幽霊が見える私、婚約者の祖父母(鬼籍)に土下座される

下菊みこと

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祖父母カップルが可愛い人たちです

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『このバカモンがぁ!!!』

『一丁前に浮気なんぞしおって!!!』

はじめまして、こんにちは。

幽霊が見えちゃう系公爵令嬢、ロゼッタです。

別にこの体質でも他人にわざわざ言わなければ困ることも特にないし、家族は信じて味方してくれるので困ったことはないのですが…現在初めて困ってます。

婚約者の祖父母が婚約者の浮気を詰ってポカポカ背中を叩いています。

浮気をここで初めて知って衝撃を受けるやら、物理的にはなにもできないからこそなのかめちゃくちゃポカポカやってる彼の祖父母にここまで怒ってくれるのはありがたいと現実逃避してしまうやら。

『すまん、ロゼちゃん!うちのバカが!!!せっかくロゼちゃんのような可愛い子を嫁にできるというのに!』

『あ、でもでも浮気といっても手は出してないの!!!ただ、相談女っていうの?アレに頼られて…可愛い子に頼られる俺っ!みたいに酔っちゃってて…』

そう言って土下座されてハッとする。

なるほど、浮気というか浮気未遂か。

ならば手の打ちようもある。

「ねえ、ヴェルト」

「ん?どうした?」

「浮気はダメだよ」

ぎくっと婚約者の肩が跳ねる。

バカめ、心が浮ついてる証拠を自らお出しするとは。

「え、えー?急にどうした?」

「風の噂で可愛い女の子に頼られていい気になってるあんぽんたんの話を聞いたから、一応釘を刺そうと思って」

ごくりと生唾飲み込む姿は蛇に睨まれたカエル。

「そ、それって誰のこと?」

「さぁねー?あ、でもその子って相談女ってやつらしくてね」

「相談女…?」

「あ、聞いたことない?なんでも『相談があるの…』と男性に声をかけて、次第に親密になっていく手口をとる人のことを言うのよ。男性に婚約者がいても御構い無しらしいわ。複数人に同じようにモーションかけることもあるって。不誠実よねぇ」

「ふ、複数人に…?」

なにやら思い詰めた顔になる彼に、まだ未遂段階にしてはなんか可哀想かもと思って一応フォローする。

「まあ、人の相談に親身になる優しい人は好きよ?でも調子に乗ってその相手に浮ついた感情を持ち始めるなら、優しくなんてないし不誠実よね」

「う…」

「頼り甲斐のある人はかっこいいけれど、だからって自分の一番大事にする人を間違えたとしたら最高に見る目がなさすぎて頼り甲斐なんて感じないわ」

「うぐっ…」

「でも、貴方はそんなあんぽんたんじゃないでしょう?私、貴方が大事だから釘を刺しはするけど…これでも信じてるのよ?」

ここで釘を刺せば元の純朴で可愛い貴方に戻るってね。

「…ご、ごめん!!!実は俺、最近男爵家のお嬢さんと仲良くなって…貴族社会に馴染めなくて虐められている、貴方しか頼れないって言われてちょっと変な気になってた!!!本当にごめん!!!」

