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始まりの学園生活編

013 一番弟子、OVERクラス

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 波乱の入学式を終えた後、新入生たちはそれぞれのクラスへと移動していた。
 オーキッド自由騎士学園には一学年に三つのクラスが存在する。

 一つ目はBasicベーシッククラス。
 通称Bクラスと呼ばれるこのクラスは基礎クラス。
 言い方に気を遣わなければ、入試の成績が下位の者が入るクラスである。
 とはいえ、オーキッド学園に入れるというだけで十分優秀なのだが。
 今年はこのクラスに四十名が在籍する。

 二つ目はAdvancedアドバンスドクラス。
 通称Aクラスと呼ばれるこのクラスは上級クラス。
 三つのクラスの中では中間に位置するが、ここに入れれば他の自由騎士学園ではトップになれると言われるほど優秀な者が入るクラスである。
 このクラスには三十名が在籍する。

 三つめはOverオーバークラス。
 通称Oクラス呼ばれるこのクラスは超級クラス。
 入試成績トップの者のみが入れる選ばれしクラスである。
 入学時から自由騎士として難易度の低いクエストならばクリアできる能力があるとされ、卒業後もOクラス出身と言えば一目置かれること間違いなしだ。
 依頼人や組合からの信用も厚くまさに自由騎士のエリート街道、それがOクラスだった。
 今年は二十名が在籍する。これは例年に比べると多い方である。
 ルチルが言っていた通り今年の受験生は優秀だったのだ。

 そんな優秀な受験生の中でもぶっちぎりの成績を残したデシルは、Oクラスの教室に向かっていた。
 彼女がOクラスに入ることを不思議に思う者は誰もいない。
 みなデシルが歩く姿を羨望のまなざしで見つめていた。
 しかし、デシルにとっていま気になるのはみんなの視線ではなく、師匠から受け取った手紙の内容であった。

(流石に今開けて読むのは良くない。これから授業があるし、焦らずじっくり読みたいし……でもすっごく内容が気になるー!)

 不死鳥ヘネスが運んできた手紙はリュックの中である。
 この中ならば無くすことはないし、破れたりもしない。
 だが、読みたい気分を抑えてくれたりはしない。
 デシルはうずうずと体を震わせながら歩いた。

「デシルちゃん! どこ行くつもり!?」

「はっ! すいませんオーカさん!」

 危うく教室を通り過ぎてどこかに行ってしまいそうだったデシルをオーカが引き止めた。
 オーカもまた下馬評通りOクラスに入った。
 学園で唯一の友達が同じクラスということをデシルは大いに喜んだ。
 席も隣同士なので先生が教室に入ってくるまでの間、二人はずっとおしゃべりをしていた。

「Oクラスの諸君、待たせたね」

 ガラガラと教室の扉を開けて入ってきたのはデシルにとってもはや見慣れた人物であった。

「うげっ、ルチルじゃん」

 オーカが低い声でうなる。
 ルチル・ベルマーチはクラス名簿を片手に教壇に立った。
 色気のあるたれ目は今日は一段と垂れ下がっており、なんだか眠たそうだ。
 昨日は仕事が多くてお疲れだったのかな……とデシルは思った。

「今日から諸君の担任になったルチル・ベルマーチだ。年は二十四。教師になってまだそんなに長くはないけど、みんなから頼られる先生になれるよう粉骨砕身の覚悟で望む所存だ。これからよろしくね!」

 ルチルの自己紹介に生徒の中から歓声が上がる。

「ルチルさんってすごい人気あるんですね……」

 小声で隣のオーカに尋ねるデシル。

「そりゃ最近までAランク自由騎士だったからな。自由騎士はSがトップではあるけど正直例外的な扱いで、実際はAランクが一番働いてるって感じなんだ。ルチルは地方にもよく足を運んだし、戦闘能力が自慢の自由騎士の中では比較的性格も温厚だから人気が高い。見た目も良いしな」

「へ~、詳しいですねオーカさん。やっぱりルチルさんのこと……」

「もーバカッ! ただ世間での評判を伝えただけだよ! あたしはルチルの芝居がかった態度が気に入らないんだ。気に入らないからこそ情報を集めていつかは倒してやる……!」

「あはは……」

「こらこらデシルくん、オーカくん、私を褒めてくれるのは嬉しいけど私語は慎んでほしいものだね」

「あっ、すいません……」

「けっ!」

 注意を受けてしゅんとするデシルとむしろ態度が悪くなるオーカ。
 まるで性格が違う二人が真っ先に仲良くなったことはルチルにとっても喜ばしい事であった。
 が、二人が結託してなにか問題を起こした時、自分に止められるだろうかという不安も少しある。

(私も教師になって忘れていた自由騎士としての向上心を思い出さなければ……。仕事に疲れてやめてしまった朝のトレーニングを復活させようかな?)

