上 下
33 / 51

女公爵になるための教育が始まる

しおりを挟む
アナトールとの婚約を届け出て、私達が正式に婚約者となって数日。また、お父様とお母様に呼び出された私達。要件は、既に分かっていた。

「では、エリアーヌ。事前に通告していた通り、お前のために今日から家庭教師を変えることにする。今までは貴族の娘として恥ずかしくない程度の勉強に留めていたが、これからはかなり厳しいものとなる。覚悟はいいね?」

「はい、お父様」

前の家庭教師の先生にも、大変にお世話になった。事前に話は聞いていたので、お別れの挨拶も済ませてある。先生はこれから女公爵となる未来を選んだ私を励まして、応援してくれた。もちろん、アナトールとの婚約も祝福してくれて…本当に良い先生だった。

だからこそ、その先生に習ったことをこれからどんどん活かしていって、新しい先生の教えもしっかり吸収していこうと思う。

「アナトールにも、新たに家庭教師を雇った。簡単なことから教えてもらうことにはなるが、それでも君には難しいだろう。…それでもいいんだね?」

「はい!」

「なら良い。二人とも、頑張りなさい」

「はい、お父様」

「頑張ります」

お父様は私達の様子を見て、優しく頷いてくれた。

「そうそう、アナトールくん。いつ言おうか迷っていたのだけど、せっかくだから言っておくわ。これからは貴方をアナトールと呼んでいいかしら?」

「はい」

「私と夫のことはこれから、義父上、義母上と呼ぶのよ」

「義父上、義母上…」

「そう、上手」

お父様もお母様も、アナトールにそう呼ばれてどこか嬉しそうな様子だ。

「では、そろそろそれぞれの家庭教師が着く頃だ。お互い、部屋へ戻りなさい。先生方に、失礼のないように」

「はい、お父様。では失礼します」

「失礼します。義父上、義母上」

私達はそれぞれの部屋に戻って、家庭教師の先生を待つ。

しばらくして、部屋のドアがノックされる。返事をすれば、新しい先生が入ってきた。

「お初にお目にかかります。エリアーヌ・ビジュー・デルフィーヌと申します。これからよろしくお願いします」

しっかりと挨拶をすれば、穏やかな笑みを浮かべて先生は言った。

「ジェローム・ラザール・マケールと申します。これから家庭教師を務めさせていただきますので、どうかよろしくお願い致しますね」

そして、先生に促されて席に着く。

「では、まずは学力がどれほど身に付いているか確認から始めましょう。ちょっとしたテストだと思って、緊張はなさらず解いてみてください。後半に行くに従って解けない問題があって当たり前のテストとなります。どうぞ軽い気持ちで受けてくださいね」

そう言われて問題を見る。最初は簡単な問題から、後半に行くに従って高校生レベルの問題まで出題されていた。

私には前世の記憶がある。なので、当然忘れてしまっている部分もあるがそれ相応の教養はあるつもり。

とはいえこの年齢で解いてしまっていいものか、とは思う。

思うけど。

…女公爵になるために、本気で頑張ると誓ったのだから本気を出すべきなのだろう。

「ジェローム先生、もし難しい問題を解けたとして…気味が悪いと思いますか?」

「…え?いえ、勤勉だなと思いますよ」

「じゃあ、張り切ってしまっていいですか?」

私がそう問えば、優しい笑み。

「もちろんですとも」

私は、テストに向き合う。…嫌な顔をされないといいな。














「いや、実に素晴らしい」

結局のところ、私は全ての分野のテストにおいて高得点を叩き出した。全問正解は、どの分野においても…残念ながら、まだ無理だったけど。

前世の知識のおかげでそれなりの教養はあるし、貴族における必要な知識…礼儀作法、マナー、各貴族の家紋などは以前の先生から習っていた。

むしろこのチート状態で全問正解出来ないあたり、私はまだまだ足りていない。領地経営などについては、出題されてもサッパリだし…ジェローム先生にたくさんのことを教えて頂かないと。

「前の家庭教師、そしてエリアーヌ様自身の素質もあるのでしょう。大変素晴らしい。その年齢ならば神童と呼ばれるほどの教養がありますね」

「ありがとうございます。でも、足りないんです」

「…ほう?」

「私は、女公爵になります。家族や領民達、その全てを守るんです。だから、まだまだ知識が足りません。どうか、足りない分を全て教えてください。ジェローム先生が頼りなんです」

ジェローム先生は私の言葉にやや驚いて、そして笑った。

「ふふ…ああいえ、笑ってしまって申し訳ない。大丈夫です、エリアーヌ様。貴女はまだまだ若い。いや、幼いとすら言える。これから十分な時間もあります。私がお教えできることは、全てお伝えいたしますよ。貴女はきっと、良い統治者となられるでしょう」

そのジェローム先生の言葉に、安心して息をつく。

「ありがとうございます、ジェローム先生」

「張り切ることは良いことです。焦る気持ちも、理解できます。しかし、一歩一歩着実に身に付けてこそ教養は力を発揮するのです。まずは、ここから。一緒に頑張っていきましょう」

「はい!先生!」

色々な分野の色々な問題のテストを受けたので、初日はテストで終了。けれどジェローム先生には認めてもらえたようだし、これから女公爵となる未来に向けて一歩一歩着実に頑張ろうと思う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?

