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愛は薬を上回る
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ノエル・オディル。公爵令嬢である彼女は、地位、金、権力、その全てを生まれながらに持ち合わせている。そして並々ならぬ努力を重ねて元々持ち合わせていた美貌をさらに磨き、教養も身につけた。慈善活動を積極的に行う彼女の慈悲深さは有名であり、冷たく見える美しい見た目であるにも関わらず、多くの者から微笑みの天使と呼ばれる。
そんな彼女にはもちろん生まれながらの婚約者がいる。セラフィン皇国の皇太子、シモン・セラフィンである。シモンも皇太子であるため生まれながらに人の羨む全てを手にしている。それでありながら皇太子として努力を重ねてきたシモンにとって、自分の立場に甘えることなく努力を怠らないノエルは大切なパートナーであり心から尊敬する愛おしい人でもあった。
そんなシモン自身ももちろん努力の甲斐があり有能であった。そして、皇室の血筋が色濃く出た美しい容姿も持ち合わせているため、お似合いの二人だと貴族達にも広く受け入れられていた。
そんなシモンはノエルの色々な表情を見るのが好きである。時々思い出したかのようにサプライズをして驚いた顔をみたり、ベタベタに甘やかして美しいノエルの表情を蕩けさせたりと毎日忙しい。
「し、シモン様。ここは学園ですわ。頬に急にキスなんてして、誰かに見られたらどうするんですの?」
「見せつけてやればいい。ノエルは俺のことだけを考えろ」
「もう!シモン様ったら!」
そんな二人のラブラブっぷりに感化されて、二人の通う貴族の子女のための学園では婚約者と仲を深めるカップルが続出した。良い傾向であると大人達も大満足である。
しかし、聖女候補の一人に挙げられているルルーシアという少女が中央教会の聖王の推薦で学園に転入してからシモンは変わってしまう。
「ルルは可愛いな」
「嬉しいです、シモン様!」
シモンは学園に転入したばかりのルルーシアの世話を学園側からお願いされていたのだが、その一環でルルーシアとお茶をしながら学園生活での相談を受けるようになって、それから様子がおかしくなる。
「シモン様、もっと私の焼いたクッキー食べてください」
「もちろんだ、ルル」
ノエルのことが目に入らなくなりルルーシアと浮気とも取れるようなやり取りを重ねるシモン。これにはノエルはもちろん、シモンとノエルの仲を知っている誰もが驚いた。
「ノエル様、その…大丈夫ですか…?」
「…私は大丈夫です。心配をおかけしてごめんなさい。どうかお気になさらないで」
「ノエル様…」
「なんとおいたわしい…」
普段からノエルが優しく接してきた学園の生徒達は、浮気者のシモンにゴマをするよりもノエルの味方をする。
「私達はノエル様の味方ですから!」
「みんな、ありがとう。こんなにも親切にしていただいて、私は幸せ者ですね」
「ノエル様が普段から私達を気遣ってくださるからこそです!ノエル様のような方こそ国母にふさわしい!」
「ふふ、そうだと嬉しいわ」
普段から誰にでも優しいノエルは、それ故に周りから救われていた。そしてもちろんそんなノエルは家族からも大切にされる。
「ノエル!シモン殿下とは婚約破棄だ!慰謝料をもぎ取ろう!」
「お兄様、お待ちください。シモン殿下は少し冷静ではないのですわ。その内落ち着くところに落ち着くはずです」
「ノエルちゃん、我慢しなくて良いのよ?フリーの貴公子も今ならまだ選り取りみどりだわ」
「お母様、私はシモン様がいいのですわ。ごめんなさい」
「婚約破棄はともかく、皇室に苦情は入れるぞ。さすがにシモン殿下のアレは行き過ぎだ」
「お父様…わかりましたわ。それは仕方ありませんものね。でも婚約破棄は嫌ですわ」
