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そもそもせめてアリバイくらい調べてくださいませ
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「アンジェリク・オルレアン!貴様との婚約は破棄させてもらおう!そして貴様の罪をここに明らかにする!」
「アンジェリク様…こんなことになって残念です…」
このエルドラド王国の王太子トマス・エルドラドが、婚約者でありこの国の筆頭公爵家のご令嬢であるアンジェリク・オルレアンを断罪するのは貴族学園での卒業パーティーの席。そのあまりの仕打ちに卒業生達はざわざわとする。そんな彼の隣に当たり前のように寄り添うのはリリー・アヴェーヌ男爵令嬢。貴族学園での生活の中で彼に見初められ、彼の恋人となっていた。二人の明け透けな関係は学園中で悪い意味で有名だった。当然アンジェリクに同情する声が大きい。
「私の罪とはなんでしょうか」
「しらばっくれるな!貴様はリリーを階段から突き落としたのだろう!打ち所が悪かったら死んでいたのだぞ!」
「アンジェリク様…今からでも遅くありません、謝ってください!そうしたら不問にしますから…」
「リリー、なんて優しいんだ!」
「トマス様…」
ひしっと抱き合う二人。しかしそれを見ている側からすれば三文芝居である。というか、一生に一度の学園の卒業パーティーを邪魔されて全員不満が溜まっている。
「…何故私が謝る必要があるのです?」
「は?」
「いや、だから、貴様がリリーを階段から突き落としたから…」
「それはいつのことです?私はそんなことをした覚えはありませんが」
強気な…というかもはや温度がないアンジェリクの冷たい声に思わず二人は固まる。
「え…あ、き、昨日です!」
「そうですか。私、昨日の朝から夕方まで隣国の皇太子殿下を相手に外交を担当していたんですが」
「え?」
「王宮に勤めている方に聞いていただければすぐにわかることです。だから、それは嘘ですね」
トマスがリリーを見つめる。リリーは青ざめていた。トマスはそれを見て口をぽかんと開けている。
「というかそもそも、仮に私がリリー様を殺そうとしたからなんです?相手は男爵令嬢。それも、私の婚約者でありこの国を担う重責のある王太子殿下を誑かした女狐ですよ?不問にされて終わりですよ」
「…」
自らの不利を知り青ざめるリリー。ヒロインである自分が愛されて、悪役令嬢をざまぁして幸せになる。そんなシンデレラストーリーを思い描いていた彼女はようやく現実を知った。
「…じょ、冗談!今のはちょっとした冗句だ!俺はアンジェリクしか愛していない!俺の腕を離せ、リリー!」
トマスはリリーを思い切り突き飛ばす。保身に走ったのだ。そんな二人を冷めた目で見る聴衆。そしてもっと冷たい目を向けるのはアンジェリクだ。
「いいえ。婚約破棄、確かにお受け致しました。ここにいる皆様が証人ですわ」
「アンジェリク!」
「…アンジェリク様。いや、アンジェリク」
そこに躍り出たのはアンジェリクの執事、リショー。
「お、おい執事!貴様、俺のアンジェリクを呼び捨てにするなど不敬だぞ!」
「アンジェリク。遅くなってすまない。国王陛下も承認してくださったぞ」
「よかったですわ、殿下」
「…で、殿下?」
トマスの目が点になる。
「王太子殿下。私、貴方様がリリー様と結託して私を貶め、婚約破棄することを知っていましたの。まあ、階段から突き落とした云々は昨日リリー様が駄目押しのつもりで付け加えたのでしょうけれど」
「!?」
「ですから、国王陛下にお願いしましたの。王太子殿下との婚約の破棄と…国の利益より自分の都合を優先する王太子殿下への厳しい沙汰を」
「な、なんだと…?」
「国王陛下は承認されました。これよりリリー様はこの国の王太子を誑かした罪で内乱罪が適用され処刑。王太子殿下は廃嫡され中央教会に出家という名の監禁。ざまぁみろ、ですわ」
「…ま、待て!父上の子供は俺一人!俺を廃嫡して国はどうなる!」
トマスは踏ん反り返るが、それがそもそもの間違いである。
「いいえ、この国には殿下がいますわ」