うり北 うりこ
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。 これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは? 命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

【完結】ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!?

三月よる
恋愛
14歳の誕生日、ピフラは自分が乙女ゲーム「LOVE/HEART(ラブハート)」通称「ラブハ」の悪役である事に気がついた。シナリオ通りなら、ピフラは義弟ガルムの心を病ませ、ヤンデレ化した彼に殺されてしまう運命。生き残りのため、ピフラはガルムのヤンデレ化を防止すべく、彼を手塩にかけて育てる事を決意する。その後、メイドに命を狙われる事件がありながらも、良好な関係を築いてきた2人。 そして10年後。シスコンに育ったガルムに、ピフラは婚活を邪魔されていた。姉離れのためにガルムを結婚させようと、ピフラは相手のヒロインを探すことに。そんなある日、ピフラは謎の美丈夫ウォラクに出会った。彼はガルムと同じ赤い瞳をしていた。そこで「赤目」と「悪魔と黒魔法士」の秘密の相関関係を聞かされる。その秘密が過去のメイド事件と重なり、ピフラはガルムに疑心を抱き始めた。一方、ピフラを監視していたガルムは自分以外の赤目と接触したピフラを監禁して──?

転生悪役令嬢の前途多難な没落計画

一花八華
恋愛
斬首、幽閉、没落endの悪役令嬢に転生しましたわ。 私、ヴィクトリア・アクヤック。金髪ドリルの碧眼美少女ですの。 攻略対象とヒロインには、関わりませんわ。恋愛でも逆ハーでもお好きになさって? 私は、執事攻略に勤しみますわ!! っといいつつもなんだかんだでガッツリ攻略対象とヒロインに囲まれ、持ち前の暴走と妄想と、斜め上を行き過ぎるネジ曲がった思考回路で突き進む猪突猛進型ドリル系主人公の(読者様からの)突っ込み待ち(ラブ)コメディです。 ※全話に挿絵が入る予定です。作者絵が苦手な方は、ご注意ください。ファンアートいただけると、泣いて喜びます。掲載させて下さい。お願いします。

悪役令嬢に転生したので落ちこぼれ攻略キャラを育てるつもりが逆に攻略されているのかもしれない

亜瑠真白
恋愛
推しキャラを幸せにしたい転生令嬢×裏アリ優等生攻略キャラ  社畜OLが転生した先は乙女ゲームの悪役令嬢エマ・リーステンだった。ゲーム内の推し攻略キャラ・ルイスと対面を果たしたエマは決心した。「他の攻略キャラを出し抜いて、ルイスを主人公とくっつけてやる!」と。優等生キャラのルイスや、エマの許嫁だった俺様系攻略キャラのジキウスは、ゲームのシナリオと少し様子が違うよう。 エマは無事にルイスと主人公をカップルにすることが出来るのか。それとも…… 「エマ、可愛い」 いたずらっぽく笑うルイス。そんな顔、私は知らない。

悪役令嬢に転生したのですが、フラグが見えるのでとりま折らせていただきます

水無瀬流那
恋愛
 転生先は、未プレイの乙女ゲーの悪役令嬢だった。それもステータスによれば、死ぬ確率は100%というDEATHエンド確定令嬢らしい。  このままでは死んでしまう、と焦る私に与えられていたスキルは、『フラグ破壊レベル∞』…………?  使い方も詳細も何もわからないのですが、DEATHエンド回避を目指して、とりまフラグを折っていこうと思います! ※小説家になろうでも掲載しています

乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました

白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。 「会いたかったーー……!」 一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。 【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】

【短編】転生悪役令嬢は、負けヒーローを勝たせたい!

夕立悠理
恋愛
シアノ・メルシャン公爵令嬢には、前世の記憶がある。前世の記憶によると、この世界はロマンス小説の世界で、シアノは悪役令嬢だった。 そんなシアノは、婚約者兼、最推しの負けヒーローであるイグニス殿下を勝ちヒーローにするべく、奮闘するが……。 ※心の声がうるさい転生悪役令嬢×彼女に恋した王子様 ※小説家になろう様にも掲載しています

処理中です...