ノエルは家族からの愛情に改めて感謝して、最近シモンの件で負った心の傷を癒された。しかし婚約破棄は断固拒否である。ノエルはシモンを愛していた。
そして、学園のダンスパーティーで事は起きた。シモンがルルーシアと共に、ノエルをありもしない罪で断罪し始めたのだ。
「ノエル・オディル!貴様は可愛いルルを平民だからと虐めたそうだな!そんな奴は皇太子妃に相応しくない!婚約破棄だ!そして聖女候補を貶めた罪で投獄する!」
「なんですって!?」
「皇太子殿下!いくらなんでもやり過ぎです!」
「ノエル様はいじめなんてしていません!」
「そもそも浮気したのは皇太子殿下の方でしょ!」
ノエルはただただ立ち尽くす。どうしてこうなったのかわからないまま呆然としていた。普段はどんな感情も殺して微笑むことができるのに、この時ばかりはとうとう涙を流してしまった。王太子妃教育を受ける前に泣いたのが最後だから、いつぶりの涙だろうか。その時だった。
「…ノエル?何を泣いている?俺はお前の色々な表情を見たいとは言ったが、泣かせたいとは言っていないぞ?まあお前の涙は甘くて嫌いじゃないが」
シモンがノエルの涙をその手で拭い、指先の涙をペロリと舐める。その姿に誰もが唖然とする。
「なんだか頭がぼんやりするな…ノエル悪いが少し抱きしめさせてくれ。なんだか少し身体の調子が悪い。癒されたい」
公衆の面前で抱きしめられるノエル。やっとシモンの目が覚めたと、安堵に涙が溢れた。
「…ノエル、また泣いてるのか?抱きしめられたのが嫌だったか!?」
普段は冷静なシモンの慌てる姿に思わず笑みが零れるノエル。周りの生徒達は、よくわからないが元のシモンに戻ったとほっとため息を吐いた。
一方で、ルルーシアは慌てて逃げ出そうとした。自分が不利だとわかったらしい。しかしそうは問屋がおろさない。公爵令嬢を貶めた罪で、聖女候補であるとはいえ平民であるルルーシアは捕らえられた。そして、シモンの体調不良とここ最近のおかしな言動について何か知っていないかと拷問を受けることになる。
「楽園の魔女に強力な惚れ薬をもらって、こっそり手作りクッキーに混ぜて食べさせました」
その証言によって、楽園の魔女も捕まった。楽園の魔女と呼ばれるその女は、反王族派集団…テロリストの一味である。ルルーシアは上手くいけば皇后になれると甘い誘惑をかけられて、良いように操られていたらしい。
楽園の魔女とルルーシア、一部の反王族派関係者達がこれを皮切りにして一斉に捕まり裁きを受ける。内乱罪で極刑に処されるはずだったが、心優しいノエルの減刑の嘆願により命は助かった。
しかし、ノエルには知らされなかったが彼等は身分を奴隷に落とされ、得意の魔法も特殊な首輪によって封じられ、セラフィン皇国で最も過酷な労働環境と言われる炭鉱に送られた。死ぬまでそこで働かされることになるため、極刑になった方がマシだったと言える。もちろん、愛するノエルを自分の意思に反して傷つけてしまったシモンの怨み増し増しの指示である。
ー…
「ノエル、本当に悪かった!この通りだ、許してくれ!」
「いえ、シモン様は悪くありませんわ!惚れ薬なんて恐ろしいものを盛られたんですもの。学園には毒味役も含めて使用人は連れていけない決まりですから、シモン様に落ち度はありませんわ」
「ノエル、本当にすまない。これからはもっと気をつける」
シモンはあれからずっと、ノエルに謝りっぱなしである。このやり取りも何回目かわからない。
「とりあえずきちんと毒素を排出したし今回はもう大丈夫だが、今惚れ薬の対抗薬を作らせてる。万が一また盛られたら無理矢理にでも口に突っ込んでくれ。本当に悪かった」
「シモン様、本当にいいんです。気にしないでください。ほら、いい加減仲直りしましょう?」
「ノエル、その。今まで気恥ずかしくてあんまり言ってこなかったかもしれないが…あ、愛してる。お前が世界で一番可愛い」
「…まあ。私も愛しています、シモン様。でも、しおらしくしているシモン様は物珍しいですがとっても可愛らしいですわ。世界で一番可愛いのはシモン様ですわ」
