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旅立ち編
002 一番弟子、地を駆け空を行く
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「師匠の声聞こえなくなっちゃった……。私もまだまだだなぁ」
草原を光の矢のように駆け抜けながら、デシルは感知系の魔法を使いまくっていた。
なにか師匠がメッセージを送っていないかと探っていたが、まるで何も感じ取れない。
しかし、生まれてからずっとそばにいた師匠の魔力を数キロメートル離れた程度で感じ取れないわけはない。
デシルは師匠が何らかの魔法で気配を絶っているということを察した。
「ここからは一人の力で頑張らなきゃ! 目的地はデルフィニウム王国の王都にあるオーキッド自由騎士学園!」
自由騎士学園とは特定の国に仕えず、自由騎士組合からの依頼や未開の地の探索、モンスターの討伐を行う『自由騎士』を育成する機関である。
自由騎士は通常の騎士と比べると安定した生活は得難くなるが、自由と冒険の日々が約束される。
強ささえあれば。
その強さを身に着けるために用意されたのが自由騎士学園。
これからデシルが向かう『オーキッド』は名門中の名門。
毎年定員の何十倍もの受験者が学園に殺到し、そのほとんどが数時間の試験で故郷に帰ることになる。
強さを学ぶための強さが必要とされる。
そんな実力主義の学園がオーキッドだった。
とはいえ、条件を満たしていれば一度落ちても来年の試験を受けられる。
流石に人生でチャンスは一度だけというほど厳しくはない。
デシルの場合はかなり若いので何度もチャンスがあるだろう。
しかし、そんなことをシーファが教えるわけもなく……。
それどころかチャンスは一度きりかのように伝えられているのだ。
(受かる前提で別れの言葉を言っちゃったけど、もし落ちたら数日後には『ただいま』なんだよね……。ど、どんな顔で帰ればいいんだろう……。あっ! でも落ちたらすぐに師匠に会える……)
そこまで考えてデシルは大きく首を横に振った。
情けない考えを頭から振り落とすために。
(いけない、いけない! わざと落ちたりしたら師匠に見破られて二度と口をきいてもらえなくなっちゃう! ただでさえ卑怯なことが嫌いな人なんだから!)
過去に一度デシルは師匠が留守の間に修行をサボってやったふりをしたことがある。
だがそれは当たり前のように見抜かれ、数日間口もきいてもらえず修行も行われなくなってしまった。
ごはん中も「おかわり」と言わずただ皿をデシルの前に持ってくるだけ。
反省してデシルは何度も謝り、数日間は自分一人で修行を続けた。
すると、師匠はまた少しずつ口を開くようになった。
それ以降デシルはやったふりだけはしなくなった。
どうしてもダメな時は「嫌です!無理です!」とハッキリ言ってからサボるようにした。
あの時の師匠はむっとして怒っているというより、悲しんでいるように見えたからだ。
「怒られるのが嫌だから言うことを聞いていたんだ」と、今までの修行すら嫌々やっていたと思わせてしまったことをデシルは深く後悔した。
(本気でやって落ちた時はきっと師匠も受け入れてくれるはず! 今までだって全力でやってダメだった時は優しかったんだから!)
グッと拳を握りしめ、決意を新たにしたところでデシルは急ブレーキをかけた。
超スピードを足だけで止めたため、地面がえぐれ砂ぼこりが立ちのぼる。
「ここ、どこだ!?」
デシルはあわててリュックの中から地図を取り出す。
そして、膝をグッと曲げてはずみをつけ勢いよく空へとジャンプした。
一瞬で上空まで飛び上がったデシルは風を操り滞空する。
生身での飛行はまだ安定しないのであくまで滞空だが、そもそも空に飛びあがれる人間などそうそういないことをデシルは知らない。
「あの川がこの青い線で、あの山がここかな? 近くに見える小さい村がこれで、遠くに見える立派な町が王都だ! 良かった……ちゃんと前には進んでたみたい」
上空から地上を見渡し地図と照らし合わせるという豪快な手段でデシルは自らの居場所を確認した。
ほっとしたのもつかの間、デシルは師匠との約束を思い出した。
「あっ! そういえば師匠に馬車に乗って王都を目指せって言われてたんだった!」
村と村との間、町と町との間には大体馬車が通っている。
師匠はデシルに普通の人の移動手段を知ってもらいたくて馬車に乗って王都に行けと命令した。
しかし、デシルはすでに王都をその目で見れる場所まで走ってきてしまったのだ。
「また暴走しちゃった! 考え事をしながら力を使うとろくなことにならないなぁ……。でも、どうしよう。もう王都は見えてるしこのまま走って行っちゃえば……バレないかな?」
この案はすぐに却下された。
今さっきやったふりはしないと決意を新たにしたばかりだったからだ。
「……馬車が出ている村まで走って戻ろう!」
地上に舞い戻ったデシルはすぐさま来た道を戻り始めた。
目指すは家に近い村から二つ隣の村から出てる馬車。
時間的にはすでにその村を出発しているだろうから、地図に記された馬車のルートを見て途中で乗せてもらうことにした。
この時点でとんでもない距離を人知を超えた速度で走っているがデシルは息ひとつきらしていなかった。
「不安なスタートだぁ……」
その後、デシルは無事乗るべき馬車を見つけた。
御者は前方からとんでもないスピードで迫ってくる物体に度肝を抜かれたが、その正体が少女で馬車に乗せてほしいと頭を下げてお願いしてくるので快く馬車に乗せた。
ただ、一つだけ質問をしてから。
