心友

有里

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「ねぇ、聞いてる?」

突然、風船が弾けたように声が聴こえた。
それと共に、出しっぱなしになってる水の音やつけっぱなしのテレビの音が聞こえる。

「ごめん、聞いてなかった。」
えへへっと、誤魔化すように笑うと、無意識に黙々と洗い続けていた食器を置いて水を止めた。

なんで食器洗ってんだろう?
いつ、ご飯食べたっけ?

タオルで手を拭いて、不服げな顔をしている恋人に向き直ると、スマホを見つめながら旅行の予定を話し始めた。

「金曜日の夜は、荷物もって8時に空港で………」

ここは私の家。
彼は付き合って1年の彼。
今は旅行の予定を聞いてる所。

時々、突然この時間、この場所に飛ばされたような感覚になる。
そういう時は、一つ一つ、状況を確認しながら直前の事を思い出す。
いつからか、こういう不思議な感覚になるようになったけど、記憶喪失とかではないと思う。
だって、何話してたかはよくわからないけど、その場は何となくやり過ごせてるし何とかなっている。
多分、私の意識がに行ってる時は身体が勝手にやっといてくれてて、意識が身体に戻ると、身体がその間の記憶を教えてくれてる、そんな感じ。

私の意識がたまに行くは、もう1人の自分が不穏になった時。
彼女が元々の本体だけど、今はほとんど私が、この身体を占領してる。
意地悪したい訳じゃないけど、彼女が今出てきた所で、もう、この身体の置かれている環境の中に彼女の居場所はないから。

可哀想かもしれないけれど、そっとしていて欲しい。
出来ることなら、消えてしまえば良いのに。

この身体で私を作ってきたのは私なんだから、今更、都合良く出てきて受け渡してなんて虫が良すぎるのよ。
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