上 下
12 / 26
第一章 特別推薦入試編

第十二話

しおりを挟む
 麗華は学園長とのあいさつを終えると、眠いと言って、さっさと本日宿泊予定の学生寮へと向かってしまった。
 全く自由な奴である。
 そんな麗華とは別に、俺と有栖とリオン先生はは特別推薦入試の受付をした。
 その際、玉座の足元の地面から巨大なデスクがせり上がってきたのには少し驚いたが、それを遥かに超える驚愕の事実が俺達に明かされた。

 「あのハイジャックが試験の一環だったんですか!?」

 「マジかよ……」
 
 有栖が叫ぶのも無理はない。
 誰がたかが高校の入学試験程度でハイジャック犯を差し向けてくることを想定するだろうか。
 俺は改めて、特別推薦入試の、学園長の頭のおかしさを思い知らされた。
 
 「うん♪特別推薦入試の予備試験だよ♪緊急時の対応力を主として。判断力、協調性、行動力、その他諸々を測らせてもらいました~」

 学園長が悪戯が成功した時の様な、いや、実際に悪戯が成功したのだろう笑顔で言う。
 でも、やはり何かがおかしい。
 何故なら。

 「学園長。あのハイジャック犯達は本物でしたよね?」

 俺と有栖が乗っていた飛行機をハイジャックしたのは紛れもなく本物のテロリストだった。
 長年の不幸で鍛えられた俺の眼は嘘を吐かない。

 「へぇ、分かるんだ……」

 「っ!」

 学園長の眼がすぅっと細まり、さっきまでのおちゃらけた雰囲気から一転して、正に大人の女性と言う雰囲気に変わる。
 余りのギャップに心臓が一瞬ビクッてなったぞ……。

 「うん、エイタの言う通り。本物のハイジャック犯だよ。ちょーっと細工しただけでね♪」

 「細工?」

 「そう♪支援者になってハイジャックする飛行機の情報を得たり、万が一の事が起こらないように学園島お抱えの異能者を置いておいたり、秘密裏に異能妨害装置を提供したり♪」

 「有栖は普通に銃で撃たれそうになってましたけど……」

 「異能妨害装置あれを提供したのは学園長でしたか……!」
 
 「せめて我々教師陣に許可くらい取って下さい。学園島ウチの最高機密の一つを勝手に持ち出されては困ります……」
  
 学園長の言葉に、俺たちは三者三様の反応をする。
 てか、無許可だったんかい。

  「撃たれても余程当たり所が悪くなければ同じ飛行機に同乗した学園島ウチの異能者が回復できてたから大丈夫♪あとリオン先生。この試験は既存の枠にとらわれない優秀な人材を発掘するという大義名分を掲げて私が好き勝手出来る数少ない行事なんです♪どうせ取れない許可なんて私がわざわざ取るわけないじゃないですか♪」

 いやもう本音駄々洩れだし、そもそも理由になってない。
 誰だよこの人を学園長にした奴。

 「で、肝心の予備試験の結果だけど……二人とも合格だよ♪」

 「はぁ……良かった」

 有栖は安心した様子だ。

 「……」
 
 俺だけ最初から合格が確定しているこの背徳感。
 気拙い。

 「因みに、総評としては、エイタはなんと満点。アリスはまぁギリギリ及第点ってところかな」

 へぇ、俺、満点だったのか。
 意外……でもないな、緊急時における対応力なら俺世界でもトップの自信あるわ……。
 そもそも緊急時における対応なんて物は俺にとっては日常の動作の一つに過ぎないのだから、出来ない方がおかしいのだ。

