アストリアとアタナーズ〜若き皇帝陛下は、幼い妹殿下を愛する〜

下菊みこと

文字の大きさ
上 下
20 / 22

コゼットと人形

しおりを挟む
私はあの日、全てを失った。










私はコゼット。お父様とお母様と三人で仲良く暮らしていた。…つもりだった。

ある日お母様が病に侵された。誠心誠意看病するお父様。しかしお母様はどんどん弱っていった。

それでもお母様は、私のことばかり気にかけていた。

「コゼット。どうか泣かないで。お母様はいつだってコゼットを見守っているわ」

「お母様…」

そしてお母様は、病気が発覚して数ヶ月後には天国へ旅立った。お母様を亡くして失意の底にいた時に、さらに追い討ちをかけられた。

「コゼット、新しいお母様と妹だよ。仲良くしなさい」

お父様が、愛人と腹違いの妹を家に招いた。そして、結婚して家族に迎え入れてしまった。

「お父様…どうして?お母様を愛していたのではないの?」

「…もちろん愛してる。けど、新しいお母様もとても素敵な人なんだよ。仲良くしなさい」

私は、人間不信に陥った。さらに不幸は続く。

「ねえ、お姉様。その人形、私にちょうだい?」

「え、これはお母様の形見だから」

「コゼット、お姉さんなんだから我慢しなさい」

「あっ」

お父様に無理矢理人形を奪われて、妹に渡された。

「お姉様、ありがとう!」

「…酷い」

でも、さらに酷いのはここからだった。

「お姉様、やっぱりこの人形返すわ」

そう言われて渡されたのは、ぼろぼろのお人形。

「な、なんてことするの…?なんでこんな…」

「返したんだからいいでしょ。あ、そのネックレスもいいなぁ。ちょうだい?」

こうして私は、妹の所業で何度も何度も傷つけられた。












ある日、お友達のドロテから聖女殿下に会ってみないかと誘われた。断る理由もないのでついていく。

「お初にお目にかかります、コゼットと申します」

表情筋が固まりすぎて、にこりともしない私。そんな私にも、聖女殿下は笑顔で挨拶してくれた。

「はじめまして、アストリアです!これからよろしくね!」

握手した後、聖女殿下に聞かれる。

「コゼットちゃん。そのお人形さん、ぼろぼろになっちゃってるけどどうしたの?」

「…亡き母の形見です。後妻の子である妹にぼろぼろにされました」

「えっ酷い!」

「お気になさらず」

同情してくれるのはありがたいけど、それで何か変わるわけではない。

「…コゼットちゃん!」

「はい」

「私が聖魔力で直してもいい!?」

「…出来るのですか?」

驚いた。聖魔力はそこまですごいのか。それに、ものすごいお人好しさんだなとも思った。

「わからないけどやってみたいの!お願い!」

「…ドロテから聞いていた通り、お人好しなんですね」

「コゼット、その言い方は…」

「事実。…でも、そういう聖女殿下は個人的にはとても好き」

「…!」

私が誰かにこんな好意を持つなんて、久しぶりかもしれない。

「じゃあ、直してみるね」

「…お願いします」

聖女殿下は真剣に祈ってくれて、お人形さんに聖魔力を注ぐ。すると、聖魔力はお人形さんに作用した。

「わ、お人形さんの傷や汚れがどんどん綺麗になっていく…」

「買ってもらった時みたい…」

「えへへ、役に立ったかな?」

「…はい。とても、とても嬉しいです。ありがたいです。ありがとうございます。」

ポロポロと涙をこぼしながら、私は答えた。人形をぎゅっと抱きしめて、亡き母へ思いを馳せる。

「皇女殿下、私からもお礼を言わせてください!コゼットのために、本当にありがとうございました!」

ドロテは泣く私の背中をさすってくれる。

「お友達のためだもん!気にしなくていいよ!」

「…お友達」

聖女殿下の言葉に、私は目を丸くする。自分がそう言ってもらえるとは思っていなかった。

「そうそう。ご挨拶が遅くなったけど、もう一人お友達を紹介するね」

「え」

「私の大親友のガビーです!カピバラっていう動物だよ!」

「…大きいネズミ」

「可愛いでしょう?」

ガビーを紹介されて、私はテンションが上がる。私は動物が好きだ。

「触ってもいいよ!」

「いいの?…わあ、不思議な触り心地」

「たわしみたいだよね」

「うん」

「キュルキュル」

私は、ガビーが鳴くとさらに喜んだ。

「鳴き声面白い」

「そうだ、キャベツあげてみる?いっぱい食べるよ」

「ぜひやりたいです」

私達三人は、ガビーへの餌やりタイムに突入した。

「もしゃもしゃ食べてるの可愛いですね!皇女殿下!」

「うん、可愛い!ガビーは食べるのが好きなんだよねー?」

「食いしん坊。可愛い」

こうして打ち解けた聖女殿下と私。

そして家に帰ると、お父様と継母が揃って頭を下げてきた。私が聖女殿下とお友達になったと報告を受けたのだろう。今まですまなかったと謝られた。家の中での待遇が改善され、妹もさすがに大人しくなった。











