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精霊は愛し子のために還俗する
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気に入らない、なにもかもが気に入らない。彼女を捨てたバカな男も、彼女を嵌めたクズな女も、彼女を守ってやることすらできない自分も気に入らない。俺では彼女を守れない。俺では彼女を慰められない。だったらせめて、彼女の代わりに復讐してやる。
ー…
ラーラ。平民の彼女はつい最近自国の王太子と婚約した。王太子とは、特待生制度で通っていた貴族学院で出会った。平民である自分を気遣ってくれる優しい彼に恋をした。だから、彼の元婚約者を利用して近付いた。
彼の婚約者はまさに完璧な公爵令嬢だった。学院の生徒の模範だった。そんな彼女は、特待生制度で通っていたラーラにとても厳しかった。マナーを厳しく指摘してたくさん叱られた。それが彼女の優しさだとラーラは気付いていた。気付いていたが、それを利用した。
王太子に、彼女に虐められていると相談を持ちかけた。男というのは、自分のような可愛らしい女に頼られると喜ぶものだ。少なくともラーラの周りの男性はみんなそうだった。彼も例外ではなかった。彼は彼女に何度も注意をし、しかし彼女は甘やかすだけが優しさではないと拒否。ラーラへの厳しい態度は変わらなかった。それをラーラへの嫉妬だと取った彼は、あんな女より素直で優しいラーラの方が王太子妃にふさわしいと言い出し、公の場で彼女に婚約破棄を突き付けた。
この件はすぐに問題となったが現国王の息子は彼一人。なあなあで済ませられ、ラーラが婚約者となり公爵令嬢である彼女は捨てられた。公爵は抗議したが最早無意味だった。
王太子妃教育は厳しいものであったが、特待生制度で貴族学院に通っていたラーラはなんとか食らいついていった。大好きな人の妻になれるのだ。このくらいの努力は安い物。それに、毎日会いに来ては頭を撫でてくれる王太子を失望させるわけにはいかない。毎日努力をし続けた。
ふと、思う。元婚約者であった彼女も、こうして努力して完璧な公爵令嬢になったのだろう。彼の婚約者として恥ずかしくないように。自分がしたことは、きっと褒められることではない。だからこそ、彼女の分も努力しよう。それくらいしか、彼女に出来ない。嵌めたのは私なのだから。
「へー、なるほどねぇ?君の彼女への感情は、ソノテイドナンダァ?」
「…っ!?…誰!?」
「精霊の愛し子を陥れておいて、よくもぬけぬけと努力しよう、などと…ああ、君はそんなことすら知らないよね。だって、彼女に自分が精霊の愛し子だということは誰にも話してはいけないと言い聞かせたのは俺なんだから。…まあ、いいや。とにかく君は俺を怒らせた。精霊の祝福で成り立つこの国において、精霊を怒らせるなんて…お仕置きが必要だろう?」
俺は指先を鳴らす。ラーラはその瞬間、ワームと呼ばれる魔獣に寄生された。ワームに中に入られ、身体の中を食いちぎられる。少しずつ身体を乗っ取られていく感覚、叫びたくても叫べない苦痛。ラーラは次第に薄れていく意識の中で、初めて本当に『後悔』をした。ようやく自分の罪を認めたが、あとの祭りでしかなかった。
ー…
最近ラーラの様子がおかしい。王太子である自分を、ただのひとりの男として見てくれた愛おしい女の子。努力家で、元婚約者の彼女には及ばないまでも優秀な成績を残していた。なのに最近、勉強をサボっては僕の側近たちを誘い街に遊び歩きに行っていると報告が上がっている。一体どうしたというのだろう。話し合いをしようとしても、拒絶されてしまう。このままでは、ラーラとの婚約を考え直さなければならなくなる。可愛らしいラーラを手に入れたくて、彼女の虐めなどというありもしない法螺話に乗ったというのに、これでは意味がない。
「ふーん。知ってて彼女を捨てたんだ?」
「…っ!?」
「おっと。叫ばないでくれよ?可愛い弟君。まあ、口を塞いだから叫べないだろうけれど」
俺は魔法で可愛い弟の口に虫をこれでもかと詰め込んだ。そう。弟。俺はこの国の王の『一人目の息子』なのだ。精霊と国王の合いの子。それが俺。その精霊は国王に対して子供が出来たことすら告げず、身を引いて俺を精霊の世界で産んだのだけれど。精霊として生きてきた俺だけれど、可愛い愛し子のために還俗した。精霊と国王の合いの子であることを示して、国王に認めさせた。国王は自分が唯一愛した精霊との合いの子である俺の存在を喜び、この可愛い弟を王太子位から引き摺り落とし俺を王太子位につけると言っていた。それを可愛い弟に告げると絶望した顔になるから、さらに『お前が捨てた女は俺の…精霊の愛し子だよ』と告げるとこの世の終わりのような表情になった。面白ーい。死ねばいいのに。まあ、俺はここで殺すような優しい精霊じゃないけどね。
「お前はこの間の身勝手な婚約破棄の件で廃嫡されることになったよ。だって王太子は俺になるからね。残念でした。わかったら浮気者のラーラと一緒に早く出て行けよ」
「むー!むー!」
「何言ってるかわからないけど…暗殺されないだけ慈悲だと思いなよ。ここは今から俺の部屋だ。さっさと出て行け」
口中虫まみれになった腹違いの弟を追い出す。口の中をどうにか綺麗にした弟は、ラーラ…もといワームと一緒に国王に直談判しに行こうとするが拒絶されて、城を追い出された。その後は転落人生を送って、たった数日でワームを巻き込んで無理心中を図ったらしい。ゴミが一気に片付いてよかった。
ー…
俺はかくして王太子なんて退屈な地位についた。勉強?精霊に必要だと思う?
