45 / 76
そして僕も破滅した
しおりを挟む
突然男爵様が弟に爵位を譲った。
いや、買い取られた。
詳しいことは何も知らない。
ただ新しい男爵様には息子が二人もいるから、爵位を継がせるのも商会を継がせるのも間に合っている。
僕の婿入りの話はなくなった。
「あの妖獣の村の婿養子になると期待していたのに、使えない子」
「もう結婚適齢期で婚約が決まっている家がほとんどで、他の家に婿入りも期待できないし…邪魔なだけだな」
リーシュの家族が破滅したことで、僕も破滅が確定した。
もう両親から期待はされない。
兄と仲良くもないから支援も期待できない。
婿養子となるためだけに努力してきた今までも全てが無駄になる。
全部、リーシュを裏切った報いだろうか。
「…これからどうしようか」
僕は近いうちに、自立しろと実家を追い出されるだろう。
その前になんとか自立を目指さなければ。
僕はこれから生きていくための仕事を、必死になって探した。
結果、家庭教師の職を得た。
…もう未亡人になったお金持ちのマダムの。
「この度は雇ってくださってありがとうございます」
「いえいえ、わたくしあまり勉学はわからなくて。今からでも色々なことを学びたいの。よろしくね」
妖艶なその人は、年齢を感じさせないほどに美貌を保っていた。
経産婦だと信じられないほどに美しい。
子供達はすでに自立していて、屋敷には僕らと使用人達だけ。
僕が雇われた理由なんて、わかりきっていた。
「どうか、色々なことを教えてね」
「はい、奥様」
ただ、意外なことになかなか手を出してこない。
本当に真面目に、色々なことを積極的に学ぼうとして普通に授業を受けてくれる。
そのうち彼女に心を許し始め、杞憂だったかと思っていた頃に…関係を求められた。
元々わかりきっていたこと。
さらに彼女のことは今では嫌いではないし、だから頷いた。
「…ふふ、満足したわ。またお願いね、先生?」
「はい、もちろんです」
微笑みを浮かべる。
けれど内心吐き気を催していた。
彼女が嫌なわけではなかった。
最初からわかっていたことだったし、彼女は嫌いじゃないし雇ってくれた恩人だ。
ただ…リーシュの顔が頭に浮かんで、仕方がない。
「…やっぱり、僕は色々拗らせすぎたな」
一人部屋で呟く。
彼女は未亡人で、倫理とか色々あるけれど…まあこれは、爛れてはいても許されないことではない。
彼女のことも嫌いじゃない。
なのにこんなに苦しくなるのは、初恋を拗らせすぎたから。
これは、初恋を消化することなく裏切った僕への天罰なのだ。
「…はは」
決して不幸ではない。
天罰こそ降ったが、したことに対しては軽い罰でしかないのだろう。
でも、それでも心が苦しい。
リーシュ、本当は君に触れたかった。
いや、買い取られた。
詳しいことは何も知らない。
ただ新しい男爵様には息子が二人もいるから、爵位を継がせるのも商会を継がせるのも間に合っている。
僕の婿入りの話はなくなった。
「あの妖獣の村の婿養子になると期待していたのに、使えない子」
「もう結婚適齢期で婚約が決まっている家がほとんどで、他の家に婿入りも期待できないし…邪魔なだけだな」
リーシュの家族が破滅したことで、僕も破滅が確定した。
もう両親から期待はされない。
兄と仲良くもないから支援も期待できない。
婿養子となるためだけに努力してきた今までも全てが無駄になる。
全部、リーシュを裏切った報いだろうか。
「…これからどうしようか」
僕は近いうちに、自立しろと実家を追い出されるだろう。
その前になんとか自立を目指さなければ。
僕はこれから生きていくための仕事を、必死になって探した。
結果、家庭教師の職を得た。
…もう未亡人になったお金持ちのマダムの。
「この度は雇ってくださってありがとうございます」
「いえいえ、わたくしあまり勉学はわからなくて。今からでも色々なことを学びたいの。よろしくね」
妖艶なその人は、年齢を感じさせないほどに美貌を保っていた。
経産婦だと信じられないほどに美しい。
子供達はすでに自立していて、屋敷には僕らと使用人達だけ。
僕が雇われた理由なんて、わかりきっていた。
「どうか、色々なことを教えてね」
「はい、奥様」
ただ、意外なことになかなか手を出してこない。
本当に真面目に、色々なことを積極的に学ぼうとして普通に授業を受けてくれる。
そのうち彼女に心を許し始め、杞憂だったかと思っていた頃に…関係を求められた。
元々わかりきっていたこと。
さらに彼女のことは今では嫌いではないし、だから頷いた。
「…ふふ、満足したわ。またお願いね、先生?」
「はい、もちろんです」
微笑みを浮かべる。
けれど内心吐き気を催していた。
彼女が嫌なわけではなかった。
最初からわかっていたことだったし、彼女は嫌いじゃないし雇ってくれた恩人だ。
ただ…リーシュの顔が頭に浮かんで、仕方がない。
「…やっぱり、僕は色々拗らせすぎたな」
一人部屋で呟く。
彼女は未亡人で、倫理とか色々あるけれど…まあこれは、爛れてはいても許されないことではない。
彼女のことも嫌いじゃない。
なのにこんなに苦しくなるのは、初恋を拗らせすぎたから。
これは、初恋を消化することなく裏切った僕への天罰なのだ。
「…はは」
決して不幸ではない。
天罰こそ降ったが、したことに対しては軽い罰でしかないのだろう。
でも、それでも心が苦しい。
リーシュ、本当は君に触れたかった。
98
お気に入りに追加
310
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる