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第3話 中年騎士、王女に会う
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「リリカ様の執務室は2階なんですよ~……って見たらわかりますよね!」
セレコと呼ばれていた使用人の女性は「あははっ!」と楽しそうに笑いながら階段を上る。
俺は黙って彼女の後ろをついていく。
館の中は掃除が行き届いている。
暖色系の温かなシャンデリアに隅々まで照らされ、とても落ち着く雰囲気だ。
木製の床や階段を踏んでも軋まないあたり、メンテナンスにも気を使っていそうだ。
「ここがリリカ様の執務室になりま~す! では、私は洗濯物をお片付けして来ますので」
「えっ、一緒に入らないんですか?」
「はい! ごゆっくりどうぞ~」
セレコさんは緑色の髪を揺らしながら今来た階段を下りていった。
見知った来客ならまだしも、初対面の男を1人で部屋に通すとは……。
「えっと、失礼します」
ノックをした後、扉の向こうに声をかける。
「どうぞ」
そう返事が返って来たので、俺は意を決して扉を開けた。
部屋の中には窓から顔を出していた第九王女リリカ様と……赤い髪の女性がいた。
顔立ちや服装はセレコさんにそっくりだが、髪色や表情、雰囲気がまるで違う。
そして、微かに感じる俺への殺気。
なるほど、身辺警護を担当しているのは彼女というわけか。
「お初にお目にかかります。この度、プレーガ領守備隊に配属されたレナルド・バースと申します」
「うむ、はるばる王都からよく来てくれた」
体に対して大きすぎる椅子に座り、これまた大きすぎる机に両肘をついている少女こそ、第九王女リリカ・ロードペイン。
第一王子の腹違いの妹ということだが、どことなく雰囲気は似ている。
淡い色合いの金髪を頭の両側で結んで房を作る独特の髪型。
確かツインテールって言うんだっけ……?
王都で幼い女の子がこんな髪型にしているのを見たことがある。
顔立ちはやはり整っている。
9歳とは思えないオーラ、高貴な雰囲気、強い圧を感じる。
大きな青い瞳が俺の瞳を真っすぐに見据えている……。
「ちょっとトラブルを起こした結果、突然の異動だったもので……。まだ話がこちらに届いていないと思いますが、本当に私はこちらに配属されたんです……」
「ふむ……。とりあえず、騎士であることは証明出来るか?」
「それはもちろん可能です。トランクの中に勲章があります」
見習いから正式な騎士になった時に送られる勲章はずっと大事に保管していた。
偽造が難しい特殊な製法で作られた勲章は、自分が騎士であるという確かな証明になる。
その場でトランクを開け、他の荷物を押しのけて勲章を探す。
大事な物だから、奥の方に入れちゃったっけか……。
「……あっ! ありました!」
俺は騎士勲章を勢いよく引っ張り出す。
その結果、プライベートの衣服……下着までもが周囲に飛び散ってしまった。
「す、すいませっ! お見苦しいものを……!」
急いで下着をかき集め、トランクに詰め込んで閉じる。
その後リリカ様の方を見ると、彼女は両手で顔を隠してうつむいていた。
「片付けられたか……?」
「はいっ! 申し訳ありませんでしたっ!」
「いや、気にすることはない……。別にこれで解雇なんてしないからな」
さっきまで俺の目を真っすぐ見ていたリリカ様の視線は泳ぎ、両手もせわしなく動いている。
何だか一気に年相応の女の子に戻った感じだ。
もしかしたら、彼女も頑張って王女らしい雰囲気を作っていたのかも。
「………………」
リリカ様の側に控えている赤い髪の女性からの殺気が強くなった……!
次に醜態を晒したら攻撃されかねないな……。
「こほんっ! それで騎士勲章を見せてもらえるかな?」
咳払いをして気を取り直すリリカ様。
彼女に勲章と一緒に見つけた辞令書も提出する。
「ほう……! 王都守備隊の隊長を務めていたのか! 素晴らしい経歴だな!」
「ありがとうございます」
まあ、そんな経歴でも一瞬で左遷されてしまったわけだが……。
とはいえ、リリカ様の前で左遷なんて言葉は使わない。失礼だからな。
「それでどんな問題を起こして左遷されたのだ?」
「ぶっ……!?」
向こうからぶっ込んで来た!?
