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第一章 特別推薦入試編
第六話
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『パンパァン!!』
反響した銃声が聞こえた。
さっきまで隣の席の女の子が通路を通り過ぎる気配がしたので、後は貨物室の制圧だけだと思っていたが、銃声が漏れているという事は何らかのトラブルがあったという事だろう。
でも、彼女が上手くいかないのは想定内だ。
彼女には悪いが、俺がここに居るのだから仕方がない。
もしも俺がここに居なければ、恐らく彼女が失敗することは無かっただろう。
いや、それ以前に、この飛行機にハイジャック犯が乗る事も無かったか……。
まあ、今更そんな事を言っても仕方がない。
今は彼女を含め、乗客全員を無事に返さなければならない。
俺の蒔いた種は俺が回収する。
「急ぐか」
俺は席を離れ、後列の奥、貨物室へと走りだす。
周囲の乗客が奇異の目で俺を見てくるが関係ない。
そんな視線には慣れている。
そんなことより、人の命がかかっているのだ。
止まるわけにはいかない。
「君!何をしているんだ!早く自分の戻りなさい!」
急に、通路に居る男性に手首を掴まれた。
その声は無謀な若者を止める優しさと厳しさを感じさせる声で、彼は善意で俺を助けようとしているのだとすぐに分かった。
「すみません」
「うわっ!あ!待ちなさい!」
それでも、俺は止まらずに、無理矢理男性を引きはがす。
もしかしたら怪我をさせてしまったかもしれない。
でも、俺のせいで人が死ぬのだけはもう嫌なのだ。
キィィン!
自動ドアの目前まで来て、途端、奥から金属と金属が擦れる音がし、乗客が騒めく。
聞き覚えのある音、恐らく銃弾が壁なんかに当たった時の音だ。
もう少し早ければ、自動ドアが開いた瞬間に銃弾が俺に向かっていただろう。
自動ドアに近付き、ドアが開く。
もしかしたら、扉の先には俺を穿とうとする弾丸が迫っているかもしれない。
それでも、俺に緊張は無い。恐怖は無い。
そんなものはとうに捨て去った。
貨物室では、隣の席の女の子に向けて、銃を向けようとしているところだった。
今にも引き金が引かれそうである。
まぁでも、ここまで来ればもう大丈夫か。
もう、急ぐ必要はない。
「ふぅ……」
人間の体というのは生命の危機に瀕すると、生存の為、普段は無意識化でリミッターを掛けている力を瞬間的に開放し、驚異的な力を発揮するようにできているというのはご存じだろうか。
火事場の馬鹿力とか、走馬灯とかと言われているあれだ。
さて、俺は生まれてこの方、247回ほど救急搬送され、10,000回以上死の危機に瀕してきた。
そんな中、俺はいつしか――。
――『火事場の馬鹿力』『走馬灯』
自由自在に、リミッターを解除できるようになっていた。
周囲がスローモーションになり、全身の身体能力のリミッターが解除され、爆発的に身体能力が向上する。
瞬間、俺は全力で地面を蹴る。
ハイジャック犯達や隣に座っていた女の子がスローモーション化する中、俺の動きだけが数倍早い。
ハイジャック犯の一人が狙いを定め、引き金を引き、弾丸が発射される。
だが、いくらスローモーションと言えど、弾丸を止めるなど不可能――俺以外ならば。
弾丸を受け止めなければならない状況など、既に何度も経験済みだ。
俺は、麗華特性の謎強度手袋を嵌めた手を弾丸の軌道に差し込み、女の子に飛来する弾丸を摘まんで止めた。
「「「へ?」」」
さっきまで隣の席に座っていた女の子とハイジャック犯の男達は突然の俺の登場に間抜けな声を上げた。
「大丈夫ですか?」
「え?え?あ、はい、大丈夫、です」
混乱した様子の女の子だったが、体に傷は無さそうだ。
ひとまず安心。
「お、お前!今何しやがった!?」
ハイジャック犯の一人が喚く。
「何って……ただ弾丸を摘まんで止めただけだが?」
凄みながらそう言って、摘まんだ弾丸を指で弾く。
キィンと言う音と共に宙を舞った弾丸の残骸は、堅い地面に当たってカンッ、と乾いた音を立てた。
それを見たハイジャック犯二人の顔は目に見えて強張った。
やはり、こういう荒れた手合いには余裕を見せて対応するのが効果的なようだ。
「有り得ねぇ!異能を封じた空間で何で異能が使えんだ!」
異能を封じた空間?