 そんなこと少し考えた後、ルチルは生徒たちに自己紹介をするように促す。
 彼女自身はすべての生徒の名前や成績、経歴も把握しているが、生徒同士の親交を深めるために必要なことであった。

「みんな緊張しているね。じゃあ、あまり緊張していなさそうなデシルくんから始めてもらおうかな」

「えっ! 私ですか!? 緊張していなさそうに見えましたか!?」

「うん、とってもリラックスしているように見えたよ。さぁ、名前に趣味や好きな物、これからの目標とか一言付け加えるだけの簡単な自己紹介で構わないからね」

「は、はい! 私はデシル・サンフラワーです! 趣味はお料理と修行です! 目標はえっと……と、とりあえず学園になじみたいと思います! よろしくお願いします!」

 ぺこりと頭を下げたデシルにみんなは拍手を送ってくれた。
 張りつめていた場の空気が一気にほぐれ、みんなが話しやすい雰囲気になった。

「ありがとうデシルくん、これからよろしくね。優しい君ならすぐになじめるさ。さて、次は……」

「あたしだよ!」

 ガンっと机を叩いてオーカが立ち上がったことで場の空気がまた一気に張りつめる。

「まあ、大体知ってると思うけどあたしはオーカ・レッドフィールド! 趣味は道場破りだったけど今は飽きた! 当面の目標はそこにいるルチル・ベルマーチを倒すこと! あとは……そうだな……」

 一気にまくし立てたオーカがここで言葉に詰まる。

「その……あたしのこと怖がってる奴が多いみたいだけど、あたしは無抵抗の人間には手を出さない! 視線が合っただけでケンカ売ったりはしないから安心しな! ただ手合わせ願いたいって奴がいればいつでも受けるよ! 結局戦いは実戦を積み重ねないと強くならないからな! それで……あとは何言えばいいんだ?」

「好きなことは……なにかありますか……?」

 困ってるオーカにクラスメートの一人が小さな声で尋ねた。

「好きなことか……。勝つことが好きだけど、そういうことじゃないよな……。うーん、食べることは好きだ。極端に苦かったり辛かったりしなかったら大体食べれる。以上だ!」

 ストンッとオーカは自分の席に座った。
 彼女なりの周囲への気遣いを感じ感じ取ったクラスメートは全員オーカに拍手を送った。

 その後も穏やかな雰囲気の中で自己紹介は進み……。
 
「ヴァイス・ディライト……。趣味はお昼寝……。好きな物はトマトジュース……。動物はコウモリが好き……。目標は授業中にお昼寝しないこと……。よろしく……」

 端っこに座っていた最後の一人が終わり、授業は学園の施設案内に移った。
 学園には教室はもちろん授業で使う体育館に校庭、食堂にとんでもなく広い図書館、屋内と屋外のプールなどがあった。
 他にも教師に与えられた研究室や自由騎士組合オーキッド学園支部、生徒や教師が暮らす寮などもある。

 あまりにも広くて多いので全部回るのにも時間がかかり、すべての施設を一度では覚えられない。
 なので、今日はよく利用する施設のみを見学して、あとはまた必要になった時教師に聞いてくれということになった。

「今日の授業はこれでおしまいだよ。放課後は自由行動だけど、まだ学園に慣れてないし、体は思っている以上に疲れている。ぜひ寮の部屋でゆっくり休んでくれたまえ。明日からは通常の授業になるのでね。では、さようなら!」

 ルチルの助言と帰りのあいさつで今日の予定はすべて終了した。
 生徒の中にはルチルに質問をしに行く生徒も多く、彼女は教室に残って生徒の言葉に耳を傾けていた。

「楽しかったですね、施設案内!」

 そんな教室でデシルは興奮を抑えきれずオーカに同意を求める。
 彼女にとっては学園は初めて見る物ばかりで楽しくて仕方なかったのだ。

「うん、あたしも少しはしゃいじゃったよ。ただ、もうどこがどこだか忘れちまった……。デシルちゃん、休み時間は一緒に動こうね」

「はい! それで放課後はどうします? ルチル先生の言っていた通りに寮で休みますか?」

「うーん、それも良いけどやっぱ少し体を動かしておきたいねぇ。自主練用の施設もたくさんあったし、見学していかない?」

「いいですね! 早速行きましょう!」

「あっ、その後に食堂でご飯にするってのはどう?」

「最高です!」

 楽しい二人の放課後プロジェクトは、ある校内放送で一変した。

「ぴんぽんぱんぽ~ん! あ、あーテステス。えーっと、一年Oクラスのデシル・サンフラワーさんは今すぐ学園長室に来てくださ~い! ぴんぽんぱんぽ~ん……」

 拡声魔法で行われた校内放送。
 新入生が今日長々と聞いたばかりの声、学園長マリアベル・オーキッドのものだった。

「デシルちゃん……新入生呼び出し一発目をくらうのはあたしだと思ってたんだけどなぁ……」

「ええええええええっ!? なんでぇ私!?」

 学園に通ったことが今までないデシルだったが、なぜか呼び出されるというのがとっても不名誉なことに思えた。
 とはいえ、呼び出される理由に心当たりはあるのでデシルは急いで校長室に向かった。
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