僕だけが違う能力を持ってる現実に気付き始める世界

本編↓

第21話 抜刀！剣聖VSサクラ

 臨戦態勢のサクラに剣聖は何一つ恐れることなくゆっくりと歩いて近づく。
 サクラは五感全てを研ぎ澄ませていた。視界には剣聖ただ一人しか入れない。そして剣聖以外の誰の音も聞こえない程聴覚も使っていた。
 向かい合わせに対立したサクラと剣聖。
 サクラを見て剣聖はニコッと笑い、口パクで何かを言った。その時だった。サクラが襲いかかったのだ。
 残像すら見ることを許されない程速い一太刀は剣聖の右首筋に吸い付くように向かう。剣聖はただただ立っているだけで何もしなかった。それは少女の一太刀が速すぎて対応できていないだけ、そう思っていた。
 しかしそれは全くの嘘。真実は剣聖にとっては遅すぎて直ぐに対応するまでもなかったと言う事だ。
 剣聖の首筋僅か上で剣聖は目にも留まらぬ速さで腰元から短刀を取り出し、少女の一太刀を遇らう。その一太刀に全てをかけていた少女は力を流されてしまい、バランスを崩す。瞬間、少女の首筋に冷たい感覚が走った。
 少年は直ぐに少女が負けたのだと理解した。少女の首筋には剣聖が短刀を突きつけていたのだ。しかしせめてもの情けと言うものか、剣聖は少女に刃を向けなかった。

「若い芽を摘むのはあまり好きじゃないんだ」

 剣聖はそう言い残すと、少女から短刀を離し後ろを向いてそのまま何処かへ向かって歩き始めた。
 しかし少女は後ろを向いた剣聖に再び襲いかかる。それは武士道を行く身なら決してやってはいけない事だった。だが、それすらも上回る憎しみがその行動を許す。
 少女は剣聖の首筋に向かい再び飛び出した。

「もらった」

 少女はそう呟くと渾身の一太刀を打つ。
 瞬間、辺りを甲高い金属音が鳴り響く。それは剣と剣がぶつかり合った音だった。
 剣聖は後ろを向いたまま、少女の攻撃を防ぎきると少女の方を向き胸ぐらを掴む。

 「言ったよね？俺は若い芽は摘みたくないって」

 剣聖のその言葉には何か重みがあった。
 そもそもそれを言っているときの剣聖の目には殺意と言うもの以外感じる事が出来なかった。それが関係しているのかも知れない。
 ただ剣聖はそれを言うと、再び何処かへ向けて歩き出した。
 剣聖がその場を立ち去ると直ぐに少年とアリスは少女の側に駆け寄った。

 「奴は剣聖と呼ばれてるんだ。それなりの技量はあって当然だ。命があってよかった」

「無茶しすぎ！死なないでよかった！」

 二人は幸せそうな不幸せそうなそんな複雑な表情で少女を見つめた。
 少女はただただその場に項垂れる事しか出来なかった。

 しばらくして少女が落ち着きを取り戻すと、少年はある事を切り出す。
 
「剣聖の話が本当なら、俺らはこんな事をしている場合じゃない」

 そう言うと思い出したかのようにサクラもアリスも顔を見合わせて言った。

「マスターを探さなくちゃ…！」
 
 ーー彼は直ぐにフードテイカー協会に向け歩き出した。

◆◇◆

 フードテイカー協会。新実験室。

 白衣の男達が老爺の死体に細工をしていた。男達は老爺の心臓部分に石の様な物を埋め込む、それと同時に老爺の頭にもチップの様な物を打ち込む。
 すると、時期に老爺が目を覚ます。

「あ…い…ず…や…あ…」