは、もうそんな歳ではないかな。もう二十四だし、十二歳のデシル君より一回りも上だ。ただ、少し昨日の仕事の疲れが出たのかもね。そういう意味ではなかなか疲れが取れない眠たい年頃になってきたのかも」
「そうですよね……。来年は二十五歳になるってことは、四捨五入したら三十歳です。アラサーって言うんですよね?」
デシルはただ使ったことがない言葉を使ってみたかっただけなのだ。
しかし、その何気ない一言は投げかけられた方によく効いた。
「うぐぅ!」
ルチルが手に持ったチョークを取り落とす。
カツンッとチョークが床に落ちて砕けた。
「そういえば……そうなのか……。若い頃はただ一歳の違いを気にする大人たちのことがわからなかったけど、今自分も同じ立場になると、その気持ちが痛いほどわかるよ……うぅ……」
かなり派手に落ち込むルチルを見て、デシルは『やってしまった!』という気持ちでいっぱいになった!
ルチルだって年頃の女性だ。
年齢の話題は気を付けて切り出さなければならない。
デシルも戦闘能力は高くてもそのあたりがまだまだだった。
(なにが『そうですよね……』よ! そこはちゃんと『先生はまだまだ若いです!』って言わないとダメだったのに! でも、まさかルチル先生でも年齢は気にしているなんて……。どんな女性に対しても年齢のことはデリケートに扱わないといけませんね! 私もちょっと魔法ができるからって調子に乗ってはダメ! もっと常識を学ばないと! そのために師匠は私をここに送り出したんですから!)
ここでデシルに一つの疑問が浮かぶ。
(そういえば師匠も年齢とか気にしてるんでしょうか……? もう人間の限界を突破していそうな気がしますし気にしてないのかな? でも師匠だって女性ですし……。もしかして、食事中とかに師匠の年齢をネタに会話してた時も傷ついてたりして!? どうしよう……今すぐ答えを聞きたい……)
今すぐ紙を取り出して手紙を書きたい衝動に襲われるデシル。
しかし、今は授業中だ。そんなことをしてはいけない。いやでも……。
あれほど熱く団結したOクラスも数時間後には授業もままならない状態になっていた。
まだまだ学園生活はこれから。
ここから団結したり分裂したりして生徒たちは成長していく……のかもしれない。
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