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3.善い人はどこにでもいる
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「ま、食べな?」
「・・・いただきます」
「お~ちっこいのに、ちゃんとしてんのな」
関心関心と、大きな手のひらでくしゃくしゃと乱暴に頭を撫でてくれる目の前のお兄さん。
割とぼさぼさの赤茶色の髪に、人に警戒心を抱かせない人好きする笑顔を浮かべた好青年なイケメンさん。
飄々とした話口調からも親しみやすさを感じ、いつのまにか張っていた警戒心は無くなっていた。
ただ、年齢は20代後半か30代前半か?若く見えるため判断がつかない。
抱き上げられた瞬間に鳴いた空気の読めないお腹の虫さんの駆除に乗り出してくれたこの御仁。
鳴いた瞬間爆笑はされたのには多少もやもやしますが、一応レディだし?
さっき倒れていた熊もどきを素晴らしい手つきで捌き、捌いたお肉や皮などは一瞬でどこかに消してしまった。
そこからはあっとゆうまに火をおこして、なんとステーキにしてくれた。
ちゃんと筋も処理されていてお肉は柔らかいし、焼き加減もミディアムとレアの間で肉汁が溢れてくる。
ステーキも食べやすいように私の口の大きさにあわせてカットしてくれている。
彼のものであろう水筒もこちらから催促したわけでもないのに、嫌な顔ひとつせず差し出してくれた。
ああ、ステーキもお水も優しさも空腹なおなかと心に染みいるわ~。
安心したらじわじわと瞳に涙がたまりだした。
目の前の人が困るからいまはひっこんでいてほしい気持ちとは裏腹にぽろぽろ涙がつぎから溢れ出てきた。
「おいしい、です。・・・ぐすっ」
「大丈夫だから、ゆっくり食いな?」
「・・・ふぁい」
あぐえぐしながら一心不乱に肉を咀嚼して食べ終わるも、涙は一向にひっこんでくれず。
涙と鼻水できったいない顔面をガシガシと乱暴に自分の手拭いで拭ってくれた。
「ほら、泣くなよ坊主」
ん?今この人坊主って言ったよね!?
私女だよ、髪も短いし凹凸もないから判断できないかもだけど。
すぐさま否定しようとしたのだが、それより先に目の前のお兄さんが口を開いた。
「俺様は人呼んでサルヴァスってんだけど、おたくの名前は?」
「えっと、山城・・・結城です」
「ヤマシロ・ユウキ?変わった名前だけど、ヤマシロ?ユウキ?どっちで呼べばいいの?」
「えっと、結城でいいです」
「ふぅん、で?ユウキくんはなんでこんなとこにいんの?」
いやだから女子・・・もういいや、なんの問題もないし。
問題があると言えば、ミジンコほど傷ついただけだけどね!
なんて説明したらわかってもらえるのだろうか、なぜか自分が本当は30歳で。
仕事帰りにマンホールに落ちたらここにいて小さくなっていましたって言っちゃいけない気がする。
それにもし私が同じことを言われたとしても、こいつ頭おかしいとしか思わない!
「気づいたら・・・ここにいました」
ちょっと端折ったけど、嘘は言っていない。
ここはどこですか?そう問えば、サルヴァスさんは一瞬難しい顔をした。
「ここは子供がやすやす入れる場所じゃないんだよね~」
まいったな~、と俯きがしがしと頭を掻きむしるとあ~だの、う~だの唸りだした。
もしかしてここは立ち入り禁止区域だったりするのだろうか。
だとしても、気づいたらここにいたのだから入ってしまったのは不可抗力だ。
元の生活は好きでも嫌いでも無かったけれど、今の状況は不思議すぎてついていけない。
「魔王領って言えば子供でもわかるだろ、魔王城の管轄の森なんだよね」
「まおうりょうってどこの地名ですか?」
日本にあったっけ?と呑気に問えば、サルヴァスはぽかんと口を開けたまま固まってしまった。
お~、なんか投げたら余裕で入りそうなくらい大口あけてるな。
昔一緒に働いた上司によく口が開いてるって言われたな~、お前の口はゴミ箱かって言われて。
おもしろ半分に1回本当にゴミを投げつけられて、ブチギレしたんだっけ。
ふふ、入社1年目の痛い思い出だわ。
「おいおいおい、マジかよ」
「?」
「訳ありか~、なんで俺様なのかね」
サルヴァスは自嘲気味に笑った。
そうだよね、ごめんなさい。
私でもそう思う、同じ立場なら簡便してくれと思うだろうな。
でも、その言葉は思ったより堪えるな。
「悪い!そんな顔しないの」
小さい子をあやすように高い高いされる。
いやいやおっしゃる通りだよ、むしろ気を使わせてすいません。
でもその言葉を口にする余裕はなくて、すでに目にはこぼれんばかりの涙がたまっていて。
もしも、このままここでお別れだったら?
もしも、さっきの熊もどきにひとりのときに遭遇したら?
もしも、買いだめしたお菓子が無くなったら?
