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夫婦の形は様々

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「せっかく嫁いでくれたのにすまない。私は心から王妃を愛しているから、君を愛することは出来ない」

「知ってます!大歓迎ですとも!」

「え」

アンドレは自国の国王の側妃として嫁いだ。国王と王妃は相思相愛、二人とも国を治めるに相応しい才能に恵まれており治世も安定していた。しかし王妃は子宝に恵まれなかった。優秀で王妃としての役割を完璧にこなす王妃だが、後継がいないと国が困る。

しかし国王の王妃への愛情は一目でわかるほどのもの。愛されないのが分かっていながら側妃に立候補する者は誰もいなかった。アンドレを除いては、だが。

アンドレは、自分が愛される可能性がないことを理解していながらも側妃に立候補した。理由は二つ。お金のため。そして、他ならぬ国王陛下と王妃殿下のためだ。

アンドレは子沢山の公爵家の長女だった。しかし公爵家は、家柄ばかりが立派で歴史が古いだけ。派手好きの先先代の作った借金でカツカツであった。側妃になれば、結納金を国からたんまりもらえる。借金は全額返せて、貯金も少しくらいは出来るほどの結納金。借金さえ返せれば、堅実な領地経営を行う両親のことだ。すぐに公爵家を立て直せるだろう。立候補しない理由がない。

そしてもう一つの理由。国王陛下と王妃殿下のためというのは。

「国王陛下。私、国王陛下と王妃殿下のファンなんです」

「…というと」

「うちは子沢山で有名ですが、弟妹達には腹違いの子もいます。もちろんみんな可愛いですけどね」

「そうなのか」

「はい。両親は今では仲直りしていますが一時期恐ろしいほど冷えた家庭になっていました。だから、私結婚に希望を持てなくて。そんな時に、国王陛下と王妃殿下のラブラブな姿を見て素敵だなって。それからファンになって。だから、お二人の役に立ちたくて!それなので、元々愛されようなんて思ってません。ただ、お役目を果たしたいだけです」

