魔女が死にました

下菊みこと

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魔女が死にました

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魔女が死にました。
心の優しい、魔女が死にました。

彼女の名前はベアトリーチェ。老婆で、とても優しい魔女でした。村の皆から慕われていました。村の皆を幸せにしてきました。彼女には使い魔がいました。黒猫のレン。真名をアレクシルと言います。レンは人の姿になれます。レンは人の姿になると、魔女の死を村の皆に伝えます。レンは村の皆からよく魔女を看取ってくれた。よく知らせてくれたと励まされます。そして、村の皆から見送られて、魔女は旅立ちました。

レンは魔女の家の広大な庭にひっそりとお墓を掘ります。二人分。一つの墓には旅立った魔女の抜け殻を入れて、花を供えます。黄色いスイセンを。その花言葉に全てを託して。そして、もう一つの穴に自分も入ろうとして…。

「ねえ、貴方。なにをしているの?」

少女に邪魔をされました。その少女は、肖像画で見た魔女の若い頃にそっくりなので、レンはびっくりしました。

「…お前は誰だ」

「ベアトリーチェの孫よ。本当はおばあちゃんを見送りたかったのだけど、遠くで暮らしていたから間に合わなかったの」

「…そうか。それは…すまなかった」

「いいえ、気にしないで。ところで、貴方、なにをしているの?」

「…ベアトリーチェのところに行きたい。でも、自害はベアトリーチェとの契約の時に禁じられた。だから、墓の中で自然に逝けるのを待つ」

「…。そう。そうなのね」

少女は、ベアトリーチェに似た波打つ金の髪を指先で遊ばせながら、青い目を悲しそうに揺らします。

「…ごめんね。それは、させてあげられないの」

「?どういう意味だ」

「レン。…アレクシル」

真名を呼ばれて、レンはびっくりしました。だって真名は、契約者しか知らないはずだから。

「おばあちゃんに、貴方をよろしく頼むと言われているの。だから、死なせてあげられない。私と契約して、アレクシル」

「…ベアトリーチェが、そういったのか」

「ええ」

「…わかった」

レンは傅き、少女の手を取りキスを落とします。

「…これで契約は完了だ。今日から俺は、お前の使い魔だ」

「随分あっさりと契約してくれるのね」

「ベアトリーチェの望みだからな」

「そう。ねえ、私、今日からここに住むわ。家に、居場所がないの」

「わかった」

「おばあちゃんは私にとって、唯一気を許せる肉親だったの。よかったら、おばあちゃんのお話を聞かせてちょうだい?」

「それなら、とりあえずこの穴を埋めてさっさとお茶の準備をする」

「さすがはアレクシルね。おばあちゃんに聞いていた通りだわ」

「魔女が使い魔の真名を連呼するな。レンとよべ」

「ええ。レン、これからよろしくね。あと、私魔女の知識がないから、色々教えてね」

「わかった」

こうして二人の新しい暮らしが始まりました。
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