不安しかなくて、どんどん涙が溢れてくる。
「このまま放置なんて薄情なことしないから、泣き止んで?」
「・・・すびばせん」
「こんな場所で話し込むのもなんだし、移動するからしっかりつかまっててよっと」
サルヴァスはいつの間に持ったのか左腕に鞄とコンビニ袋さげて、右腕で結城の体を軽々持ち上げるとものすごい速さで木々を飛びながら移動していった。
私はと言うと、お恥ずかしながらしっかりつかまっててという言葉に甘えて、しがみついたまま泣いて疲れていつの間にか意識を手放しておりました。
「・・・いただきます」
「お~ちっこいのに、ちゃんとしてんのな」
関心関心と、大きな手のひらでくしゃくしゃと乱暴に頭を撫でてくれる目の前のお兄さん。
割とぼさぼさの赤茶色の髪に、人に警戒心を抱かせない人好きする笑顔を浮かべた好青年なイケメンさん。
飄々とした話口調からも親しみやすさを感じ、いつのまにか張っていた警戒心は無くなっていた。
ただ、年齢は20代後半か30代前半か?若く見えるため判断がつかない。
抱き上げられた瞬間に鳴いた空気の読めないお腹の虫さんの駆除に乗り出してくれたこの御仁。
鳴いた瞬間爆笑はされたのには多少もやもやしますが、一応レディだし?
さっき倒れていた熊もどきを素晴らしい手つきで捌き、捌いたお肉や皮などは一瞬でどこかに消してしまった。
そこからはあっとゆうまに火をおこして、なんとステーキにしてくれた。
ちゃんと筋も処理されていてお肉は柔らかいし、焼き加減もミディアムとレアの間で肉汁が溢れてくる。
ステーキも食べやすいように私の口の大きさにあわせてカットしてくれている。
彼のものであろう水筒もこちらから催促したわけでもないのに、嫌な顔ひとつせず差し出してくれた。
ああ、ステーキもお水も優しさも空腹なおなかと心に染みいるわ~。
安心したらじわじわと瞳に涙がたまりだした。
目の前の人が困るからいまはひっこんでいてほしい気持ちとは裏腹にぽろぽろ涙がつぎから溢れ出てきた。
「おいしい、です。・・・ぐすっ」
「大丈夫だから、ゆっくり食いな?」
「・・・ふぁい」
あぐえぐしながら一心不乱に肉を咀嚼して食べ終わるも、涙は一向にひっこんでくれず。
涙と鼻水できったいない顔面をガシガシと乱暴に自分の手拭いで拭ってくれた。
「ほら、泣くなよ坊主」
ん?今この人坊主って言ったよね!?
私女だよ、髪も短いし凹凸もないから判断できないかもだけど。
すぐさま否定しようとしたのだが、それより先に目の前のお兄さんが口を開いた。
「俺様は人呼んでサルヴァスってんだけど、おたくの名前は?」
「えっと、山城・・・結城です」
「ヤマシロ・ユウキ?変わった名前だけど、ヤマシロ?ユウキ?どっちで呼べばいいの?」
「えっと、結城でいいです」
「ふぅん、で?ユウキくんはなんでこんなとこにいんの?」
いやだから女子・・・もういいや、なんの問題もないし。
問題があると言えば、ミジンコほど傷ついただけだけどね!
なんて説明したらわかってもらえるのだろうか、なぜか自分が本当は30歳で。
仕事帰りにマンホールに落ちたらここにいて小さくなっていましたって言っちゃいけない気がする。
それにもし私が同じことを言われたとしても、こいつ頭おかしいとしか思わない!
「気づいたら・・・ここにいました」
ちょっと端折ったけど、嘘は言っていない。
ここはどこですか?そう問えば、サルヴァスさんは一瞬難しい顔をした。
「ここは子供がやすやす入れる場所じゃないんだよね~」
まいったな~、と俯きがしがしと頭を掻きむしるとあ~だの、う~だの唸りだした。
もしかしてここは立ち入り禁止区域だったりするのだろうか。
だとしても、気づいたらここにいたのだから入ってしまったのは不可抗力だ。
元の生活は好きでも嫌いでも無かったけれど、今の状況は不思議すぎてついていけない。
「魔王領って言えば子供でもわかるだろ、魔王城の管轄の森なんだよね」
「まおうりょうってどこの地名ですか?」
日本にあったっけ?と呑気に問えば、サルヴァスはぽかんと口を開けたまま固まってしまった。
お~、なんか投げたら余裕で入りそうなくらい大口あけてるな。
昔一緒に働いた上司によく口が開いてるって言われたな~、お前の口はゴミ箱かって言われて。
おもしろ半分に1回本当にゴミを投げつけられて、ブチギレしたんだっけ。
ふふ、入社1年目の痛い思い出だわ。
「おいおいおい、マジかよ」
「?」
「訳ありか~、なんで俺様なのかね」
サルヴァスは自嘲気味に笑った。
そうだよね、ごめんなさい。
私でもそう思う、同じ立場なら簡便してくれと思うだろうな。
でも、その言葉は思ったより堪えるな。
「悪い!そんな顔しないの」
小さい子をあやすように高い高いされる。
いやいやおっしゃる通りだよ、むしろ気を使わせてすいません。
でもその言葉を口にする余裕はなくて、すでに目にはこぼれんばかりの涙がたまっていて。
もしも、このままここでお別れだったら?
もしも、さっきの熊もどきにひとりのときに遭遇したら?
もしも、買いだめしたお菓子が無くなったら?
不安しかなくて、どんどん涙が溢れてくる。
「このまま放置なんて薄情なことしないから、泣き止んで?」
「・・・すびばせん」
「こんな場所で話し込むのもなんだし、移動するからしっかりつかまっててよっと」
サルヴァスはいつの間に持ったのか左腕に鞄とコンビニ袋さげて、右腕で結城の体を軽々持ち上げるとものすごい速さで木々を飛びながら移動していった。
私はと言うと、お恥ずかしながらしっかりつかまっててという言葉に甘えて、しがみついたまま泣いて疲れていつの間にか意識を手放しておりました。
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