「いいの。それでも踏みとどまってくれてたんでしょう?それにこうしてまだ浮気未遂の段階でちゃんと謝ってくれてるもの」

「ロゼ…」

「まあでも、その子も可哀想だからこれからは私も一緒に相談に乗るわ。それで逃げていくようなら本当に相談女なんでしょうし、そうでないなら助けてあげないとね」

「ロゼ!!!気の迷いを起こしてごめん、やっぱり俺は君が好きだ!!!」

調子のいいことで。

でもまあ未遂だから、謝罪も受けたことだし許してやろう。

ちなみに今彼の祖父母は私に気の迷いを起こしたバカ孫によく言ってくれた、ありがとうと感謝しつつサムズアップしている。

元々気さくな人たちで大好きなおじいちゃんおばあちゃんだったが、死後もこうして孫でなく私に味方してくれるとは有難い。

しかし、貴族社会で孤立してる男爵家の娘と聞くと…よく悪い噂を聞くあの子かな。

婚約者に次に相手の女性が相談に来るであろう日を教えてもらって、その日に乗り込むことにした。

















やっぱり相手は、よく悪い噂を聞く男爵令嬢。

私の婚約者目当てで現れた彼女は、彼の隣にいる私を見て青ざめた。

その反応はつまり相談女だと自白しているものだと取るぞ。

「あ…」

「ヴィオレット様、ごきげんよう」

「ご、ごきげんよう…」

彼女ら元々娼婦の娘だったそうだが、最近になって男爵である父親に引き取られたそうだ。

私はそこに偏見はないが、それを理由に彼女に対して虐めをする連中がいるのは事実らしい。

だが彼女自身結構真っ黒のようだ。

『私の孫から騙し取った金を返せー…』

『私の娘から盗んだ指輪を返せー…』

『私の孫に濡れ衣を着せたことを謝罪しろー…』

『私のひ孫をストーカー扱いして借金踏み倒しなんてどこまで性根が腐ってるんだー…』

彼女の後ろは怨念と化した方々がわらわらといらっしゃる。

仕返しなどせんでもそのうち因果は巡るだろうと推察できるほどに。

「それで、何かご相談があるとか?」

「…わ、私用事を思い出したので帰ります!失礼します!」

走って帰る彼女に、私の婚約者はため息をつく。

「ロゼを見てのあの態度…やっぱり俺を騙そうとしてたのかな」

「手玉に取りたかったのでしょうね」

「ごめんよロゼ…バカな男で」

「いいの、未遂だから。でも、これからはどうか気をつけてね?どうせすぐにバレるんだから」

「はい…女の勘ってバカにできないな…おかげで助かったけど…」

女の勘ではなく貴方の祖父母のおかげです。

…とは、言わないでおいた。

ちなみに彼の祖父母はまたも彼の背後からサムズアップしている。

そんな変わらないおじいちゃんおばあちゃんに、場違いにも和んでしまったのは秘密。













その後相談女は、結局破滅した。

調子に乗って王太子殿下にまで近付こうとして、でも上手くいかなくてイライラして暴れて墓穴を掘ったらしい。

多分背中に張り付いていた怨念と化した方々が頑張った結果だと思うが、芋づる式に今までの悪事も全て公になり、あまりの悪事の悪質さに牢に入れられたそうな。

牢の中でも出来るような仕事を強要され、稼いだお金は被害者へ還元されるらしい。

弁済が終わって牢から出て来る頃には、それなりの年齢になるだろうからもう悪さは出来まい。

ということで因果は巡って一件落着と相成ります。

「ロゼ」

「うん?」

「あの子の話聞いた。本当にあの時はごめん。のめり込む前に止めてくれてありがとう」

彼は改めて、私に頭を下げる。

彼の祖父母は背後でまだまだご立腹だが、私は彼に微笑んだ。

「これからは一途でいてね?」

「もちろん!絶対裏切らない!」

今回女の怖さが身に染みてわかっただろう彼の頬にキスした。

「え」

「まだ少し落ち込んでるみたいだから、元気の出るおまじない」

「ロゼー!!!」

抱きついて来る彼にぎゅうぎゅうされる。

彼の祖父母は頬を赤く染めて『最近の子は大胆だ…』と言いつつ目を逸らしているが、さっきからずっと夫婦で手を繋ぎあったまま出てきている貴方がたも相当ラブラブですよ。

ともあれ私にこの能力があって助かったなとほっとしつつ、彼の胸に頬を寄せて幸せを噛み締めた。

どれだけ伝わってるのか知らないけれど、これでも愛してるのよ、婚約者さん。

もし未遂ですらない浮気なんてしたら、なにをするかわからないから気をつけてね。
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