ああ、成程、ここは学園島と同じ異能が制限された状態と言うわけか、それならこの女の子が追いつめられるのも頷ける。
でも、俺のこれは異能ではない。技術だ。
異能に見えるかもしれないが、本物の『身体強化』とは違って身体強度事態は上がらないし、本物の『思考加速』とは違って思考能力まで向上するわけでもない。
が、そんな事は初見では分かる筈が無いだろう。
この都合のいい勘違い、しっかり利用させてもらうとしようか。
「この程度の異能封じで、俺の異能を封じられるとでも……?」
俺は意味深に言い放った。
これで、動揺を誘える筈。
「噓だろ!こんな奴が居るなんて聞いてねぇ!クソ!こうなったらやけくそだ!おい!一か八かコイツやっちまうぞ!」
「おう!」
冷静さを失ったハイジャック犯達が無造作に銃を向けてくる。
が、俺はハイジャック犯達が会話している隙に気配と足音を完全に絶ち、彼らに接近していた俺は。
「な!いつの間!ガハッ!」
「クソッ!速ッ!ゴハァ!」
ハイジャック犯の二人の顎を高速で、丁寧に打ち抜く。
加減はしたので死にはしない筈だ。
さて。
ハイジャック犯の二人を昏倒させた俺は後ろで地面にへたり込む隣の席の女の子に向き直り、手を差し伸べる。
「では、改めて、怪我はありませんか?」
「まさか複数の異能を……いやでも……――」
小声でブツブツと何かを一人で呟きながら、一向に俺の手を取らない少女。
「もしもーし、聞いてます?」
「は、はい!聞いてます!」
「そ、そうですか」
「それと……」
すると、隣の席の女の子は一瞬の間の後、俺の手を取って。
「弟子にしてください!」
真剣な顔でそう言った。
そう、言った……。
……え、今なんて?
反響した銃声が聞こえた。
さっきまで隣の席の女の子が通路を通り過ぎる気配がしたので、後は貨物室の制圧だけだと思っていたが、銃声が漏れているという事は何らかのトラブルがあったという事だろう。
でも、彼女が上手くいかないのは想定内だ。
彼女には悪いが、俺がここに居るのだから仕方がない。
もしも俺がここに居なければ、恐らく彼女が失敗することは無かっただろう。
いや、それ以前に、この飛行機にハイジャック犯が乗る事も無かったか……。
まあ、今更そんな事を言っても仕方がない。
今は彼女を含め、乗客全員を無事に返さなければならない。
俺の蒔いた種は俺が回収する。
「急ぐか」
俺は席を離れ、後列の奥、貨物室へと走りだす。
周囲の乗客が奇異の目で俺を見てくるが関係ない。
そんな視線には慣れている。
そんなことより、人の命がかかっているのだ。
止まるわけにはいかない。
「君!何をしているんだ!早く自分の戻りなさい!」
急に、通路に居る男性に手首を掴まれた。
その声は無謀な若者を止める優しさと厳しさを感じさせる声で、彼は善意で俺を助けようとしているのだとすぐに分かった。
「すみません」
「うわっ!あ!待ちなさい!」
それでも、俺は止まらずに、無理矢理男性を引きはがす。
もしかしたら怪我をさせてしまったかもしれない。
でも、俺のせいで人が死ぬのだけはもう嫌なのだ。
キィィン!
