僕だけが違う能力を持ってる現実に気付き始める世界

本編↓

第23話 刺客か否か

 少年の叫び声が辺りに響き渡ると四方八方の木々から鳥が飛び立って行った。
 鳥達はその異様な空気に違和感を抱き飛び去ったのか、少年の声に驚き飛び去ったのか。それを知る由はない。

「あ…い…ず…や…あ」

 自我を持たない動く死体と化した老爺はただ、ある方向へと足を進める。その方向は貴族街。老爺はカラスが夕方になると無意識に巣に帰る様に、迷う事なく貴族街へ向かう。
 しかし、それを少年・少女・アリス3人で必死に足止めするも、それを止める事は出来なかった。

「待てよじぃじ！」

「待ってほしいのじゃ！マスター！」

 2人の必死の呼びかけも虚しく、老爺には届いていない。正確には届いてはいるが、自我を持たない老爺には意味のない事という事だ。
 3人はさらに力を入れて止める。少年は足に権威を纏わせ必死に押すが押し返される。それだけ、生前は肉体的に鍛え抜かれていたという事なのか、何かによって強化されているのか。はたまた両方か。
 
 少年達が十メートル程押された時だった。
 老爺の動きがピタッと止まった。

「まさか！じぃじ！」

 少年たちが自身の声が届いたと思い込み、喜びの声を上げた時だった。
 老爺の右手が少年を三メートル程突き飛ばす。
 少年はとっさの受け身で大事を免れたが、精神面でかなりダメージを負っていたのは言うまでもない。

「あ…い…ず…や…あ」

 老爺は突き飛ばしても依然として変わらない様子で生前最後の言葉を繰り返して掠れた声で呟きながら足を進める。
 少年は溢れそうになる涙をグッと堪え、再び立ち上がる。
ーー次は絶対に止める。
 それだけを胸に少年は再び老爺の前に立つ。
 しかし、また老爺は右手で少年を払い吹っ飛ばす。
 少年はこれを何十回と繰り返した。
回数が20回を超えるごろ、もう少年の衣服はボロボロだった。精神状態も崩れていておかしくない程だったが、少年はそれでもまだ立ち上がった。
 そうして、再び飛ばされそうになった時少年の背後から何かが急速に近づいてくるのを少女が目視した。

「お主、逃げるのじゃ！」

 少女はとっさに少年に声をかけたが、時既に遅し。心身ともにボロボロの状態の少年には逃げる事が出来る訳もなく、急速に近づいてきた何かの攻撃を受ける。

「くっ…！」

 その一撃は重く、まるで鉄球がぶつかったかの様な感覚だった。
 攻撃してきた正体は直ぐにアリスの反応で分かった。

「メアリー！」

 メアリーは以前あった時とは服装を変え、全身を黒のウエットスーツの様なもので隠していた。
 姉のアリスの言葉にも耳をくれず、メアリーはただただ少年を攻撃する。
 時期に痛みつけられ、弱ってきた少年を見ていられなくなった少女とアリスは少年を助けに行く。が、メアリーはそんな2人の邪魔を許しはしなかった。
 両手を天に掲げると、光の輪の様なものが人数分降ってきた。もちろん老爺の分も。そうして、老爺あわせて3人の首にはまった。
 少女は直ぐにそれを取ろうと試みるが、その輪は触れるもの全てを切るという恐ろしい能力だった。その為、取ろうと争った時に使った少女の小刀は直ぐに真っ二つになった。

「お前にはこの前の借りを返さなきゃなぁ？」

 メアリーは邪魔者がいなくなった以上好きに少年がいたぶれる状況になった。
 無論、老爺も輪を見てすぐに動きを止めた。感情がないだけで、判断は出来るのかも知れない。

 「くっ…！」

 溝うちやアッパー。顔面を殴るなどして、存分にいたぶる。しかし、少年の体力も限界に近づき、もう、唸り声すらも上げなくなった。するとメアリーは笑っていた口元をピタッと閉じ、ムスッとした表情を浮かべる。

「何も喋んねぇならつまんねぇじゃん」

 メアリーはそう言うと、先ほどの光を出し始めた。それは時期に剣の形を形成しメアリーの手元に現れた。

「じゃ、バイバイ～！」

 メアリーは満面の笑みでそう言うと、少年目掛けてその剣を振りかざした。