「その執事がどうした!そもそも何故執事なんかに殿下などと…」
「ここまで言ってもまだ思い出しませんか?兄上。僕です、リシャール・エルドラドですよ。貴方に幼い頃殺された、リシャールです」
「…は?」
リシャールが変装魔法を解く。途端にトマスが青ざめる。
「な、何故!」
「あの日、たまたま池に落とされたリシャール様を私が発見したのです。父上にすぐに報告し、幸いなんとか一命を取り留めたリシャール様を我が家で匿うことにしました。魔術で別人に見えるように変装していただき、私の執事としたのです」
「な、な…」
「貴方がとどめを刺さない、死ぬまで見届ける事もしない無能で助かりました」
リシャールが笑顔で毒突く。トマスは床にへたり込んだ。
「国王陛下は裏で事情を知りながら、溺愛されていたトマス様のためにリシャール様を手放されました。トマス様が良き王になるならば、リシャール様も大人しく私の執事リショーとして一生を過ごすという約束付きでリシャール様の命も守られました」
「けれど兄上はリリーとかいうそこの令嬢に熱を上げ、この国をより盤石にするための婚約を勝手に破棄した。国王陛下は泣く泣く兄上を廃嫡し僕を表舞台に上げるしかなくなったわけです」
「そんな…」
「これからは僕が王太子ですよ。馬鹿な兄上。神童と謳われた僕に嫉妬して殺そうなどとする短絡的な者が、玉座に座れるわけがないのです」
そうして王太子となったリシャールの号令でトマスとリリーは衛兵に連れていかれた。そしてその場でリシャールとアンジェリクの婚約が発表され、熱い口付けで会場のボルテージは最高潮に。二人の婚約は祝福されたのだ。
ー…
「リシャール様」
「どうした、アンジェリク」
「色々ありましたけれど…ごめんなさい。私、あの時リシャール様が殺されそうになっていて良かったと思ってしまいますの」
「それは僕もだ、アンジェリク。兄上が馬鹿なお陰で、今こうして愛するお前を手に入れられたのだから」
「リシャール様…愛しています」
「僕も愛してる。お腹の子にも、はやく会いたいものだ」
「そろそろ出てきてくれますよ」
優しくお腹を撫でるアンジェリク。王太子妃になった彼女は、リシャールからの一途な愛を受け子供を授かっていた。これから二人はもっともっと幸せになるだろう。
「アンジェリク様…こんなことになって残念です…」
このエルドラド王国の王太子トマス・エルドラドが、婚約者でありこの国の筆頭公爵家のご令嬢であるアンジェリク・オルレアンを断罪するのは貴族学園での卒業パーティーの席。そのあまりの仕打ちに卒業生達はざわざわとする。そんな彼の隣に当たり前のように寄り添うのはリリー・アヴェーヌ男爵令嬢。貴族学園での生活の中で彼に見初められ、彼の恋人となっていた。二人の明け透けな関係は学園中で悪い意味で有名だった。当然アンジェリクに同情する声が大きい。
「私の罪とはなんでしょうか」
「しらばっくれるな!貴様はリリーを階段から突き落としたのだろう!打ち所が悪かったら死んでいたのだぞ!」
「アンジェリク様…今からでも遅くありません、謝ってください!そうしたら不問にしますから…」
「リリー、なんて優しいんだ!」
「トマス様…」
ひしっと抱き合う二人。しかしそれを見ている側からすれば三文芝居である。というか、一生に一度の学園の卒業パーティーを邪魔されて全員不満が溜まっている。
「…何故私が謝る必要があるのです?」
「は?」
「いや、だから、貴様がリリーを階段から突き落としたから…」
「それはいつのことです?私はそんなことをした覚えはありませんが」
強気な…というかもはや温度がないアンジェリクの冷たい声に思わず二人は固まる。
「え…あ、き、昨日です!」
「そうですか。私、昨日の朝から夕方まで隣国の皇太子殿下を相手に外交を担当していたんですが」
「え?」
「王宮に勤めている方に聞いていただければすぐにわかることです。だから、それは嘘ですね」
トマスがリリーを見つめる。リリーは青ざめていた。トマスはそれを見て口をぽかんと開けている。
「というかそもそも、仮に私がリリー様を殺そうとしたからなんです?相手は男爵令嬢。それも、私の婚約者でありこの国を担う重責のある王太子殿下を誑かした女狐ですよ?不問にされて終わりですよ」