自動ドアの目前まで来て、途端、奥から金属と金属が擦れる音がし、乗客が騒めく。
聞き覚えのある音、恐らく銃弾が壁なんかに当たった時の音だ。
もう少し早ければ、自動ドアが開いた瞬間に銃弾が俺に向かっていただろう。
自動ドアに近付き、ドアが開く。
もしかしたら、扉の先には俺を穿とうとする弾丸が迫っているかもしれない。
それでも、俺に緊張は無い。恐怖は無い。
そんなものはとうに捨て去った。
貨物室では、隣の席の女の子に向けて、銃を向けようとしているところだった。
今にも引き金が引かれそうである。
まぁでも、ここまで来ればもう大丈夫か。
もう、急ぐ必要はない。
「ふぅ……」
人間の体というのは生命の危機に瀕すると、生存の為、普段は無意識化でリミッターを掛けている力を瞬間的に開放し、驚異的な力を発揮するようにできているというのはご存じだろうか。
火事場の馬鹿力とか、走馬灯とかと言われているあれだ。
さて、俺は生まれてこの方、247回ほど救急搬送され、10,000回以上死の危機に瀕してきた。
そんな中、俺はいつしか――。
――『火事場の馬鹿力』『走馬灯』
自由自在に、リミッターを解除できるようになっていた。
周囲がスローモーションになり、全身の身体能力のリミッターが解除され、爆発的に身体能力が向上する。
瞬間、俺は全力で地面を蹴る。
ハイジャック犯達や隣に座っていた女の子がスローモーション化する中、俺の動きだけが数倍早い。
ハイジャック犯の一人が狙いを定め、引き金を引き、弾丸が発射される。
だが、いくらスローモーションと言えど、弾丸を止めるなど不可能――俺以外ならば。
弾丸を受け止めなければならない状況など、既に何度も経験済みだ。
俺は、麗華特性の謎強度手袋を嵌めた手を弾丸の軌道に差し込み、女の子に飛来する弾丸を摘まんで止めた。
「「「へ?」」」
さっきまで隣の席に座っていた女の子とハイジャック犯の男達は突然の俺の登場に間抜けな声を上げた。
「大丈夫ですか?」
「え?え?あ、はい、大丈夫、です」
混乱した様子の女の子だったが、体に傷は無さそうだ。
ひとまず安心。
「お、お前!今何しやがった!?」
ハイジャック犯の一人が喚く。
「何って……ただ弾丸を摘まんで止めただけだが?」
凄みながらそう言って、摘まんだ弾丸を指で弾く。
キィンと言う音と共に宙を舞った弾丸の残骸は、堅い地面に当たってカンッ、と乾いた音を立てた。
それを見たハイジャック犯二人の顔は目に見えて強張った。
やはり、こういう荒れた手合いには余裕を見せて対応するのが効果的なようだ。
「有り得ねぇ!異能を封じた空間で何で異能が使えんだ!」
異能を封じた空間?
ああ、成程、ここは学園島と同じ異能が制限された状態と言うわけか、それならこの女の子が追いつめられるのも頷ける。
でも、俺のこれは異能ではない。技術だ。
異能に見えるかもしれないが、本物の『身体強化』とは違って身体強度事態は上がらないし、本物の『思考加速』とは違って思考能力まで向上するわけでもない。
が、そんな事は初見では分かる筈が無いだろう。
この都合のいい勘違い、しっかり利用させてもらうとしようか。
「この程度の異能封じで、俺の異能を封じられるとでも……?」
俺は意味深に言い放った。
これで、動揺を誘える筈。
「噓だろ!こんな奴が居るなんて聞いてねぇ!クソ!こうなったらやけくそだ!おい!一か八かコイツやっちまうぞ!」
「おう!」
冷静さを失ったハイジャック犯達が無造作に銃を向けてくる。
が、俺はハイジャック犯達が会話している隙に気配と足音を完全に絶ち、彼らに接近していた俺は。
「な!いつの間!ガハッ!」
「クソッ!速ッ!ゴハァ!」
ハイジャック犯の二人の顎を高速で、丁寧に打ち抜く。
加減はしたので死にはしない筈だ。
さて。
ハイジャック犯の二人を昏倒させた俺は後ろで地面にへたり込む隣の席の女の子に向き直り、手を差し伸べる。
「では、改めて、怪我はありませんか?」
「まさか複数の異能を……いやでも……――」
小声でブツブツと何かを一人で呟きながら、一向に俺の手を取らない少女。
「もしもーし、聞いてます?」
「は、はい!聞いてます!」
「そ、そうですか」
「それと……」
すると、隣の席の女の子は一瞬の間の後、俺の手を取って。
「弟子にしてください!」
真剣な顔でそう言った。
そう、言った……。
……え、今なんて?
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