やることはいっぱいだけれど、俺には簡単な仕事ばかりですぐに魔法で終わらせてしまった。今は暇だ。だから、婚約者に会いにいこうと思う。俺の婚約者は…そう、大好きな彼女だ。
「やあ、素敵なお嬢さん。御機嫌よう。今日も会いにきたよ」
「まあ、素敵な王子様。御機嫌よう。まさか本当に本物の王子様になってしまうなんて思わなかったわ」
「意外かい?でも、こんな俺も好きだろう?」
「ええ、もちろん。…でも」
「…バカな弟のことは君が気にすることではないさ。可哀想な奴だが、君に酷い仕打ちをしたんだからね」
俺は優しく彼女の頭を撫でる。彼女は気持ち良さそうに目を細めた。
「それよりも、明日は俺たちの婚約発表だよ。心の準備はいいかい?」
「ええ。…本当は、ずっと貴方と結ばれたかった。婚約は家同士の約束事だからと我慢していたけれど…貴方と結ばれることができるなんて夢みたい」
頬を染める彼女はとても可愛らしい。その頬にそっと口付けを落とす。
「これからもずっと一緒だよ。俺のお姫様」
「これからもよろしくね。私の王子様」
ー…
ラーラ。平民の彼女はつい最近自国の王太子と婚約した。王太子とは、特待生制度で通っていた貴族学院で出会った。平民である自分を気遣ってくれる優しい彼に恋をした。だから、彼の元婚約者を利用して近付いた。
彼の婚約者はまさに完璧な公爵令嬢だった。学院の生徒の模範だった。そんな彼女は、特待生制度で通っていたラーラにとても厳しかった。マナーを厳しく指摘してたくさん叱られた。それが彼女の優しさだとラーラは気付いていた。気付いていたが、それを利用した。
王太子に、彼女に虐められていると相談を持ちかけた。男というのは、自分のような可愛らしい女に頼られると喜ぶものだ。少なくともラーラの周りの男性はみんなそうだった。彼も例外ではなかった。彼は彼女に何度も注意をし、しかし彼女は甘やかすだけが優しさではないと拒否。ラーラへの厳しい態度は変わらなかった。それをラーラへの嫉妬だと取った彼は、あんな女より素直で優しいラーラの方が王太子妃にふさわしいと言い出し、公の場で彼女に婚約破棄を突き付けた。
この件はすぐに問題となったが現国王の息子は彼一人。なあなあで済ませられ、ラーラが婚約者となり公爵令嬢である彼女は捨てられた。公爵は抗議したが最早無意味だった。
王太子妃教育は厳しいものであったが、特待生制度で貴族学院に通っていたラーラはなんとか食らいついていった。大好きな人の妻になれるのだ。このくらいの努力は安い物。それに、毎日会いに来ては頭を撫でてくれる王太子を失望させるわけにはいかない。毎日努力をし続けた。
ふと、思う。元婚約者であった彼女も、こうして努力して完璧な公爵令嬢になったのだろう。彼の婚約者として恥ずかしくないように。自分がしたことは、きっと褒められることではない。だからこそ、彼女の分も努力しよう。それくらいしか、彼女に出来ない。嵌めたのは私なのだから。
「へー、なるほどねぇ?君の彼女への感情は、ソノテイドナンダァ?」
「…っ!?…誰!?」
「精霊の愛し子を陥れておいて、よくもぬけぬけと努力しよう、などと…ああ、君はそんなことすら知らないよね。だって、彼女に自分が精霊の愛し子だということは誰にも話してはいけないと言い聞かせたのは俺なんだから。…まあ、いいや。とにかく君は俺を怒らせた。精霊の祝福で成り立つこの国において、精霊を怒らせるなんて…お仕置きが必要だろう?」
俺は指先を鳴らす。ラーラはその瞬間、ワームと呼ばれる魔獣に寄生された。ワームに中に入られ、身体の中を食いちぎられる。少しずつ身体を乗っ取られていく感覚、叫びたくても叫べない苦痛。ラーラは次第に薄れていく意識の中で、初めて本当に『後悔』をした。ようやく自分の罪を認めたが、あとの祭りでしかなかった。
