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気付いたら転生してた

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天道花音18歳。

それが私だったはず。

なのにこの鏡に映る幼女は、明らかに私の大好きな乙女ゲームの悪役令嬢カノン…の幼少期。

設定集で見た姿そのまんま。

つまり…わたくし花音は、なんの因果か幼女カノンちゃんになってしまったらしい。

「いや、意味がわからないんですけど」

全くもって意味不明だが、まあ身体は丈夫ではなかったのでおそらく突然死したんだろう。

病室で、ゲームだけがお友達だった私。

だがそう。

幼女カノンちゃんになったのなら。

「婚約者である公爵令息こと攻略対象一番人気、ルシフェル様に合法的にイチャつける!」

ということで、せっかくなら思う存分楽しんでいくことにする。












「ルシフェルさまぁー!!!」

ルシフェル様に抱きつく。

彼はそれをさっと避けた。

そんなイケズなところも好き。

「急になんなの?」

冷たい目も素敵…!

「好き!」

「は?」

「ルシフェル様愛してる!」

「急になんなの…?」

わかってる。

幼女カノンちゃんは設定集を見るにルシフェル様を顔の痣を理由に疎んでいたはず。

でも!

幼女カノンちゃんの中身は今は私だから!!!

「好き!」

「埒があかない…」

「ルシフェル様素敵!声可愛い!天使!」

ルシフェル様は冷たい目を向けてくるけれど私はめげない。

「僕は君が忌み嫌っていた呪われ子だよ」

「その節はすみませんでした!ルシフェル様の良さをわからない愚か者でした!貴方はその痣すら美しい!」

私の発言にぎょっとしたルシフェル様は、踵を返して馬車に戻る。

「え、ルシフェル様どちらに!」

「不愉快だから帰る」

「お気をつけて!はやくまた会いに来てくださいね!愛しております!」

思わずといった表情で振り返ったルシフェル様に大きく手を振る。

気まずそうにそっぽを向いたその仕草すら愛おしい。










「ルシフェル様素敵です!」

「ルシフェル様かっこいい!」

「ルシフェル様こっち向いてー!」

「ルシフェル様愛してるー!!!」

最初は何の冗談かと思った。

他の奴らより、より苛烈に僕を呪われ子として忌み嫌っていた女の子に急に言い寄られてどうすればいいかわからなかった。

けれど彼女はどんなに拒絶してもこちらに笑顔を向けてくる。

そして決定的なことが起こった。

『呪われ子のくせに!』

子供同士を交流させるためのお茶会の席で。

第一王子殿下がそう仰って、水をぶっかけられそうになった時。

僕を庇うように抱きしめて、彼女が…カノンが代わりにびしょ濡れになった。

僕は公爵家の息子であるが、あくまで将来女公爵になるカノンに婿にしてもらう予定の次男だし痣が生まれつきあるしで格上の相手には蔑まれても仕方がないと思っていた。

でも彼女は言った。

『ルシフェル様は呪われたなんてない!世界で一番素敵な人だもん!』

そう言って僕を抱きしめてそのままぐずりだす彼女にさすがの第一王子殿下も狼狽して、謝罪の言葉をくれた。

周りは第一王子が呪われ子でしかない公爵家の息子に頭を下げたとえらい騒ぎだったそうだが、それで第一王子殿下とは打ち解けて仲良くなった。

彼女はその間憎たらしそうに第一王子殿下を睨んでいたが、とりあえず風邪をひくからと我に返った侍女に連行され着替えさせられて先に帰っていった。

「…まだ、お礼も言えてないな」

明日、会いに行こう。

いい加減、彼女の気持ちに向き合わなくちゃ。















最悪のお茶会の後、ルシフェル様が会いに来てくれた。

ルシフェル様曰く第一王子殿下にもう蟠りはないとのこと。

そして。

「カノン、ありがとう。庇ってくれて嬉しかった」

「いえいえ滅相も無い!」

「だけど」

ルシフェル様は私の手を握って言った。

「次からは僕が守るから。君は僕に守られていて。…大切な婚約者にくらい、格好つけさせてよ」

私の天使は大天使だった。











あれ以降、ルシフェル様と私はおしどりも真っ青なラブラブカップルとなった。

といっても、私が好き好き攻撃するだけでルシフェル様はうん、と返事して微笑んでくれるだけだけど。

「ルシフェル様、今日も素敵!」

「うん、知ってる」

にっこり笑ってそう言うルシフェル様は、イケメンを通り越して大天使だ。

ただ、時が経つのは早いものでそろそろこの貴族の子女の通う学園にヒロインが特待生として転入してくる頃。

というのも、ヒロインは期待の聖女候補だからである。

ここはあくまでもゲームの世界ではなく、一つの現実の世界だ。

第一王子殿下改め王太子殿下とルシフェル様の仲は改善されて、私こと悪役令嬢カノンちゃんとルシフェル様の仲も改善されたので強制力とかはないと思うけどどうなることやら。