「…」
自らの不利を知り青ざめるリリー。ヒロインである自分が愛されて、悪役令嬢をざまぁして幸せになる。そんなシンデレラストーリーを思い描いていた彼女はようやく現実を知った。
「…じょ、冗談!今のはちょっとした冗句だ!俺はアンジェリクしか愛していない!俺の腕を離せ、リリー!」
トマスはリリーを思い切り突き飛ばす。保身に走ったのだ。そんな二人を冷めた目で見る聴衆。そしてもっと冷たい目を向けるのはアンジェリクだ。
「いいえ。婚約破棄、確かにお受け致しました。ここにいる皆様が証人ですわ」
「アンジェリク!」
「…アンジェリク様。いや、アンジェリク」
そこに躍り出たのはアンジェリクの執事、リショー。
「お、おい執事!貴様、俺のアンジェリクを呼び捨てにするなど不敬だぞ!」
「アンジェリク。遅くなってすまない。国王陛下も承認してくださったぞ」
「よかったですわ、殿下」
「…で、殿下?」
トマスの目が点になる。
「王太子殿下。私、貴方様がリリー様と結託して私を貶め、婚約破棄することを知っていましたの。まあ、階段から突き落とした云々は昨日リリー様が駄目押しのつもりで付け加えたのでしょうけれど」
「!?」
「ですから、国王陛下にお願いしましたの。王太子殿下との婚約の破棄と…国の利益より自分の都合を優先する王太子殿下への厳しい沙汰を」
「な、なんだと…?」
「国王陛下は承認されました。これよりリリー様はこの国の王太子を誑かした罪で内乱罪が適用され処刑。王太子殿下は廃嫡され中央教会に出家という名の監禁。ざまぁみろ、ですわ」
「…ま、待て!父上の子供は俺一人!俺を廃嫡して国はどうなる!」
トマスは踏ん反り返るが、それがそもそもの間違いである。
「いいえ、この国には殿下がいますわ」
「その執事がどうした!そもそも何故執事なんかに殿下などと…」
「ここまで言ってもまだ思い出しませんか?兄上。僕です、リシャール・エルドラドですよ。貴方に幼い頃殺された、リシャールです」
「…は?」
リシャールが変装魔法を解く。途端にトマスが青ざめる。
「な、何故!」
「あの日、たまたま池に落とされたリシャール様を私が発見したのです。父上にすぐに報告し、幸いなんとか一命を取り留めたリシャール様を我が家で匿うことにしました。魔術で別人に見えるように変装していただき、私の執事としたのです」
「な、な…」
「貴方がとどめを刺さない、死ぬまで見届ける事もしない無能で助かりました」
リシャールが笑顔で毒突く。トマスは床にへたり込んだ。
「国王陛下は裏で事情を知りながら、溺愛されていたトマス様のためにリシャール様を手放されました。トマス様が良き王になるならば、リシャール様も大人しく私の執事リショーとして一生を過ごすという約束付きでリシャール様の命も守られました」
「けれど兄上はリリーとかいうそこの令嬢に熱を上げ、この国をより盤石にするための婚約を勝手に破棄した。国王陛下は泣く泣く兄上を廃嫡し僕を表舞台に上げるしかなくなったわけです」
「そんな…」
「これからは僕が王太子ですよ。馬鹿な兄上。神童と謳われた僕に嫉妬して殺そうなどとする短絡的な者が、玉座に座れるわけがないのです」
そうして王太子となったリシャールの号令でトマスとリリーは衛兵に連れていかれた。そしてその場でリシャールとアンジェリクの婚約が発表され、熱い口付けで会場のボルテージは最高潮に。二人の婚約は祝福されたのだ。
ー…
「リシャール様」
「どうした、アンジェリク」
「色々ありましたけれど…ごめんなさい。私、あの時リシャール様が殺されそうになっていて良かったと思ってしまいますの」
「それは僕もだ、アンジェリク。兄上が馬鹿なお陰で、今こうして愛するお前を手に入れられたのだから」
「リシャール様…愛しています」
「僕も愛してる。お腹の子にも、はやく会いたいものだ」
「そろそろ出てきてくれますよ」
優しくお腹を撫でるアンジェリク。王太子妃になった彼女は、リシャールからの一途な愛を受け子供を授かっていた。これから二人はもっともっと幸せになるだろう。
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