ー…
最近ラーラの様子がおかしい。王太子である自分を、ただのひとりの男として見てくれた愛おしい女の子。努力家で、元婚約者の彼女には及ばないまでも優秀な成績を残していた。なのに最近、勉強をサボっては僕の側近たちを誘い街に遊び歩きに行っていると報告が上がっている。一体どうしたというのだろう。話し合いをしようとしても、拒絶されてしまう。このままでは、ラーラとの婚約を考え直さなければならなくなる。可愛らしいラーラを手に入れたくて、彼女の虐めなどというありもしない法螺話に乗ったというのに、これでは意味がない。
「ふーん。知ってて彼女を捨てたんだ?」
「…っ!?」
「おっと。叫ばないでくれよ?可愛い弟君。まあ、口を塞いだから叫べないだろうけれど」
俺は魔法で可愛い弟の口に虫をこれでもかと詰め込んだ。そう。弟。俺はこの国の王の『一人目の息子』なのだ。精霊と国王の合いの子。それが俺。その精霊は国王に対して子供が出来たことすら告げず、身を引いて俺を精霊の世界で産んだのだけれど。精霊として生きてきた俺だけれど、可愛い愛し子のために還俗した。精霊と国王の合いの子であることを示して、国王に認めさせた。国王は自分が唯一愛した精霊との合いの子である俺の存在を喜び、この可愛い弟を王太子位から引き摺り落とし俺を王太子位につけると言っていた。それを可愛い弟に告げると絶望した顔になるから、さらに『お前が捨てた女は俺の…精霊の愛し子だよ』と告げるとこの世の終わりのような表情になった。面白ーい。死ねばいいのに。まあ、俺はここで殺すような優しい精霊じゃないけどね。
「お前はこの間の身勝手な婚約破棄の件で廃嫡されることになったよ。だって王太子は俺になるからね。残念でした。わかったら浮気者のラーラと一緒に早く出て行けよ」
「むー!むー!」
「何言ってるかわからないけど…暗殺されないだけ慈悲だと思いなよ。ここは今から俺の部屋だ。さっさと出て行け」
口中虫まみれになった腹違いの弟を追い出す。口の中をどうにか綺麗にした弟は、ラーラ…もといワームと一緒に国王に直談判しに行こうとするが拒絶されて、城を追い出された。その後は転落人生を送って、たった数日でワームを巻き込んで無理心中を図ったらしい。ゴミが一気に片付いてよかった。
ー…
俺はかくして王太子なんて退屈な地位についた。勉強?精霊に必要だと思う?
やることはいっぱいだけれど、俺には簡単な仕事ばかりですぐに魔法で終わらせてしまった。今は暇だ。だから、婚約者に会いにいこうと思う。俺の婚約者は…そう、大好きな彼女だ。
「やあ、素敵なお嬢さん。御機嫌よう。今日も会いにきたよ」
「まあ、素敵な王子様。御機嫌よう。まさか本当に本物の王子様になってしまうなんて思わなかったわ」
「意外かい?でも、こんな俺も好きだろう?」
「ええ、もちろん。…でも」
「…バカな弟のことは君が気にすることではないさ。可哀想な奴だが、君に酷い仕打ちをしたんだからね」
俺は優しく彼女の頭を撫でる。彼女は気持ち良さそうに目を細めた。
「それよりも、明日は俺たちの婚約発表だよ。心の準備はいいかい?」
「ええ。…本当は、ずっと貴方と結ばれたかった。婚約は家同士の約束事だからと我慢していたけれど…貴方と結ばれることができるなんて夢みたい」
頬を染める彼女はとても可愛らしい。その頬にそっと口付けを落とす。
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