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夜空の先輩
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その放課後以来、夜空はあまり話しかけてこなくなった。僕から声をかけることもなかった。
夜空は以前と同じように学校が終わるとすぐに下校し、友達と遊んだりしているらしかった。
急に近づいてきて、急に離れて。…勝手だな。
それでも僕はまだ、夜空のことを嫌いになれずにいた。
あの時の夜空は何かが変だったと思う。
何か、忘れたい嫌な感情があって、それを振り払うために行動しているような、そんな感じがした。
夜空が何に駆り立てられているのか、それを僕は知りたかった。
それを知る機会は、突然訪れた。
僕が本を借りて帰ろうとすると、ちょうど夜空が靴箱から靴を取り出そうとしているところだった。僕は思わず「あ」と声を出す。
「…珍しいね。この時間に残ってるなんて」
「課題、提出しに行ってたから」
何となく重い空気が流れた。その空気を打ち破るかのように、夜空は、
「せっかくだから、途中まで一緒に帰ろっか」
と言ってまた寂しく笑ってみせた。
いつもの道より一本ずれた、表通りの方から家に向かう。
他校の制服を着た男子生徒が、向こうから歩いてくるのが見えた。何やらスマホを眺めている。
その生徒ともう少しですれ違うというその時、夜空が立ち止まった。
他校生は顔を上げて、それから目を見開き、「夜空?」と声を上げた。
「一也(かずや)…先輩」
「びっくりした。久しぶりだなー」
夜空の知り合いらしいその人は、僕の方をちらっと見て、「友達?」と聞いた。
夜空は「まぁそんなとこ」と曖昧に答えて、「匠くんです」と僕のことを紹介した。
「は、はじめまして」
僕は緊張でどもりながら何とか挨拶する。
「はじめまして。夜空の中学の時の先輩です」
「ていうか、元彼」
夜空が爆弾発言をすると、“先輩”は焦った様子で「それ言うなよ」と辺りを見回しながら言った。
背が高くて、綺麗な顔立ちの人だった。僕は二人が話しているのを見ながら、リア充ってこういう人たちのことを言うんだな、とぼんやりと思った。
話が終わったらしく、
「お待たせ。行こ」
という夜空の言葉を合図に、僕たちはまた歩き出した。
二人きりになった後も、僕はまださっきの先輩のことが気になっていたが、どう聞けばいいのか迷っていた。
すると夜空が、
「ごめんね。急に知らない人と話させて」
と今気が付いたように言った。
そこで何となく話の流れができたので、僕は、
「いや、大丈夫。…さっきの先輩とは、たまに会ったりしてるの?」
と探りを入れた。
「会わないよ。彼は今、別の人と付き合ってるから」
「あ…そうなんだ」
「そう。フラれちゃった」
他に好きな人ができたから、夜空と別れて、その人と付き合ったということだろうか。
それにしても、一也さんという人と話している時の、あの態度。
夜空はまだ一也さんのことが好きなのではないか、と僕は思った。それなら、知らない上級生と奔放な行為をするのも少しは理解できる。
同時に僕は、僕の恋(のようなもの)が一筋縄ではいかないことも理解した。
僕の想い人は、昔の恋人を忘れられずに奔放な性行動を繰り返している。ただ苦しみを紛らわすためだけの、愛のない繰り返し。
どうしたらそこから救ってあげることができるだろう。僕には何ができるのだろう。
夜空は以前と同じように学校が終わるとすぐに下校し、友達と遊んだりしているらしかった。
急に近づいてきて、急に離れて。…勝手だな。
それでも僕はまだ、夜空のことを嫌いになれずにいた。
あの時の夜空は何かが変だったと思う。
何か、忘れたい嫌な感情があって、それを振り払うために行動しているような、そんな感じがした。
夜空が何に駆り立てられているのか、それを僕は知りたかった。
それを知る機会は、突然訪れた。
僕が本を借りて帰ろうとすると、ちょうど夜空が靴箱から靴を取り出そうとしているところだった。僕は思わず「あ」と声を出す。
「…珍しいね。この時間に残ってるなんて」
「課題、提出しに行ってたから」
何となく重い空気が流れた。その空気を打ち破るかのように、夜空は、
「せっかくだから、途中まで一緒に帰ろっか」
と言ってまた寂しく笑ってみせた。
いつもの道より一本ずれた、表通りの方から家に向かう。
他校の制服を着た男子生徒が、向こうから歩いてくるのが見えた。何やらスマホを眺めている。
その生徒ともう少しですれ違うというその時、夜空が立ち止まった。
他校生は顔を上げて、それから目を見開き、「夜空?」と声を上げた。
「一也(かずや)…先輩」
「びっくりした。久しぶりだなー」
夜空の知り合いらしいその人は、僕の方をちらっと見て、「友達?」と聞いた。
夜空は「まぁそんなとこ」と曖昧に答えて、「匠くんです」と僕のことを紹介した。
「は、はじめまして」
僕は緊張でどもりながら何とか挨拶する。
「はじめまして。夜空の中学の時の先輩です」
「ていうか、元彼」
夜空が爆弾発言をすると、“先輩”は焦った様子で「それ言うなよ」と辺りを見回しながら言った。
背が高くて、綺麗な顔立ちの人だった。僕は二人が話しているのを見ながら、リア充ってこういう人たちのことを言うんだな、とぼんやりと思った。
話が終わったらしく、
「お待たせ。行こ」
という夜空の言葉を合図に、僕たちはまた歩き出した。
二人きりになった後も、僕はまださっきの先輩のことが気になっていたが、どう聞けばいいのか迷っていた。
すると夜空が、
「ごめんね。急に知らない人と話させて」
と今気が付いたように言った。
そこで何となく話の流れができたので、僕は、
「いや、大丈夫。…さっきの先輩とは、たまに会ったりしてるの?」
と探りを入れた。
「会わないよ。彼は今、別の人と付き合ってるから」
「あ…そうなんだ」
「そう。フラれちゃった」
他に好きな人ができたから、夜空と別れて、その人と付き合ったということだろうか。
それにしても、一也さんという人と話している時の、あの態度。
夜空はまだ一也さんのことが好きなのではないか、と僕は思った。それなら、知らない上級生と奔放な行為をするのも少しは理解できる。
同時に僕は、僕の恋(のようなもの)が一筋縄ではいかないことも理解した。
僕の想い人は、昔の恋人を忘れられずに奔放な性行動を繰り返している。ただ苦しみを紛らわすためだけの、愛のない繰り返し。
どうしたらそこから救ってあげることができるだろう。僕には何ができるのだろう。
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