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第2話 やるべき事

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 ーー早1時間、浮遊島中央部、研究所跡地に小さく屈む少年。
  
「俺が、あんなわがままを言わなければ…」

 脳裏を掠める自身の言葉、少年の心境は複雑だった。
 
「あの時、すぐに帰ってたら…」

たら・れば。そんな事ばかり考えてしまう。少年は無意味と知りながらも考える事を辞めなかった。

ーー霧立ち昇る秋の夕暮れ、下界から微かに聞こえる鳥達の鳴き声。
 走馬灯のように老爺との思い出が駆け巡る。

「…」

 少年が壁に寄り掛かり静かにうな垂れていると、一枚壁の向こうから掛け声が聞こえてきた。
 ーー少年は誰がいるのか気になり、壁の向こうを覗こうとした。
 瞬間、首元に当てられた刀。
 眼前、銀髪蒼眼の少女が睨みを利かす。

「何奴」

 首に当てた刀を少女は押し込み少年に迫る。
  ーー少年の首に沿って血液がゆっくりと流れ出す。

「お、俺はただのフードテイカー、
その刀をまずはどけてくれ」

 突然の出来事、驚きを隠せない少年。
 戸惑いながらも少年は少女に警戒を解くよう求める。
 しかし、少女は少年がフードテイカーと知るや否や態度を一変。

「面目無い。拙者、お主の事を盗賊だと思っておったのじゃ」

 着物姿の少女は丁寧に謝罪をし、少年に負わせた傷の手当てしていた。
 ーーその間、少女は少年に自身について語る。

「拙者、昔は捨て子だったのじゃ。その時に拾ってくれたのが拙者の師匠であり親の様な存在であるマスターなのじゃ」

「誰なのマスターって?」

 少女は幼いながらも器用に傷口を手当てして、微笑みを浮かべて語る。

「マスターは剣術の達人であり、島でも屈指のフードテイカーじゃった。拙者にとってマスターは掛け替えのない存在なのじゃ」

 「ふーん。そりゃ凄いじゃん。で、マスターは今どこに?」

 少年の一言をきっかけに少女の顔から笑顔が消えた。同時、作業していたはずの手も止まる。
 辺り一面に静寂が訪れた。
 この瞬間、少年は不穏な空気を悟った。

「ーーマスターは死んだ。」

 「ごめん。なんか変なこと聞いちゃって…でも、俺にもその気持ちは分かるよ」

 数秒の沈黙、発した言葉は決して軽いものでは無かった。
 しかし、少年には共感する事が出来た。
 失った老爺の命、最期の言葉。
 どれも、悔いるものばかり。少年はその気持ちから少女に答える。
 が、

「うぬに拙者の気持ちが分かるじゃと?14年間共に生き続けた人が死ぬ辛さが分かるじゃと?」

 先程までとは一変、少女は少年との会話の一言で取り乱す。
 ーー何気ない一言が少女を変えた。

「分かるよ。なら君に分かるかい。自身の無力さのせいで大切な人を目の前で失う辛さが」

 抑えきれる悲しみと怒りが溢れ出す。
 複雑に交じり合う互いの想い。
 少年は自責の念で押し潰されそうになっていた。

「面目無い…拙者、自分の事ばかり考えておった。お主のことも考えるべきじゃった」

「いや、いんだ。僕こそごめん」

 悄然とした面持ち、少女は少年が口を開く度、胸を締め付けられる様な感覚を覚えた。
 同時、地平線から太陽は姿をくらました。

「僕はそろそろ行くよ。獣族を倒す準備をしなきゃ」

 少年はそう言い残すと重い足取りで歩き出した。
 一歩二歩と進むと、後ろから建物を反響する程の大声が聞こえる。

「なら、待つのじゃ!」

 瞬間、驚き少年の全身が強張る。
 慌てて後ろを振り返ると怖い面持ちの少女が立ち尽くしていた。

「拙者は必ずお主の役に立つ。連れて行ってくれ」

「なぜ君が?」

 頭を深々と下げる少女の髪は地面についていた。
  少年には分からなかった。
ーーなぜ、ここまで尽くしてくれるのか。
だが、1つわかった事があった。
ーー決して嘘はついていないという事。

 少女は少年にゆっくりと近寄りながら語り出す。

「拙者はマスターの死の原因とされている『奴』を探したい。お主は、大事な人を殺した『獣族』を倒したい。しかし、拙者には奴の情報が無い。主には獣族を倒す力が無い。じゃが、主を含め二人で探せば早く見つかる。拙者には獣族に対抗する力がある。どうじゃ?」

 「分かったよ。僕ら組もう」

 少女の熱弁に押され少年は組む事を決意。
 二人の面持ちは、先程もまでとは一変。
 笑顔が取り戻されていた。

「僕の名前はイズヤ。君は?」

「拙者、さくらと言う者じゃ」
 
 この瞬間、彼らの冒険の歯車は動き出した。
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