それなら答えないわけにはいかないか……。
第一王子とのトラブルを洗いざらいリリカ様に話す。
「ふむふむ、それはお前――レナルドが正しいな。人として、大人として、騎士として……正しいことをした。きっと王都の民もお前の行動を称賛していることだろう。ゆえにお前を失った王都の民は不幸だ」
俺の行動をすべて肯定してくれるリリカ様。
何だろう……心の底からこみ上げて来るものがある。
迷いながら正しいと思って選んだ選択肢を、正しいと言ってくれる人がいる。
それがどれほど幸せなことか、俺は噛みしめている。
「安心してくれ、私は領民を虐めることを趣味に生きてなどいない。それにレナルドには働き甲斐のある職場を提供出来る自信がある」
「働き甲斐のある職場……?」
「ああ、私はずっと探し求めていたんだ。私の領地を守ってくれる騎士を」
理由はわからないが、リリカ様は俺に相当期待している気がする。
異動の話が通っていない時はどうなることかと思ったが、これなら無職の騎士になることはなさそうだ。
「よろしければ、教えていただけませんか? 今のプレーガ領守備隊の現象を」
「そのつもりだ。単刀直入に言おう、私の領地の防衛体制は崩壊している」
リリカ様の瞳に宿るのは強い不安の色……。
今は平和そうに見えるプレーガ領だが、水面下では不穏な動きがあるのかもしれない。
だから俺は驚きと困惑を表情に出さなかった。
そう、ポーカーフェイスって奴だ。
防衛体制が崩壊していると言われてかなりビックリしているが、リリカ様をこれ以上不安にさせないために大人の余裕を見せつける。
「ということで、騎士レナルド・バースをプレーガ領守備隊の大隊長に任命する」
「はい……はっ? ええええええっ!?」
リリカ様はなかなか大胆な御方だ……。
流石にそれは声にも顔にも出して驚かざるを得ない!
セレコと呼ばれていた使用人の女性は「あははっ!」と楽しそうに笑いながら階段を上る。
俺は黙って彼女の後ろをついていく。
館の中は掃除が行き届いている。
暖色系の温かなシャンデリアに隅々まで照らされ、とても落ち着く雰囲気だ。
木製の床や階段を踏んでも軋まないあたり、メンテナンスにも気を使っていそうだ。
「ここがリリカ様の執務室になりま~す! では、私は洗濯物をお片付けして来ますので」
「えっ、一緒に入らないんですか?」
「はい! ごゆっくりどうぞ~」
セレコさんは緑色の髪を揺らしながら今来た階段を下りていった。
見知った来客ならまだしも、初対面の男を1人で部屋に通すとは……。
「えっと、失礼します」
ノックをした後、扉の向こうに声をかける。
「どうぞ」
そう返事が返って来たので、俺は意を決して扉を開けた。
部屋の中には窓から顔を出していた第九王女リリカ様と……赤い髪の女性がいた。
顔立ちや服装はセレコさんにそっくりだが、髪色や表情、雰囲気がまるで違う。
そして、微かに感じる俺への殺気。
なるほど、身辺警護を担当しているのは彼女というわけか。
「お初にお目にかかります。この度、プレーガ領守備隊に配属されたレナルド・バースと申します」
「うむ、はるばる王都からよく来てくれた」
体に対して大きすぎる椅子に座り、これまた大きすぎる机に両肘をついている少女こそ、第九王女リリカ・ロードペイン。
第一王子の腹違いの妹ということだが、どことなく雰囲気は似ている。
淡い色合いの金髪を頭の両側で結んで房を作る独特の髪型。
確かツインテールって言うんだっけ……?