「お嬢ちゃん、とっても足速いみたいだから馬車に乗らずに走った方がいいんじゃないの?」
「いいえ、師匠との約束ですから!」
胸を張ってそう言う少女について御者はそれ以上考えるのをやめた。
草原を光の矢のように駆け抜けながら、デシルは感知系の魔法を使いまくっていた。
なにか師匠がメッセージを送っていないかと探っていたが、まるで何も感じ取れない。
しかし、生まれてからずっとそばにいた師匠の魔力を数キロメートル離れた程度で感じ取れないわけはない。
デシルは師匠が何らかの魔法で気配を絶っているということを察した。
「ここからは一人の力で頑張らなきゃ! 目的地はデルフィニウム王国の王都にあるオーキッド自由騎士学園!」
自由騎士学園とは特定の国に仕えず、自由騎士組合からの依頼や未開の地の探索、モンスターの討伐を行う『自由騎士』を育成する機関である。
自由騎士は通常の騎士と比べると安定した生活は得難くなるが、自由と冒険の日々が約束される。
強ささえあれば。
その強さを身に着けるために用意されたのが自由騎士学園。
これからデシルが向かう『オーキッド』は名門中の名門。
毎年定員の何十倍もの受験者が学園に殺到し、そのほとんどが数時間の試験で故郷に帰ることになる。
強さを学ぶための強さが必要とされる。
そんな実力主義の学園がオーキッドだった。
とはいえ、条件を満たしていれば一度落ちても来年の試験を受けられる。
流石に人生でチャンスは一度だけというほど厳しくはない。
デシルの場合はかなり若いので何度もチャンスがあるだろう。
しかし、そんなことをシーファが教えるわけもなく……。
それどころかチャンスは一度きりかのように伝えられているのだ。
(受かる前提で別れの言葉を言っちゃったけど、もし落ちたら数日後には『ただいま』なんだよね……。ど、どんな顔で帰ればいいんだろう……。あっ! でも落ちたらすぐに師匠に会える……)
そこまで考えてデシルは大きく首を横に振った。
情けない考えを頭から振り落とすために。
(いけない、いけない! わざと落ちたりしたら師匠に見破られて二度と口をきいてもらえなくなっちゃう! ただでさえ卑怯なことが嫌いな人なんだから!)
過去に一度デシルは師匠が留守の間に修行をサボってやったふりをしたことがある。
だがそれは当たり前のように見抜かれ、数日間口もきいてもらえず修行も行われなくなってしまった。
ごはん中も「おかわり」と言わずただ皿をデシルの前に持ってくるだけ。
反省してデシルは何度も謝り、数日間は自分一人で修行を続けた。
すると、師匠はまた少しずつ口を開くようになった。
それ以降デシルはやったふりだけはしなくなった。
どうしてもダメな時は「嫌です!無理です!」とハッキリ言ってからサボるようにした。
あの時の師匠はむっとして怒っているというより、悲しんでいるように見えたからだ。
「怒られるのが嫌だから言うことを聞いていたんだ」と、今までの修行すら嫌々やっていたと思わせてしまったことをデシルは深く後悔した。
(本気でやって落ちた時はきっと師匠も受け入れてくれるはず! 今までだって全力でやってダメだった時は優しかったんだから!)
グッと拳を握りしめ、決意を新たにしたところでデシルは急ブレーキをかけた。
超スピードを足だけで止めたため、地面がえぐれ砂ぼこりが立ちのぼる。
「ここ、どこだ!?」
デシルはあわててリュックの中から地図を取り出す。
そして、膝をグッと曲げてはずみをつけ勢いよく空へとジャンプした。
一瞬で上空まで飛び上がったデシルは風を操り滞空する。
生身での飛行はまだ安定しないのであくまで滞空だが、そもそも空に飛びあがれる人間などそうそういないことをデシルは知らない。
「あの川がこの青い線で、あの山がここかな? 近くに見える小さい村がこれで、遠くに見える立派な町が王都だ! 良かった……ちゃんと前には進んでたみたい」
上空から地上を見渡し地図と照らし合わせるという豪快な手段でデシルは自らの居場所を確認した。
ほっとしたのもつかの間、デシルは師匠との約束を思い出した。
「あっ! そういえば師匠に馬車に乗って王都を目指せって言われてたんだった!」
村と村との間、町と町との間には大体馬車が通っている。
師匠はデシルに普通の人の移動手段を知ってもらいたくて馬車に乗って王都に行けと命令した。
しかし、デシルはすでに王都をその目で見れる場所まで走ってきてしまったのだ。
「また暴走しちゃった! 考え事をしながら力を使うとろくなことにならないなぁ……。でも、どうしよう。もう王都は見えてるしこのまま走って行っちゃえば……バレないかな?」
この案はすぐに却下された。
今さっきやったふりはしないと決意を新たにしたばかりだったからだ。
「……馬車が出ている村まで走って戻ろう!」
地上に舞い戻ったデシルはすぐさま来た道を戻り始めた。
目指すは家に近い村から二つ隣の村から出てる馬車。
時間的にはすでにその村を出発しているだろうから、地図に記された馬車のルートを見て途中で乗せてもらうことにした。
この時点でとんでもない距離を人知を超えた速度で走っているがデシルは息ひとつきらしていなかった。
「不安なスタートだぁ……」
その後、デシルは無事乗るべき馬車を見つけた。
御者は前方からとんでもないスピードで迫ってくる物体に度肝を抜かれたが、その正体が少女で馬車に乗せてほしいと頭を下げてお願いしてくるので快く馬車に乗せた。
ただ、一つだけ質問をしてから。
「お嬢ちゃん、とっても足速いみたいだから馬車に乗らずに走った方がいいんじゃないの?」
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