「…言ったな?そんな生意気な奴にはこうだ!」
「うふふ。シモン様、くすぐったいですわ!」
こちょこちょと身体をくすぐられて笑うノエル。シモンは改めてノエルを大切にしようと誓った。
そんな彼女にはもちろん生まれながらの婚約者がいる。セラフィン皇国の皇太子、シモン・セラフィンである。シモンも皇太子であるため生まれながらに人の羨む全てを手にしている。それでありながら皇太子として努力を重ねてきたシモンにとって、自分の立場に甘えることなく努力を怠らないノエルは大切なパートナーであり心から尊敬する愛おしい人でもあった。
そんなシモン自身ももちろん努力の甲斐があり有能であった。そして、皇室の血筋が色濃く出た美しい容姿も持ち合わせているため、お似合いの二人だと貴族達にも広く受け入れられていた。
そんなシモンはノエルの色々な表情を見るのが好きである。時々思い出したかのようにサプライズをして驚いた顔をみたり、ベタベタに甘やかして美しいノエルの表情を蕩けさせたりと毎日忙しい。
「し、シモン様。ここは学園ですわ。頬に急にキスなんてして、誰かに見られたらどうするんですの?」
「見せつけてやればいい。ノエルは俺のことだけを考えろ」
「もう!シモン様ったら!」
そんな二人のラブラブっぷりに感化されて、二人の通う貴族の子女のための学園では婚約者と仲を深めるカップルが続出した。良い傾向であると大人達も大満足である。
しかし、聖女候補の一人に挙げられているルルーシアという少女が中央教会の聖王の推薦で学園に転入してからシモンは変わってしまう。
「ルルは可愛いな」
「嬉しいです、シモン様!」
シモンは学園に転入したばかりのルルーシアの世話を学園側からお願いされていたのだが、その一環でルルーシアとお茶をしながら学園生活での相談を受けるようになって、それから様子がおかしくなる。
「シモン様、もっと私の焼いたクッキー食べてください」
「もちろんだ、ルル」
ノエルのことが目に入らなくなりルルーシアと浮気とも取れるようなやり取りを重ねるシモン。これにはノエルはもちろん、シモンとノエルの仲を知っている誰もが驚いた。
「ノエル様、その…大丈夫ですか…?」
「…私は大丈夫です。心配をおかけしてごめんなさい。どうかお気になさらないで」
「ノエル様…」
「なんとおいたわしい…」
普段からノエルが優しく接してきた学園の生徒達は、浮気者のシモンにゴマをするよりもノエルの味方をする。
「私達はノエル様の味方ですから!」
「みんな、ありがとう。こんなにも親切にしていただいて、私は幸せ者ですね」
「ノエル様が普段から私達を気遣ってくださるからこそです!ノエル様のような方こそ国母にふさわしい!」
「ふふ、そうだと嬉しいわ」
普段から誰にでも優しいノエルは、それ故に周りから救われていた。そしてもちろんそんなノエルは家族からも大切にされる。
「ノエル!シモン殿下とは婚約破棄だ!慰謝料をもぎ取ろう!」
「お兄様、お待ちください。シモン殿下は少し冷静ではないのですわ。その内落ち着くところに落ち着くはずです」
「ノエルちゃん、我慢しなくて良いのよ?フリーの貴公子も今ならまだ選り取りみどりだわ」
「お母様、私はシモン様がいいのですわ。ごめんなさい」
「婚約破棄はともかく、皇室に苦情は入れるぞ。さすがにシモン殿下のアレは行き過ぎだ」
「お父様…わかりましたわ。それは仕方ありませんものね。でも婚約破棄は嫌ですわ」
ノエルは家族からの愛情に改めて感謝して、最近シモンの件で負った心の傷を癒された。しかし婚約破棄は断固拒否である。ノエルはシモンを愛していた。
そして、学園のダンスパーティーで事は起きた。シモンがルルーシアと共に、ノエルをありもしない罪で断罪し始めたのだ。
「ノエル・オディル!貴様は可愛いルルを平民だからと虐めたそうだな!そんな奴は皇太子妃に相応しくない!婚約破棄だ!そして聖女候補を貶めた罪で投獄する!」
