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3話 老爺

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ーー日が沈む寸前。時を同じくして浮遊島、最西端。フードテイカー協会内部。

 慌てふためく人々。協会内部は人の足音で埋め尽くされていた。
ーー数分前。

 部屋に一人、椅子に腰を掛けて壁に埋め込まれた無数の電球を見つめる男。
 電球が消える度、男は律儀に電球に書き示された番号を紙にとっていてた。
 ーーそして、また1つ消えた。
瞬間、男の顔が青ざめる。

「き、緊急速報!」

「会長の…」

「せ、生命反応が断たれました!」

「マニュアルに従い、大規模の調査隊を派遣します!各自準備して下さい!」

◆◇◆

ーー夜が明ける頃、ダイブスポットに集まった無数のフードテイカー達。

「これより、大規模調査を開始する」

人々の間を掻き分け、一人前に立つ。
 頭部には長い髪の毛を束ねた倭の国特有のちょんまげ。
服装は、袴。
腰には刀を装備。

「指揮は私、金左衛門がとる」

 途端、腰に下げていた刀を抜き人々に向ける。
 刀の刃先は朝日に照らされ輝いていた。

「あの協会2番手、不動の金左衛門が来るとはなぁ」

「あの人も会長にだけは心開いてたしな」

驚愕、人々は騒めく。
 協会内部では、実力がありながらもほとんど何もしない事で彼は有名。
 そんな彼が動いたからだ。
 瞬間、彼は自身の方向を下界に向ける。

「準備はいいか!行くぞ!」

 掛け声と共に数千人のフードテイカーはダイブした。

◆◇◆

 その頃、イズヤはさくらを迎えに研究所跡地に来ていた。

「おはよ~」

 手を口に当て「ああ、ああ」と野鳥の様に大声であくびする少年。

「おはよ」

 その光景を見ると彼女は笑みを浮かべ、壁に掛けてあった木刀を手に持つと少年に近づく。
 瞬間、少年は少し身構える。
 が、彼女の笑みを見ると何故か警戒心は解けた。

「これを使って稽古をするのじゃ」

 押し付ける様に少年に木刀を渡すと、彼女は自身の刀を取り出す。
 眼前、刀の素振りをする彼女に少年は少し恐怖心を抱く。

ーー確かあの時、物凄いスピードで俺の所に来たよなぁ…

 少年の脳裏を昨晩の出来事が駆け巡る。

「ど、どうしたのじゃ?お主具合でも悪いんじゃ」

 昨晩の事を考えると、血管が凍る想いをする。
 そのせいか、少年の顔は青ざめていた。

「あ、いや、大丈夫!大丈夫…」

 自己暗示をかける少年をただただ不思議そうに首を傾げ、彼女は見守っていた。

「まぁ、なら、稽古に入るのじゃ!まず、木刀を構えるのじゃ!」

「こう?」「違う」「こう?」「違う」
「こう?」「そうじゃ」

 初めての刀、木刀と言えども少年は緊張を隠せない。
 探り探りで行う稽古、彼女はそれを厳しく捌く。
  
「じゃ、次は斬り方じゃ。左上から右下に振り下ろすのじゃ」

「こう?」「違う」「こう?」「違う」
「こう?」「そうじゃ」

 彼女の稽古に休みという二文字は存在しなかった。
 少年は、絶えず刀を振り下ろす。
 彼女は、それを見て何度も指導する。

「最後は、刺し方じゃ。胸まで刀の柄を地面と平行に持って来て刺すのじゃ」

「こう?」「違う」「こう?」「違う」
「こう?」「そうじゃ」

 幾度も幾度も、振り下ろすうちに少年は自身の刀の一撃に重みが出てきた事を実感する。
 彼女、曰く「これが第一歩なのじゃ」と言う。

 休む事なく少年は絶えず刀を振り続けた。気づけば、日が暮れようとする頃。
 滴れる汗が夕日に照らされ輝く。

「お疲れ様なのじゃ!」 

 稽古中、一度も笑顔を見せなかった彼女が微笑みつつ少年に水の入った瓢箪を渡す。

「おう!こちらこそありがとう!」

 笑顔、この表情は今日だけは特別な気がした。
 瓢箪を受け取ると、少年は一口で飲みきった。

「うんめぇー!」

 水を口に含む瞬間、少年を今までにない程の幸福感が襲う。
 目には涙さえ浮かんでいた。

「稽古終わりの水は格別でしょ?ーーちょっと良いとこ連れて行ってあげるのじゃ」

 少年の笑顔を見ると、彼女は笑みを浮かべ多少の沈黙の後、場所を移動する。
ーー研究所跡地から北へ。凸凹とした道や木を掻い潜りながら歩くこと数分。

「ここは…?」

 眼前、年期の入った古い蔵。
 扉は大きな南京錠で閉ざされており窓一つ存在しない。

「ここは拙者のマスターが死ぬまで開けてはいけないと言ってた場所なのじゃ」

 「じゃあ、開けよう!」

「それが…拙者の刀では開けられないのじゃ」

 彼女の顔が曇っていくのを見て少年もまた曇っていく。

ーーえ、あの刀さばきで開けられないなら俺じゃ無理じゃん。

 少年の脳裏が絶望で染まっていく。
が、それに反抗する力が働いているのも実感できた。

「ま、まぁこんな大きな南京錠だからね…刀じゃ無理だよ!」

 世に言う空元気。
 少年は絶望に抗う為、自己暗示をかけて落ち着かせる。

 少年はそう言うと、南京錠に近づき触れる。
 瞬間、大きな南京錠が砕け散る。
 少年はその場で静止、彼女は刀を地面に落とす。
 一同は何が起こったのか理解しきれなかった。

「あ、開いた」

 唖然、彼女は地に落ちた刀を鞘に納めると、少年の元へ駆けていく。
 
「何でじゃ、何で開いたのじゃ!拙者の本気で開かなかったのじゃぞ?」

「ま、まぁ、とりあえず入ってみよ?」

 取り乱す彼女を宥め、少年は彼女の手を引く。
 少年の手が彼女の手に触れると、彼女は我を取り戻した。

「暗いね」

 蔵の中は暗く、灯りは扉から漏れる夕日のみだった。
 蔵を進むと、突き当たりに何か青色に輝くモノが目に入った。

「あれ、何だろう」

「拙者も気になるのじゃ」

 好奇心に任せ、二人は謎の物に一歩二歩と近づいて行く。
 そして、足を進めるごとにその全貌が明らかとなる。

「「これって…」」

 眼前、ケースの様な物の上部に突き刺さる大剣。
 そして、そのケースの中は銀髪赤眼の女の子が眠っていた。
 大剣は、紙一重で女の子を避け、顔の横に刺さっていた。
 二人の見た青色に輝いていたのは、大剣の柄の部分に散りばめられた宝石の様な物だった。

二人は驚きのあまり、言葉を失っていたが沈黙の間、少年は思いつき声を上げる

「ーーこれ、抜けないのかな?」

 この一言、これをきっかけに少女が動く。

ーー負けてられないのじゃ。次は私の番なのじゃ。

少女の意気込みは申し分なかった。
が、触れた直後。

「ダメなのじゃ…これ触ってると力が吸い取られる感じがするのじゃ」

 全身から力が抜ける感覚が少女を襲う。
 少女はを触っては行けない事を悟った。
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