王都で幼い女の子がこんな髪型にしているのを見たことがある。
顔立ちはやはり整っている。
9歳とは思えないオーラ、高貴な雰囲気、強い圧を感じる。
大きな青い瞳が俺の瞳を真っすぐに見据えている……。
「ちょっとトラブルを起こした結果、突然の異動だったもので……。まだ話がこちらに届いていないと思いますが、本当に私はこちらに配属されたんです……」
「ふむ……。とりあえず、騎士であることは証明出来るか?」
「それはもちろん可能です。トランクの中に勲章があります」
見習いから正式な騎士になった時に送られる勲章はずっと大事に保管していた。
偽造が難しい特殊な製法で作られた勲章は、自分が騎士であるという確かな証明になる。
その場でトランクを開け、他の荷物を押しのけて勲章を探す。
大事な物だから、奥の方に入れちゃったっけか……。
「……あっ! ありました!」
俺は騎士勲章を勢いよく引っ張り出す。
その結果、プライベートの衣服……下着までもが周囲に飛び散ってしまった。
「す、すいませっ! お見苦しいものを……!」
急いで下着をかき集め、トランクに詰め込んで閉じる。
その後リリカ様の方を見ると、彼女は両手で顔を隠してうつむいていた。
「片付けられたか……?」
「はいっ! 申し訳ありませんでしたっ!」
「いや、気にすることはない……。別にこれで解雇なんてしないからな」
さっきまで俺の目を真っすぐ見ていたリリカ様の視線は泳ぎ、両手もせわしなく動いている。
何だか一気に年相応の女の子に戻った感じだ。
もしかしたら、彼女も頑張って王女らしい雰囲気を作っていたのかも。
「………………」
リリカ様の側に控えている赤い髪の女性からの殺気が強くなった……!
次に醜態を晒したら攻撃されかねないな……。
「こほんっ! それで騎士勲章を見せてもらえるかな?」
咳払いをして気を取り直すリリカ様。
彼女に勲章と一緒に見つけた辞令書も提出する。
「ほう……! 王都守備隊の隊長を務めていたのか! 素晴らしい経歴だな!」
「ありがとうございます」
まあ、そんな経歴でも一瞬で左遷されてしまったわけだが……。
とはいえ、リリカ様の前で左遷なんて言葉は使わない。失礼だからな。
「それでどんな問題を起こして左遷されたのだ?」
「ぶっ……!?」
向こうからぶっ込んで来た!?
それなら答えないわけにはいかないか……。
第一王子とのトラブルを洗いざらいリリカ様に話す。
「ふむふむ、それはお前――レナルドが正しいな。人として、大人として、騎士として……正しいことをした。きっと王都の民もお前の行動を称賛していることだろう。ゆえにお前を失った王都の民は不幸だ」
俺の行動をすべて肯定してくれるリリカ様。
何だろう……心の底からこみ上げて来るものがある。
迷いながら正しいと思って選んだ選択肢を、正しいと言ってくれる人がいる。
それがどれほど幸せなことか、俺は噛みしめている。
「安心してくれ、私は領民を虐めることを趣味に生きてなどいない。それにレナルドには働き甲斐のある職場を提供出来る自信がある」
「働き甲斐のある職場……?」
「ああ、私はずっと探し求めていたんだ。私の領地を守ってくれる騎士を」
理由はわからないが、リリカ様は俺に相当期待している気がする。
異動の話が通っていない時はどうなることかと思ったが、これなら無職の騎士になることはなさそうだ。
「よろしければ、教えていただけませんか? 今のプレーガ領守備隊の現象を」
「そのつもりだ。単刀直入に言おう、私の領地の防衛体制は崩壊している」
リリカ様の瞳に宿るのは強い不安の色……。
今は平和そうに見えるプレーガ領だが、水面下では不穏な動きがあるのかもしれない。
だから俺は驚きと困惑を表情に出さなかった。
そう、ポーカーフェイスって奴だ。
防衛体制が崩壊していると言われてかなりビックリしているが、リリカ様をこれ以上不安にさせないために大人の余裕を見せつける。
「ということで、騎士レナルド・バースをプレーガ領守備隊の大隊長に任命する」
「はい……はっ? ええええええっ!?」
リリカ様はなかなか大胆な御方だ……。
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