 「流石師匠です」

 「有栖は悔しくは無いのか?」

 「勿論悔しいですが、もしあれが本物の実戦だったとしたら、師匠に助けられなければ私は死んでいたかもしれない訳ですし、今回は合格出来ただけでも嬉しいです」

 割り切ってるなぁ。
 てか、採点とかしてたんだな。
 それも同じ飛行機に乗せておいた学園島お抱えの異能者が同時に採点もしていたのだろうが。

 「はい!一応これで手続きは終わったわけだけど。何か質問はある?」

 「質問良いですか?」

 俺には疑問があった。
 特に他意は無い純粋な疑問だ。

 「いいよ♪」

 「俺達が明日受ける特別推薦入試って、何人くらいが受験する予定なんですか?」

 「うーん、受付は君ら二人で最後で、四人は予備試験で落ちたから……八人、だね」

 「八人!?少な!?」

 「いいえ師匠、そもそも普通の試験で受かれば入学できるというのに、わざわざ死ぬ危険があると評判のこの特別推薦入試を受けようなどと言う酔狂者は少ないのですよ。私としては予備落ちも含めて十二人もこの試験を受けようとしていたことに驚きです」

 「お、アリスちゃん詳しいね~。確かに例年は多くても四人くらいだよ♪」

 そこまで不人気な試験を開催する意味とは……あ、趣味か。

 「他に質問はある?」

 「私からも一ついいですか?」

 「勿論いいよ♪」

 「では……。巷の噂で、学園長考案の特別推薦入試は死亡も有り得る大変危険な試験だと聞きました。一体どんな試験なのですか?」

 試験内容については麗華が気にしなくてもいいと言っていたのであまり心配はしていないが、俺も気にならないと言えば嘘になる。
 知った所で何ができるわけでも無いが、人の心とはそういう物だろう。

 「うーん。それは教えられないかな。他の子達には言ってないからね。不公平になっちゃう」

 それはまぁ当たり前だな。

 「ですよね。駄目元でした」

 「他に質問は?」

 「無いです」

 「私もありません」

 「じゃあ解散!二人とも、明日の試験頑張ってね!ウチの学生寮でゆっくり休んで明日に備えてね!じゃあリオン先生、二人を寮に案内してあげて♪」

 「畏まりました」

 こうして、学園島での一日目は終わった。
 ぶっちゃけ学園島での一日というよりは飛行機で延々と有栖の勘違いを解こうと話し続けた記憶が大半だが、とにかく終わったのだ。
 明日は早くも試験本番だ。

 さぁて!明日は頑張るぞ!

 入学したときに幼馴染の金とコネで入ったヒモだと思われないように!!

 主に俺の新しい高校生活における尊厳を懸けてッ!!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】冒険者PTを追放されたポーターの僕、チートスキルに目覚めて世界最強に。美少女たちにもモテまくりで、別の意味でツッコミが追いつかない

岡崎 剛柔
ファンタジー
「カンサイ、君は今日限りでポーターをクビだ。さっさと出て行ってくれ」  ポーターとして日々の仕事を頑張っていたカンサイは、自身が所属していた冒険者パーティーのリーダーから給料日前にそう宣告された。  しかもリーダーのクビの理由はあまりにも身勝手で理不尽だったことに加えて、働きぶりが無能だから給料を支払わないとも告げてきたのだ。  もちろん納得がいかなかったカンサイは、リーダーに掴みかかりながら抗議して給料の支払いを求めた。  しかし、リーダーは給料の支払いどころか「無能が俺に触れるな」と平手打ちをしてきた。  パンッ!  その瞬間、カンサイは世界最強かつ空前絶後の超絶スキル――【ツッコミ】スキルに目覚める。  そして心身ともに生まれ変わったカンサイは、この【ツッコミ】スキルを使ってリーダーとその仲間を瞬殺ざまぁした(ざまぁしたのは男だけで女魔法使いは仲間にした)。  やがてカンサイはロリっ子神様(?)と出会うことで、自分の真の正体がわかるどころか【ツッコミ】スキルが【神のツッコミ】スキルへと変化する。  その後、カンサイは女魔法使い、ロリっ子神様(?)、第三王女たちと独自のハーレムを築いたり、魔人を倒して国王に力を認められて領地をもらったり、少し変な少女に振り回されたりしながらも何やかんやと〝ツッコミ〟をしながら成り上がっていく。  平手打ちから始まったポーターのツッコミ無双ファンタジー、ここに大開幕!!

〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。

藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。 学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。 入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。 その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。 ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

処理中です...