「魅了魔法の痕跡、ですか」

「ああ」

王太子殿下は言った。

「あの聖女候補が来てから、ルシフェルは変わっただろう」

「そうですね」

ヒロインことセイラが現れてから、ルシフェル様は私を遠ざけてセイラとばかり過ごすようになった。

「不審に思って調べたところ、魅了魔法の痕跡が見られた」

「へえ」

「他の有力な貴族の男子も同じ被害に遭っているらしい」

「ふむ」

「私も魅了魔法を使われたが、王家に伝わるアミュレットが守ってくれた。そのアミュレットには自分に向けられた魔法を記録する機能があるので、その証拠を突きつけてあの聖女候補は今獄中だ」

それならこれ以上犠牲者は出ないから安心だ。

「あの聖女候補生は懲役を終えて出てきても80歳を過ぎたおばあちゃんになるから、その頃には魅了魔法も難しくなるだろう」

「でしょうねぇ」

「問題は今魅了魔法にかかっている者たちだ。魅了魔法は解き方が解明されていない」

「ですねぇ」

「…なんでそんなに落ち着いてるんだ」

だってそんなの。

「いつか、私の大天使は私の側から離れていくだろうと思っていたので」

「なぜ」

「あんなに素敵な方を、他の子達が放っておくはずがないからです。私より魅力のある女の子なんてたくさんいます。魅了魔法はちょっと予想外でしたけど」

私がそう言えば、王太子殿下は目を見張る。

「あんなに好き好き攻撃しておいてそんな認識だったのか…」

「え?」

「お前馬鹿だろ」

「まあ…はい」

それは認めるけども。

「とにかく!魅了魔法を解く努力くらいはしろ!王太子としての命令だ!」

「ええ…?」

ということで、努力することにします。










「ねえ、セイラを返してよ」

「そうですねぇ。ルシフェル様大好き」

「それよりセイラはどこ?」

「ルシフェル様はお美しいですねぇ。セイラ様は獄中ですよ」

「獄中?…うわぁあああ!!!」

ルシフェル様はセイラの悪い面を認識すると錯乱して忘れてまた元に戻る。

魅了魔法って怖い。

セイラ大好き症候群のルシフェル様に付ける薬はもうなさそうだ。

かと言ってこの状態のルシフェル様は他に頼れる人もおらず、セイラは獄中なので私が責任持って結婚して養うつもりだけど。

子供は…まあ最悪養子を考える。

「ルシフェル様、私はずっとルシフェル様の味方でいますからね」

よしよしと錯乱したルシフェル様の頭を撫でる。

そろそろ雨雲が広がってきたから屋内に行きましょうねとルシフェル様の手を引いたが、払いのけられた。

結果ものすごい強い雨に打たれて二人でびしょ濡れになったのだが。

ふとルシフェルの目が私を捉えて、ルシフェル様は狼狽出した。

「え、あれ…」

「ルシフェル様?」

「僕…どうして。僕が好きなのは、僕を一番に愛してくれた女の子は…」

ふらふらした足取りで、払いのけられ距離をとった私にわざわざ近寄るルシフェル様。

「ねえ、顔をよく見せて」

「はい」

「ああ、やっぱり。僕が、僕が愛した女の子は…あの子じゃない。君だ。…カノン、僕は君が好きなんだ」

こうしてなんだか私の訳がわからないうちに、魅了魔法は解消されてしまった。

「愛してるよ、カノン」

「嬉しいですけど恥ずかしいです、ルシフェル様」

「君だってあんなに積極的だっただろう?それとも気持ちが変わってしまった?」

「それは…まあ…前は捨てられるまで楽しんどこうと思って積極的だったのは認めますけど、今だってルシフェル様のことは変わらず愛しています。むしろ大好き度は悪化していますよ」

「嬉しいよ、愛してる。でも僕は君を捨てるなんてしないし絶対手放さないよ」

嬉しいけれど、嬉しいけれどこの後反動のようにルシフェル様に溺愛されるようになってそれはそれでまた大変な思いをすることになった。

あとこの魅了魔法の解き方が唯一の方法だったため、他の被害者全員が日記を漁れ本当に好きな人と好きになったきっかけとやらを探られるはめになったのもある意味地獄だった。
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