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ここまで一途に愛してくれる人も珍しい

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私はリュシエンヌ。公爵家の跡取り娘。私には婿入り予定の婚約者がいた。伯爵家の次男で、グエンダル様という素敵な方。

私たちは、色々と釣り合いが取れていないと言われていた。私はオーク並みの容姿で、グエン様は見目麗しい貴公子。美女と野獣の逆バージョン。そして私は公爵家を継ぐのに対して、グエン様は伯爵家の次男という立場。

けれどグエン様はいつだって私なんかにもお優しくて、誠実で、大好きな方だった。美しいのは容姿だけでなく、心まで綺麗で。頑張り屋さんで、ユーモアもあった。

私たちの出会いの場は我が屋敷で、親同士の決めた婚約者として顔を合わせたのが始まり。私はこの見た目から心無い言葉を受けることが多く、初めて会う婚約者にもどんな心無い言葉をぶつけられるだろうと恐れていた。けれど彼は私を真っ直ぐにみて、「こんなに優しそうな子が僕の婚約者だなんて!嬉しいなぁ…これからよろしくね!」と言ってくれた。

私はそんな婚約者が大好きで、婚約者もそんな私を大切にしてくれた。

「けれど…彼は姿を消した…」

ひとりごちる。

そう。

彼は結婚式の三日前、書き置きすら残さず消えた。

書き置きすらなく、女性の影も見えないから駆け落ちとかではなく事件に巻き込まれた可能性が高いらしい。だからまだ婚約解消とはなっていない。もし事件に巻き込まれているなら、無事に帰って来て欲しい。

けれどいっそのこと真相は駆け落ちとかで、無事でいてくれる方が何倍も嬉しいと思ってしまう。本当に大好きな方だから、事件になんて巻き込まれていて欲しくない。

彼が心配で食事も喉を通らない。夜もあの人のことを考えて眠れない。

「グエン様…どうか無事でいて…」

けれど、世界はいつだって残酷だ。












「グエン様が見つかった!?」

「はい、お嬢様。ですが、生きていますが危険な状況だそうです…」

「そんな…!」

「グエン様に横恋慕していた御令嬢が、彼を犯罪者集団に依頼してさらって魅了魔術をかけたそうです。しかしグエン様は、本当にお嬢様を愛してくれていました。だから必死に魅了魔術に抵抗して…頭がクラッシュしたと…」

「…!!!」

あまりのことに言葉が出ない。

「耳や目や鼻から血を流すグエン様を見て、その御令嬢が自首して彼は病院に運ばれたそうです。御令嬢は今、牢につながれているそうです。しかし、状況は思わしくなく…」

「…とにかく、グエン様のおそばにいさせて」

「はい、病院に行きましょう」

グエン様は数日後、ようやく目を覚ました。

それまでの間、ずっと私はグエン様に付き添った。

グエン様は私を見てこう言った。

「…どちら様ですか?」

お医者様を急いで呼んで、診てもらう。

グエン様はお医者様の回復魔術のおかげでもう身体は大丈夫だそう。

…その代わり、魅了魔術の影響で私の記憶がないらしい。

そして、記憶が戻るのは難しいとのこと。

「リュシー、大丈夫か?」

「お義兄様…」

私を心配して、グエン様の兄であるガブリエル様が声をかけてくれた。

「彼が無事で良かったです。でも、記憶がないなら…彼を解放してあげないと」

「…どういう意味だ?」

「やっぱり私なんか彼に相応しくないんです、きっと。だからバチが当たったんです」

「はぁ?お前自身がそんなことを言うなら、今までクラッシュするほどお前を愛した弟の気持ちはどうなるんだよ、馬鹿!」

「だって、じゃあどうしたらいいんですか!!!」

義兄は泣いて叫んだ私の肩を掴んで、無理矢理私と目を合わせて言う。

「身を切られるような辛い思いをしたとしても、今まで以上に弟を支えてくれ。側にいろ。取り返しがつかないこともあるだろうよ。けどな、ここからまた新たな思い出や感情だって得られるだろ。なにより、お前、諦められるの?」

「…諦められません。ごめんなさい、泣き言を吐きました。これから婚約者を支えていきます。たくさんの思い出を作ります。本当にありがとうございます、お義兄様」

「可愛い義妹が血迷ったら止めてやるのが義兄ってもんだ、気にすんな」

さて、これからどうしようか。

支えていくといっても、まずは関係の再構築からスタートだ。















結局あの後、グエン様とは結婚した。

結婚式は騒動の後一年後に延期となったが、それまでの一年間の間にグエン様と交流を深めた。

グエン様は私のことを忘れてしまっても相変わらずで、君みたいな優しい子が婚約者だなんて嬉しいと笑う。

失くした思い出を取り戻すように、私たちはデートを重ねて思い出を増やした。

彼はそこまでしても、記憶は戻っていない。

けれど記憶を失う前と変わらず一途に私を愛してくれる。

今ではおしどり夫婦で有名になった。

そして私のお腹には今、彼の子供がいる。

夫となったグエン様とともに、お腹の子を守っていこうと思う。

「グエン様、私…今とても幸せです」

「僕もだよ、リュシー。ここに僕らの愛の結晶がいるんだね」

愛おしそうに私のお腹を撫でるグエン様。

「リュシー。僕は君との宝物だったはずの思い出を失ってしまった。けれど…辛い思いをさせたはずなのに、それでも僕を愛してくれる君が心底愛おしい」

「グエン様…」

「失ったものは取り返せないかもしれない。けれど、僕は生涯の愛を君に誓う。たとえ記憶がなくとも、僕の君への愛は本物だ。だから、僕の腕の中で幸せでいてくれるかな」

「…もちろんです!私もグエン様を愛しています!」

「愛おしい人。どうか君を…君たちを、僕に守らせて」

優しく抱きしめられて、涙が止まらない。

それでもこくこくと頷けば、抱きしめられたまま額にキスをされた。

「ありがとう。絶対絶対、君と僕のこの幸せを守るからね」

「はい!」

願わくば、この幸せが永遠のものでありますように。

そんな傲慢な願いさえ持ってしまうほど、私たちは今…幸せだ。
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