「聖女殿下、みてください。お人形さんのための新しいドレスを手作りしてみました」

「わあ…すごい可愛い!上手だね、コゼットちゃん!」

すっかり聖女殿下と仲良くなった私とドロテ。聖女殿下の聖女のお仕事がお休みの日は欠かさず会いにきており、今日も遊びに来ている。

「それと、もう一つ」

「なになに?」

「じゃん」

じゃん、と言って私が取り出したのは四つの可愛いみための雨合羽。

「あ、雨合羽!」

「この暑い時期、水遊びする時に使うかなって」

「さすがコゼットちゃん!」

「ちなみに私の手作り」

「さすがコゼット!」

早速だと袖を通してみる聖女殿下とドロテ。私はそれをみて頷いた。

「…うん、我ながら上出来」

可愛らしさを重視しつつも機能性も高い雨合羽を作った。思い通りの仕上がりに満足。

「ガビーも着てみて!」

聖女殿下がガビーにも雨合羽を着せる。

ガビー用に作られた雨合羽も、サイズぴったりで上手に出来た。

「ガビー可愛いー!」

「コゼットちゃん、作ってくれてありがとう!」

「うん、一人一着あげる」

「わーい!」

「やったー!」

聖女殿下とドロテは喜び、ガビーも嬉しそうに私の膝にスリスリした。

「ガビー、くすぐったい」

でも、懐かれるのは嬉しい。

「せっかくなら今からプールにで遊ぼうか!」

「まだプールに入るには早い時期ですけど、雨合羽を着て水遊びするにはちょうどいいですよね!」

「水鉄砲持っていく」

「キュルキュル」

ということで、プールで遊ぶことになった私達。

「ふふ、えい!」

「やりましたね、聖女殿下」

「お返ししちゃいますよ、皇女殿下!」

プールに行くと早速、水鉄砲で私とドロテを狙う聖女殿下。私も負けじと応戦して、ドロテも楽しそうに私と聖女殿下を狙った。

ガビーはその様子を見守りつつその辺で寝転ぶ。
















「…はー、楽しかったね!」

「はい、とっても!」

「少し疲れた」

その後も楽しく遊びまくった私達。しかし、私の雨合羽のお陰でドレスは無事だ。

「もう少し経ったら、今度は水着で遊ぼうね!」

「いいですね!」

「じゃあ、水着も今度作ってくる」

「いいの?楽しみにしてるね!」

「コゼットは本当に有能だよね」

ドロテに褒められて、気を良くする私。

「…お母様の真似をしてるだけ。お母様はそういうの得意だったから」

懐かしいな。

「じゃあ、お母様にますます感謝だね!」

「うん」

そう、感謝している。お母様との思い出は、今もこの胸に。そして今は、ドロテと聖女殿下との思い出をたくさん作ろうと思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

【完結】人生で一番幸せになる日 ~『災い』だと虐げられた少女は、嫁ぎ先で冷血公爵様から溺愛されて強くなる~

八重
恋愛
【全32話+番外編】 「過去を、後ろを見るのはやめます。今を、そして私を大切に思ってくださっている皆さんのことを思いたい!」  伯爵家の長女シャルロッテ・ヴェーデルは、「生まれると災いをもたらす」と一族で信じられている『金色の目』を持つ少女。生まれたその日から、屋敷には入れてもらえず、父、母、妹にも虐げられて、一人ボロボロの「離れ」で暮らす。  ある日、シャルロッテに『冷血公爵』として知られるエルヴィン・アイヒベルク公爵から、なぜか婚約の申し込みがくる。家族は「災い」であるシャルロッテを追い出すのにちょうどいい口実ができたと、彼女を18歳の誕生日に嫁がせた。  しかし、『冷血公爵』とは裏腹なエルヴィンの優しく愛情深い素顔と婚約の理由を知り、シャルロッテは彼に恩返しするため努力していく。  そして、一族の中で信じられている『金色の目』の話には、実は続きがあって……。  マナーも愛も知らないシャルロッテが「夫のために役に立ちたい!」と努力を重ねて、幸せを掴むお話。 ※引き下げにより、書籍版1、2巻の内容を一部改稿して投稿しております

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人

白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。 だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。 罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。 そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。 切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

記憶喪失の少女が記憶を取り戻せなくても頑張るだけ

下菊みこと
恋愛
仲間のために記憶を捨てた少女のお話。 アルファポリス様でも投稿しています。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

処理中です...