アストリアとアタナーズ〜若き皇帝陛下は、幼い妹殿下を愛する〜

下菊みこと

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カウンセリング

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「お母様の記憶?」

「ええ」

今日は週一の、アストリアのカウンセリングの日だ。

アストリアは革命軍が攻め込んできたあの日、目の前であまりにも悲惨な死を目の当たりにした。

アストリアには家族に関する過去の記憶が、一切ない。覚えているのは、唯一の生き残りである兄のことだけだ。

「んー…わかんない」

「そうですか…では、お父様のことは?」

「んー?」

ただただ無邪気に首をかしげるアストリア。その無邪気さすら、痛々しい。

「お兄様達のことは思い出せますか?」

「お兄様!お兄様はわかるよ!大好き!」

「一番上のお兄様以外は?」

「…うー、ん?」

記憶はまだ、戻りそうにはない。

「…はい、わかりました。ありがとうございます、皇女殿下」

「うん!」

「お兄様のことは、大好きなのですよね」

「大好きだよ!これくらい、これくらーい!大好き!」

頑張って手を広げて、一生懸命に大好きだとアピールするアストリア。

「それは良かった。お兄様との日々は楽しいですか?」

「うん!今日もね、朝頑張ってトマト食べたら褒めてくれたよ!」

「そうですか。とても素敵なお兄様ですね」

「うん!」

兄を褒められて嬉しそうなアストリア。

「最近は、急に胸が苦しくなったり過呼吸になることは無くなったとの報告を受けていますが、間違いありませんか?」

「うん!最近は大丈夫だよ!」

「急に不安になることは?」

「たまにあるけど、そういう時はお兄様の顔を見に行くの!そしたらね、落ち着くんだ!それでもダメな時は、おねだりしたらお兄様が一緒にお昼寝してくれるから大丈夫!」

「なるほど」

医師は頷いた。

「やはりお兄様の存在が精神的に支柱になっているようですね。ですが、お兄様だけに依存するのはよくありませんね…」

「?」

「もっと依存する先が多岐にわたると良いのですが」

「…うん?」

「今すぐには無理でも、お友達を作れるといいですね」

医師の言葉にアストリアは目を輝かせる。

「お友達!?」

「ええ。人間のお友達でもいいですし、ペットでもいいですね」

「ペット…!」

「個人的にはおすすめですね」

「お兄様にお願いしてみる!」

はやくも新しいお友達に期待を寄せるアストリア。その無邪気な笑顔を見て、医師はなんとも言えない感情を覚えた。しかし、笑顔でアストリアと別れる。

「それでは、私はこれで失礼します。アストリア様、また来週」

「うん、またねー!」

手を振ってくれるアストリアに、笑顔で手を振ってから背を向ける医師。向かうのはアタナーズの部屋。アタナーズに、アストリアの現在の状況を説明してから病院に戻る。

「アストリア様が、どうか救われますように…」

アストリアのために、病院に設置する女神像に祈る医師。彼の願いは届くのだろうか。
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