「なんですって!?」
「皇太子殿下!いくらなんでもやり過ぎです!」
「ノエル様はいじめなんてしていません!」
「そもそも浮気したのは皇太子殿下の方でしょ!」
ノエルはただただ立ち尽くす。どうしてこうなったのかわからないまま呆然としていた。普段はどんな感情も殺して微笑むことができるのに、この時ばかりはとうとう涙を流してしまった。王太子妃教育を受ける前に泣いたのが最後だから、いつぶりの涙だろうか。その時だった。
「…ノエル?何を泣いている?俺はお前の色々な表情を見たいとは言ったが、泣かせたいとは言っていないぞ?まあお前の涙は甘くて嫌いじゃないが」
シモンがノエルの涙をその手で拭い、指先の涙をペロリと舐める。その姿に誰もが唖然とする。
「なんだか頭がぼんやりするな…ノエル悪いが少し抱きしめさせてくれ。なんだか少し身体の調子が悪い。癒されたい」
公衆の面前で抱きしめられるノエル。やっとシモンの目が覚めたと、安堵に涙が溢れた。
「…ノエル、また泣いてるのか?抱きしめられたのが嫌だったか!?」
普段は冷静なシモンの慌てる姿に思わず笑みが零れるノエル。周りの生徒達は、よくわからないが元のシモンに戻ったとほっとため息を吐いた。
一方で、ルルーシアは慌てて逃げ出そうとした。自分が不利だとわかったらしい。しかしそうは問屋がおろさない。公爵令嬢を貶めた罪で、聖女候補であるとはいえ平民であるルルーシアは捕らえられた。そして、シモンの体調不良とここ最近のおかしな言動について何か知っていないかと拷問を受けることになる。
「楽園の魔女に強力な惚れ薬をもらって、こっそり手作りクッキーに混ぜて食べさせました」
その証言によって、楽園の魔女も捕まった。楽園の魔女と呼ばれるその女は、反王族派集団…テロリストの一味である。ルルーシアは上手くいけば皇后になれると甘い誘惑をかけられて、良いように操られていたらしい。
楽園の魔女とルルーシア、一部の反王族派関係者達がこれを皮切りにして一斉に捕まり裁きを受ける。内乱罪で極刑に処されるはずだったが、心優しいノエルの減刑の嘆願により命は助かった。
しかし、ノエルには知らされなかったが彼等は身分を奴隷に落とされ、得意の魔法も特殊な首輪によって封じられ、セラフィン皇国で最も過酷な労働環境と言われる炭鉱に送られた。死ぬまでそこで働かされることになるため、極刑になった方がマシだったと言える。もちろん、愛するノエルを自分の意思に反して傷つけてしまったシモンの怨み増し増しの指示である。
ー…
「ノエル、本当に悪かった!この通りだ、許してくれ!」
「いえ、シモン様は悪くありませんわ!惚れ薬なんて恐ろしいものを盛られたんですもの。学園には毒味役も含めて使用人は連れていけない決まりですから、シモン様に落ち度はありませんわ」
「ノエル、本当にすまない。これからはもっと気をつける」
シモンはあれからずっと、ノエルに謝りっぱなしである。このやり取りも何回目かわからない。
「とりあえずきちんと毒素を排出したし今回はもう大丈夫だが、今惚れ薬の対抗薬を作らせてる。万が一また盛られたら無理矢理にでも口に突っ込んでくれ。本当に悪かった」
「シモン様、本当にいいんです。気にしないでください。ほら、いい加減仲直りしましょう?」
「ノエル、その。今まで気恥ずかしくてあんまり言ってこなかったかもしれないが…あ、愛してる。お前が世界で一番可愛い」
「…まあ。私も愛しています、シモン様。でも、しおらしくしているシモン様は物珍しいですがとっても可愛らしいですわ。世界で一番可愛いのはシモン様ですわ」
「…言ったな?そんな生意気な奴にはこうだ!」
「うふふ。シモン様、くすぐったいですわ!」
こちょこちょと身体をくすぐられて笑うノエル。シモンは改めてノエルを大切にしようと誓った。
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