国王…オーギュストはその言葉に胸を打たれた。

「…そうか、すまない。理解ある君が来てくれて良かった」

「いえいえ。子供は授かりものですが、頑張ります!」

「ありがとう。よろしく頼む」

「こちらこそです!」

こうしてオーギュストとアンドレは、それぞれ役目を果たすべく一夜を過ごした。








「んんー…よく寝た…」

アンドレが朝目覚めると、オーギュストは居なかった。その徹底ぶりに、アンドレは逆に好感を持つ。

「王妃殿下しか見えてないんだなぁ…」

そこに憧れるのは、アンドレが日々の忙しさで恋をしたことがないからかもしれない。

「よし」

アンドレはだるい身体を起こして本を読む。

「今日はゆっくり休んで国王陛下の御渡りに備えるぞー」

アンドレはあくまでも、自分の役目を全うすることだけを考えていた。








「おめでとうございます、懐妊です」

「ありがとうございます」

定期的な検査の結果、アンドレはオーギュストに嫁いで割と早めに子供を授かった。とはいえ、妊娠中は何が起こるかわからないので油断は禁物である。

「アンドレ、ありがとう。これで王妃…ベランジェールも少しは安心出来るだろう」

「良かったです!」

アンドレはオーギュストの言葉にすごく嬉しそうに笑う。オーギュストはアンドレの徹底した姿勢を有り難く思う。愛せるのはやはり、ベランジェールだけだから。









「アンドレ、元気な子をありがとう。双子の男の子と女の子で、二人ともとても私に似ている」

「それは良かったです!」

「アンドレも抱くか?これからこの子達は乳母によって育てられ、君よりもベランジェールと過ごす時間が長くなるが」

「承知の上ですから大丈夫ですよ。もちろん抱きます」

アンドレは小さな命達を胸に抱く。

「後継候補であるこの子達が、側妃である私より王妃殿下と多く過ごすのは仕方のないことです。もとより覚悟の上ですが、こうして抱くとやはり寂しく感じますね」

「すまない…」

「でも、この子達の成長を見守ることは許されているのですから問題ありません。どうかこの子達をよろしくお願いします」

「立派に育てると約束する」

「ところで、王妃殿下と過ごしたいだろう国王陛下には申し訳ありませんが私の体調が落ち着いたらまた御渡りしてくださいね。後継が二人だけでは心許ないと思うので」

オーギュストはアンドレの言葉に頷く。

「もちろんだ。よろしく頼む」

「よかった」









結局アンドレはオーギュストの子供を、男の子を三人女の子を二人産んだ。子供達は乳母に育てられ、ベランジェールに可愛がられ、時折アンドレに成長した姿を見せに来ていた。オーギュストとベランジェールの関係も相変わらず良好。アンドレはただそれだけで幸せだった。

しかし、その時は唐突に訪れた。

「アンドレ」

「どうしました?国王陛下」

「ベランジェールが亡くなった…」

「…え」

「末期の魔力欠乏症だったらしい。私には秘密にするよう周りに言い含めていた。…気付いてやれなかった」

青ざめるオーギュストに、アンドレは駆け寄って背中をさする。そして、優しく抱きしめた。

「…国王陛下を煩わせたくなかったのですね。愛されていますね、国王陛下」

「…彼女がいなくなっても、世界は回る。私は国王でいなければならない。なんて残酷なんだ」

「大丈夫ですよ。人の一生なんて案外短いものです。でも、今しばらく辛抱してくださいね」

「彼女に会いたい…」

「そうですね。でも今はまだ生きていてくださいね」

ぼろぼろ涙をこぼすオーギュストを優しくあやすアンドレ。しばらくの間、そうしていたらオーギュストも落ち着いたらしい。アンドレから離れた。

「…これからは君に王妃としての仕事もこなしてもらう。負担をかけてすまないな」

「一応、嫁いでから一通り教育も受けているので大丈夫ですよ」

「子供達もこれからは君と接する機会も増える。…本当に身勝手ですまないが、そちらもよろしく頼む。子供達はベランジェールに懐いていたからしばらく戸惑うだろうからな」

「子供達のメンタルケアも必要ですものね。わかりました。我が子達と接する機会が増えるのは私としては問題ないです」

「本当に色々すまない。ありがとう」

こうしてアンドレは、側妃から王妃となった。







「母上ー!花かんむりを差し上げます!」

「ありがとう、ギルバート」

「お母様、お母様の絵を描きました!見てください!」

「上手じゃないですか!さすがは私の子です!」

王妃となって数年。アンドレはきっちりと王妃としての仕事をこなして、子供達とも向き合うようになった。こうなると、我が子だからか可愛くて仕方がない。

「アンドレ」

「国王陛下」

オーギュストとの関係も少し変わった。子宝に恵まれたためもう御渡りはなくなったが、仕事を共にこなすパートナーとしてお互い信頼し合っている。

「土産の菓子をもらった。ティータイムに子供達とみんなで食べよう」

「お父様大好きー!」

「母上、楽しみですね!」

「はい、みんなで仲良く食べましょうね!」

こうして家族で過ごす時間が、アンドレにとってかけがえのないものになった。今までなんだかんだで色々あったが、それもこれも全部このためと思えばむしろ愛おしい思い出だ。変わらないのはオーギュストが相変わらずベランジェールのことしか愛しておらず、アンドレもそんなオーギュストに好感を持っている点のみだろう。

「アンドレ」

「はい、国王陛下」

「ありがとう」

たった一言に色々な想いが詰まっていた。アンドレは優しく微笑む。

「こちらこそです!」

この状況こそが、この夫婦の最高の形なのかもしれない。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

名無しさん。

友情、親愛、同志であって最後まで恋愛が絡まない爽やかな夫婦で良かった。

下菊みこと
2023.10.21 下菊みこと

感想ありがとうございます。愛するのはただ一人、というのが良い方に行きましたね。

解除

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